ロシア ウクライナに軍事侵攻

政権発足100日超、見えてきた「岸田流」強さと限界

通常国会に臨む岸田文雄首相(右)と林芳正外相(左)(写真:つのだよしお/アフロ)

岸田文雄政権が発足してから100日が過ぎ、初めての通常国会が始まった。「聞く力」をアピールし、対話の姿勢を打ち出したことで高い支持率を得ていることは強みだが、新型コロナウイルスのオミクロン株は猛威を振るい、経済の立ち直りも容易ではない。アメリカと中国との対立が深まる中で、外交も動きが取れない。「聞く力」だけでなく「決める力」が発揮できるのか。安全運転だけでは限界に突き当たるのは時間の問題だ。

岸田内閣の支持率は、1月のNHK調査で「支持する」が57%。前月から7ポイント上昇した。「支持しない」は20%で、6ポイント低下している。支持率が高い理由は、岸田首相の穏健な姿勢にあることは間違いない。

国会審議の野党への答弁や記者会見での対応は丁寧で、礼儀正しい。野党議員にヤジを飛ばした安倍晋三元首相や、質問に正面から答えない菅義偉前首相に比べれば「まともだ」という評価は、自民党内だけでなく野党からも聞かれる。

支えるスタッフも安定している

岸田首相を支えるスタッフの体制も安定している。首相の首席秘書官を務める嶋田隆氏は経済産業省の事務次官経験者。与謝野馨氏が経産相だったときだけでなく、官房長官や財務相のときも秘書官を務めた経験もあり、霞が関の信頼が厚い。

財務省出身の首相秘書官・宇波弘貴氏は、厚生労働省の予算担当が長く、コロナ対策に精通。厚労省と連携して水際対策や病床確保を進めてきた。

安倍政権では経産省出身の今井尚哉首席秘書官や警察庁出身の北村滋国家安全保障局長ら「官邸官僚」が、霞が関に強引に指示を下ろすケースが多かった。菅政権でも国土交通省出身の和泉洋人首相補佐官らが号令をかけた。それらに比べると、岸田政権は各省庁の意向も踏まえながら、連携して政策を進める姿勢が目立つ。「霞が関が落ち着いて仕事ができる環境になった」という官僚は少なくない。

さらに、政権運営は「安全運転」だ。1月17日召集の通常国会に提出する法案は58本に絞った。外国人収容と送還のルールを見直す入管難民法改正案は野党の反発が予想されることから、再提出を見送った。

コロナの感染拡大に対応するため、民間病院や開業医などに対する国や都道府県の指揮・管理の強化を狙った感染症法改正も先送りとなった。野党から注文がつく可能性があるほか、医師会などからも不満が出ることが予想されるためだ。与野党対立の火種になりそうな法案は提出せずに、安全運転で通常国会を乗り切って夏の参院選に臨もうという狙いは明らかだ。

だが、課題は山積している。第1にオミクロン株の感染拡大だ。デルタ株などに比べて重症化する比率は低いものの、感染者数は第5波を大きく上回り、自宅療養者は急増。病院に行けないまま症状が悪化するケースも目立ってきた。

岸田首相は病床確保を進めてきたと言うが、感染者が急増すれば、病床が不足するのは避けられない。医師や看護師の確保も、法律上の強制力を伴っていないため、「お願いベース」では限界がある。感染症法の改正を先送りしたツケが出てきそうだ。

ワクチン接種についても、昨年12月段階で3回目接種を加速すべきだという動きがあったものの、十分な量を確保することができずに、欧米諸国などに比べて、大きく出遅れた。国会審議では野党が岸田首相の決断の遅れを追及する構えだ。

岸田政権にとっては「我慢の3カ月」

第2に経済の停滞だ。昨年末には感染が落ち着き、経済の立て直しに向けた2022年度の予算案編成が進められた。しかし、オミクロン株の感染拡大が景気回復に水を差すことは避けられない。

アメリカでは景気回復が進み、インフレ抑制のために金利引き上げも視野に入ってきた。マイナス金利が続く日本との金利差によって、円安・輸入物価高がじわじわと進んでいる。日本が不景気の中の物価上昇で参院選を迎えるようだと、政権への風当たりは厳しくなる。

日本の場合、1月に新年度予算案を国会に提出し、3月末まで衆参両院で審議が繰り広げられることから、経済情勢が悪化しても、この間に政府が新たな景気対策を打ち出すことができない仕組みになっている。岸田政権にとっては「我慢の3カ月」が続くのである。

岸田首相は「新しい資本主義」を掲げて、「新自由主義からの脱却」を唱えている。だが、成長戦略や分配政策に具体策はなく、企業に賃上げを求めているものの、実現の道筋は見えていない。

第3に外交で政権浮揚ができない点である。岸田首相は昨年末からアメリカを訪問してバイデン大統領との首脳会談の機会を探ってきた。しかし、バイデン大統領は国内の議会対策などに忙殺され、対面の首脳会談の時間が取れずに、1月21日にオンラインでの首脳会談にやっとこぎつけた。

岸田首相としては、バイデン大統領との信頼関係をアピールし、国内の求心力を強めたいところだが、思いどおりにはなっていない。逆に、沖縄県や山口県にあるアメリカ軍基地からコロナ感染が広がった疑いが強まり、アメリカ兵に対する検疫や検査の甘さが批判され、岸田政権の対米姿勢が問題視されている。

通常国会の予算委員会などで、野党はコロナ対策や経済政策の「各論」を追及する構え。岸田首相が説得力のある答弁ができるかが勝負どころだ。

そして、ここにきて目立つようになってきたのが自民党内の動きだ。安倍元首相は、幹事長人事で高市早苗氏を推したが、岸田首相は受け入れずに茂木敏充氏を起用したことや、山口県内で長年のライバルである林芳正氏を外相に抜擢したことなどに不満を募らせているという。安倍氏は対中国外交で強硬姿勢を訴えるなど、岸田外交に注文をつけ続けるだろう。

安倍氏は、森友学園をめぐる公文書改ざん問題や桜を見る会での公私混同問題など火種を抱えている。岸田首相が一連の疑惑解明に消極姿勢を続ければ、国民の不満が広がる半面、解明に積極的に乗り出せば安倍氏の怒りを買う。そういうジレンマに陥るのである。

一方、菅前首相は、もともと岸田氏の政治手腕に疑問を持っていた。ポスト安倍を争う自民党総裁選に官房長官だった菅氏が手を挙げたのも、先に立候補を表明した岸田氏や石破茂元幹事長では「まともなコロナ対策ができない」と判断したためだ。菅氏の後継を争う総裁選で、菅氏が河野太郎氏を支持したのも、「岸田氏では改革が進まない」と考えたからだ。

菅氏は、岸田政権でワクチン接種が出遅れていることや感染症法の改正を先送りしたことなどについて批判を強めている。菅氏が河野氏や二階俊博前幹事長らと連携して、岸田政権の揺さぶりに動く可能性もある。

今夏の参院選まで懸案処理は先送り?

日本の現状を大局的に見れば、コロナ禍によって、日本の医療体制の不備やデジタル化の遅れなどが露呈した。安倍政権は感染の拡大と経済の落ち込みに動転し、菅政権はワクチン接種の加速やデジタル庁の新設などを進めたが、コロナ感染の拡大に十分対応できる体制にはほど遠い。

岸田政権は安倍・菅政権を検証したうえで、抜本的な制度改革を推し進める必要がある。だが、「聞く力」は評価されているものの、改革に向けた「決める力」は発揮されていない。

岸田首相にしてみれば、今夏の参院選までは懸案処理を先送りし、参院選を自民・公明の与党勝利で乗り切ることが最優先だろう。そのあとは、衆院議員の任期満了が2025年秋で、参院選の改選が2025年夏なので、衆院の解散をしなければ、3年間は全国一斉の国政選挙がない状況ができる。「黄金の3年間」ともいうべきこの間に、さまざまな懸案を解決したいというのが岸田首相の本音だ。

しかし、世界標準から立ち遅れた日本の諸制度を改革するのは待ったなしであり、まさに時間との勝負である。懸案は参院選後という先送りの姿勢では、政権に対する国民の共感は広がらないだろう。

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