ロート製薬が「ボラギノール」を身内にした事情

「ボラギノール」を製造する天藤製薬は今年で創業100年を迎える老舗だ(記者撮影)

「痔に〜はボラギノール」のCMでおなじみ、痔疾用薬の「ボラギノール」。在宅勤務の増加や生活スタイルの変化で痔の患者が増えているという声もあり、最近、この薬にお世話になった人も多いのではないだろうか。 

6月8日、目薬などのアイケア商品で知られる製薬会社のロート製薬が、ボラギノールを手がける天藤製薬の買収を発表した。8月末までに天藤の創業家から約70%の株式を取得する。金額は非公表だが、およそ100億円前後とみられる。

痔薬市場で、ボラギノールの存在感は圧倒的だ。ロートも「メンソレータム」ブランドの痔薬を持ってはいるものの、シェアはわずか2%ほど。ボラギノールのシェアは60%を超え、競合である大正製薬の「プリザ」などを突き放す。

創業100年の老舗企業

ロートは杉本雅史社長が2019年に就任して以降、大衆薬業界のリーディングカンパニー、つまり大正製薬を抜いて国内売上高でトップになる目標を公言している。

痔薬の市場規模は130億円と決して大きくはないものの、シェア断トツで知名度も強力なボラギノールを持つ天藤(売上高58億円)の買収は一つのカテゴリーを丸ごと手に入れるのにはうってつけだ。「売り上げが安定していて利益率も20%ある。業界トップになるために足りないピースを埋めていく第一歩になる」(杉本社長)。

天藤製薬の創業は1921年でボラギノール一筋、今年で創業100年の老舗企業である。京都大学を母体として、日本で初めて痔薬を開発・製造する“大学発ベンチャー”として創業した。

当時の有効成分は「ムラサキ」という植物から抽出したものだった。ボラギノールという商品名は、ムラサキ科の植物のラテン名「Boraginaceae」から名付けられたという。

当時、販売網を持っていなかった天藤は、すでに大手製薬会社の地位を築いていた武田薬品工業(当時は武田長兵衛商店)にボラギノールの販売を委託。以来、国内屈指の販売網を持つ武田と共に成長してきた。現在でもこの体制は続いており、天藤は武田の持分法適用関連会社だ(所有比率は30%)。

今回、ロートがボラギノールを買収することになったのは、この武田薬品と浅からぬ縁があったからだった。

杉本氏はロートの社長に就く以前、武田薬品グループで大衆薬を手がける子会社の武田コンシューマーヘルスケア(現在のアリナミン製薬)で社長を務めていた。

その杉本氏の前任者として武田の大衆薬事業のトップを務めていた人物が、現在天藤の会長である大槻浩氏だった。創業家の3代目として天藤の経営に携わっていた大槻氏はその経営手腕を買われ、武田の大衆薬事業そのもののトップに抜擢されていた。

「大槻さんから仕事を引き継いだ関係があった。元々、人となりがわかっていたので声をかけてもらえた」(ロートの杉本社長)という。

武田の子会社売却が引き金

今回の買収で、創業以来100年以上続いてきた武田と天藤との協業体制に終止符が打たれる。だが、天藤にとってロートという新たなパートナーと手を組んだのは必然ともいえる。

それは、杉本氏や大槻氏の古巣である武田コンシューマーヘルスケアを武田が手放したからだ。武田は、2019年の買収で抱えた巨額負債の圧縮や新薬開発の費用を捻出するため、2020年に同社をアメリカの投資ファンドへ2420億円で売却している。

「武田が大きな方向転換をした。今までと違い、天藤にとって本気でタッグを組んでやっていける相手なのか不安になったのではないか」(杉本社長)。かといって天藤には独自で販売網を築く経営体力はない。そこで声をかけたのがロートだった。

買収発表翌日、ロートの株価は一時5%以上上昇。ボラギノール買収を株式市場は好感したようだ。同業他社やブランド買収を通じた多角化戦略を推し進めるロートにとって、今回の一件は渡りに船だった。

ボラギノールを手中に入れ、海外展開にも期待を寄せている。ロートはアジア地域での売上高が約3割と、国内に次いで大きな割合を占めている。1988年、アメリカのメンソレータム社買収を足がかりに、アジアでの展開を一気に加速させた経緯がある。欧米では受け入れられない座薬だが、アジア、とくにベトナム市場には開拓余地があるという。

およそ1兆円といわれる国内の大衆薬市場はすでに成熟している。その市場では、栄養ドリンク「リポビタン」、感冒薬「パブロン」などの有名ブランドを擁する大正製薬が売り上げトップを誇る。

大正はそこに安住せず、2018年末に世界製薬大手のブリストル・マイヤーズスクイーブ(BMS)の大衆薬子会社であるフランスUPSA社の買収を決めている。買収金額は1800億円と同社にとって過去最大の案件だった。

どんどん買収候補が出てくる

業界で二番手につけるロートは、目薬など強みのアイケア市場でシェア約4割を持つトップメーカーだが、これ以上のシェア拡大は難しい。一方、ビタミン剤や鎮痛剤など、市場規模が大きいカテゴリーでロートの存在感が薄い。新ブランドの立ち上げには大きな先行投資がいるため、すでに確立されたブランドの買収が有力な手立てになる。杉本社長は「これから(買収候補が)どんどん出てくるだろう」と強気だ。

その理由について、「中小の大衆薬メーカーでは市場環境の悪化や後継者が問題になってくる。医療用の新薬メーカーでも、武田のように(医薬品開発で)大衆薬事業を持つ余裕はなくなる。大衆薬子会社を抱える第一三共やエーザイはどちらも足元の調子はいいが、その先を見据えると悠長なことも言っていられなくなるだろう」(杉本社長)とみる。

武田の大衆薬事業売却に端を発するボラギノール買収は序章にすぎない。大衆薬メーカーの再編劇がまだまだ続きそうだ。

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