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鉄道バリアフリーで「料金徴収」受け入れられるか

都心の鉄道では駅内外でエレベーター設置などのバリアフリーが進む(写真:Ryuji/PIXTA)

2021年11月19日、国土交通省が鉄道のバリアフリー推進に向けた料金制度の創設を発表した。同日からパブリックコメントによる意見募集を踏まえたうえで、12月下旬に改正を公布する予定だ。

鉄道駅でのホームドアやエレベーターの設置などバリアフリーを推進するための新たな料金制度を定めることとし、認可対象ではなく事前届け出で済むとするために、鉄道事業法施行規則や軌道法施行規則を変更するというものである。

バリアフリー化工事のための料金徴収は東京、大阪、名古屋の大都市圏で実施。これまで公費が投入されてきた大都市圏のバリアフリー工事の費用を利用者に薄く広く負担してもらうことで、整備が進まない地方にその分国の予算を投入する狙いがある。

バリアフリー整備費用を確保

鉄道や軌道の運賃は事前に国交相の認可を受けることが求められている(鉄道事業法第16条、同法施行規則第32条、軌道法第第11条、同法施行規則第19条以下)。一方、新幹線を除く特急料金、指定席料金などは認可の必要はなく事前の届け出で足りる(鉄道事業法施行規則第34条、軌道法施行規則第21条)。

今回の国交省の方針は、鉄道駅のバリアフリーを進めるにあたっての費用を確保するために運賃への上乗せを設定することについて、料金と同様、事前の届け出で済むように法令を変更するというものである。

変更の理由について、国交省の発表によれば「(2021年5月に閣議決定された)第2次交通政策基本計画においてはこれらの目標を着実に実現する旨が記載されるとともに、 鉄道駅のバリアフリー化について、『鉄道駅のバリアフリー化の推進は、エレベーターやエスカレーター、ホームドア等の整備を通じ、高齢者や障害者だけでなく、すべての利用者が受益するとの観点から、都市部において利用者の薄く広い負担も得てバリアフリー化を進める枠組みを構築するとともに、地方部において既存の支援措置を重点化することにより、従来を大幅に上回るペースで全国の鉄道施設のバリアフリー化を加速する』との方向性が示された」とある。

身体的にバリアフリーを必要としている利用者だけでなく、必要としていない者もエレベーターなどの恩恵を受けているのでバリアフリー化に必要な費用の全部または一部を利用者皆から徴収するという考え方である。

新線によくある加算運賃

運賃への加算制度は、新線建設費用を確保するために用いられる加算運賃がよく知られている。現在設定されているものとして、古くは名古屋鉄道知多新線(富貴―内海間)から、新しいものでは相模鉄道相鉄新横浜線(西谷―羽沢横浜国大間)が挙げられる。

新線建設にあたっての加算運賃について、国交省のホームページでは、「加算運賃は、主として新規路線の開業等に伴い発生する多額の資本費コストを回収するために、加算区間において基本運賃に加算して設定されるものである。したがって、加算運賃は、資本費コストの回収が完了するまで、その設定を継続することができるものである」と説明されている。加算額は区間によって異なるが、数十円から200円くらいが通常運賃に加算される。

新線区間の利用者からすれば、他の同じ会社の路線に比べて運賃が高額になり不満を感じるところではあろう。高額な運賃に納得がいかない場合には、一応当該の新線を利用しないという選択肢は残されている。当該新線を利用する以上は新線により得られる利便性の対価を支払うという考え方には一定の合理性がある。

一方でバリアフリー化の事業費の全部または一部をすべての利用者に転嫁することは賛否両論がありそうである。身体的に階段の移動ができない人や制約される人にとっては、エレベーターやエスカレーターは鉄道利用に必要不可欠な設備となるが、階段を利用できる人にとっては「快適設備」といえなくもないからである。

なくても困らないが、設置されていれば、重い荷物を持っているとき、あるいはへとへとに疲れているときには快適に上下移動ができるという設備という位置づけにも見えるからだ。

「快適設備」と捉えるなら、「快適に列車を利用できる設備」として、利用者を自社に誘引するための手段やサービスという見方もできる。これは、たとえば、列車の快適設備に対する料金である「グリーン料金」や速達性の対価である「特急料金」をラインナップしていることと同視することもできる。

誰でもいつ必要になるかわからない

快適な移動や速達列車を利用したい人が支払うものであり、さほど快適な移動を望んでいない人や急がない人は、普通座席や料金不要の列車を利用すればよい。ただその考え方を当てはめると、エレベーターやエスカレーターの設置費用が加算されると利用しない人も、運賃を払う際に設置費用を負担することになってしまう。

バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)は、行政の責務や施設管理者の責務を定めるほか、国民の責務を定める(第7条)。高齢者や障害者の自立した日常生活、社会生活確保の重要性について理解を深め、公共交通機関を利用して移動するために必要となる支援等について必要な協力をするように努める、というものである。

この国民の責務は努力規定であり、理解をせず協力をしないからといってペナルティの対象になるわけではないが、どんなに健康な人で階段を走って上り下りすることができる健脚者であっても、事故や病気によって移動制約者になる可能性はつねにある。自分でなくても自分の家族が移動制約者になるかもしれない。バリアフリーに必要な費用を利用者が薄く負担し合うということにはやはり一定の合理性があるといえるだろう。

同時に思うのは、国や地方公共団体は各地の鉄道事業に対してどのように向き合うのか、という姿勢を明確にすべきということである。

バリアフリーというと、国民としても応分の負担をするべきだという気持ちになることが多い。いま自分がバリアフリーを必要としていない若者であっても、老いていく両親を見たり、老いていく自分を想像したり、事故や病気で今までのように歩けなくなる自分や家族を想像すれば、「バリアフリー」という魔法の言葉で負担をすることを賛成しやすい。

広い意味でバリアフリー社会の言葉の意味を考えるなら、免許を返納した高齢者を含め移動制約者が自分の意思で外出したいときに外出がしやすい環境を作ることが不可欠である。

エレベーターやエスカレーターといった個々の施設の中での移動のしやすさを確保するのはもちろん必要であるが、地域内移動、地域間移動に資するはずの地方交通機関のあり方が十分に考え尽くされなければならない。

地方交通の将来像を考えるべき

かつては、個々の鉄道路線やバス路線の収支だけで存続の当否を判断する傾向があった。最近では、2007年の地域公共交通活性化・再生法に基づく軌道高速化事業や地域鉄道再生事業が各地で取り組まれるようになり、鉄道事業者の負担軽減や持続可能な地域公共交通のネットワーク構築・維持のための施策がとられるようにはなった。

経営良好な鉄道会社が抱える不採算路線が被災したときの復旧工事について、それまでは補助の対象でなかったものを2018年からは補助の対象とするなど、地域の鉄道維持のための施策がとられるようになっている。

個々の施設のバリアフリー推進だけでなく、併せて広い意味でのバリアフリーに資する地域公共交通機関のあり方についてもさらに意識を深めてもらいたいと思う。

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