欧州の金融政策正常化を阻むコロナ感染再拡大

新型コロナの感染拡大で難しい決断を迫られるECBのラガルド総裁(写真:Bloomberg)

大陸欧州において新型コロナウイルスの感染が再拡大している。多くのユーロ加盟国において過去最高の感染者数を記録しており、人口100万人当たりの新規感染者数(7日移動平均、11月19日時点)で見ると、例えばドイツは550人を突破しており、過去最高を更新し続けている。これはオランダ、オーストリア、スロベニア、スロバキアといった国々でさらに顕著だ。

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行動制限による経済への影響は免れず

ワクチン接種が進んでいなかった過去よりも感染者数が増えているのはなぜなのか、理由は判然としないが、ワクチン接種率と合わせ見る限り、「感染者数が多い加盟国の接種率は相対的に低い」という印象も拭えず、だから、ドイツなどは未接種者を対象にした部分的なロックダウンを行っている。とはいえ、ポルトガルやスペインのように非常に高い接種率を誇る国でも感染者数の水準は明らかに増加局面に入っているようにも見える。

もちろん、ドイツを筆頭として感染者数が急増していても重症者や死亡者は抑制されているので、かつての最悪期とは異なるが、本格的な冬の到来を前に先手を打って行動制限をかける流れになりやすいと見受けられる。

金融市場の視点では感染再拡大がECBの正常化プロセスにどのような影響を持つかが注目される。次回12月16日の政策理事会はパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の存続可否を決める予定で、順当にいけば、2022年3月での終了が決断されるはずだった。だが、仮にも「パンデミック緊急対応」の名を冠したプログラムの打ち切りを感染再拡大の最中に決められるのか。

本来、大きな政策変更はスタッフの経済見通しが改定される12月に合わせたいところだが、「12月会合で検討を開始し、1月会合で決める」という時間稼ぎも十分ありうる。欧州に限らず感染の拡大・収束については正確な理由がわかっておらず、「単なる周期性では?」とも言われるため、「後で決める」は賢明な一手になる可能性もある。

インフレの下で緩和継続も認めがたい

PEPPの週間購入額に目をやると11月は最初の2週間で156億ユーロ、183億ユーロと10月平均(週間150億ユーロ)から加速が見られる。9月会合で購入ペースの減速をうたった割にはその影響はあまり出ていない。10月下旬から確認され始めた感染再拡大の影響を考慮してのことだろうか。

とはいえ、世界的に問題視されているインフレ高進は大陸欧州にとっても大きな問題であり、軽々に緩和継続を口にしたくないという事情もある。進むにしても退くにしても逡巡を迫られる状況にあり、ECBにとっては厄介な状況が現れたとしか言いようがない。

11月19日、ドイツのシュパーン保健相は未接種者にとどまらず、ワクチンを接種した人も含めたロックダウンを示唆した。近く発足するショルツ首相(社会民主党出身)率いる新政権の対応が注目される。域内GDP(国内総生産)に関して言えば、既に10~12月期の3分の2は消化されており、この期間のマイナス成長は回避できるだろう。しかし、1~3月期への不安は残る。繰り返しになるが、12月に大きな決定を控えるECBにとって非常に厄介な状況である。

為替市場の観点からは、ECBとFRB(連邦準備制度理事会)の金融政策の格差拡大とそれに応じたユーロ安・ドル高を予想することになる。欧州のような感染拡大に直面していないアメリカではFRBが淡々と正常化プロセスを推し進めており、インフレ高進を念頭に量的緩和の段階的縮小(テーパリング)のペース加速まで期待される状況にある。

インフレが消費者心理を蝕み始めているアメリカ経済の状況を踏まえれば、続投が決まったパウエル議長も、正常化プロセスにブレーキをかけるという行為は政治的に難しいのではないかと考えられる。こうなってくると金利差面からユーロドル相場の下押しが正当化されやすくなり、実際に足元では年初来安値の更新が続いている。

今後、本当にECBがPEPPの延長・存続に関心を示し、当面の緩和継続を強調するのであれば2022年1~3月期に1ドル1.10ユーロを割り込むというリスクシナリオも検討する必要がある。現状、名目実効ベースで見たユーロ相場は依然として高水準にあることから調整余地は相応に大きなものがある。もっとも、それでも正常化プロセスに関し、ECBが日銀よりも劣後することはありえないだろうから、主要3通貨(ドル・ユーロ・円)における円の最弱という立場は不変であろう。

感染再拡大がアメリカに波及するケースでは?

また、感染再拡大がアメリカに及ぶというケースもリスクとして懸念される。そうなればインフレが社会問題化しつつあるアメリカの様子を踏まえ、FRBはECB以上に厄介な状況に陥る。感染拡大で社会不安が増大している最中、金融政策の正常化を進めるというのはやはり難しいだろう。その際は供給制約によるインフレは緩和継続で加速することはないと弁明するはずである。FRBがテーパリングや利上げを棚上げし、実体経済を支えるというポーズを取れば、一時的なドル安は考えられる。 

しかし、感染はいずれ収束するものであり、その後の正常化ペースでECBや日銀がFRBに勝ることはあるまい。とすれば、仮に米国の感染再拡大でFRBの正常化やドル高が揺らぐことがあったとしても、それはドル買いの「押し目」を提供する材料と整理したい。今後1年間も変わらず「ドル>ユーロ>円」の強弱関係は大きく変わらないと予想したい。

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