国家公務員の「夏賞与最大減」に見る民間との差異

霞が関では深夜残業が常態化している(写真:まちゃー/PIXTA)

6月30日に支給された国家公務員の夏のボーナス(期末・勤勉手当)は、管理職を除く一般行政職(平均34.2歳)の平均で約58万4800円となり、前年夏に比べ約7万6300円減少した。マイナスは2年連続で、今夏の11.5%という減少幅は平成以降で最大となった。

リストラや倒産の心配がなく、福利厚生が充実し、不況時にもボーナスが支給されないことはない。公務員といえば、ひと頃より陰りがみられるものの、依然人気の高い職業だ。テレワークが急増したコロナ禍でも当然のように役所に赴き、夜遅くまで奉仕する姿に胸を打たれた人も多いだろう。

しかし、岸田文雄首相による賃上げ要請や好業績を背景にサラリーマンの平均賃上げ率は4年ぶりの高水準、今夏のボーナスも大幅アップと勢いを見せる中で、過去最大のマイナスになった公務員のボーナス。働き方改革で旗を振る国と、それを支える「現場」の矛盾は広がっている。

政府の賃上げ要請に逆行するお膝元の状況

今年の公務員のボーナスのマイナス幅が、2009年のリーマンショック後のそれ(5万5900円)をも上回ったのは、2021年の人事院勧告に基づき民間との格差縮小のため支給月数を0.075カ月分減らしたことに加え、給与法改正が間に合わず2021年冬に見送られた0.15カ月分を合計した0.225カ月分が一気に減額されたからだ。

コロナ禍で人々の生活は大きく制約され、物価は上昇するものの平均給与が20年以上も上がらない国民に目を向ければ、マニュアル通りの減額に納得する公務員は多い。

ただ、一般財団法人「労務行政研究所」の調査によれば、東証プライム上場企業の夏のボーナス平均支給額は76万5888円で、前年比6.5%増(4万6877円増)。経団連による集計では大手企業105社の平均妥結額は92万9259円で、前年比13.81%という大幅アップになっている。公務員といえども生活や家庭があることも考えれば、民間との「ズレ」を感じずにはいられないだろう。

約58万人いる国家公務員の給与は、国家公務員法で「社会一般の情勢に適応するよう随時変更できる」とされ、人事院が民間企業の水準と均衡させることを基本に毎年勧告している。50人以上の企業を調査し、同じような条件の給与額を比較するのだが、ボーナスについては「前年8月からの直近1年間の支給実績」に着目している点がポイントだ。

コロナ禍のダメージが色濃い2021年冬の民間ボーナスは、労務行政研究所の調査で前年比マイナス1.9%、経団連の集計では前年比5.16%減となっている。国家公務員は0.3%のマイナスだったが、これは職員の平均年齢が0.4歳低下したことによる計算上のもので、実際には法改正が間に合わず今年6月のボーナスで遅れて調整された形だ。

松野博一官房長官は「国民の理解を得られる適正な結論を出すべく検討を行った結果、2021年8月の人事院勧告通りボーナスの支給月数を引き下げることを決定した」と説明している。

全国に約231万人いる地方公務員のボーナスも国に準拠している。地方公務員法は「職員の給与は国や他の自治体、民間の従業者の給与その他の事情を考慮して定めなければならない」としており、多くの自治体ではそれぞれの人事委員会勧告に基づき支給月数が前年同期より0.075カ月分引き下げとなった。

残業も民間に比べて多い

民間に賃上げや働き方改革を求める国と「現場」の乖離はこれだけではない。それは「労働」そのものに及ぶ。2019年4月施行の改正労働基準法は、時間外労働の上限を原則「月45時間、年360時間」と定めた。労働基本権が制約される国家公務員は同法の対象外であるものの、人事院規則で同様の縛りをかけている。職員の勤務時間は「1日7時間45分、週38時間45分」が原則というものだ。

しかし、2019年の「国家公務員給与等実態調査」によれば、超過勤務の年間総時間が360時間を超えた職員の割合は全府省平均で22.0%に上る。本省庁の年間平均は356時間で、「720時間超」という職員も7.4%に達していた。民間の約130時間と比べて異様さは際立ち、長時間労働は常態化している。

内閣人事局が2020年秋に調査したところ、20代官僚の約30%、30代の15%が過労死ラインの目安となる「月80時間」を超える残業をしていた。内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室の職員は2021年1月の超過勤務時間が平均で約122時間、最も多い職員は約378時間に上ったという。

当時の河野太郎公務員制度担当相は「もう黒を通り越している」と是正に向けて取り組む考えを示したが、深夜までの残業が常態化する「ブラック職場」は簡単に変わりそうもない。総務省によれば、2021年4~6月に新型コロナ対応で月間上限を超える勤務をしていた自治体の職員は3カ月間で延べ11万6675人に上る。

勤務時間の原則が突破される背景には、例外規定の存在がある。大規模災害への対処や重要法案の立案、他国との交渉など「特例業務」、国会対応や予算折衝といった業務に従事する職員には、上限を超えて超過勤務を命じることができるのだ。

国会で質問する議員から事前にヒアリングする「質問取り」や、それを踏まえた大臣答弁作成のため深夜まで待機する職員はいまだ多い。時に政治家からの理不尽な要求に悩まされることもある。

中央省庁のある30代官僚は「働き方改革が注目され、公務員にも改善に向けた動きは見えるものの、まだまだサービス残業をしている人は多い。『天下国家』のために自らを奮い立たせているが、公務員も普通の人間。民間には働き方改革を呼びかける一方で、自分たちは旧態依然の勤務を続けていることを考えると、身も心もギリギリの状態」と漏らす。

小学校低学年から進学塾に通い、最難関中高を卒業後、東大からキャリア官僚となった男性は地元でも評判のエリートだ。しかし、今年春の残業は月150時間を超え、自宅には「ただ寝るために帰る」だけの生活が続いたという。

メンタルヘルス不調者も増加傾向

人事院によると、メンタルヘルス不調で1カ月以上休んだ職員(長期病休者)の全職員に占める割合は1%を超え、増加傾向にある。それは地方公務員も同様で、総務省が2021年12月に公表した「メンタルヘルス対策に係るアンケート調査」によれば、メンタルヘルス不調の休務者がいる都道府県、市区町村は87.4%に達している。職員10万人あたり2250人で、この20年間で約7倍も増加した。40歳未満が46.2%と多く、役職は「末席」にあたる係員が72.5%を占めている。

内閣人事局による調査(2020年)では、30歳未満の若手官僚で「辞める準備をしている」「1年以内に辞めたい」「3年程度のうちに辞めたい」と回答した男性は約15%、女性は約10%に上り、その理由は「もっと魅力的な仕事に就きたい」が男性49%、女性44%だった。離職率は国家公務員が約5%、地方公務員は約1%と低いものの、長時間労働で仕事と家庭の両立が難しいとの声も目立つ。

老後の生活を支える年金でいえば、公務員は国民年金に加えて保険料が低率の共済年金にも加入することができていた。老齢基礎年金、退職共済年金、職域加算という3層にわたる年金は一般的なものと比べれば魅力的だ。しかし、2015年の年金制度改革で厚生年金制度に統一され、職域加算は廃止。保険料は徐々に引き上げられ、負担は増えている。

公務員ゆえの「NG」も重なる。2018年1月に厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成し、国家として企業に従業員の副業解禁を推奨している。多様な働き方の確保を目指す厚労省は、原則として全企業に副業を認めるよう促し、NGの場合には理由の開示を求めるといった強い姿勢で臨む。だが、公務員は地位の特殊性や公共性から副業は認められていない。

 岸田首相は5月、英ロンドンの金融街シティーで「Invest in Kishida!(岸田に投資を)」と呼びかけ、2000兆円にも上る個人金融資産を生かした「貯蓄から投資へ」の流れを加速させる考えを表明した。副業とは異なり、公務員の株式取引はもちろんOKだ。

ただ、1995年の事務次官会議申し合わせで「株式の取引に当たっては、その職務との関係から国民の疑惑や不信を招くことがないよう各省庁に必要な措置を講ずる」とされ、2000年4月施行の国家公務員倫理法は本省審議官級以上の職員に株取引などの報告書提出を義務づけている。

2009年、経済産業省の審議官が半導体大手の合併情報を入手し、妻名義の証券口座で株を購入し、利益を得ていたことが発覚。2013年には勤務時間中に株取引を繰り返したとして警察庁の男性職員が職務専念義務違反にあたるとして懲戒処分を受けている。インサイダー情報を知り得る立場の公務員は、後ろめたいことがなくても、投資に躊躇するケースが少なくない。

採用試験の申込者も減少が続く

就職情報会社「マイナビ」が2023年卒業予定の大学生3年生と大学院1年生を対象に実施した調査によると、公務員を就職先の選択肢として考えたことがある学生は22.7%に上っている。その理由は「社会的貢献度が高い」が43.9%と高い。ただ、「考えたがやめた」との回答は41.5%に達し、増加する傾向にあるという。

いまだ人気の職業であることに変わりはないものの、長時間労働を強いられるといったネガティブなイメージもつきまとう。2021年度の国家公務員採用試験の申込者(総合職)は、前年度に比べ14.5%減の1万4310人で5年連続の減少となった。現行の試験が導入された2012年度には2万5000人を超えていたが、最大の減り幅だ。2022年度は1万5330人と微増したものの、現行試験下で2番目に少ない。

過酷な労働環境にある一方で、公のために尽くす官僚の給与は低くはない。モデル給与例(2021年度)を見ると、25歳の係員の年間給与は314万9000円、35歳係長は450万1000円、本府省課長補佐(35歳)は715万5000円、地方機関課長(50歳)は667万円だ。民間平均給与である約433万円と比べれば、恵まれた待遇と見ることはできる。

さらに出世の階段をかけのぼり、本府省課長(50歳)になれば1253万4000円、本府省局長は1765万3000円、頂点である事務次官に就けば2317万5000円を手にすることができる。

加えて、民間の退職平均給付額(2018年、大学・大学院卒の管理・事務・技術職)が勤続25~29年で1216万円、「30~34年」1582万円、「35年以上」1997万円となっていることを考えれば、国家公務員(常勤)の定年退職金は平均約2100万円、地方公務員(25年以上勤務)は平均約2130万円というのも悪くはない。

「打ったら拝まれる 三振やったらどやされる 振らなどっちもない 信じて振るだけや」。かつてスポーツ用品大手ナイキのCMで、通算525本塁打を放ち球界を盛り上げた清原和博氏が苦悩を打ち明けるようなシーンは話題を呼んだ。

公に奉仕する姿に応援コメントも

人々の関心を集め、様々なバッシングにも見舞われるという点は公務員も同じだが、職務の重要性から常に完璧を求められ、成果が見えにくい世界は「できて当たり前 失敗しなくても怒鳴られる 特に旨味もない あるのは使命感だけや」といったところだろう。

最近では、山口県阿武町の4630万円誤送金問題といったミスばかりが注目されるが、コロナ禍でも変わらず「公」に奉仕する公務員に向けてはインターネット上で応援コメントも見られている。過酷な勤務時間に加え、政治にも翻弄されながらコツコツと働く公務員には頭が下がるのも事実だ。国は働き方改革を推進しているが、まずは国民に範を示す公務員の労働環境を改善しなければ説得力をもたないのは言うまでもない。

価値観が多様化する激動の時代に安定や使命感を追求するのか、否か。それでも、あなたは公務員になりたいですか?

(佐藤 健太 : マネーセージCMO)

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