Netflixが巨額を投じた韓国コンテンツの裏事情

世界規模のヒットを記録している韓国のコンテンツ。なぜここまで世界規模のヒットが続いているのでしょうか(写真:Benzoix/PIXTA)
インターネットによって、国境、言語、クリエイターと消費者という枠組みなど、あらゆるボーダーはなくなりました。デジタルプラットフォームを駆使することで、誰もが世界中にコンテンツを届けることができるようになったためです。
そんな時代だからこそ、「その国らしさ」「あなたらしさ」に価値が出ます。世界の人々は、その国でしか表現できない、あなたにしか表現できない、まだ見ぬ新しいコンテンツを待っているのです。
その時代の変化をうまく捉えて、世界的なヒットを次々と生んでいるのが韓国。新刊『コンテンツ・ボーダーレス』では、BTS、「愛の不時着」「イカゲーム」など、いま勢いに乗る韓国コンテンツの事例を中心に、世界へコンテンツを届ける方法について解説。本稿では、同書の抜粋を3回に渡ってお届けします。今回は第2回です(第1回はこちら)。

ドラマ「イカゲーム」「愛の不時着」「梨泰院クラス」など、今、多くの韓国のコンテンツが世界規模のヒットを記録しています。では、なぜここまで世界規模のヒットが続いているのでしょうか。

コンテンツと政府に絶妙な距離感

日本では「韓国コンテンツの盛り上がりは、政府が主導している」とよく耳にするかもしれません。ところが、それは実態とは少し異なる話だと思います。

30年以上のノウハウを積んできた韓国コンテンツに対して、政府はあくまでも企業やクリエイターのサポートに徹しているのです。言い換えれば、今の韓国コンテンツは、民間の事業者やクリエイターなどコンテンツを作る人々がビジネスとして積み重ねてきた結果なのです。

1つの事例としてご紹介したいのが、韓国コンテンツ振興院(KOCCA)です。2009年に政府が設立した公共支援機関であるKOCCAは、ドラマ、映画、バラエティ番組、ゲーム、音楽、ファッション、アニメーション、キャラクター、漫画、VR、ARなどさまざまなコンテンツ産業の成長のため、企画の段階から制作、流通、海外進出、企業育成、人材育成、研究開発などの支援事業を分野ごとにおこなっています。

面白いところは、KOCCAは世界各地に支部を設置、それぞれの国のトレンドや動向に関連するレポートを作って、インターネット上 で無料公開しています。具体的には、コンテンツ産業の各分野の成長率や最新動向の要因分析、その背景について詳しく書かれているレポートなどがあります。

また、国ごとのコンテンツ産業の政策や、各国に起きている最新トレンドなどについても定期的に発行されているのです。コンテンツを作る人からすれば、今世界にどのようなことが流行っているのか、今後はどのようなことが注目されるのかなど、自ら調査するのに時間や費用がかかる情報をKOCCAが提供してくれるのは、とてもありがたいことだと思います。

そもそもこのような専門情報へのアクセスは基本的に制限されることが多いかと思いますが、KOCCAが発行するすべてのレポートは「誰でも」「簡単に」「無料で」入手できるようにしたことが、コンテンツの成長を下支えしているのです。

Netflixが韓国コンテンツに巨額の投資

韓国コンテンツの世界規模のヒットの背景の1つが、Netflix。先ほど名前を上げたドラマも、Netflixの投資を受けて作られているものです。グローバルプラットフォームの競争激化により、Netflixはオリジナルコンテンツへの大規模な投資を行っています。

Netflixがオリジナルコンテンツを作り始めたのは2012年頃でした。今でこそ世界190カ国以上で利用できるNetflixですが、アジア市場への進出を考えたとき一番最初に目をつけたのが、日本のアニメと韓国のドラマでした。特に韓国ドラマの場合は、2000年代からアジア圏を中心に広がった韓流ファンが多かったため、Netflixからすれば韓国ドラマを確保することでアジア全体のユーザーを増やすことができるというのは大きなポイントでした。

そして2015年、Netflixはソウルに韓国支社を設立しました。ただし、設立したばかりの頃からすべてがスムーズにいったわけではありませんでした。なぜなら、それまでの韓国ドラマ・映画産業のやり方とNetflixのビジネスモデルには大きな違いがあったからです。

Netflixはハリウッドなどをもとにするアメリカンスタイルで、巨額の制作費を負担してオリジナルコンテンツを作ってもらいます。その半面、作品の権利はNetflix側が所有するというやり方なのです。

韓国側は最初、このようなやり方に戸惑いがあったと思います。なぜなら、それまでは自分たちが版権を持ち、世界各国に作品を輸出することで収益を得てきましたし、作品のシリーズ化、DVD、グッズなどを含め、2次、3次、4次の収益まで生み出すことができたからです。

しかしNetflixが版権を所有することになると、付加価値を生み出すことはもちろん、ビジネスの主導権を握るのもNetflixになるため、最初は不安や違和感を覚えたかと思います。

そうしたなか、韓国コンテンツとNetflixの間に転機が訪れたのは、2017年でした。映画「パラサイト 半地下の家族」の監督としても世界的に有名なポン・ジュノ監督が、Netflixから約5000万ドルという巨額の制作費の提供を受け、韓国初のNetflixオリジナル映画「オクジャ」を制作。ようやくここから、韓国コンテンツとNetflixの協業の道が開けたのです。

では、ポン・ジュノ監督をはじめ、2017年頃からなぜ韓国コンテンツはNetflixと手を組むようになったのでしょうか。その理由は大きく2つあると考えられます。

1つめは、制作費への不安が解消されるからです。

それまで韓国ドラマや映画業界に共通する課題には、資金回収の見込みが立たないうちに、ドラマや映画の制作を始めていた点がありました。作品を作るときに必要なスポンサーなども制作前の段階ですべて決まることはなかなか難しく、制作中に決まることも多い。

Netflixの場合は、制作費を100%負担することも多いため、作り手は資金繰りを気にすることなく、作品作りに集中できる環境が得られます。そしてNetflixから提供される制作費は、従来とは比べものにならないほど大きいのです。ハリウッド作品に引けを取らないオリジナルコンテンツを作る企業だけのことはあります。

韓国コンテンツの制作側からすれば、2次、3次の収入が得られないデメリットはありますが、制作費に頭を抱えなくてもいい、とにかくいい作品を作ることに専念できる環境は作り手にとっては魅力的だと思います。特に世界から韓国コンテンツが人気を集めている今、作る側も相当のプレッシャーを感じることが多いため、何よりも制作環境を支援してもらえるというメリットは大きいでしょう。

Netflixというプラットフォームの存在

2つめの理由は、Netflixだとやはり世界各国の人々に同時進行で届けられることです。正直なところ、それまで1つの作品を海外に輸出する際には、それぞれの相手国の放送局などに営業や交渉をしなければなりませんでした。ときには、交渉がうまくいかずに契約が結ばれないこともあります。

ところがNetflixというプラットフォームを使えば、Netflixに作品がアップされるだけで世界中の人々に届けられます。しかも、それが同時進行で広がることにより、一気に世界中を熱狂させる作品も生まれるのです。

「イカゲーム」がその1つです。つまり、コンテンツを作る側からすれば、金銭面だけの話にとどまらず、自分が手掛けた作品が世界中に広がることこそうれしいものだと思います。

このような2つの理由は、韓国がNetflixと手を組む大きな要因だったといえます。そして2021年の発表において、「Netflixは2016年から2020年まで韓国コンテンツに約7700億ウォン(約770億円)を投資し、多様な産業で約5兆6000億ウォンの経済的波及効果を創出した」と明らかにしました。また2021年2月には「2021年の1年間、Netflixが約5500億ウォン(約550億円)を韓国発のコンテンツに投資する」という発表があり、韓国コンテンツ投資への意欲を見せましたが、まさにNetflixと韓国コンテンツは今、ウィンウィンの関係をうまく構築しているといえます。

ちなみに、グローバル動画配信の時代にNetflixと共に、最近はApple TV+やDisney+なども韓国コンテンツへの投資に積極的に動き始めています。すでに何作品かは公開されたり、制作段階に入っているということですが、このようにグローバル動画配信サービスに韓国コンテンツは欠かせない存在になってきました。そして、ますますこれからこの流れは加速化していくのではないかと思います。

(カン ハンナ : 国際社会文化学者、タレント、歌人、株式会社Beauty Thinker CEO)

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