キーエンス「時価総額4位企業」の淡泊な株主総会

キーエンスは2022年3月期に過去最高益を記録した(写真:編集部撮影)

「株主からの質問にまともに回答しない。いわゆる短時間のシャンシャン総会で、不満の残る株主総会だった」

6月10日に大阪府高槻市で開かれたキーエンスの定時株主総会。株式を長年保有しているという個人株主が総会終了後に述べた感想だ。

キーエンスは、部品の形状などを検出するセンサーを中心にFA(ファクトリーオートメーション)関連製品の企画・開発、販売を行っている。営業利益率50%台の高収益企業、従業員の平均年収が2000万円の高年収企業と形容され、時価総額(約11兆円)は、トヨタ自動車、NTT、ソニーグループに次いで4番手だ。一方、事業拡大を優先する同社は外部への情報発信が極めて限られる。

株の保有には500万円近い資金が必要

株主総会で質問に立った個人株主は、1株を10株に分割する株式分割の要望を意見した。そのうえで、キーエンスの株式を購入する際に必要となる最低投資金額の水準についての認識と、株式分割にどのようなデメリットを感じているのかを経営陣に質問した。

国内上場株式の売買単位は100株。キーエンス株の場合、現在の株価からすると最低投資金額は約470万円となる。個人投資家が投資しやすい環境を整備するために、東証が望ましい水準として示す「5万円以上50万円未満」と大きな開きがある。

中田有社長は、株主からの質問に対して、「株式分割をすれば(株主が増えて)多くの方に応援してもらいやすくなる」と回答。そのうえで、デメリットについては多くあるとして、「これが1つの要因と伝えることは難しい」と説明するにとどまった。

具体性を欠いた説明に冒頭の個人株主は「時価総額4位の社長のコメントとしては残念」と話す。

総会では、株価と配当の水準や業績予想についての質問も出たが、特筆すべき回答はなかったという。なお、創業者の滝崎武光名誉会長(77歳)は、総会で一言も発しなかったものの、「『動かざること山のごとし』で存在感は大きかった」(総会に出席した株主)。

賛成率が改善した理由は好業績と姿勢の変化

とはいえ、今回の株主総会に諮られた議案に対する賛成率は悪くない。

株主総会後に公表されたキーエンスの会社議案に対する賛成率(写真:編集部撮影)

6月14日に開示された資料をみると、株主への配当金額を決める「剰余金の処分」は79.7%。滝崎名誉会長と中田社長の取締役再任に対する賛成率も、それぞれ88%、85.6%だった。剰余金の処分が60%台、会長の再任が70%台と低迷していたころと比べると、大きく改善している。

背景にあるのは好調な業績だ。2022年3月期の営業利益はコロナ前の水準を超える4180億円を計上した。純利益は3033億円で3期ぶりに過去最高益を更新。さまざまな業界の工場で無人化・省人化の動きがコロナ禍を機に加速しており、業績の追い風となっている。

2019年11月に1株を2株とする株式分割を実施した効果も続いているようだ。株式分割の際、分割した割合に合わせて1株あたりの配当を減少させることが多いが、キーエンスは配当金を維持したことで実質1.5倍の大幅増配となった。

株式分割と同時期には、証券アナリストや機関投資家向けに決算説明の電話会議を開始。業績予想は非開示だが、今後の見通しを考えるうえで役立つ、従業員の採用動向や商品の出荷状況は確認できるそうだ。

アナリストの在籍する証券会社をみて提供する情報に差をつけるようなこともないという。個人投資家の利用が多いSBI証券に所属する和泉美治シニアアナリストは、「情報量は少ないが開示姿勢は非常にフェア」と語る。株主との対話も「うまくいっているほうではないか」とみる。

キーエンスの株主に対する姿勢を全般的には前向きに評価する和泉氏だが、総会で個人株主から出された意見に同意する部分もある。株式分割は「積極的にやらない理由はないと思う」と話す。

最低投資金額の多さでは上場企業で5位

最低投資金額が100万円以上の上場企業は、714万円のファーストリテイリングを筆頭に40社近くある(6月27日終値で算出)。最低投資金額の多さでキーエンスは5位。これら企業の多くは最低投資金額の引き下げに関して慎重だが、10月に1株を10株に分割する3位の任天堂のような企業もある。

キーエンスの個人株主からすると、500万円近い現状の最低投資金額を変えないのは、新たな個人投資家の参加を事実上、拒否する形になっていると映る。だが、逆張り姿勢が強いとされる個人投資家の層が厚くなることは、機関投資家が売りに転じた際の受け皿にもなりうるだろう。

東証は、望ましい投資単位の水準以上(50万円以上)で株式が売買されている場合、当該企業の投資単位の引き下げに関する考え方や方針を開示するよう義務づけている。株主総会から一週間後、6月17日に公表されたキーエンスのリリースでは、投資単位の引き下げについて、こう書かれていた。

「費用対効果、市場の要請、株価・売買動向等を勘案してまいる所存であります」

その文言は毎年同じ。現状、中田社長の言う「多くの方の応援」は不要なのか。個人株主に向けて、キーエンスのスタンスがわかる具体的な説明をしてもよいのではないか。

(緒方 欽一 : 東洋経済 記者)

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