日本高野連「クラファン」で財政難を抜け出せぬ訳

天候不良のため試合が中止となり室内練習場に向かう西日本短大付(福岡)の選手たち(写真:時事)

日本高野連が、夏の甲子園を無観客で行うための費用を捻出するために、クラウドファンディングを実施している。

朝日新聞社のクラウドファンディングサイト「A-port」では、

 新型コロナウイルスの感染拡大により、高校野球も厳しい状況が続いております。昨夏は第102回全国高等学校野球選手権大会が戦後初の中止を余儀なくされました。今夏は第103回大会を2年ぶりに開催しますが、スタンドの入場者は代表校の学校関係者に限り、一般のお客様向けのチケット販売は行いません。
 高校野球は入場料収入を財源にしています。その収入が大きく減る一方で、PCR検査やベンチの消毒など感染防止対策にかかる費用は膨らんでおり、運営は極めて厳しい状況に陥っております。
 どうか皆様のお力をお貸しください。

と趣旨を説明している。

しかし目標額の1億円に対し、8月19日時点で1075万円ほど、達成率11%弱とあまりはかばかしくない。締め切りの8月末までに目標を達成できるかどうか、かなり心もとない。「CAMPFIRE」や「READYFOR」のような有名なクラファンサイトでなかったことも一因かもしれない。

財政が脆弱な高校野球の実態

また最低額の3000円でも最高額の50万円でも「返礼」は、

  • ●A-portのページにお名前掲載
  • ●感謝のお手紙
  • ●寄付金受領証明書 

だけというのも、支援する側からすれば魅力的に映らないかもしれない。「教育の一環である高校野球を支援するのに、見返りなどは必要ないはずだ」という理屈かもしれないが、「士族の商法」という言葉が浮かんでくる。

高校野球の財政がこんなに脆弱だと聞いて驚く人も少なくないのではないか。昭和の時代から、高校野球はプロ野球とともに、日本最大級のスポーツイベントだった。高校野球の話題がネットに掲載されるとコメント欄には「高野連や朝日新聞社はあんなに儲けているのに」という趣旨のコメントがたくさん載る。

しかし日本高野連の公式サイトで公表されている決算報告書を見ると、深刻な状況になっていることがわかる。

コロナ前の2019年度は、入場料収益は9.87億円、これは経常収益11.47億円の86%に当たる。しかし春夏の甲子園が開催できなかった2020年度は、入場料収益が0円となり、経常収益そのものが9635万円と12分の1にまで減っている。

日本高野連は1校20人(選手18人、責任教師1人、監督1人)を限度とし、春夏の甲子園参加者に旅費と滞在費を支給している。入場料収益がなければ、すべて日本高野連の持ち出しになる。

2021年度は、入場料収入として8.28億円の予算を組んでいた。収支予算書の説明によれば「選抜大会は、当年度は、1万9000席販売することを前提に、入場料金は値上げするものの入場者数が大幅に減少するため、前年度より5266万円減少。選手権大会は、当年度は、全席販売することを前提に、全席指定席化により再販売がなくなることや、 アルプス席数が減少していること等により、前年度より7647万円減少」とのことだった。

実際は選抜大会は1万人が上限となり、選手権大会は関係者を除いて無観客となった。入場料収益は、2020年のように0ではないにしても、2年連続で大幅に予算を割り込むのは確実だろう。

「商売気」がなかった高校野球

甲子園球場では夏は2017年まで、春は2019年まで外野席を無料にしていた。約2万席ある外野席には外野の入り口で止められることはなく、だれでも自由に出入りできた。日本で最も人気のあるスポーツイベントの1つが、無料で観戦できたのだ。平日などは、近隣に勤める会社員がスタンドに座って弁当を食べていたものだ。

最近になって全席で入場料を取るようになったが、高校野球は創設から1世紀以上、ずっと「商売気」がなかったのだ。

よく知られているように、春夏の甲子園では、日本高野連はNHK、民放から放映権料を受け取っていない。放送局は「野球振興」に協力して放送していることになっているからだ。ここまでの人気スポーツ事業であれば、収益構造は入場料と放映権の「2本足」であるべきだが、高野連は「1本足」なのだ。

その一方で、日本高野連は阪神甲子園球場に球場使用料を支払っていない。球場を所有する阪神電鉄は、物販収入などを得ているが、ここにもビジネスが介在していない。

これまで、高校野球の徹底したアマチュアリズムは、健全性の証しではあった。しかし、異常気象、パンデミックなど激しい状況変化が立て続けに起こる中では、日本高野連の経済的な脆弱性が大きな問題になってきた。

今夏の甲子園は、雨天延期が8月19日の時点ですでに7日にも及び、決勝戦は8月29日になっている。31日から阪神戦が始まることを考えるとぎりぎりのスケジュールだ。

阪神甲子園球場は、1924年、夏の甲子園の前身である「全国中等学校優勝野球大会」を開催するために、朝日新聞社(当時は大阪朝日新聞社)が、阪神電鉄に働きかけて建設された。つまり「高校野球を行うための球場」だ。本来ならば8月1カ月を借り切って、ゆとりある日程で開催すべきだろう。

しかし無料で球場を使用している手前、そこまでは要求できない。今回は、阪神タイガースの試合と高校野球の「同時開催」も検討されているが、阪神電鉄側の好意に委ねるしかないのが現状だ。

クラウドファンディングでのアピール方法に課題

高野連の財政が厳しいのは、中央だけではない。都道府県単位の高野連も財政難に苦しんでいる。地方の高野連も入場料収入に依拠しているが、大きな収益ではない。そのためにチケットの販売や場内整理は、各校の野球部員やマネージャーが駆り出されている状況だ。多くの地方高野連は自前の事務所を持たず、公立高校内に設置されている。

すでに昨年から、財政難となった地方高野連の中には、A-portでクラウドファンディングを実施しているところがある。2020年7月末締め切りで10、2021年7月末で8、8月末で3つの地方高野連がクラファンを実施している。しかし予算を達成した地方はない。

必ずしもそれが問題だということではないが、アピールの仕方などに改善の余地はあっただろう。堀江貴文氏がCAMPFIREで募集した独立リーグ新球団への支援は、予算300万円に対して119%の357万円を集めて7月31日に終了した。

一般的にクラウドファンディングは「前向きな目的」で「より具体的な使途」の提示があるものほど達成率が高いとされる。「お金がなくて困っている」では、人々の心はそれほど動かないのだ。

さらに著名人が紹介するほうが注目される。各地方には、甲子園で活躍した「地元のヒーロー」が必ずいる。高野連が声を掛けて、そういう有名野球人が「郷土の高校野球に支援を」と呼びかければ、反応は違っていたはずだ。どうせやるならば、クラファンサイトの選択も含めて、もう少し工夫すべきではなかったかと思う。

ただしクラウドファンディングは「カンフル剤」のようなものだ。何度も通用する手段ではないし、経済的な問題を根本的に解決するものではない。

根本的には「高校野球」の財政を健全化する以外の選択肢はない。具体的には「試合の運営、高校の指導」などを行う「競技部門」と、興行を行う「事業部門」を分離し、事業部門はスポーツマネジメント会社などに業務委託するという手もある。

アメリカではNCAA(全米大学スポーツ協会)が、プロスポーツに匹敵する巨額の収益を上げている。弊害もあるようだが、マネタイズすることで選手や競技に強力な支援を行っている。

事業部門では、入場料収入、放映権、グッズ販売、ライセンス販売などを一括管理し、利益を最大化する。そして得られた収益を、全国の高校野球や中学以下の野球の振興に活用。できることなら地方高野連の事業部門も一括してマネジメントする。

高校野球の未来のためにも必要な「財政健全化」

残念なことに、スポーツ界には「癒着」「利権化」の問題が横たわる。ガラス張りの会計は当然として、マネジメント会社との契約は5年くらいでその都度、公募で委託会社を選定し直すべきだろう。第三者による監査も必要だ。

2018年、日本高野連、朝日新聞社、毎日新聞社は「高校野球200年構想」を発表した。「野球離れ」の中で、高校野球も野球の普及、振興に乗り出すという趣旨だった。3年間で一定の業績は残したが、財政難によってこの構想の未来にも暗雲がかかっている。

また2019年には「球数制限」議論が起こり、有識者会議の答申に基づいて「1週間500球以内」という規定が作られた。この規定は3年間の試行期間の後に正式に決定される。2022年はその3年目にあたる。

さらに言えば、日本高野連は、日本の高校野球以外ではほとんど使用されていない「高反発金属バット」を見直し、2020年には「1年以内に、金属バットのサイズなどの規格を見直す」としていた。この年3月に「反発性の低い金属バット」の製品試験を公開したが、その後の発表はない。

問題は山積しているのだ。高校野球の未来のためにも「財政健全化」は喫緊の課題だと思う。「高校野球は教育の一環」ではあるが、教育にも「経済の裏打ち」は絶対に必要なのだ。秋以降に本格的な議論が起こることを期待する。

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