「ペントハウス」に見る韓国コンテンツの強気戦略

海外で注目されている韓国コンテンツ、実は国内向けのコンテンツも充実しているといいます(写真:K-Angle/PIXTA)
インターネットによって、国境、言語、クリエイターと消費者という枠組みなど、あらゆるボーダーはなくなりました。デジタルプラットフォームを駆使することで、誰もが世界中にコンテンツを届けることができるようになったためです。
そんな時代だからこそ、「その国らしさ」「あなたらしさ」に価値が出ます。世界の人々は、その国でしか表現できない、あなたにしか表現できない、まだ見ぬ新しいコンテンツを待っているのです。
その時代の変化をうまく捉えて、世界的なヒットを次々と生んでいるのが韓国。新刊『コンテンツ・ボーダーレス』では、BTS、「愛の不時着」「イカゲーム」など、いま勢いに乗る韓国コンテンツの事例を中心に、世界へコンテンツを届ける方法について解説。本稿では、同書の抜粋を3回に渡ってお届けします。今回は第3回です(第1回はこちら、第2回はこちら)。

近年、世界的に大きな影響を及ぼしている韓国コンテンツは、ドラマ、映画、音楽などを含め、すべてが海外進出を目指しているのだろうと思う人も少なくないと思います。

しかしそれは、すべてのコンテンツに当てはまる話ではありません。むしろ、韓国コンテンツの中には、国内向けに作られているものも非常に多く、世界進出を目指しているものばかりではないということをお話ししていきましょう。

「商品」としてのコンテンツ

韓国ではコンテンツを、「作品」という概念とともに、「商品」の1つだと思う人が多いのです。たしかに商品の一種だと思えば、コンテンツというものを作る前からターゲットを明確にすることが当然必要だと思うのでしょう。韓国ではコンテンツを作る際にまず決めるのがどこにターゲットをおくのかということです。

もちろん20年ほど前に比べると、今は「韓国コンテンツ」というカテゴリーに属するだけでも海外で注目を集めやすくなりました。一方で、実際に海外ではそれほど知られていないのに、韓国国内で大人気のコンテンツもあれば、韓国国内ではそれほど話題にならなかったものが海外で大きな反響をもたらし、あとから韓国国内で関心が高まる、ある意味、逆輸入のようなものもあります。

ここで筆者がお伝えしたいことは、何度も世界的な成功事例を作り上げた韓国コンテンツといえども、大事なのは「コンテンツの目指す先をはっきり分けること」です。

コンテンツを作る側からすれば、老若男女誰もが楽しんでくれるものを作りたいと思いますし、できれば世界の多くの人々に見てもらいたいと思うかもしれませんが、最初のターゲットをどう設定するのかによってそのコンテンツの物語や描き方、そして制作費用や取り組みなどが大きく変わってきます。

だからこそ、韓国コンテンツは企画段階から目指す先をはっきり分ける、特にそれぞれのコンテンツが国内向けなのか、世界向けなのかを分けて考えることが多いのです。

国内を意識したドラマ「ペントハウス」

1つの事例として、「ペントハウス」というドラマをご紹介しましょう。

「ペントハウス」は2020年10月からSBSという韓国の地上波で放送され、瞬間最高視聴率31.1%、平均視聴率も19%を記録した、韓国国内では社会現象を巻き起こすほどの大ヒット作です。シーズン3まで続きました。

もちろん、こちらのドラマは韓国国内で大きな反響をもたらしたことで海外でも多少話題となり、海外の韓国ドラマファンを中心に広がっています。とはいえ、「ペントハウス」は海外進出を意識して作った作品ではありませんでした。

韓国の0.1%ほどの最上流階級が集まって住む100階建ての最高級のタワーマンション「ヘラパレス」は、主人公のオ・ユニにとって憧れの場所でした。しかし、ある出来事をきっかけにユニはヘラパレスに住むこととなり、夢が現実に変わります。そんななか、自分の復讐のためにユニを助ける、最高層のペントハウスに住んでいるシム・スリョンは、彼女の耳元にこうささやきます。「今は、45階から始まるけど、もっとお金を稼いでチョン・ソジンが住んでいる85階まで上がってみて」。

「ペントハウス」は、人間の欲望はいつまでも満たされない、人間はチャンスさえあればより多くの富を得るために手段を選ばないという普遍的なテーマを描く一方で、リアリティーをまったく意識していないのかと思えるほど非現実的なことが頻繁に起きるストーリー展開が特徴的で、日本の昼ドラのように、韓国国内の、特に主婦層向けに作った作品でした。

もちろん、日本の昼ドラが好きなら日本でもこの作品に興味を持つ人はいると思いますが、もしも「ペントハウス」がグローバルコンテンツとしての作品作りを意識していたら、映画「パラサイト」のように、ドラマの背景である韓国社会をより細かく描写するなど、リアリティーをもっと強めていたと思います。

面白いのは、近年世界的に大きな反響をもたらした「イカゲーム」や「パラサイト」などは韓国社会をできるだけリアルに描き出したことで評価されています。それと比べ、「ペントハウス」は意味不明なドラマと言われるほど、現実では絶対にありえないようなことがひたすら起きていて、これは2000年代の韓国ドラマの描き方に近いものです。

なぜ韓国では「ペントハウス」が社会現象を巻き起こすほどの大人気となったのか。それは、「ペントハウス」が国内向けの作品として今の韓国のトレンドを意識していたということに尽きます。

この数年、韓国では「懐かしさ」が1つの大きなトレンドとなり、1990年代、2000年代初頭の音楽やドラマなどが再評価されています。

このような流れの中で「ペントハウス」は、2000年代まで人気を集めていた韓国ドラマの作り方に近く、非現実的な展開を強めるマッチャンドラマを世の中に送り出して大成功したのです。韓国国内市場をターゲットにしたからこそ成し遂げられた結果だったと思います。

このようにコンテンツは、国内向けなのか世界向けなのかによってストーリーや描き方が異なります。またキャスティングにも大きな影響を及ぼします。「ペントハウス」に出演する役者たちは韓国では知名度が高く、演技力も認められているベテランが多いのですが、海外進出を目指すドラマや映画の場合だとまた異なったキャスティングとなります。

二兎を追う者は一兎をも得ず

基本的に企画段階から世界市場を考えるコンテンツだと、海外に多くのファンを持つ役者や、世界を舞台に活躍するアイドルグループのメンバー、もしくは海外でヒットした作品に出たことのある役者を中心にキャスティングすることが多いのです。

なぜなら、海外向けのものは国内向けのコンテンツよりリスクも大きいため、このようなキャスティングをすることによって少しでも成功の可能性を高めることができるからです。そして実際にコンテンツの制作費などに投資する側もそれを望むことが多いです。ただ、最近は新人の俳優を起用し、一夜にして世界的な俳優になった事例もあり、少しずつキャスティングへの自由が与えられてきています。

今は誰もがコンテンツを作ることができる時代です。また誰もがコンテンツのクリエイターを目指すことができる時代になりました。

けれども、コンテンツを作る際に気を付けてほしいところは、まず企画段階から目指す先を明確にすることです。

特に海外進出を目指すのであれば、グローバル・トレンドの分析や市場調査はもちろん、規模による制作設計が必要になるかと思います。もちろん、運よくたまたま国内でも海外でも両方でバズる場合もゼロではありませんが、リアルタイムでコンテンツが溢れ出る今の時代に、「たまたま」を狙うほうがむしろ難しいと思います。

「二兎を追う者は一兎をも得ず」という言葉があるほど、第一に目指す先を決めることからがスタートです。ちなみにこの話はコンテンツだけに限らず、プロダクトやサービスなど、どんなビジネスにも大事な話なのかもしれませんね。

(カン ハンナ : 国際社会文化学者、タレント、歌人、株式会社Beauty Thinker CEO)

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