実家の親「食べる量が減った」が危険サインの理由

食事量が減ると起こる問題とは(写真:buritora/PIXTA)
年末年始の帰省や実家への電話で、こんな話を聞いたことはありませんか? 「最近、あまり食べられなくて、やせてきちゃったのよ……。でも、お医者さんの言うことを聞いて、薬も飲んでるから心配ないと思うけれど――」。
もし、年老いた親や同居しているきょうだいからこんな話を聞いたら、かなり親御さんの身に衰えの危機が迫っていると考えるべきでしょう。
※本稿は佐々木淳氏の著書『在宅医療のエキスパートが教える 年をとったら食べなさい』から一部抜粋・再構成してお届けします。薬の服用は個別のケースで状況が異なるため、主治医とご相談ください。

高齢者が「やせる」と危険な理由

いったいなぜなのか。いちばんのポイントは「食べられなくて、やせてきた」という点です。高齢者にとって、「やせて体重が落ちる」のは、非常に危険なサイン。

食事量が低下すると、低栄養状態となり、体は自らの筋肉を分解してエネルギー不足を補おうとします。すると、筋肉量がてきめんに減少して体重が減っていくことになります。そして、筋肉量が減って足腰が弱って運動機能が落ちてくると、よろけたり転倒したりするリスクが高くなります。骨折して入院でもしようものなら、入院中にいっそう筋肉が落ちて、衰弱が一気に進んでしまうことになりかねません。

それに、食事量が低下して筋肉が落ちてくると、足腰の筋肉だけでなく、のどや舌を動かすための筋肉量も落ちて、食べたり飲んだり吐き出したりする機能も低下してくるようになります。

すると、誤嚥(食べ物や唾液をうまく飲み込めず、誤って肺のほうに流れてしまうトラブル)をするリスクが高くなり、誤嚥性肺炎を起こしやすくなってしまうのです。誤嚥性肺炎は高齢者が衰弱する大きな原因のひとつ。誤嚥性肺炎を起こすたびに入院をし、そのたびにガクンと体力を落としていってしまうケースも少なくありません。

また、転倒骨折や誤嚥性肺炎で衰弱が進んでしまったのをきっかけにして、寝たきりになったり認知症の症状が現われてきたりするケースも目立ちます。つまり、高齢者の場合、「あまり食べられなくなった」「やせてきた」のをスタートとしてあれこれの厄介事に見舞われるようになり、坂道を転げ落ちるように衰えが進んでしまうことが多いのです。

もし高齢の親が「食べられなくなってきた」「食欲がない」「体重が落ちた」「やせてきた」といったことを少しでも訴え出したら、決してその状況を甘く見てはいけません。「転倒骨折」や「誤嚥性肺炎」の落とし穴にハマらないよう、日々しっかり食事量をキープするよう促していくべきでしょう。

食が細ってくると、生きる力も細っていってしまいますが、食への勢いが増せば、おのずと生きる力の勢いもよみがえってきます。このように、高齢者が健康に長生きするには、日々しっかり食べる姿勢を失わないことが非常に大事なのです。

「25種類もの薬」を処方されていた高齢女性

冒頭に挙げた例では、「お医者さんの言う通り、薬も飲んでる」ということを言っていますが、これも心配なポイントのひとつ。じつは、高齢者にとっては、薬の服用が健康リスクにつながることも少なくないのです。

ここで、わかりやすいケーススタディをご紹介しましょう。88歳のひとり暮らしの女性の例です。この方は、整形外科、内科、呼吸器内科の3か所の医療機関に通っていて、処方されていた薬の合計がなんと25種類。内科の処方薬の中には糖尿病や高血圧の薬に加えて、認知症の治療薬も含まれていました。それにしても、ひとり暮らしの認知症高齢者が、そんなにたくさんの薬をきちんと飲めるわけがありませんよね。

その方は、やはり薬の飲み忘れが多かったようなのですが、ある日、事件が起こりました。それというのも、お正月に帰省してきた息子さんが、一緒に過ごした数日間、母親のためによかれと思い、毎日25種類の薬をきちんと飲ませたのです。

すると、どうなったでしょう。ある日、この方は意識障害を起こして倒れてしまいました。息子さんは脳梗塞を起こしたのかと心配して救急車で病院に運んだのですが、診断名は「低血圧」と「低血糖」でした。つまり、普段あまりきちんと飲んでいなかった薬を全部服用したため、血圧や血糖が下がりすぎてしまったわけです。

このように、たくさんの薬を服用することで不具合が生じることをポリファーマシー(多剤併用)と言います。日本の高齢者の多くは「薬漬け」の状態。病気ごとに違う病院に通い、複数の専門医からたくさんの薬を処方され、毎日とんでもない量の薬を飲んでいる人は決してめずらしくありません。そして、この高齢女性と同じように、薬の服用が健康上のトラブルに影響しているケースが非常に多いのです。

薬の副作用で「転倒」「骨折」する例も

なかでも多いのは「転倒」です。高齢者の転倒のじつに40%が薬に関係しているとも言われていて、「降圧剤服用後、血圧が下がりすぎ意識レベルが低下して転倒」「糖尿病薬服用後、低血糖になり意識が遠のいて転倒」「睡眠薬服用後、夜中にボーッと起きたときにフラついて転倒」といったケースが目立ちます。もし、転倒した際に骨折でもすれば、そのまま入院して衰弱の下り坂を一気に転げ落ちていくことにもなりかねません。

薬の服用が食欲の低下や低栄養につながっているケースもあります。高齢者によく処方される薬の中には、食欲を低下させたり消化吸収に悪影響を及ぼしたりするものが少なくありません。また、薬によっては腸の動きを悪くしたり、唾液の分泌を少なくして口内をパサパサにしたりする副作用があるものもあります。

そもそも、1回に大量の薬を飲んで、それだけでおなかいっぱいになってしまうという面もありますが、日本の高齢者が「たくさん食べられない」背景には、こういった薬の副作用が多分に影響している可能性があるのです。

つまり、「まじめに薬を飲む」→「副作用で食欲が落ちる」→「食べる量が少なくなる」→「低栄養になる」→「筋肉量が減ってやせてしまう」→「骨折や肺炎に陥りやすくなる」という悪循環にハマっていく高齢者が多いと考えられるわけです。

ですから、高齢者は薬の服用には慎重を期すべき。私の場合、訪問診療をしている高齢の患者さんに対しては、薬はできるだけ少なくするようにしています。先に紹介した「25種類もの薬を処方されていた88歳の女性」に対しても、私は20種をカットして5種類にまで薬を減らしました。これだけ減らしても、血圧や血糖には何の問題もありません。それどころか、その方は以前よりも食欲が増してたっぷり食べられるようになり、顔色も体調もグッとよくなりました。

食べることで体を治していく

日本の高齢者が「年々食が細っていく」「年々薬が増えていく」という状況を、本人もまわりも「年だから仕方ないよね」と、当たり前のように受け入れてしまっていることが多すぎます。それが自分を衰弱へ向かわせる原因になるかもしれないのに、何の危機感もないまま、唯々諾々と受け入れてしまっているのです。

年老いた親がどれくらいの量を食べているか、どれくらいの量の薬を飲んでいるかに関しては、みなさんもしっかり把握しておくとよいでしょう。「医食同源」という言葉があるように、医療と食事の根っこは一緒です。

この先ずっと、親に「寝たきり」や「認知症」を避け、健康で長生きをしてもらいたいなら、あまり薬に頼りすぎず、「食べることで体を治していくんだ」という姿勢を持ってもらうよう促していくべきではないでしょうか。

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