保育園は次に来る「コロナの波」に耐えられるのか

「保護者が”コロナ慣れ”してきた」保育士たちはつねに感染の恐怖にさらされている……(写真:msv/PIXTA)

10月に入り緊急事態宣言が明けたことから、経済活動が活発になりつつある。気が緩み、街に出る人も増えているが、新型コロナウイルスとの戦いが終わったわけではない。冬を控え、いつ次の”波”が来るかわからない中、いまだ緊張感が続いているのが保育園だ。

広いとは言えない室内に多くの子どもを預かる保育園では、感染リスクを回避しやすいとはいえず、保育園の現場は、子どもを預かるか否かの葛藤を長く抱えている。そして保護者たちの間でも、そんな環境でどれだけわが子を預けるか、悩みは尽きない。

保育の現場、そして保育園に子どもを預ける働く親たちの現状を取材した。

保育園をついに退職した佐藤さんの場合

「心が折れそうになっても頑張ってきましたが、それも限界になりました」

関東圏内の認可保育園で働く看護師の佐藤弘子さん(仮名、50代)は、夏が終わりを告げるとともに職場を去った。認可保育園で子どもを保育するのは保育士だが、0歳児が4人以上いる園では看護師一人を保育士とみなして配置することができ、佐藤さんはそうした看護師の一人として、主に0歳児を保育しながら園全体の健康管理も行ってきた。

ところが職場で新型コロナウイルスの陽性者が確認され、みるみるうちにクラスターとなったことが佐藤さんに退職を決意させた。佐藤さんは「保護者が夏休みをとる7~8月頃は、気が気ではありませんでした」と振り返る。

コロナの感染拡大が起こってから1年半、二度目の夏を経験するにあたり、「保護者が”コロナ慣れ”してきた」と、佐藤さんら保育者(保育士や保育補助者、看護師など園児を保育する人の総称)は感じていた。マスクをつけていられない乳幼児を連れて観光地に繰り出す家庭が増えていた。

「常に”3密”の保育園で働く私たちは、日頃から神経を尖らせています。友人と遊びに行くことも外食することも自主規制して、ずっと家と職場の往復です。それにもかかわらず、保護者が園児を連れて夏休みに観光地に行くのは、本当にやめてほしいと思いました」

職域接種で保護者のワクチン接種が進むなか、なかなか保育者への接種は始まらず、佐藤さんは「保育士が軽視されていないか」と思えてならなかった。今年の夏になってようやく保育者が優先接種の対象となってもシフト勤務の調整がままならず、思うように保育者の接種は進まなかった。

そのようななか、1歳の園児が発熱した。看護師の佐藤さんは保護者がお迎えにくるまでの1時間、マスクをしていない園児を抱っこしながら看護していた。佐藤さんはワクチン接種を済ませていたものの、その子がコロナの陽性だったと知らされた時には、自身の感染の心配だけでなく、同居する高齢の親への感染の不安が募り、生きた心地がしなかったという。

次々に陽性者が増えて、保育園はクラスターと認定された。感染リスクの高いはずの保育園でPCR検査がすぐ受けられる態勢だったわけでもない。佐藤さんは、「政治や行政は保育士の感染リスクをどう考えているのか」という憤りが隠せない。コロナに感染して休んだ保育士に対して、園側は給与補償しようともしない。そうした状況に絶望し、佐藤さんは退職を決意したのだった。

乳幼児相手に感染予防対策は不可能

都内の認可保育園で働く木村由香さん(仮名、30代)も、感染のリスクをつねに感じながら働いている。木村さんは「感染予防? 乳幼児を相手にそんなこと、できるわけがないですよ」と、怪訝な顔をした。

5~6歳になる年長クラスの園児なら1日マスクをしていられる子もいるが、0~1歳児は、ほぼ不可能だ。赤ちゃんの抱っこは欠かせず、1~2歳の園児が保育士に抱きつくことも多い。園児がくしゃみをすれば飛沫をかぶる。泣いている子をあやしているうち鼻水が保育士の服につくことも日常茶飯事だ。

木村さんは「いつ陽性者が出てもおかしくない状態です。もし保育室の面積に余裕があって、保育士の人員を増やすことができるなら、クラスをもっとグループ分けして保育するなど工夫の余地があるのに」と複雑な表情を見せた。

認可保育園には面積基準や保育士の最低配置基準があるが、長年、改善が求められている。

面積基準は、0~満2歳児未満の場合で乳児室が園児1人当たり1.65㎡、ほふく室が同3.3㎡。満2歳児以上で保育室が1.98㎡などとなっている。ただ、保育園が面積基準ギリギリで作られることが多く、園庭がない保育園も増えていることから、室内で園児が密になりやすい。

保育士の最低配置基準は年齢ごとに決められており、0歳児が園児3人に保育士1人(「3対1」)、同様に1~2歳児が「6対1」、3歳児が「20対1」、4~5歳児が「30対1」という多さだ。保育士1人がみる子どもの数が多く、密は避けようにない。

都内の別の認可保育園の園長がコロナ感染を心配する一方で懸念しているのが、”気になる家庭”だ。同園に今、明らかに虐待が疑われる例はないが、育児放棄が心配な保護者がいるという。

その家庭の子(0歳)は、お風呂に入らず前日と同じ服を着てくることが頻繁にあり、連日オムツ交換がされていない状態で登園する。母親はメンタルヘルスを崩している様子で、保育士と話しているうちに、わっと泣き出すことがある。

開園直後の朝7時過ぎに、きょうだい2人の子が預けられ、延長保育も使って夜7時頃に母親がお迎えに来くるため、毎日12時間の保育となる。コロナ前より預ける時間が短くなった家庭や登園自粛する家庭があるなか、その家庭が早朝保育と延長保育を使っている唯一の利用者だ。父母のどちらかが仕事が休みの日でも子どもが預けられるため、担任の保育士から「なぜ、家で見られないのか」「早く帰ってくれればいいのに」という不満の声があがってしまう。

園長は保育士に「目の前にいる子どもの最善の利益を考えるのが保育園の役割。仕事のない日に保護者が預けるということそれ自体がSOSのサイン。虐待や育児放棄につながる可能性があれば、親を支援するためにも預かったほうがいい」と諭すが、「保育経験が浅いと理解されにくい」と頭を悩ませている。

さらに現場を混乱させるのは、「この熱がコロナだったらどうしよう」という恐れだ。日頃から保育園にはインフルエンザやRSウイルスなどの感染対策マニュアルが用意されている。コロナについても厚生労働省は、全国の自治体に対して「保育所等における感染拡大防止のための留意点について」を周知し、園児に37.5度以上の発熱があった場合、解熱後24時間以上が経過し、呼吸器症状が改善傾向となるまでは、保育園は利用を断ることができるとしている。

ところが、前述の家庭は子どもが発熱しても、熱が下がればすぐ登園させてしまう。担任の保育士がルールを説明しても「熱が下がっているのに、何でダメなのですか」と食い下がる。対応に困った保育士から相談された園長が「明らかに呼吸器の症状があるようでなければ、様子を見ましょう。育児放棄が心配だから」となだめるものの、コロナ禍のなかでのジレンマを抱えずにはいられない。

保護者から見た保育園

まさに、保育園も預かるかどうかのせめぎ合いの状態だが、保護者からは保育園がどう映って見えるのか。都内の認可保育園に子どもを預けている三浦貴子さん(仮名、40代)は、「在宅ワークになると、お迎えの時間管理が極端に厳しくなりました」と困惑している。

コロナが流行し始めた頃に保育園からは、「両親が在宅ワークであれば『家庭保育』を」と強制に近い”お願い”があった。両親のうちどちらかが在宅ワークでも家庭保育を”お願い”された。もちろん、厚生労働省も自治体も、在宅ワークの場合に保育園は子どもを預からなくていいとは言及していない。

三浦さんが子どもを預ける保育園では、「子どもが家にいては仕事にならない」と多くの保護者が反発したことから、保育園は在宅ワーク時の利用を拒まなくはなった。しかし、保護者の服装を逐一チェックするようになった。普段はスーツで通勤する三浦さんがラフな服装で子どもを登園させると、すかさず保育士から「今日は在宅ワークですか」と確認され、「通勤時間は差し引いた時刻にお迎えに来てください」と念を押されるようになったのだ。

そして、少しでもお迎えが遅れようものなら嫌味を言われる。三浦さんは「何も家で遊んでいるわけではない。私たち保護者からは、保育士がラクをしたいから預からないようにしか感じられないのです。感染リスクを考えれば当然、子どもを登園させたいとは思えません。けれど、生活のため仕事をする以上は、預けるしかありません」と複雑な心境だ。

在宅ワークだからこそ労働時間が増えることもある。日本生産性本部の「第6回働く人の意識調査」(2021年7月)の調査結果によれば、テレワークの実施率は2021年7月時点で20.4%、「自宅での勤務で効率が上がったか」の問いに対して、「効率は下がった」(13.4%)、「やや下がった」(36.3%)と約半数が効率の悪さを感じている。

また、同調査の「今後の自身の雇用に不安を感じるか」の問いに対して、「かなり不安を感じる」(14.9%)、「どちらかと言えば不安を感じる」(36.1%)と回答しており、半数が不安を感じており、保護者が置かれる環境の厳しさが見える。

他の保育園では、コロナ解雇された母親がやっとの思いで見つけた派遣の仕事に保育士が無理解だったことに園長が頭を抱えた。その母親は昼頃から夜にかけての仕事が多く、派遣先の都合に合わせて働けないと失職する心配があった。それでも保育士は「子どもを預ける時間がバラバラで困ります」「午前中は預けないでほしい」と言い、「シフト表を早く提出してほしい」と急かしていた。

園長は「転職してすぐは、保護者だって予定がどうなるかわからない。ましてやコロナで失業しやすいのだから、保護者を追い込むようなことを言ってはいけない」と注意するが、保育士不足のなかで辞められては困るため、それ以上は厳しく指導できない。同園長は、「保育士の売り手市場が続いたことで、『なるべく仕事をしたくない』とプロ意識に欠ける若手も増え、コロナでさらにそれが増した」と実感している。

現場の混沌で対立が生まれてしまう

このように、コロナ禍のなかの現場は渾沌とし、本来は協力しながら一緒に子どもをみるはずの保育士と保護者が対立してしまうケースも少なくない。

緊急事態宣言が明けても感染リスクがなくなるわけではない。今こそ、保育士と保護者の双方の働き方や置かれる状況について理解を深める必要がある。

厚生労働省の「保育所等における新型コロナウイルスによる休園等の状況」によれば、2021年10月14日時点で認可保育園など全面休園している保育園は14か所。これまでの間に感染者が発生した保育園は6803か所、感染者数は職員6486人、保育園を利用している乳幼児9390人となっている。臨時休園のピークは今年9月の185か所だった。

保育園が急に休園となれば当然、保護者は預け先に困る。この問題には実は、かねてより指摘されてきた、土曜保育や休日・早朝・延長保育の運営に通じる課題が含まれている。

コロナ禍で、ますます重要になってくること

認可保育園のコアタイムは、平日に働く平均的な会社員や公務員の出勤時間となっており、各自治体や園の判断で、その前後に早朝保育や延長保育が実施される。しかし、保護者の働き方がこの保育園の開園時間とのミスマッチを起こし、預け先に困る保護者は決して少なくない。

文部科学省の「学校基本調査」によれば、2020年3月に大学を卒業したなかで最も多い就職先が「卸売業・小売業」の6万7544人で、次いで「医療・福祉」の5万6344人、「製造業」(5万1224人)、「情報通信業」(5万126人)も多い。この学年の大卒の就職者は44万6082人であるため、前述の業種だけで全体の5割を占める。

これらの業界は、土日や祝日、早朝夜間が繁忙期である傾向があり、平日だけ働くことが難しい現状がある。病院、介護施設、工場、IT業界には夜勤のシフト労働もある。そうした業界に雇用の受け皿が増えてきた中で、運営時間を柔軟に対応してくるべきだったのではないか。

認可保育園での休日保育の実施率は、全国でわずか4.7%(2018年3月内閣府など3府省調べ)に留まる。そして国は土曜保育の縮小を図るなど、本来のニーズと逆行しているのが現状だ。

運営時間の不足以外に、最小限の状態にある保育士の配置基準や面積基準の引き上げは、コロナ禍の中でますます重要になっているともいえる。

混迷する現場にとって必要な対策を打つには、自治体には限界がある。国は今こそ、早急にバックアップ体制を考えるべきときではないか。

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