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早く話し始める子と遅い子「学力差」その後の真実

話し始めるのが早いか遅いかで、その後が気になる親は多いでしょう(写真:kapinon /PIXTA)
言葉の早い遅いは、子どもの将来と関連するのでしょうか?「子育てには数々の『平均値』があり、そのなかでも言葉は『人間らしさ』の表れなので、いつ・どれくらい話せるのが普通か気にする親はとても多い」と話すのは、ブラウン大学経済学部教授で膨大な教育関連データを分析するエミリー・オスター氏。経済学者としての知見と2児の母としての実体験からベストな子育て法を探る同氏の『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』より、月齢と言葉の量、学力との関連について一部抜粋してお届けします。
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24カ月で平均「300語」になる

「話すこと」は、ごく自然に比較の基準になりやすい。わが子を他の子と、きょうだいと、そして自分と比べるのだ。

でも、うちの子は他の子と比べてどうなのか知ろうと思っても簡単にはできない。小児科の健診は、体の発達と同様、早期介入が必要な子どもを見つけるのが主眼だ。2歳健診でよく聞かれるのは、子どもが日常的に少なくとも25語を話すかどうか。ただ、これは問題がある可能性を示す基準値であり、平均や何らかの範囲は示されていない。

全体の分布がわかっても疑問は残る。話始めの早い遅いは重要? 早く話し始めると後で何か影響が出る? どちらの質問にも答えはある。データを見てみよう。

まずは、「いつ・どれくらい話すのが平均的か」を見てみよう。

一般的に行われる語彙数の測定方法は、さまざまなカテゴリーの680語が掲載された質問用紙を親に渡し、子どもが話しているのを聞いたことがある単語をチェックする形で行われる。全員に同じ単語を訊くことで子どもの比較がしやすくなる。次のグラフは、この調査データから作成された。大まかに、各年齢の単語数の分布がわかるようになっている。

(出所)『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』(サンマーク出版、以下同)

たとえば24カ月を見てみよう。データは、24カ月の平均的な子ども(50パーセンタイル)は約300語の使用語彙があることを示している。10パーセンタイルの子(分布の最も下に近い)は約75語だ。90パーセンタイルの子は550語に近い。

月齢の低い子どもは、言葉と身振りからデータが取れる。次のグラフは、生後8〜18カ月を対象にしている。

ポイントは、14〜16カ月以降の語彙の爆発的な発達だ。最も発達の早い12カ月の子どもでも、語彙量は少ない。8カ月では、言葉や身振りのできる赤ちゃんはほぼいない。

「男の子」は語彙が増えにくい

性別で切っても興味深い。一般に男児のほうが言葉の発達は遅いと考えられているが、実際にデータからも裏付けられている。

グラフを見ると、どの時点でも男児の語彙量が少し下であることがわかる。たとえば24カ月では、平均的な女の子の語彙は、平均的な男の子と比べると約50語多い。30カ月では、一番言葉の進んだ男児は女児と同じだが、他の時点ではまだ大きな差がある。

私たちはみんな親バカだから、自分の子がグラフのどこに当てはまるかを調べるのは楽しいかもしれない。実際にはほぼ全員が話せるようになるのだが、それでも赤ちゃんの頃の差から長期的な差を予測できるかどうかは気になるところだ。早くおしゃべりを始めた子は、文字も早く読めるようになるのだろうか? 学校の成績もいいのだろうか?

大前提として、言語の発達は両親の学歴と明確な関連がある。一方で、両親の学歴は子どもの幼児期の読む力や後の学力テストの得点など、他の結果とも関連する。つまり、純粋に言葉の早い遅いという影響だけを調べる際には、親の教育歴などを極力排除する必要があるのだ。

言葉の遅い子は「学力スコア」がわずかに遅い

この分野での、最も大規模で厳密な研究が注目したのは、言葉が基準より遅かった子どもは、のちに他の面でも遅れを見せるのかというテーマだ。この研究では、生後24〜31カ月の32人の言葉の遅い子が集められた。子どもたちはこの時点で平均21語を話した。前のグラフだと平均をかなり下回っている。この調査の特徴は子どもたちに追跡調査が行われた点で、17歳まで調査が実施された。年齢が上がると、言語能力、学力テストの得点などが調査された。

結果から示されたエビデンスはさまざまだった。言葉の遅れた子のグループは、かなり後になっても学力テストの結果はわずかに劣るようだった。17歳時点のI Qスコアは対照群よりも低かった。

だが、得点が特別に悪いとはいえなかった。たとえば、言葉の遅れでは下位10%であっても、17歳でのI Qテストで下位10%に入る者はいなかった。

この結果は、多くの研究で一致している。中にはもっと大規模な研究もあり、例えばアメリカ教育省教育統計センターの幼児期追跡調査の論文では、6000人の子どもたちを調査している。24カ月の時点での語彙量が不十分だと5歳までの言語能力も低いと予想できるものの、やはり大多数の子どもは基準範囲に入っていることが報告されている。

こうした研究は言葉の遅れた子を対象としている。基準範囲内の子どもの研究は少ないが、少なくとも1件は見つかった。2011年の論文で、2歳時点で言葉の早い子と遅い子を比較している。「言葉の遅い子」グループは2歳で平均230語を話した。早い子のグループの平均は460語だった。どちらも位置は違うが、基準範囲内だ。

言葉の早さは「将来」を約束しない

11歳でもグループ間の差は持続していたが、重複する部分も多かった。具体的には、ある言語能力の測定方法(「ワードアタック」と呼ばれるもの)では、言葉の遅いグループの平均は104点、早いグループでは110点だった。言葉の早いグループのほうが成績はいい。だが、それぞれのグループ内では大きなばらつきもあった。次のグラフは2つのグループの得点範囲だ。

言葉の早いグループの得点が(平均で)高いことがわかる。その一方で、分布にはかなりの重複が見られる。個々のばらつきは平均の差を完全に圧倒しているのだ。

米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト

ごく例外的な言語能力の場合はどうだろう。これにも、言語の早熟と後の成長具合に相関性があるという小規模なエビデンスがある。しかし、相関関係は、この研究でも別の研究でもあまり大きくなく、2歳前によく話せることが必ずしも早く文字を読めたり、他のことを達成できたりすることの決定因子にはならない。

親がわが子を他の子と比べようとするのは自然なことで、おそらく避けようがないだろう。言葉の発達は最初に目の当たりにする認知過程であり、比較の対象になるのは当然だ。だが、言葉が早いから将来の能力が予測できるかといえば、その可能性はあるにせよ、極めて低い。言葉の早さは将来の成功を約束はしない。言葉の遅い子も、大半は数年以内に他の子と変わらなくなるのだ。

(エミリー・オスター : ブラウン大学経済学部教授)

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