被災した鉄道の「全線復旧」に1年以上かかる事情

1年2カ月ぶりに運行再開した叡山電鉄鞍馬線。斜面の上では今も治山工事が続く(撮影:伊原薫)

苦境が続いてきた鉄道業界にも、明るい話題がいくつか聞かれるようになってきた。

例えば、2020年7月に熊本県南部を襲った豪雨災害で甚大な被害を受け、全線で運休を余儀なくされている熊本県のくま川鉄道は、2021年11月28日に肥後西村―湯前間で運転が再開できる見通しとなった。残る人吉温泉―肥後西村間は、流失した球磨川第四橋梁の再建に時間を要するものの、復旧費用の97.5%を国からの「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助金」で賄えることになり、復旧に向け動き出している。

2020年7月に被災した鞍馬線

同じ豪雨災害では京都市を走る叡山電鉄も被災した。同社は出町柳―八瀬比叡山口間の叡山本線とその途中から伸びる宝ヶ池―鞍馬間の鞍馬線(運行系統は出町柳―鞍馬間)の2路線を運営するが、このうち鞍馬線の市原以遠はこれまでにも豪雨や台風などで度々ダメージを受けている。

2018年9月にも、関西国際空港の連絡橋にタンカーが衝突したことで知られる台風21号により、鞍馬線が被害を受けた。この時は2カ月弱で復旧したものの、2020年の豪雨災害では線路沿いの斜面が幅約60m、高さ約110mにわたって崩壊した。

この災害では、線路や路盤自体の被害もさることながら、線路脇の山から約1500立方メートルの土砂と約330トンの倒木が線路上に流れ込んだことで、架線柱や信号などが被害を受けた。

また、この土砂や倒木の“元凶”となった地山崩壊の対策が運行再開のネックとなる。現場はもともとかなりの急斜面で、さらなる崩壊を防ぐためにも大規模な治山工事が不可欠だったが、それが斜面の下を走る叡山電鉄の運行に影響を及ぼす危険性があった。

線路部分の復旧工事は2021年春ごろにおおむね完了。一方、治山工事は同年2月にスタートし、上に向けて法面保護などが進められた。この工事がある程度完成し、列車の運転に支障が出ない位置まで到達したことから、ようやく運転再開が可能となったのである。

崩壊した斜面は叡山電鉄の敷地ではなく、この治山工事も京都府の事業として行われている。叡山電鉄にしてみれば、費用面の負担はないものの春から夏にかけての観光シーズンにバス代行を余儀なくされた形で、少なからず影響はあっただろう。反面、この区間が“紅葉のトンネル”として最も人気を集める秋の行楽シーズンに間に合ったのは幸いと言える。

被災から1年2カ月後に復旧

全線復旧がかなった9月18日、鞍馬駅で記念式典を実施。地元首長や議員、沿線の関係者らが集まった人々と共に新たなスタートを祝った。この日に合わせて、駅前にある大天狗のモニュメントが装飾されたほか、鞍馬線を走る車両の一部に記念のヘッドマークやラッピングを掲出。同駅ではこの翌週にも復旧記念イベントが開催されるなど、お祝いムード一色に染まった。

振り返れば、近年は自然災害によって被害を受ける鉄道路線がこれまで以上に増えた。

長野県のアルピコ交通上高地線。現在も一部区間で運休が続く=2021年7月(撮影:伊原薫)

今年8月の豪雨では長野県のアルピコ交通上高地線で田川にかかる鉄橋が傾いた。この復旧工事のうち、河川内での作業となる橋脚の交換作業は梓川の水量が減る冬季しか施工できないため、全面復旧は早くとも2022年夏までかかるという。

【2021年11月15日10時20分追記】アルピコ交通上高地線の被災箇所について、本文と写真のキャプションに誤りがありましたので修正しました。

また、前述の2020年熊本豪雨では、JR肥薩線もまた壊滅的な被害を受けた。被災は約450カ所にのぼり、復旧の方法すら見通せない状況だ。

そして、こうした被害の多くは鉄道会社だけで復旧工事や抜本的な対策を行うことが難しい。JR肥薩線の場合、球磨川の氾濫によって地形が変わり、元の位置に線路を敷き直すことができない区間もある。加えて、球磨川の治水計画をどうするかという問題もあり、こちらが決まらないことには前に進むことができない。

災害とどう対峙するか

同線の復旧について、JR九州の青柳俊彦社長は報道陣に対して「ゼロベースでの検討が必要」と答えている。ローカル線で大規模災害が起きた場合、費用面のみならず、どういうルートで復旧させればよいのか、さらには「この地に再び鉄道を敷く必要があるのか」といった根本的な部分にも関わってくる。

JR肥薩線の不通区間にある一勝地駅。この駅は奇跡的に被害を受けなかった(撮影:伊原薫)

これまでにも、地域住民の足となる地方ローカル線を国や自治体がどう支えるかといった議論は、あちこちで行われてきた。近年増えつつある自然災害との対峙は、こうした議論のさらに根幹、「日本の国土をどう守り、育てていくか」という話につながる。予算やマンパワーなどの優先順位はあるだろうが、脅威を増す自然とうまく共存するため、国や自治体が鉄道会社と連携し、対症療法ではない“安定した運行のためのインフラ整備”が必要な気がしてならない。

もちろん、その過程では「本当にこの路線が“鉄道として”必要かどうか」という存廃問題も議論されてしかるべきだろう。逆に言えば、存廃問題は収支や採算性だけで語られるべきではない。50年後、100年後に地域の、さらには日本のあるべき姿を考えながら、復旧に向け努力が続く各路線に適切な支援が行われることを願いたい。

ジャンルで探す