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コロナ感染再拡大「五輪の途中中止」はありうるか

開幕を目前に控えた東京オリンピック。写真はBMXやスケートボードの会場である有明アーバンスポーツパーク(写真:ブルームバーグ)

東京オリンピックがいよいよ7月23日に開幕する。だが、そのときが近づくにつれ、東京都の新型コロナウイルス新規感染者数は連日1000人を超えて増加の一途をたどっている。緊急事態宣言が発出されている中で、オリンピックを最終日まで行うことは可能なのか。あるいは開幕後の中止もありうるのだろうか。

「今のところは、オリンピックを起点として感染が爆発しているのでない。現在の医療態勢の実態からすれば、これから重要になるにしても今日この時点で“中止にする”という状況にはなっていないと思う」

そう答えるのは国立感染症研究所の感染症情報センター長などを歴任した、川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長だ。

岡部は政府の分科会メンバーなど感染症対策の中心的役割を果たす一方で、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた大会組織委員会の対策専門家ラウンドテーブル(円卓会議)の座長を務め、首相に直接意見する内閣官房参与でもある、いわば感染抑止と大会実現の両方の立場から新型コロナ対策の全般を網羅する人物だ。

また、分科会の尾身茂会長ら専門家有志26人が東京オリンピック・パラリンピックに関する『提言書』をまとめたうちの1人でもある。

岡部の基本的な考え方については、2回にわたるインタビューとしてすでに報じている(前編:五輪は本当に可能?分科会委員が語る議論の真相、後編:無観客提言の分科会委員語る「五輪中止の現実味」)。

気をつけるべきは重症者と入院患者の増加

開幕直前の今の状況について、尋ねた。

「現状はオリンピックとは関係なく、首都圏を中心に感染者が増加しています。気をつけなければいけないのは、新規の感染者が増加すればそれに合わせて重症者、入院患者も増えてくることです」

前回、岡部に話を聞いたのは、東京都に緊急事態宣言が発出される以前(2021年6月30日)だった。その1週間後には、岡部も招集された会議を経て、オリンピック期間中を含む宣言の発出が決まった。しかも4回目にあたる今回は「いつもより早く手を打った」と岡部は強調する。

「オリンピックのために特別の手を打つべきだ、と提言しているのではありません。大会があろうがなかろうが、感染者が急増することはよろしくない。これまでもリバウンドというものを経験している。そこでいつもより早めの対策の提言となった」

ただ、今回はいつもと事情が少し異なるとも言う。

「ワクチン接種が進んだこともあって、重症化しやすい高齢者の感染、院内感染、高齢者施設での感染は減ってきています。それは高く評価すべきことです。しかし、ウイルスは次に感染リスクの高い人、リスク行動の高い人に狙いをつける。そこでの感染者が増えれば、たとえ割合で低くても重症者、入院患者が数として増えてしまう。

今のところ、入院患者で病院があふれるような状態ではないが、これがもっと感染者が増え、それに伴って重症者から中等症が増えてすぐに入院できないというような状態が起きはじめると、状況は変わってきます」

やはり医療崩壊の問題だ。これからは新規感染者の数よりも、重症者の数が指標として重要になってくる、と岡部は指摘する。ただ、指標とするにも“重症者”には難しいところもある。

「酸素吸入が必要で入院した人でも、3日で退院できるのと、2週間も命に関わる状態が続くのとでは、同じ“重症者”でも病院の負担も違ってきます。重症者として数字をみるだけでは済まないところもある。感染者が増えても自宅やホテルなどの施設療養など軽症で済めばいい」

選手村で感染爆発が起こった場合は?

そこでもう一つ心配なことがある。オリンピックの開幕が近づくに連れて、選手や関係者の来日も増えた。それに伴う検査によって連日、陽性者が見つかっている。仮に、選手村で感染爆発が起きれば、どうなってしまうのか。

「これは最初から議論になっていたことですが、検査をするにしても、どういう方法ならば信頼できるか、あらかじめ決めなければならない。ワクチンも、今のところ国際的にある一定のレベルをクリアしたものであって、A社のワクチンはよくて、B社のものでは入国は認められないというようなことはできない。

それで入国後はあらためて日本の検査法でチェックをするという方式をとっている。いわばダブルチェック、トリプルチェックで、2番目、3番目の網目にひっかかっていくことはある。場合によってはゲームに出られないなどのルールもあるわけで、今までのオリンピックではなかった感染症対策を初めてとっている。スポーツはルールがあり、それに従って競技が行われる。競技者はもちろん、それに係る関係者もあらかじめ定められたルールを尊重すべきです。

仮に競技者で感染者が見つかった場合でも、アスリートは肉体的には健康な人ばかりで、年齢的にも重症化することは少ないと思う。ただ、感染者が1日に数百人も出るとか、ホテルなどでの療養者が増加する、あるいは重症者や中等症が増えて医療機関で入院が必要になるとなれば、地元や地域の医療態勢の圧迫につながる。

それは最悪のシナリオで、そうなる前に次の対策、次のデシジョン(意思決定)をしないといけなくなるだろう」

それが、オリンピック開催期間中であっても中止とすることだ、と岡部は断言する。

「方法論として、考えておかなければならない。そういう選択もありうることとして」

緊急事態宣言の発出に伴って、オリンピックの無観客開催が決まった。それについては「有観客にこだわらなかったことはよかった」と岡部は言う。提言書にもあるとおりになった。

だが、そこで次に気になるのが、オリンピックが始まった後の市中感染者の増加だ。競技場のスタンドに人がいないのだから、そこで人から人に感染することはないし、ウイルスが市中に持ち出されることはない。

問題となるのは、その会場の外で飲酒を含めて盛り上がること。政府は金融取引先や酒類の提供元に圧力をかけることによって、飲食店に要請している酒類提供の自粛をより強化しようとした。それが国民の反発で一転、謝罪と措置の取り消しに追い込まれている。

「お酒が悪いのではない」と言い続けてきた

しかし、岡部は以前から「お酒が悪いのではない」と言い続けていた。

「酒のない社会は考えられない。生活の中に染みついているものです。お酒を提供するお店が悪いのではなく、お客さんの飲み方の問題です。お客さんが自制できれば一番いい。

でも、なかなかそうはいかないし、お酒を飲んだり、リスクの高い行動をとって直ちに一人一人が病気なるわけではない。むしろ、かからない人のほうが多いので実感しにくいが、外での飲食の制限を求めることによって全体の感染のリスクが減ることは国内外で言えていることです。

われわれ医学医療の専門家にとっては感染の広がり方だとか、治療法やワクチンの効果だとかが本来考えるべきところであって、酒の飲み方とか酒との付き合い方などは専門的なことではない。

しかし、新型コロナウイルスは経済も文化も含めて『社会の病』になってしまって、ある程度はみんなで抑え込まなければいけなくなった。医学的にも社会全体で病気を良い方向に向けるためには口を挟まざるをえないというところで、私自身はすべてをひとくくりで禁止するよりも、飲み方、食べ方、しゃべり方を考えて、店側にしても客側にしても、もっと上手にやるべきではないかと思う。酒にしても娯楽にしても、やり方の問題だ」

感染症だけでは済まない、経済や社会状況を巻き込んだ『社会の病』としての新型コロナウイルスの存在。もっと言えば、岡部は当初、緊急事態宣言の発出にも反対していたという。

「昨年の3~4月、最初の緊急事態宣言に関する議論では反対していたんです。それによって、ことさらに不安になったり、職をなくしたり、うつ的になったり、子どもの心の成長を阻害したりを考えた場合、感染症だけでなく、そっちのほうの大きなマイナスも考慮しなくてはいけない、と意見を言っていた。

それが途中で“しょうがない”と意見を変えたのは、重症者を受け入れる病院がぎちぎちになって来た。第一線の医師たちから、これ以上は新たな患者は受け入れられない、断らなきゃいけない、という声があがってきた。もし断ると重症患者はあふれちゃって行き場を失うわけだし、逆に受け入れを広げると、今度はほかの病気を診られなくなっちゃう。つまり、医療崩壊が起こる。

それでは感染者ばかりでなくて、一般の人が困る。誰がいつ、ほかの病気なるかわからないからです。それはどうしても避けなければならない。全体の医療を支えなくてはいけない。そういう気持ちで、途中から賛成に回った」

そこが、岡部の考え方の基本にある。

中止を含めて臨機応変に対応できるか

そうなると最初の話に戻る。新規感染者が急増したとしても、重症者が低く抑えられているうちはいい。ワクチン接種も進んだこともあって、重症者への対応が重要となる。

それも単純な数だけで判断はできない。ここへきてオリンピック期間中には、1日に2000人、3000人規模で新規感染者が出るという予測もある。母数が増えれば、重症者の数も増す。

「オリンピックと医療機関はそれぞれが別々に動いて機能しているうちはいい。そこが関係し合って影響が出てくるのだとしたら、事態は難しくなってくる。双方のバランスの問題だ。そのときに、中止を含めて臨機応変に対応できる、ということが重要となる」

だからこそ、始まってみないとわからないところもある。深刻な事態に陥ってからでは遅すぎる。感染症の専門家にしても、予断を許さない2週間が始まる。

(敬称略)

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