エイベックスは「全盛期の輝き」をどう取り戻すか

中期経営計画を発表したエイベックス。主要施策として掲げる「連続性のある自社IP(アーティストなどの知的財産)開発」をどう進めるのか。黒岩克己社長に聞いた(撮影:梅谷秀司)
7人組のヒップホップ・R&Bガールズグループ「XG」が世界的ヒットを記録している。彼女らを手がけているのが、日本のエンタメ企業・エイベックスだ(詳細は7月19日配信記事:世界で爆ヒット「XG」を生んだエイベックスの苦節)。
安室奈美恵や浜崎あゆみなどの大ヒットアーティストを多数輩出し、1990~2000年代に隆盛を極めた同社。ただそのピーク以降、存在感が薄くなったと感じている読者は少なくないだろう。
そんなエイベックスが2022年5月、中期経営計画を発表した。主要施策として掲げるのは、「連続性のある自社IP(アーティストなどの知的財産)開発」だ。具体的にどう進めるのか。黒岩克巳社長に聞いた。

解散、休止、引退は「宿命」

――コロナ禍が襲う前の時点で、業績はすでに踊り場となっていました。現在、エイベックスは会社としてどのようなフェーズにありますか。

僕は今50代だが、同年代の人たちにとってのエイベックスは「1990年代のエイベックス」。当時はCDが全盛期で、国内マーケットが非常に大きい一方、人々が音楽に触れるチャネルは非常に限定されていた。ある意味、その時の成功は強烈すぎた。

今の20代、Z世代は(スマートフォンなどの)デバイスを使った音楽消費が当たり前になり、しかもそのデバイスを通じてグローバルに情報を共有し合える。音楽のビジネスでも、国内のオリコンで何位を取るかや、CDを何枚売るかではなく、非常に本質的なところが求められる。

昨今の韓国のエンタメ企業はそういった面をよく見て、戦略を打ち出したのが非常に早かったこともあり、世界的なヒットを連発している。同じアジアの国でも、日本はこの20年間、当社も含め、マーケットに対して内向きだったと感じる。

――安室奈美恵やAAA(トリプルエー)など、エイベックスを支えてきたアーティストの活動休止が相次いでいます。

アーティストは人なので、当然歳を取る。解散や活動休止、引退などがあるたび「大丈夫ですか?」と聞かれるが、それはわれわれの宿命。だからこそ、また新しいサイクルを回していかないといけない。

そういう意味で、1990年代から2000年代にかけ、当社には非常に多くの“貯金”があり、(経営上は)それをこなしていけばいいんだという時期があった。気づいてみると、われわれがゼロから何かを作っていくというのが、会社ごとになっていなかった感がある。

コロナ禍でいろんな壁にぶち当たっている間に、エンタメ業界では「IP(知的財産)×グローバル×テクノロジー」が世界共通のルールになった。今後は韓国のように、日本もアジア市場、世界市場に打って出られるアーティストを作っていかなければと思っている。

――2022年5月に発表した中期経営計画でも、新人アーティストなどのIPへの投資に最大注力することを示しています。

今までよりも高いレベルでの発掘・育成を目指す。ただ可愛くて歌やダンスがうまいだけでは、世界市場では戦えない。音楽性、感性、カルチャーなどを兼ね備えたアーティストを育てたい。世界を目指す意識を始めから持ってもらい、留学などのプログラムも提供する。

大谷翔平選手などもそうだが、日本人が世界で活躍する姿には多くの人が元気をもらうし、誇りに思うだろう。それだけ存在感のあるアーティストを創出できれば、業績は後からついてくる。

環境を提供する代わり、プロの競争を

――確かに昨今のアーティストには、SNSなど多様な発信の機会があり、表層的ではない知性や文化的背景も求められているように思います。

それらを身につけられるよう、機会を提供するのがわれわれの役目だ。例えば海外経験って、語学の面では翻訳技術である程度カバーできるとしても、「あの時代にあの街に住んでいた」みたいなことから醸成される内面というのはある。才能だけでなく、どういう環境に身を置くかだ。

とはいえ、10代でフランスに行ってパリコレやカンヌを見るとか、アメリカ、韓国などでものすごいモチベーションの仲間とレッスンを受けるとか、個人でそういう環境を手に入れるのはなかなか難しい。

当社は、原石といえる若い人たちにそうした世界基準の環境を提供していく。その代わり、競争の原理はしっかり働かせてサイクルを回す。タイムリミットを明確に決めて、ダメならずるずるとは続けない。それはプロの世界の宿命だ。

――そういったプロジェクトは、具体的にどの程度進んでいますか。

「XGALX(エックスギャラックス)」というプロジェクトを進めており、第一弾が「XG」だ。この先5年以内に、XG以外にも複数組のグループ、アーティストを出していく計画がある。

(育成は)「日本式」というよりは、「韓国式」に思い切り振っている。そのため、これまでとは違うテイストのアーティストが生まれてくると思う。ただ、未知の領域なので(すべてがヒットするという)確信はない。

そもそもエンターテインメントというのは、100個やって99個当たらないということがざらにある。それでも1個、ものすごい何かを世に出せれば、それだけで99個全部覆ってしまうだけの威力がある。

――「韓国式」では何が「日本式」と違うのでしょう。

(韓国式は)まず圧倒的に厳しい。また細かい点だが、例えば日本と韓国のボイストレーナーの考え方も全然違う。日本では腹から声を出せという教え方をする人が多いが、韓国式は喉で歌う。そのほうが重くならない。どちらがいい・悪いではなく、今はそういうトレンドだということ。

ダンスについても、日本は皆で並んでピタッと同じ動きを踊るような型が好きだが、韓国はフリースタイルの部分も多く、そろえるところはそろえてメリハリをつける。アドリブで踊るのにはセンスが問われ、育ってきた環境や哲学が大きく影響する。たとえ才能があっても、日本でずっとやっているアーティストでは達しえない領域があると思う。

ユニバーサルやソニーとは少し違うDNA

――学ぶべき要素はいろいろな部分にあるのですね。

すべて韓国をまねするというのではないが、研究して、いいところを取り入れたい。エイベックスはアメリカ・ロサンゼルスにもスタジオを持っており、現地の要素を取り入れながら、日本的なオリジナリティを持ったアーティスト・作品を出していけるのが理想だ。

BTSが「防弾少年団」として、(エイベックスが開催する野外イベント)a-nationに出ていたころ、彼らの所属するHYBE社はビッグヒットエンターテインメントという名前だった。当時とても小さかった会社の現在までのサクセスストーリーには、われわれも感銘を受けた。

上場会社としては株価にも注目したい。KOSDAQ(韓国の証券市場)に上場するエンタメ企業のSMエンターテインメントやYGエンターテインメントは、売上高はエイベックスの半分程度だが、時価総額は倍以上だ。

この差を生んでいるのが何かといえば、期待値だと思う。彼らに対しては、世界に向けて新しいマーケットを作っていくだろうという期待がある。だからわれわれも、希望や期待、元気を提供していきたい。

――国内でもソニーミュージックグループなどの競合が力をつけています。

2010年を過ぎたくらいから世界の音楽マーケットは徐々に右肩上がりになってきてる。理由は音楽配信・サブスクリプションモデルが席巻しているからで、ユニバーサルやワーナー、ソニーはその市場に対する向き合いが早かった。われわれはそこで出遅れてしまった感がある。

ただ、キャッチアップはしつつも、これらの会社とまったく同じことを目指しても仕方がない。エイベックスは、ど真ん中のIPをゼロからつくる会社であって、ユニバーサルやソニーとは少しDNAが違う。そういう意味ではやはり、韓国の事務所と戦っていかないといけない。

――5月に発表した中期経営計画ではIP創出のために250億円を投じると掲げています。具体的にどのように投資していきますか。

まずはアーティスト輩出のための発掘・育成にお金をかけるが、デビューした後もいろいろな展開をしなければいけない。

例えば、世界で売っていくためにはデジタル映像にお金をかけて、多くのコンテンツを制作する必要がある。例えばK-POPには、年間で3000程度のコンテンツ(動画、画像など)をSNSにアップするアーティストがいる一方、日本のアーティストはコンテンツ量が少ない。

また、ロサンゼルスにあるavex USAにCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)機能をつけて、新しい技術に投資をしていく。先に述べたとおり、エンタメ業界においてはテクノロジーの活用がヒットの必須条件になっている時代だ。

加えて、現地でのマネジメントにも事業を拡大していくつもりでいる。

松浦会長の意志はずっとあり続けるが

――先日、松浦勝人会長の女性蔑視発言などが問題視されました。

黒岩克巳(くろいわ・かつみ)/1972年生まれ。2001年、アクシヴ(現:エイベックス・マネジメント)入社。エイベックス・ライヴ・クリエイティブ(現:エイベックス・エンタテインメント)社長などを経て、2017年に当社グループ執行役員就任。2018年に当社社長COO(最高執行責任者)就任。2020年から現職(撮影:梅谷秀司)

今回の件については、上場企業の会長としてさすがにちょっとと思う部分もあり、関係各所をお騒がせしてしまって申し訳ない気持ちだ。

――世間的には「エイベックス=松浦会長」というイメージが依然として強くあります。持続的な成長に向けて、会長と社長の役割分担や今後の経営体制についてどう考えますか。

創業者でありカリスマの松浦さんという存在は、今後もずっとあり続けるだろう。アップルにスティーブ・ジョブズの意志が今なお息づいているように、経営的な因果関係がなくなっても、この世からいなくなっても、エイベックスには松浦さんの存在が残り続ける。

だが、松浦さんがいなければ会社が回らない、という段階では、すでにない。経営全般において何かを決断したり、大きくお金をつけたり、私の社長としての役割はあるが、今走っているいろいろなプロジェクトも基本は現場の責任者がきっちり遂行している。

自分が目指すのは、適材適所で各社員が自走して、新しいものが勝手に次々と生まれてくる会社。自分の役割が終わる時までに、会長や社長を通さなくても何でもできる、より強い組織をつくりたい。

エイベックスの中期経営計画関連記事:世界で爆ヒット「XG」を生んだエイベックスの苦節

(髙岡 健太 : 東洋経済 記者)
(長瀧 菜摘 : 東洋経済 記者)

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