任天堂創業家の買収案、東洋建設「3つの反論」

藪下貴弘(やぶした・たかひろ)/1958年生まれ。1982年東洋建設入社。2001年東京支店購買部長。2014年執行役員土木事業本部営業第二部長。2018年常務執行役員経営管理本部長。2021年代表取締役(撮影:梅谷秀司)
完全子会社化を狙ったインフロニア・ホールディングス(HD)による東洋建設へのTOBは、5月19日に不成立に終わった。任天堂創業家のファミリーオフィス「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)」が、TOB期間中に東洋建設株を買い集めたためだ。
YFOは4月に、東洋建設の経営陣の合意を前提に、同社に対して買収を提案した。TOB価格として1株1000円を提示し、「友好的な協議が続く間は東洋建設株の追加取得はしない」意向だ。ただ、東洋建設側は敵対的TOBに発展する懸念から、5月24日に事実上の買収防衛策を導入した。ここまでの動きが、TOB攻防戦の第1ステージだった。
東洋建設は、6月24日に開く定時株主総会で買収防衛策の導入について是非をはかる。株主総会のあとの6月末以降、敵対的TOBに発展する可能性もあり、攻防戦は大きなヤマ場、つまり第2ステージを迎えることになる。
東洋建設側はどのような姿勢で第2ステージにのぞむのか。YFOとの交渉役を担う、東洋建設の代表取締役専務執行役員・藪下貴弘氏を直撃した。

何が目的かわからない介入

ーー3月、インフロニアHDによるTOBに、YFOが突然介入してきました。 

われわれとしては、「YFOはどのような会社で、何が目的でTOBに介入してきたのか」、それらがわからないまま今回の一連の動きが始まった印象を持っている。そこが最初にひっかかった点だ。
 
インフロニアHDによるTOB期間中の3月に、YFOは市場で当社株を買っていた。その後、YFOは市場で株を買い増し、5月17日にはYFOによる当社株の持ち株比率は27%を超過した。その間、東洋建設はYFOと書簡や面談を通じて、「何を目的で株を買っているのですか」という質問を何度も投げたが、納得のいく回答を得られなかった。

また4月22日には、YFOから東洋建設の経営陣の合意を前提に、TOB価格として1株1000円での買収提案があった。これも事前の連絡も何もなかったので、本当にびっくりした。

書面上では「友好的、友好的」とYFOは言っているが、はたしてどうなのか。友好的というのであればきちんと事前に話をしたうえで開示をするプロセスがあるはずだ。全般に唐突感がある。

ーー買収提案についても、いくつかの懸念があるようですね。

大きく3点の疑問がある。

1つめは1000円という価格の根拠だ。その算定根拠について、もう少しわかりやすく説明いただきたい。さらに、1000円の価値に見合うだけの経営の方針なり、事業戦略なりを示してほしい。

建設業界は全般にPBRが低く、当社もずっと1.0倍に満たない0.8倍の水準のところで推移してきた。2021年3月期は過去最高の純利益を計上したが、それでも当社の株価は500円~600円という水準で推移していた。

1株1000円となると、その倍の価格だ。事業量をどれだけ増やして、利益をどう増やしていくのか、YFOはそれなりの戦略、アイデアをお持ちなのかなと考えていたが、具体的な話はいまだに提示していただいていない。

5月に、総136ページに及ぶ「企業価値向上策(案)」という資料を受け取った。ただ、これはDXの内容が中心であって、われわれが一番ポイントとしている、これまでやってきた事業(建設請負事業)をいかに成長させていくのかという点については、特段の意見やアドバイスがない。

インサイダー問題の懸念あり

ーーインフロニアHD傘下でなくても、「東洋建設は独立経営でやっていける」というのがYFOの主張です。

買収提案に対する疑問の2点目は、そのゴーイング・コンサーン(継続企業の前提)に関する部分だ。

東洋建設は港湾工事を中心とするいわゆるマリコンのため、全体の事業構成の中で公共工事のほうが民間工事よりも多い。土木の公共工事を主体とする経営状況であることを考えると、YFOを経営パートナーとした場合、これまでと同じように受注機会を得られるかどうか不安になる。

一方で、これまで前田建設工業(インフロニアHD傘下)とは約20年間にわたり、資本業務提携を続けてきた。共同受注、共同購買だけでなく、技術研究も一緒に取り組んできた。

インフロニアグループから離れた場合、このシナジーがなくなる点もやはり大きなポイントだ。独立して経営していくのは、ディスシナジーになる側面もある。フラットに、あらゆる可能性について検討していきたい。

ーー2021年1月に、東洋建設は前田建設などグループ会社との経営統合について検討していました。東洋建設はその際に、シンガポール籍のファンド「アスリード・キャピタル」とアドバイザリー契約を結んでいたが、アスリード側の担当者として、現YFO最高投資責任者の村上皓亮氏が検討メンバーに入っていました。

最後の疑問が、そのインサイダー問題に関する点だ。

村上さんの立場ならば、少なくとも一般の株主の方にはわからない情報を、当時は持っておられた。われわれは「情報の非対称性」と表現しているが、一般の株主が知りえないことを知って株を買われたということについては、これは法的な問題ではなくて、倫理問題として疑念を持たざるを得ない。

ーー2021年1月の段階では、東洋建設も前田建設の動きを相当に警戒していたのではないですか?そのあたりの解釈・見方の違いが、現在のYFOと東洋建設の意見の食い違いになっているように思います。

当時は村上世彰氏の流れをくむファンドが当社株を5%超保有していた。そのアクティビストの動きを気にしていたこともあり、「経営統合についてしっかり検討する時間をほしい」と言って、HDへの参加をいったん見送った。

【2022年6月23日9時08分追記】初出時の一部表記を上記のように修正いたします。

前田建設への警戒感というよりは、われわれは社内ですごく丁寧に議論をして意思決定をしていく社風がある。

経営統合後のホールディングスのあり方について、どういう体制でやるのか、資金の管理体制はどうするのか、そういったものをしっかりと確認したうえで統合に踏み切りたいとの考えがあった。前田建設の(意思決定の)スピード感についていけなかった面もある。

企業対企業の話なので、警戒心がゼロかというと、そうではなかったのも事実。ただ、2021年10月にインフロニアHDが発足して、そのあとの経営体制を見てきた。われわれが「こういうふうにするべきだよね」と言っていたような内容が実現されているのを確認できたので、今回合流することを決めた。このあたりの流れは、非常にスムーズだった。

本当の話し合いはできていない

ーー株主総会後へ、東洋建設は次の手をどう考えていますか?

当社が要求している要望事項(成長につながる経営方針や戦略の提示)について、YFOが対応していただけるようなステージが整えば、もう少し踏み込んだ話をできるのかなという感じだ。

お互いに真摯な対応をすると言っているものの、まだ本当の話し合いのステージに上がれていない。われわれは彼らの提案にノーと言っているわけではなくて、交渉をスタートするにあたっての環境をつくりましょう、との姿勢だ。

先ほど申し上げたように、ゴーイング・コンサーンの観点、買収価格1000円の算出根拠、インサイダーの疑念などについてきちんと情報(説明)をいただいてから、次の議論の場に移りたい。

(梅咲 恵司 : 東洋経済 記者)

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