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「ワンマン」列車、全ドア降車なぜ普及しないのか

JR桜井線を走る227系(写真:HAYABUSA/PIXTA)

公共交通の評価のポイントは利便性だ。路面電車には低床車が増え鉄道線でもホームと車両床面の段差が小さくなって、乗降はバリアフリーになった。しかし、「最寄りのドアから乗って最寄りのドアから降りる」というもう1つのバリアフリーを満たさない「在来型」のワンマンが今も走っている。

「お降りの方はいちばん前のドアをご利用ください」というあれだ。ベビーカーを伴って、あるいは、車椅子での利用は難しく、ドア1カ所での降車は不便で時間がかかる。

「ワンマンだから不便でも仕方ない」でよいのだろうか。

鉄道線の「ワンマン」はどうなっている?

ワンマンには3形態がある。

「在来型」ワンマンは、運転士が運賃を収受する。1954年に路面電車で始まり、1971年には鉄道線の無人駅化の次の収支改善策として導入された。当初は、小型車両の1両運転だったから不都合はなかった。ところが、今では長さ27mの連接路面電車や2両連結で長さ40mの鉄道線列車にも導入されている。

「都市型」ワンマンは、地下鉄線や都市鉄道線に導入され、駅で運賃を収受するからワンマン化しても利便性にはなんら変わりがない。近年は、無人駅を機械化した地方線区にも導入されている。

「セルフ乗車型」ワンマンは、「セルフ乗車(わが国では信用乗車とも呼ぶ)」を採用した方式で、運賃収受を運転士が肩代わりするのではなく、乗客がセルフサービスで行う。1960年代半ばにスイスで始まり、1970年までに西欧に、次いで北米、東欧、香港、台湾に普及した。乗り場または車内ドア近くに設けた切符消印器(日時等を印字。近年ではICカードのリーダ・ライタ)によって改札する。運転士が運賃を収受しないので、すべてのドアで乗降できる。路面電車・ライトレールの運賃収受の世界標準となり、路面電車は利便性と輸送力の高い輸送システムに変身した。わが国では、広島電鉄市内線の一部車両と福岡市内BRTバスが、IC乗車券に限定して採用している。

路面電車のワンマンについては、2020年4月3日付記事(富山LRT、直通運転で消えた便利な「セルフ乗車」)、2019年1月13日付記事(路面電車の弱点「運賃支払い時間」は解消可能)などですでに説明しているので、今回は鉄道線のワンマンについて述べる。

IC乗車券エリアの拡大を目的に無人駅にも改札機が設置され、既設の券売機とあわせて機械化無人駅化が進んでいる。また、利用者が少ない線区用に車載型IC改札機を搭載した車両が登場している。

こうした線区のワンマン列車の近況を観察するために、新型コロナウイルスに関する3回目の緊急事態宣言が大阪府ほかに発出中の5月に、JR西日本の桜井線と和歌山線を数次にわたって訪ねた。

「在来型」だが、運転士は運賃収受せず

桜井線(愛称は万葉まほろば線。奈良—高田間29.4km)の全14駅のうち10の無人駅には、2005年に簡易型IC改札機(タッチ部と残額等の表示部だけ)が設置され、IC乗車券ICOCA(イコカ)エリア線区になった。2019年3月から新鋭車両227系1000番台(全長20m・3ドア車両の2両連結、列車全長40m)が順次投入され、この線と和歌山線の旧型車両が淘汰された。

奈良駅1番線に停車中の桜井行きを観ると、1両目は座席が埋まり2両目はガラガラであることから、「在来型」であることが判る。しかし、運賃箱は運転室内に格納したままでドアが閉めてある。掲示に、「新型コロナウイルス感染拡大防止のため、運転室の扉を閉めさせて頂きます。切符・運賃については、駅の運賃箱にお入れください」とある。

定刻に発車。次の京終駅は無人駅。車内放送は「後ろの車両のドアは開きません。前の車両のいちばん前のドアをご利用ください。切符・運賃は前の運賃表でお確かめの上、運賃箱へお入れください」と、「在来型」の案内だが、運賃箱は使えない。続いて「ICOCAなどのIC乗車券は、いったん運転士にご提示の上、駅の改札機にタッチしてください」と言うが、IC乗車券は見ただけでは有効かどうかは判らない。

京終駅に近づくと降車客が後ろの方からいちばん前に移動してきた。前の車両のいちばん前と後ろの2つのドアだけが開く。降車客はIC乗車券の提示も何もせず、運転士も着席したままで何もしない。後ろのドアから降車する人もある。どの無人駅でも同じ。列車は桜井駅に到着、有人駅だから全ドアで降車する。

いくつかの無人駅を観察した。ホームには1両目の後ろのドアの位置に「2両ワンマン乗車位置」の表示があるが、ここで降車する人もある。駅の出口に近いドアから降りたいのは誰しもだ。簡易型IC改札機(出場用と入場用)ときっぷ・運賃箱(郵便受けのような箱)、および券売機が設置してある。降車した誰もが、ちゃんとIC乗車券をタッチし、切符を切符・運賃箱に入れている。乗車する人は券売機で乗車券を買い、あるいは、IC乗車券をタッチして入場している。つまり、この線区の無人駅は機械化無人駅であり、駅で運賃を収受しているから、実質は「都市型」だ。なのに、「在来型」の乗降スタイルを要求している。残念なワンマン列車だ。

和歌山線の王子—五条間(35.4km。全13駅、うち無人の5駅は機械化無人駅)にも、桜井線と同じ残念なワンマン列車が走っている。ところが、沿線施設の従業者か来場者が大量に降車する列車や、下校高校生の一群がホームで待っている場合には、「すべてのドアがご利用できるように変更します」と自動放送して全ドアを開くことが、日常的に実施されている。

駅の案内掲示に、「4両ワンマンはすべてのドアが開きます(和歌山線のみ)」とある。王寺16時02分発の五条行4両編成に乗車した。この区間の無人駅はすべて機械化無人駅で、その到着前の案内放送は「すべてのドアがご利用いただけます。切符・運賃は駅の集札箱に入れていただき、イコカなどは駅の改札機にタッチしてください」だ。2007年まではスイッチバック駅だった山間の1面1線の北宇智駅(ログハウス風のミニ駅舎に簡易型IC改札機、券売機、集札箱を設置)でも、全ドアで乗り降りできる。

全国のJR線と私鉄線には機械化無人駅(自動改札ゲートまたは簡易改札機を設置)を擁する線区での「都市型」実施例はたくさんある。

「セルフ乗車」は朝夕だけ

227系1000番台の車両には、車載型IC改札機(タッチ部と残高表示部のみ) の乗車用が全ドアの脇に、降車用が運転室後ろに設置してある。和歌山線の五条—和歌山間(53.5km、全24駅)の無人駅(券売機のみ設置)17駅では、IC乗車券で乗降する際にはこれにタッチし、切符の場合は最前部の運賃箱に投入する。

朝夕はすべてのドアを使用する。IC乗車券に限定ながら朝夕は「セルフ乗車」が実施されているのだ。ただし、降車用IC改札機は各社の運転席の後ろだけに設置されているため、降車客が集中する高等学校最寄りの無人駅には、出場用の簡易IC改札機が駅に設置してあり、無タッチで降車した場合に備えている。全ドア脇に降車用も設置してタッチ降車に統一することが望ましい。また、切符の最前部運賃箱への投入も不便であり、少なくとも降車用改札機の隣に集札箱が必要だ。そして、昼間は利用者が少ないとはいえ、最前部のドアだけで乗降する「在来型」としているのは残念だ。

簡易型改札機と車載型改札機には不正乗車を抑止する機能はない。こうした改札機で乗客が自律的にセルフサービスで改札する(運賃を支払う)、これが、「セルフ乗車」だ。乗客の公徳心・公共心に頼る方式であるがゆえに、不正乗車誘発の懸念ありとして、わが国では導入についての議論や検討すら劣後されてきた。その「セルフ乗車型」ワンマンが、一部の列車ではあるが実施されている。桜井線、和歌山線は、先進路線なのだ。しかし、大多数の列車には「在来型」の乗降スタイルを存留しているのは、不正乗車の懸念からであろうか。

しかし、収支不均衡な鉄道線を生活インフラとして維持するには、無人駅化とワンマン運転化は不可避である。この中で利便性を担保するには、「セルフ乗車型」ワンマンの採用しかない。

改札の自律的実行と目的地までの乗車券の購入などに乗客が協力し、その結果、乗客は利便性の高い輸送サービスを得ることができる。こうした考え方を具現したのが西欧発祥の「セルフ乗車」だ。

西欧での「セルフ乗車」採用当初の不正乗車抑止策は、不意打ちの検札は当然だが、効果があったのは乗客総員に同じ目的のことを同じ場所でやってもらうことだった。1人だけ何もせずにそこを通り過ぎるのは人目が気になるからである。桜井線と和歌山線の場合には、駅のIC改札機(入場用)と券売機、IC改札機(出場用)と切符集札箱のそれぞれを近くに設置、また、車載IC改札機(降車用)の隣に切符集札箱を設置、が抑止策になるであろう。

安全確保は厳格、しかし運賃収受は?

ワンマン運転は、車掌の乗務を省略した運転方法である。車掌も運転業務も担っているから、その代替方法等については国の規則に定められており、ワンマン列車の安全は担保されている。問題は、車掌の乗務なしで運賃収受をどうするかの定めや指針がないことである。利便性が重視される今の時代には、「在来型」は小型車両の1両運転に限るなど、なんらかの指針が必要である。

コロナ禍で、公共交通は「3密」が避けられないとして、マイカー利用が増え、テレワークによって通勤者が減少した。コロナ後に利用者数を回復するためには、利便性の向上が必須である。

今回観察した線区には、「都市型」と「セルフ乗車型」が実施できるハードが整っているにもかかわらず、その実施を一部列車に限定し大部分の列車には不便な「在来型」を実施しているのは残念である。

「お降りの方はいちばん前のドアをご利用ください」というアナウンスがなくなる日はいつのことだろうか。

(筆者作成)

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