成功した創業者を多く輩出する28社ランキング

起業の前に企業でどのような経験を積むのが理想なのでしょうか?(写真:tadamichi/PIXTA)
ポストコロナにおいて経済復興を担う存在として大きく注目が集まる、スタートアップ企業。成功するための王道パターンというのは果たして存在するのだろうか?
シリコンバレーのベンチャーキャピタルData Collective(DCVC)社でパートナーを務めるアリ・タマセブ氏の著書『スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件』を一部抜粋、再構成し、4回連載でお届け。今回が最終回となる。
第1回:「起業は若いほど成功する」という俗説にモノ申す(4月22日配信)
第2回:「圧倒的成功する創業者は技術者」という説の真実(4月29日配信)
第3回:「学歴」が起業家の成否を決定付ける要素でない訳(5月6日配信)

起業前に平均11年の就業経験あり

就業経験について、起業家は相反するアドバイスを受ける。企業で働いた経験は、自分の会社を始める際の元になるイメージ―それに従うにしろ避けるにしろ―を持てるという意味で重要だと考える人もいる。一方、企業での経験を過大評価せず、会社を自分で始めたいなら、できればすぐにやるべきだという人もいる。

データを見ると、どちらにも一理ある。10億ドル達成企業への道は1つではない。すぐにスタートアップの世界に飛び込む人もいるし、40年間仕事の経験を積んだあとに起こした会社が10億ドルの価値を生むこともある。

10億ドル達成企業の創業者CEOは、その会社をつくる前に平均11年の就業経験を持つ。その現場は他の企業の場合もあるし、自分が前につくった会社の場合もある。

画像をさがして保存できるウェブサイト、ピンタレスト(Pinterest)の創業者、ベン・シルバーマンは、元はグーグル(Google)の社員で、広告チームのためのプロダクトをデザインしていた。グーグルではまわりに総合的にものごとを考えられる優秀な人材が集まっていたため、彼自身もそうならざるをえなかった。しかし同時に、グーグルはあまりにも巨大で、彼がつくりたかったプロダクトで常に実験できたわけではなかった。

ピンタレストを始めたとき、シルバーマンはもっと実験する自由を選んだが、グーグルでの経験から得たものも活用した。巨大検索企業での彼の最初の仕事はカスタマーサポートとして、電話に出ることだった。

彼は顧客とのつながりを持つことの大切さを覚えていて、ピンタレストの最初のユーザー5000人に個人的にeメールを送り、反応を得た。ピンタレストの基本的なビジネスモデルも、グーグルをまねている。どちらも検索結果をユーザーに提示し、どちらも検索に関連する広告を混入させている。

ディディ(DiDi)の創業者CEOであるチェン・ウェイ(程維)も、成功する前に、何年も企業で働いたりスタートアップを立ち上げたりした経験があった。

チェンはアリババ(Alibaba)で6年、中国北部地域のセールス・マネージャーとして働いていた。のちに中国最大のサードパーティー・オンライン決済プラットフォームのアリペイ(Alipay)に移り、間もなく地域マネージャーに昇進した。

その後チェン・ウェイはディディを設立し、中国でのウーバーの事業を獲得し、何億人ものユーザーを抱え、世界へと事業を拡大することになる。

ブランド企業での経験がモノを言う!?

10億ドル達成企業グループの創業者CEOの約30パーセントは、他の会社で働いた経験を持たない。就業経験のある人の60パーセントは、名の知れたブランド企業で働いていた。

たとえばグーグル、マイクロソフト(Microsoft)、アマゾン(Amazon)、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、マッキンゼー(McKinsey)。これら〝第1階層〟企業の雇用プロセスが厳格で、きわめて優秀な人材が集まることはよく知られている。

〝第2階層〟企業(大手で名の知れた会社だが、トップレベル人材の第一希望にはなりにくい、と定義する)で働いていた人は28パーセント。誰もが知るブランド企業での就業経験を持たない創業者は、たった14パーセントだった。

通常のスタートアップ企業(以下図中の「無作為グループ」)では、他の会社で働いたことがない創業者が16パーセント。第1階層企業での就業経験がある人は、10億ドル達成企業グループと比べると少ない。半分を少し上回るくらいだ。これが私が気づいた2つ目の重大な違いである。10億ドル達成企業の創業者のほうが、自分でつくった会社、あるいは第1階層企業で働いた経験を持つ確率が高い。

(外部配信先では図表やランキングなどの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

10億ドル達成企業の創業者は、自分の会社か第1階層企業で働いていたケースが多い。 (出所)『スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件』(出所:すばる舎、図版©Ali Tamaseb)

大学と同じように、10億ドル達成企業の創業者を特に多く輩出している企業がある。私が調査した期間のデータでは、グーグルで働いていた人が14人で、いちばん多かった。元グーグル社員が起こした会社としてはピンタレストの他に、アファーム(Affirm)、コンボイ(Convoy)、ネクストドア(Nextdoor)、ニュータニックス(Nutanix)、スノーフレイク(Snowflake)、ウィッシュ(Wish)などがある。

資金力のある大手企業で育った人が、資金に不自由するスタートアップ企業をうまく運営できるというのは意外かもしれないが、現実に10億ドル達成企業の創業者には、大手企業で働いた経験のある人のほうが多い。

その多くがシルバーマンのように、グーグルのような企業の業務プロセス、独創性を重視する社風、大成功したビジネスモデルを、自分の会社に持ち込んでいる可能性はある。

オラクルも創業者を多く輩出

10億ドル達成企業の創業者を多く輩出しているもう1つの会社がオラクル(Oracle)だ。同社の元社員が始めた企業をあげると、メラキ(Meraki)、レンディングクラブ(LendingClub)、クラウデラ(Cloudera)、ニュータニックス、ルーブリック(Rubrik)、スノーフレイク、ヴィーヴァ(Veeva)、ワークデイ(Workday)などがある。

一見、オラクルは起業家志向と結びつかず、むしろ営業志向の社風なので、同社から10億ドル達成企業の創業者が数多く生まれているということは、営業や企業向け市場開拓の判断力の重要性が示されているのではないか。

グーグルとオラクル以外では、IBM、ヤフー(Yahoo)、フェイスブック(Facebook)、マイクロソフト(Microsoft)、アマゾン(Amazon)、HP、マッキンゼー、アップル(Apple)、ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)、モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)、NASAも、かなりの数の10億ドル達成企業創業者を生み出している。

これらの企業での就業経験が、新たに会社をつくって人をスカウトするときや、顧客に何かを売るときの助けになる。何より重要なのは投資家の目を引くきっかけになりやすいということだ。グーグルのような強大な力を持つ企業は、優秀な人材と出会える場所なので、共同創業者や立ち上げ時の社員をさがすのにもうってつけだ。

しかし大企業での就業経験が、スタートアップ成功の要因とは限らない。グーグルやオラクルやIBMで働いていたから10億ドル企業をつくれたわけではない。むしろこうしたブランド企業に、特に野心を持った起業家向きの人材が集まってくるのだろう。

グーグル、オラクル、フェイスブック、アマゾンといった会社が10億ドル達成企業の創業者を多く輩出している。 (出所)『スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件』(出所:すばる舎、図版©Ali Tamaseb)

ブランド大学やブランド企業にいた経験を持たない創業者もたくさんいる。クレジット・カルマ(Credit Karma)の共同創業者のニコール・マスタードはマイアミ大学で学び、ピザハット(Pizza Hut)の研修マネージャーとして働いていた。ファイナンシャル・プランナーの資格を取ろうと決意したとき、彼女はロサンゼルスの小さなアパートに住んでいた。

数年間、仕事の経験を積み、コンピート・ドットコム(Compete.com ウェブのトラフィックを測定するITスタートアップでいまは存在しない)に営業部長として加わった。そこの提携先を開拓する仕事を通じて、Eローン(E-Loan)という会社で働いていたケネス・リンと出会ったのだ。マスタードと同じく、リンもブランド大学やブランド企業にいた経験はなかった。

人材輩出企業もまた時代によって移り変わる

しかしビジネスのアイデアはあった。消費者の信用スコアを、閲覧・監視しやすくすることだ。そしてマスタードは共同創業者として申し分ない。ファイナンシャル・プランニングの資格、強烈な職業倫理、仕事上のコネクション、はつらつとした態度。

彼らは共同でクレジット・カルマを立ち上げた。これは消費者のファイナンシャル・プランを助け、その人の信用スコアを点検して向上を目指すものだ。クレジット・カルマはその分野のトップとなり、8000万人のユーザーを集め、2020年にインテュイット(Intuit 金融ソフトウェア分野の公開会社)に71億ドルで買収された。

スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件

マスタードとリンは一流大学や一流企業とは縁がなかったが、それが事業を起こす妨げにはならなかった。彼らの会社は多くのユーザーに愛され、膨大な価値を生み出した。ブランドとは縁がなかったからこそ、ユーザーをよく理解し、顧客のために働く意欲を持てたとさえ言えるかもしれない。

私のデータには、2005年以降に設立された10億ドル達成企業がすべて入っているが、当時は社員の多い大手企業といえばヤフーなどだったことを指摘しておくのは重要だろう。いまは先述のように大きく様変わりしている。また、投資家は経営には向かないと思っている人がいるが、かなりの数の10億ドル達成企業の創業者が、ベンチャーキャピタル出身である。

(アリ・タマセブ : ベンチャーキャピタリスト)

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