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沢井製薬、渡りに船だった「問題会社」の買い取り

サワイGHDは小林化工が持つすべての生産設備と従業員の大半を引き継ぐ(編集部撮影)

会社は買わず、工場設備と従業員の大半を引き継ぐ。ジェネリック薬で国内最大手の沢井製薬を傘下に持つサワイグループホールディングス(GHD)が、変則的な買収を決めた。

その対象は不正のあった小林化工である。同社では2020年12月、製造していた爪水虫薬に睡眠薬の成分が混入したことで健康被害が多発。服用した70代の女性が死亡する事件も起きた。

立ち入り検査では工場で多数の製造不正が行われていたことが発覚し、2021年2月に116日間の業務停止命令が下った。6月に業務を再開したものの、工場再稼働の見通しは立たず、先行きが危ぶまれていた。

そうした中、業界最大手が手を挙げたのはなぜか。

「薬が届かない」という非常事態

「供給不足で、医療機関や患者から『薬が届かない』という声が毎日来ている。この状況をなんとか改善したい」。

12月3日、会見を開いたサワイGHDの澤井光郎会長がそう強調したように、業界は今、相次ぐメーカーの不祥事から大幅な供給不足に直面している。

問題を起こした小林化工は従業員が約600人、売上高300億円規模の中堅メーカーで、同社製品の出荷が止まったことによる業界全体への影響は限定的だ。むしろ大きいのは、売上高が1500億円を超す業界2位メーカーの日医工でも製造不正が発覚したことだ。

日医工に業務停止命令が下ったのは2021年3月。4月に業務を再開したものの、品質を保証するための製剤改良などに時間がかかり、不正があった工場の出荷再開はスムーズにいかなかった。製造している約400品目のうちおよそ半数で通常出荷ができていない状況が続いている。

この出荷調整のインパクトは大きく、業界は一気に「薬不足」に陥った。そのシワ寄せは、当然、国内トップの沢井に及んだ。

沢井には薬局などから代替品の注文が殺到。日医工のつまずきから予想外の注文が押し寄せたが、嬉しい悲鳴とはいかない。比較的需要が安定している医薬品の生産計画は年単位で決められており、すぐに増産することができないからだ。

急増する需要に対し、同社は既存工場をフル操業させた。2021年4〜9月期の販売数量を前年同期比で20%伸ばし、4月に15%だったシェアは半年で17%になった。業界の競争は厳しく、直近3年かけて1ポイント弱のシェアを伸ばしたのと比べると“急上昇”といえる。

足元は供給がまるで追いつかないため、新しい取引先からの注文を制限し、もともと取引があった薬局や医療機関への出荷を優先している。2022年度には生産人員を確保し10%の増産を見込んでいるが、それでもなお需要を満たすにはほど遠い。

工場新設ともう1つの方策

こうした状況を受け、400億円以上を投じて九州にある工場内で新しい製剤棟の建設を始める。現在ある国内155億錠(年間ベース)の生産能力に、さらに30億錠を上乗せする計画だ。だが、工場ができあがって出荷が始まるのは2024年4月からになる見込みだ。

そこで沢井が目を付けたのが、小林化工に眠る「生産機能」だった。

取得交渉は、沢井側から小林化工の親会社であるオリックスへ持ちかけたという。「製造を再開されるのかどうか、今後の方向性を聞いていた中で(生産設備譲渡の)意見が一致した」(サワイGHDの澤井会長)。

今回の取引の利点は、小林化工という会社そのものを買収しないので、同社が持っていた製品を引き継がなくて済むこと(従来品は小林化工が承認取り消しの作業を行う)。そのため、不正のあった製品などを改めて出荷させる必要がなく、再稼働させるまでの時間も大幅に短縮できる。沢井にとって必要な薬の製造だけを行える。

取得する福井県の工場の製造能力は、九州で建設を計画している自社設備と同じ30億錠。従業員への教育など体制が整えば、2023年4月にも出荷が始められる見通しだ。

30億錠という同じ製造能力でも、自社工場よりも稼働が1年前倒しできるうえ、取得額が推定100億円なので新規投資を行うよりも約300億円も抑えられる。体制をうまく整えられば、沢井にとっては「いい買い物」となる。

サワイGHDの澤井会長は会見で、今回の買収は「シェア拡大を実現させる手段になりうる取り組みだ」とも話した。業界トップとしてジェネリック薬の供給を安定させることはもちろん、日医工というライバルの混乱が続いているうちに、早期に出荷体制を整えてシェアを奪いたいという思惑がにじむ。

敵失を受けて「一強」となるか

ジェネリック薬市場は、医療費を抑えたい政府の促進策によって急激に拡大。メーカーもその波に乗って成長してきた。だが2020年に設定されていた政府の数量目標(医薬品に占めるジェネリック薬の割合80%)を達成するにつれ市場の成長は鈍化。メーカーへの追い風は一服したはずだった。

ところが小林化工や日医工などの不祥事による供給問題が起きた。2021年6月、「今回の件でシェアがどんどん高まっていく可能性が高くなってきた。中長期的にもジェネリック事業の成長余地は大きいと考えるようになった」と、沢井製薬の澤井健造社長はインタビューで語っていた。

ジェネリック薬を扱う会社は国内に200社近くあるが、どこも規模は小さく、沢井と日医工は圧倒的な業界の二強である。敵失で生じた混乱の中でシェアを一段と高め、業界の「一強」となるのか。100億円の投資はサワイGHDにとって大きな試金石となる。

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