権勢誇った「二階氏」が今、窮地に直面している訳

政治生命のピンチを迎えている二階俊博氏(写真:JMPA)

昨年10月の岸田文雄政権発足で自民党幹事長の座を追われ、いまや党内反主流の「冷や飯組」となった二階俊博元幹事長が、ここにきて政治生命の危機をささやかれている。

新たな選挙区への鞍替え出馬を目指している世耕弘成自民党参院幹事長(写真:JMPA)

次期衆院選での政界引退が既定路線とみられる中、息子など二階氏直系での選挙区継承も困難視されているからだ。

二階氏の地元・和歌山県は、1票の格差是正のための「10増10減」で小選挙区が3から2に減る。しかも、二階氏の新たな選挙区に世耕弘成自民党参院幹事長が鞍替え出馬を目指しており、「二階vs世耕」の戦いは世耕氏優勢との見方が強い。

「政界駆け込み寺」と呼ばれた二階派の状況が一変

二階氏は、安倍晋三、菅義偉両政権で自民党の最高実力者として君臨。安倍氏が首相時代、「党で最も政治技術を持った方」と評したように、昭和の政治をほうふつとさせる強かさなどから「政界の絶滅危惧種」と畏怖されてきた。

しかし、「来るものは拒まず」と無派閥や元野党議員を積極的に取り込んだことで、「政界駆け込み寺」とも呼ばれた二階派は、ここにきて状況が一変。退会者が相次いで自民第5派閥に定住し、後継者も不透明で「解体寸前」(閣僚経験者)とみる向きも出始めている。

このため、参院選で与党が改選過半数を確保し、岸田首相の「黄金の3年」が現実となれば、3年後と想定される次期衆院選に向けて、現在83歳で体調不安も抱える二階氏が、「選挙区と政治生命を同時に失う絶体絶命の危機」(自民長老)に陥る可能性も少なくない。

二階氏は2016年8月に当時の谷垣禎一幹事長の自転車転倒事故負傷による辞任を受けて幹事長に就任。その後の安倍、菅両政権で自民の最高権力者に昇りつめ、政局運営の中枢として豪腕を振るってきた。

とくに、安倍首相の総裁3選を主導する一方、2019年以降の「ポスト安倍レース」では、安倍4選に言及しながら、安倍氏のライバルの石破茂元幹事長を「期待の星」と持ち上げるなど、変幻自在の二階流を駆使。2020年夏の安倍氏の退陣表明時には、電光石火で「菅後継」をまとめ上げた。

こうした実績から、二階氏は、安倍・菅両氏、麻生太郎副総裁をしのぐ「最強のキングメーカー」として権勢を誇示。岸田政権発足後も、党内反主流の旗頭として、党内ににらみをきかせてきた。

岸田氏が高い支持を集める中で存在感が急速に低下

しかし、岸田首相が2021年10月の総選挙で圧勝し、その後の政局運営でも、売り物の「聞く力」と、コロナやウクライナ危機への機敏な対応で国民的評価を獲得。今年4月に政権半年を迎えた時点で内閣支持率も就任後最高水準となり、参院選勝利による長期安定政権が確実視される状況となったことで、二階氏の存在感が急速に低下した。

二階氏は、2012年12月に、当時の伊吹派(志帥会)会長だった伊吹文明氏の衆院議長就任で派閥を継承して二階派が誕生。その後は、政界の師とする故田中角栄元首相の「数は力」を念頭に、派閥拡大に邁進。党内に居場所のない無派閥議員や旧民主党から自民入りを目指す議員らを次々派閥に入会させ続けた。

もちろん、二階氏の力の源泉は、幹事長として選挙での公認調整や資金供与、さらには党内閣人事で行使してきた絶大な権力だった。しかし、「二階外し」を掲げて誕生した岸田政権で力を失ったことで求心力は一気に低下。ここにきて、退会者が相次ぐ事態となった。

まず政界に波紋を広げたのは、片山さつき参院議員(元女性活躍担当相)をめぐる除名騒動。片山氏は2021年末に二階氏に退会を申し出て了承されたと主張したが、二階氏はそんな事実はないとして、2022年2月に片山氏を除名処分とした。

片山氏は最大派閥の安倍派に入会し、次期参院選で東京選挙区からの出馬を狙ったとの見方もあり、それが二階氏の逆鱗に触れたとされる。

さらに、衛藤晟一元沖縄北方担当相(参院比例)も4月8日付けで派閥を離脱した。周辺には「二階さんはもう政治家として終わった」などと漏らしているとされ、もともと安倍氏側近でもあった衛藤氏だけに、二階氏を見限って最大派閥の安倍派入りを狙っているとみられている。

これにより二階派の所属議員は42人となり、党内5大派閥の最小勢力の立場が一段と鮮明に。しかも、くしの歯が抜けるような退会者続出が、二階氏の威信を急速に低下させていることも否定しようがない。

二階氏の政界引退の際の後継者と目されるのは、武田良太元総務相。今のところ二階氏とも意を通じているようにみえるが、武田氏は菅氏とも極めて親密で、「場合によっては多くの手兵を連れて派閥を割って菅グループに加わるのでは」(自民幹部)との憶測も絶えない。

二階派内にあつれきが生じた2021年9月の総裁選

そもそも、他党からの転向組などを次々と自派閥に取り込む手法には、党内の他派閥が「強引だ」と反発、「思想信条もバラバラな寄せ集め集団」などの批判も絶えなかった。それだけに、現在の二階派の窮状にも、党内他派閥からは「自業自得」との厳しい声が相次ぐ。

二階派内にあつれきが生じたのは2021年9月の党総裁選がきっかけとされる。この総裁選で二階氏は、“泡沫候補”扱いだった現在の野田聖子内閣府特命相(こども家庭庁担当など)に派内から8人の推薦人を出した。

これに反発したのが片山、衛藤両氏で、いずれも高市早苗氏(現政調会長)の推薦人に名を連ねた。このため「無条件で二階氏の判断に従う」という二階派の“鉄則”は崩れ、今回の両氏の退会にもつながった。

こうした二階氏の苦境に追い打ちをかけたのが地元・和歌山での「IR否決」だった。和歌山県議会は4月20日の本会議で、県が誘致を進めてきたカジノを含む統合型リゾート(IR)について、区域整備計画の認定を国に申請する議案を反対多数で否決した。

「資金計画が不透明」などが理由で、県は国が求める同28日までの整備計画提出を断念、IR誘致計画は事実上、頓挫した。

県は和歌山市の人工島「マリーナシティ」へのIR誘致を計画。約4700億円を投資し、2027年秋ごろの開業を目指していた。本会議での採決は無記名投票で行われ、最大会派の自民党からも多くが反対に回ったとされる。

「二階氏の威光が薄れた証拠」

IRについては岸田政権も推進の立場だ。しかも、和歌山のドンと呼ばれる二階氏は、かねてからIR誘致を地元繁栄のための看板政策と位置付けていた。にもかかわらず、二階氏の影響が強いはずの県議会が反対を決めたことは、「地元でも二階氏の威光が薄れた証拠」(県会自民党)と受け止められている。

こうして永田町と地元の双方で「落ち目」が際立つ二階氏。「本人はなお権勢維持への執念が強い」(周辺)とされるが、岸田首相が参院選を自民勝利で乗り切って長期安定政権を実現すれば、「さしもの二階氏も命脈が尽きる」(自民長老)との見方が強まっている。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)

ジャンルで探す