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永田町に大波紋「菅氏、表舞台で再始動」の裏事情

昨年暮れから政治の表舞台に再び出るようになった菅義偉前首相(写真:尾形文繁)

昨年9月の自民党総裁選を前に突然退陣表明して政界を驚かせた菅義偉前首相が、昨年暮れから政治の表舞台で再始動したことが、年明けの永田町に波紋を広げている。

売り物の「聞く力」への国民的評価で内閣支持率を上昇させた岸田文雄首相だが、年明けの新型コロナの新変異株オミクロンの想定を超える感染爆発で、対応に苦闘している。このため、1月17日召集の通常国会を前にオミクロン政局の様相が濃くなり、その隙を突くような菅氏の再始動が格好の話題となるのだ。

オミクロン対応の最大のポイントはブースター接種と呼ばれる3回目のワクチン接種の加速化。岸田首相も週明けの1月11日、専門家の要請を踏まえ重症化の不安が強い高齢者対象の接種を、当初の方針から大幅に前倒しする方針を打ち出した。

併せてオミクロン株での厳しい水際対策を当初の1月末から1カ月延長することも決定。これまで通りの「先手先手の対応で国民の支持をつなぎとめる戦略」(周辺)だ。ただ、肝心のワクチンの確保数量はなお不透明で、国民の不安は募るばかりだ。

これ見よがしに「冷や飯組」の会合に参加

その一方で、首相在任中、「ワクチン一本足打法」と揶揄され続けた菅氏だが、トップリーダーとしての強権発動でのワクチン接種加速化への国民の評価はなお高い。衆院選での全国各地での応援遊説で「菅さん、ワクチンありがとう」などの感謝と激励の声が相次ぎ、菅氏も「勇気と自信がよみがえった」と述懐する。

菅政権を支えた無派閥議員による「ガネーシャの会」など、いわゆる菅グループの派閥化については、菅氏はなお否定的だ。ただ、「政策実現のための議員集団は必要」としており、年末に冷や飯組とされる二階派幹部や石破茂元幹事長との会合にも、これ見よがしに参加した。

岸田首相を支える安倍、麻生、茂木の3大派閥と谷垣グループが構成する主流派は、「数のうえでは盤石」にもみえる。しかし、最大派閥の安倍派を率いる安倍晋三元首相と岸田首相の微妙な確執が、主流派の結束維持に影を落としている。

菅氏とともにメディアへの露出を増やしている安倍氏は、菅氏との絆の強さを繰り返し、早期の「菅派結成」をけしかける。岸田首相は麻生、安倍、菅の3人の首相経験者との対立回避に腐心しているが、オミクロン政局の今後の展開と菅氏の出方次第では、政権の基盤が揺らぐ可能性を指摘する声も少なくない。

自民党総裁選告示を2週間後に控えた9月3日朝、当時首相だった菅氏は「戦う気力がなくなった」と唐突に退陣表明した。岸田派領袖の岸田氏が総裁選出馬表明で総裁選実施が確定する中、「任期中はコロナ対策に専念する」との理由だった。

しかし、7月の東京都議選での自民敗北や8月下旬の横浜市長選での菅氏腹心の惨敗などで、自民党内には「菅さんでは衆院選は戦えない」との声が噴出。「菅vs岸田」の総裁選となれば菅氏の敗北は必至とみられる中での無念の撤退だった。

さらに菅氏は総裁選で、当初本命視された河野太郎氏(現党広報本部長)を担いで戦った。しかし結果的に安倍、麻生、甘利、茂木各実力者や谷垣グループによる「河野包囲網」の前に、河野氏支持グループは総裁選で完敗し、岸田政権誕生で「冷や飯生活」を余儀なくされてきたのが実態だ。

再登板否定も、政策実現への意欲隠さず

その菅氏が、年末になって積極的にテレビ、ラジオ出演に応じ、存在感をアピールし始めた。無念の退陣表明からすでに約4カ月。各種インタビューに答える菅氏の言動には、「まだまだやるべき仕事はある」との気概があふれ、来るべき「ポスト岸田」で改めて河野氏を担いでの主導権確保への意欲も隠さない。

昨年12月6日に73歳となった菅氏は、相次ぐインタビューの中で再登板の可能性は「まったくない」と笑顔で否定。その一方で、首相在任中に推進したデジタル化や気候変動危機へのカーボンニュートラル戦略、さらには沖縄対策などの政策実現への意欲はアピールする。

「政治的に終わった人」とされてきた菅氏の存在感を改めて際立たせたのは、昨年12月の臨時国会閉幕直後22日夜の2つの会合だった。

1つは安倍、麻生、茂木の3大派閥トップの会合で、3氏は一致して岸田政権を支えていくことを確認したとされる。しかし永田町で注目されたのは、同時進行で開かれた菅、石破両氏を中心とした会合だった。

主催者ながら欠席を余儀なくされた二階氏の代理として同氏最側近の林幹雄元経済産業相、二階派幹部の武田良太前総務相、森山派の森山裕総務会長代行が参加したからだ。菅氏と林、武田、森山各氏は菅政権時代の親密な仲間。これに石破氏が加わったため、永田町では「すわ、反主流派連合の旗揚げ」との臆測が飛び交う騒ぎとなった。

石破氏ら出席者は「総裁選の反省会」などとはぐらかしたが、いずれも反岸田の立場で河野氏を支持した面々。詰めかけた記者団に「我々の一体感は続いている」などと思わせぶりに語る参加者もいた。

菅氏のメディアへの露出が一気に注目され始めたのはこの会合がきっかけ。菅氏は12月24日の民放BS番組で河野氏について「突破力、国際性に期待して応援した気持ちは今も変わらない」と明言。ポスト岸田には河野カードを掲げて挑む意向をにじませた。

こうした菅氏との連携をほのめかすのが安倍氏だ。両氏は臨時国会前の12月2日に秘かに会食した。ただ、安倍氏があえて翌3日のインターネット番組で、菅氏との密談を明かしたことが波紋を広げた。

同番組で安倍氏は菅氏との関係について「絆は相当強い。いろんな場面で協力できることも多いのではないか」と安倍政権以来の親密な関係をアピール。さらに、党内の菅グループについても「菅さんが派閥をつくろうと思えば簡単に結成できる」と、派閥結成を促すような発言をしてみせた。

岸田政権誕生とともに首相官邸と自民党による権力構図は一変。第2次政権発足後は首相と麻生、茂木3氏によるトップ会談が定期化され、安倍派幹部の松野博一官房長官を加えることで、二階俊博元幹事長の率いる第4勢力の二階派以外の4大派閥を軸とする党運営態勢が明確化された。

ただ、この谷垣グループも加えた主流派の陣容をみると、麻生、岸田、谷垣グループはいずれも源流は宏池会(現岸田派)で、党内には「首相と麻生氏の狙いは大宏池会」(安倍派幹部)との臆測も広がる。

保守本流復活で「清和会主導」に終止符?

この「大宏池会」構想はかねて麻生氏が画策してきたとされる代物。合流すれば一気に安倍派(清和会)をしのぐ最大派閥となり、党運営の主導権を握れるからだ。しかも、戦後政治で長期間続いた「55年体制」下で、宏池会と同盟関係だった旧田中(角栄)派を受け継ぐ茂木派(経世会)も加えれば、故吉田茂・池田勇人両元首相が築き上げたいわゆる「保守本流」の復活ともなる。

これに対し、安倍派は吉田、池田両氏と対立した故岸信介・福田赳夫両元首相の系譜で、いわゆる「保守傍流」だ。それだけに、今回の「大宏池会」を視野に入れた動きは、福田赳夫氏の側近だった森喜朗氏の2000年の首相就任以来、「一時期を除いて自民党を牛耳ってきた『清和会主導』に終止符を打つ」(麻生派幹部)との思惑もにじむ。

もちろん、党内に敵をつくらないことを最優先する岸田首相は、菅氏への配慮も欠かさない。しかし、オミクロン政局が暗転すれば、菅氏の言動が、安倍、二階両氏との連携も絡めた主流派内の“確執”を掻き立てる状況ともなる。それだけに、菅氏の存在アピールが今後の首相の政権運営の波乱要因となる可能性は少なくない。

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