統一を叫べば民心が離れる中国国民党のジレンマ

中国国民党のトップとなった朱立倫氏。「自分は台湾人」と考える台湾において、中国との関係をどう付き合うか(写真・AA/時事通信フォト)

2021年9月25日、台湾の野党・中国国民党(以下、国民党)が党員投票による党主席(党首)選挙を実施し、元主席の朱立倫氏が8万5164票(得票率45.78%)を獲得して当選した。朱氏のほかに現主席の江啓臣氏、親中派学者の張亜中氏、彰化県県長(知事)や立法委員(国会議員)を歴任した卓伯源氏の4候補で争われ、2022年実施予定の統一地方選挙と、その後の2024年総統選挙にも影響するものとして注目された。

中国との統一を求める候補が善戦

選挙戦序盤は朱氏と江氏の一騎打ちと言われていたが、2021年9月4日の各候補によるテレビ討論をきっかけに、それまで言説が中国統一に積極的で台湾世論と大きくかけ離れている張氏に注目が集まるようになった。例えば、中国と和平協定締結に向けて直ちに交渉すべきと主張したことで、(中国との)統一派の心をしっかりつかんだ。その後、次第に党内世論調査でリードすることもあり、メディアでの露出も多くなった。

これに焦りを感じたのか、朱、江両氏陣営は、中国問題では「交流を進める」と、将来の地方選や総統選を見据えた慎重姿勢を修正。張氏への対応を迫られるようになったのだ。これまでの歴史的な経緯から、中国共産党と軽々に和平協定を結ぶことに難色を示す国民党員は少なくない。それは、協定が本当に順守されるかわからないこと。また、協定を締結することで中国の完全な国内問題となり、台湾侵攻が起こった際、国際問題としてアメリカをはじめとする外国からの支援を受け入れられない恐れがあると考えるからだ。しかし投票直前まで、張氏の当選を予測し、国民党の完全な親中路線への傾斜、あるいはよりスピーディーな中国統一主義への先鋭化が待ったなしと予想した人もいた。

主席選の有権者となる党員は約37万人。大別すると、若手党員票、地方の有力者・団体票、元軍人・教員など中国から渡ってきた伝統的党員票の3つに分けられるという。

近年、党員数が著しく減少し運営資金不足で苦境にあると言われる中、党員の子女など若者への入党を進めているとされている。しかし、1987年の民主化から時間も経ち、中国大陸ではなく生まれ育った台湾にアイデンティティーを見出すほとんどの台湾の若者にとって、いまだ党名から「中国」を下ろせない国民党に親近感を持つ者は少ない。

とは言え、恩や義理などの人間関係から、仕方なく党員になった、あるいは無意識のうちになった人たちもいるのが現状だ。普段はまったく党員としての自覚がない若者が、主席選で党員だったと知るケースもあるという。この層はいわゆる国民党内の浮動票と考えられ、票読みが大変難しい。

次に、地方の有力者・団体票は、地元密着型で、とくに2022年の統一地方選を最も気にする層だ。党のスタンスと世論が大きく乖離すると、自身らのポストも危うくなる。張氏のような急進的な統一派候補を嫌うとされる一方、陣営にとっては票読みが比較的容易な層とされている。

台湾人であって「中国人」ではない有権者

しかしこの票だけで与党・民主進歩党(民進党)との選挙戦で勝利するのは難しい。今回の主席選挙では、張氏の躍進もあり、固定票ともいうべき伝統的党員票の確保こそが争点となることが改めて浮き彫りになった。その勢いを見て、2020年6月に高雄市長を罷免されたが、今でも熱烈な支持者を抱える韓国瑜氏の影がよぎった人は多い。ちなみに韓氏はどの候補への支持も表明しておらず、沈黙を保ち続けた。

この層への働きかけや過度のコミットメントは、今回の党主席戦で勝っても、その後の選挙で大敗する可能性が大きい。多くの台湾人が急進的な統一を志向していないにもかかわらず、すぐに統一に向けて動こうと呼びかけるためだ。選挙の有権者は、台湾人であって中国人ではない。過去、総統選の出馬経験がある朱氏や、現役の立法委員でもある江氏にとって、何が大切でどう行動すべきなのかは言うまでもないだろう。ただ、張氏というファクターは、同党が抱える複雑な構造を、改めて世に知らしめてしまったと言える。

朱氏が5年ぶりに党主席に返り咲いたことで、今後どのような問題に直面するのか。

まず、激しい選挙戦を戦った張氏を、朱氏が今後、党内でどのようなポストに迎えるかが注目点だ。張氏自身は離党も辞さない姿勢でいる。実は、張氏はかつて、国民党の洪秀柱元主席と関係が近く、総統選や党主席選で顧問を務めていたことがあった。洪氏は2016年の総統選で、中国との関係深化を主張しながらも途中で党内から候補の座を降ろされ、朱氏が代わりに出馬した経緯がある。これ以降、朱氏と統一派勢力との間にはわだかまりが残っているという。

将来の政権交代を目論む国民党にとって、党内の一致団結が何より重要なのは言うまでもない。張氏を厚遇することは、彼らのグループを重視する姿勢を示すことでもあり、党内融和には有効な一手となるのだ。

次に、江氏との関係だ。2020年3月に党主席に就任した江氏は、朱氏よりもうひと回り若い世代とされ、当初は国民党の世代交代と台湾重視の象徴と目されていた。今回の主席戦では、党主席になっても総統選には出馬しないと明言し、党のために働く姿勢をアピールしていた。国民党の将来を支える人物であることは間違いないが、今回の落選で国民党の若返りは失敗したとのイメージが生まれてしまった。

江氏自身は、新しい党主席(朱氏)の下で団結しようと訴えているが、江氏やその背後にいる若手への処遇は、国民党の将来にとって大きな意味を持つことになるだろう。ある種、張氏への対応よりも大切なこととも考えらえる。

そして最後に注目されているのが中国との距離感である。朱氏は中国との交流拡大にあたり、「一つの中国」を確認したとされる「92コンセンサス」(九二共識)の受け入れを表明している。しかし、2019年に中国の習近平国家主席が「台湾同胞に告げる書」40周年談話で、92コンセンサスと一国二制度を事実上、一緒のものとした。これについて、蔡英文総統はまったく受け入れられないと表明、92コンセンサスそのものを語らない状況になった。

中国からの祝電が意味するものは

国民党も一国二制度については反対の立場である。何より同制度の実験地とされた香港を目の当たりにした台湾世論が、これを受け入れることはない。92コンセンサスでは、一つの中国の解釈権は中台それぞれが有する部分があるとし、朱氏らはここに活路を見出そうとしている。果たして朱氏らが今後、中国との交渉で、92コンセンサスと一国二制度を切り離すことができるのか注目したい点だ。

また、当選した朱氏に中国が祝電を送るのかどうかも注目されていた。実は江氏が就任した際は祝電がなく、中国側が国民党を軽視していると理解されていたためだ。中国共産党はパワー志向が強いとされ、交渉相手に十分な力がないと判断すると相手にすらしないとされる。昨今の国民党は台湾内で中国との統一を進める力はなく、江氏自身が92コンセンサスの否定をしたため、まったく相手にされない状況に陥ってしまった。

その後、国民党は中国からの祝電が届いたこと、そして、返答したことを発表した。しかし、その返答を見ると92コンセンサスの受け入れと台湾独立反対を明確にし、中華民国暦の元号、「民国」の文字を省いた形式となっていた。中国との友好姿勢を打ち出したとみられる一方、対等な立場での交渉を破棄したとも取られ、台湾社会で物議を醸している。

政治家としてほとんどの要職を歴任した朱氏だが、総統という最後にして最大の高みに再挑戦することを、実はいまだ口にしていない。ただ、会計学の専門家で計算高くミスをしない政治家のイメージがあり、上記の問題が一段落したところで正式に表明するのではないだろうか。国民党は朱氏の下で延命はできても再生できるのか。いよいよ目が離せなくなってきた。米中対立が深まる中、現在の民進党との争い、そして国民党の生き残りをかけた激しい闘いが始まりそうだ。

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