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有楽町線延伸や品川地下鉄…「新線構想」の現在地

東京メトロ有楽町線・副都心線の新車17000系。住吉までの乗り入れは実現するか(撮影:尾形文繁)

東京都心部で検討されている地下鉄新路線の整備構想が、実現に向けて一歩前進した。

国土交通省の交通政策審議会(交政審)は7月15日、東京の地下鉄網をめぐる答申「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」を赤羽一嘉国交相に提出した。

同答申は東京メトロ株の売却方針とともに、地下鉄有楽町線(東京8号線)の豊洲―住吉間延伸、品川駅と都心部を結ぶ「都心部・品川地下鉄」の2つの新線構想について、東京メトロが事業主体を担うのが適切としたうえで、「早期の事業化を図るべきである」とした。また、臨海部と都心を結ぶ地下鉄構想についても「事業化に向けて関係者による検討の深度化を図るべき」との考え方を示した。

都と江東区の「約束」

有楽町線延伸と都心部・臨海地域地下鉄は、それぞれ地元の江東区、中央区が整備を求めてきた路線。都心部・品川地下鉄は、リニア中央新幹線の駅整備など再開発が進む品川駅と都心部のアクセス向上を図る狙いの路線だ。いずれも交政審が2016年度にまとめた、今後の東京圏の鉄道整備指針を示す答申に含まれている。

今回の答申を受け、即座に反応を示したのが有楽町線豊洲―住吉間の延伸を求めてきた江東区だ。答申と同じ7月15日、同区の山﨑孝明区長は小池百合子東京都知事に対し、「一日も早く、地下鉄8号線延伸の実現に向けた事業スキームを構築し、今こそ豊洲市場開場における本区との約束を果たされるよう」申し入れた。

申し入れの文面にある通り、豊洲―住吉間延伸の事業スキーム構築は、江東区と都の「約束」だ。都は同区内への豊洲市場開設に際して、区と「土壌汚染対策」「交通対策」「新市場と一体となったにぎわいの場の整備」の3つの約束を交わした。この交通対策の柱が地下鉄延伸だ。

都は2018年度中に整備スキームを示すとし、2019年3月末に「都としては、東京メトロによる整備、運行が合理的」としたうえで、同社に延伸した場合の設備などについて調査を依頼すると表明した。

だが、東京メトロは以前から新線建設は行わない方針を示していたため、区はこの内容では「事業スキームというには不十分」と反発。「事業主体や財源の調整もしておらず、スキームではないと認識している」(同区の地下鉄事業推進担当者)というのが区のスタンスだ。

今回の小池都知事への申し入れでも、「約束の履行期限から2年以上が経過した現在においても、いまだに約束は果たされていません」と厳しい表現で早期の取り組みを求めている。同区担当者も「そもそも、都は全力でやっていくと約束している。責任を持ってやっていただきたい」と語る。

3路線の中ではやや先行?

有楽町線(東京8号線)の豊洲以北延伸は1972年に答申され、構想はほぼ半世紀にわたる。区は2007年度から豊洲―住吉間について独自調査を実施してきた。

延伸区間の事業性は、国交省が2019年度に実施した調査では良好との評価だ。整備の費用対効果を示し、数値が1を上回れば効果があるとされる費用便益費(B/C)は2.6~3.0との検討結果が出ているほか、全国有数の混雑路線として知られる東京メトロ東西線などの混雑緩和にも寄与するとしている。2020年からは国と都、東京メトロが駅の構造など技術面に関する勉強会をすでに7回開いており、今回の答申に盛り込まれた3路線の中でも進度としてはやや先行しているといえる。

ただ、約1500億円とされる建設費の負担はもちろん、ほかにも課題はある。新線は東京メトロの他線から利用者が流入することを見込んでおり、メトロの既存路線の減収を招くことが指摘されている。答申も、「メトロへの経営全体への影響も精査した上で支援を検討する必要がある」としており、この点は同社が事業主体となるうえでは課題となりそうだ。

また、東西線の混雑も2020年度の調査ではコロナ禍の影響を受け大幅に緩和されたが、区の担当者は「コロナ禍という状況下であり、今回の数値をもって混雑が解消したとは考えていない。混雑緩和だけでなく、東京東部からのアクセス向上など新線の持つさまざまな意義に変わりはない」と話す。

地元が整備を求めてきた有楽町線延伸とやや異なり、都が中心となっているのが「都心部・品川地下鉄」だ。同線の構想は、都が2015年7月に取りまとめた鉄道ネットワークに関する検討結果「広域交通ネットワーク計画について」において「整備について検討すべき路線」の1つとされ、翌2016年の交政審答申に盛り込まれた。

同線は品川駅と東京メトロ南北線・都営地下鉄三田線の白金高輪駅を結ぶ約2kmの構想で、南北線への乗り入れが考えられている。リニア中央新幹線の駅開業などをはじめとする品川駅周辺の開発と合わせた整備を念頭としており、2016年の答申では意義として、「六本木等の都心部とリニア中央新幹線の始発駅となる品川駅や国際競争力強化の拠点である同駅周辺地区とのアクセス利便性の向上」を掲げている。

一方で、当時は「検討熟度が低く構想段階」であるとして、「事業計画について十分な検討が行われることを期待」との表現にとどまっていた。今回の答申では「早期の事業化を図るべき」と大きくステップアップし、約5年を経て位置づけがだいぶ向上したといえる。

一段階下の臨海地下鉄

背景にあるのは事業費の大幅削減だ。2016年の答申時は約1600億円としていたが、国交省が2019年度に実施した調査では約800億円に半減した。品川駅での折り返し施設設置などを事業に盛り込まないことにしたためだ。このため、費用便益費も1.2から2.5~3.1へ改善。「事業化の実現性が向上した」としている。

2020年に開業した高輪ゲートウェイ駅。リニア中央新幹線の乗り入れ予定など品川駅周辺地域は開発が進む(撮影:尾形文繁)

「品川地下鉄」ではあるが、構想路線は港区内を通る。同区が中心となって進めてきた構想ではないというものの、区の期待感は大きい。品川駅周辺の開発が進みつつあることも、実現への追い風になりそうな点だ。同区の担当者は、「(品川駅周辺は)高輪ゲートウェイ駅の開業に伴い街づくりも進み、リニアの駅もできる。地下鉄が開業すれば交通結節点として広域交通の利便性が向上する。ぜひ進めていただきたい」と語る。

一方、これら2路線と比べ、「事業化に向けて関係者による検討の深度化を図るべき」と一段下回る表現だったのが、都心部・臨海地域地下鉄新線だ。

同線は臨海部の国際展示場付近から勝どきなどを経て銀座・東京といった都心部を結ぶ構想で、地元中央区が2012年度から検討を始めた。2016年の答申では「検討熟度が低い」とされたものの、つくばエクスプレス(TX)の秋葉原―東京間延伸と一体で整備し、直通運転などを含め「検討が行われることを期待」との方向性が示された。

同区は2019~2020年度、新たな需要予測などを含む検討調査を実施し、今年6月に公表。「近年の急速な地域の発展やTXとの乗り入れを含め検討した」(中央区の担当者)内容だ。同区が事務局を務める新線推進協議会が2020年11月に開いた「新線推進大会」にはTXの利用・建設促進議員連盟会長が登壇し、連携を訴えた。区はTXの東京延伸を求める同線沿線の自治体などとも事務レベルで情報交換しているという。

2020年11月に開いた臨海地下鉄新線の推進大会(記者撮影)

また、区は今年発表した調査結果で、JRの羽田空港アクセス線臨海部ルート計画を念頭に「りんかい線と接続し、羽田空港までの直通運転も考えられる」との考えを示しており、今年度は羽田空港方面への需要予測を行っているという。

ただ、事業費は秋葉原まで延伸した場合で3310億円と、ほかの2線と比べても高額で、事業主体についても課題だ。一方、小池都知事は答申後の赤羽国交相との会談で、臨海部地下鉄の事業計画策定に向けた検討会を設けるとの考えを示しており、区の担当者は「そこに大きな期待をしている。ぜひ(検討を)深度化できれば」と今後の展開に希望を示す。

巨額の事業費、課題は大きい

答申は有楽町線延伸と品川地下鉄について「東京メトロが事業主体を担うのが適当」とした。だが、同社はこれまで新線の建設は行わない方針を示しており、「仮に協力を求められるとしても経営の健全性を崩さないことが大前提」との立場を取ってきた。

このため、整備については国と地方が大半を補助する「地下高速鉄道整備事業費補助」の活用を提言。また、国と都が保有するメトロ株の売却についても「両路線の整備を確実なものとする観点」から、有楽町線延伸と都心部・ 品川地下鉄の整備期間中は国と都が株式の2分の1を保有することが適切とし、2路線の実現に向けた方向性を示している。

今後の動きについて、国交省の担当者は「事業主体(東京メトロ)のスタンスあっての話」になると話す。東京メトロは答申を受け、2路線の構想に対し「十分な公的支援」と「東京メトロ株式の確実な売却」を前提に取り組むとコメントしており、従来のスタンスからは前進したといえる。

ただ、2路線だけでも合わせて2000億円を超える事業費をどうするかは引き続き大きなポイントとなる。「地方(都)の負担分のうち、地元(区)の分をどうするか」といった点もこれからの検討課題となりそうだ。

一歩前に進んだといえる東京都心の地下鉄新線構想。コロナ禍で大幅に鉄道利用者が減る中、2008年の副都心線開業でいったんは「打ち止め」となった地下鉄の新線は実現に向かうか。

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