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「人は見た目じゃない!」人類の理想が実現する日

肌の色、年齢、肉体の性別、美醜……あらゆる「見た目」から、人類が自由になれる日が来るかもしれません(画像:Rawpixel/PIXTA)
イギリスのロボット科学者であるピーター・スコット-モーガン博士は、全身の筋肉が動かなくなる難病ALSで余命2年を宣告されたことを機に、人類で初めて「AIと融合」し、サイボーグとして生きる未来を選んだ(詳しくは「人類初『AIと融合』した61歳科学者の壮絶な人生」参照)。
「これは僕にとって実地で研究を行う、またとない機会でもあるのです」
彼はなぜ、そんな決断ができたのか。その理不尽に立ち向かう「不屈の精神」の源はどこにあるのか。ピーター博士が自らの挑戦の記録として著し、発売直後から世界で話題騒然の『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン――究極の自由を得る未来』が、6月25日、ついに日本でも刊行される。
「ピーター博士が目指す『ネオヒューマン』は、ジェンダーをはじめとしたさまざまな差別がない世界につながる希望がある」と語るのが、「ジェンダー平等の実現に貢献する」ことをミッションとするKanatta代表、井口恵氏だ。井口氏に話を聞いた。

同性愛者と難病患者という葛藤

ジェンダーからシンギュラリティまで、いろいろなテーマが重なり合っていて、とても読み応えがあり、めちゃめちゃ感情移入しました。一番の学びは、困難と前向きに闘っていくピーター博士の姿勢でした。

人間って能力の差ってないんだな、とつくづく思いました。生まれてこのかた、他人と自分の「差」を比べることの積み重ねで、じわじわと自信を失っていくだけで。自分にはできないって、みんな思い込んでるだけで。

『ネオ・ヒューマン』には、同性愛者としての葛藤、そして、どんどん体が動かなくなっていくALSという難病患者としての葛藤の2つが描かれており、どちらも難しいテーマだと感じました。

同性愛者であるピーターさんの幼少期の体験は、本当につらかっただろうなと思います。学校で鞭打ちされるという理不尽なシーンには、1970年代のイギリスでは、ここまで同性愛者が受け入れられていなかったのかと驚いてしまいました。

私は幼少期にアメリカで暮らしていたのですが、私が住んでいた地域では、ゲイもレズビアンもみんなオープンでした。小学生の女の子が、好きになった男の子に告白して、「I'm gay.」 と言われてしまうということも普通にありましたし、中学生になれば、男女でも、ゲイ、レズビアンのカップルでも、気にせずイチャイチャしているという風景が当たり前でした。

日本に帰国して、まだまだ同性愛者は受け入れられていないんだなと思いましたが、ピーターさんの子ども時代はもっとひどかったわけです。

しかし、ピーターさんは、大変な逆境を乗り越えて、恋人のフランシスさんとご結婚もされています。さらに、難病になっても、それを科学の力で乗り越えていきます。どんなときも未来をポジティブに捉えており、フランシスさんを説得して引っ張っていくほどの強い思い、信念の強さもあります。

協力者だと思っていた人々に裏切られる場面もありましたが、それでもまた自分で動いて、基金を立ち上げ、一からやり直していく。経営者としても共感するものがありましたし、率直にすごい人だと感じました。

帰国子女としての葛藤

ピーターさんが体験した子ども時代の葛藤は、帰国子女であった私にとっても、共感する部分がありました。

井口恵(いぐち めぐみ)/Kanatta代表取締役社長。2010年横浜国立大学経営学部卒。監査法人やファッション業界での経験を経て、2016年に株式会社Kanattaを創業し、COOに就任。2019年より現職。「ジェンダー平等の実現に貢献する」ことをミッションに、ドローンジョプラス、コスモ女子、エシカルガールの3つの女性コミュニティを運営し、さらに多くの女性の夢の実現をサポートするためにクラウドファンディング事業を展開している(写真:Saho Ueda)

アメリカで育ち、13歳で日本に帰国した私は、周囲からなかなか理解してもらえない子ども時代を過ごし、「自分は他の人とは違う」という点でずっと葛藤してきました。

アメリカでは、人種も言語も違っていて当たり前でした。もちろん、女性が好きか、男性が好きかということもです。また、日本では、障害のある子どもは障害者学級に振り分けられていますが、アメリカでは同じクラスで一緒に学んでいました。

グループワークでは、成績優秀な子どもと、発達障害のある子どもがチームを組むということを先生が勧めていましたし、運動会も身体に障害のある子どもと一緒に参加していましたから、私にとっては身近な存在でした。

そういった「人と違って当たり前」という文化のなかでは、大変なことはあっても、心の葛藤というものはありませんでした。

しかし、13歳で日本に帰国したとき、「私は日本人なのに理解してもらえない」という苦しさを抱くようになりました。学校の教育制度も違いますし、アメリカで育ったために、考え方も周囲の人々とはまるで違っていたのです。

まず、アメリカの学校は、自由で校則もありません。そして、得意な教科であれば飛び級もできましたし、反対に留年もありました。私は数学が得意でしたから、アメリカでは飛び級で頑張っていたのですが、日本では、得意な数学はいいから、赤点のほかの教科の成績を上げなさいと言われます。

しかし、赤点だった科目で良い成績をとっても特に褒めてもらえませんし、得意な数学もまったく褒めてもらえません。なにをやっても認めてもらえないのです。いったいなにをすれば正しいのかと思いました。

また、「みんな違って当たり前」と思っていたことが、先生から目をつけられる原因にもなってしまいました。担任の先生は未婚の女性だったのですが、「先生は結婚していないんですか?」と聞いたために、ものすごく嫌われることになってしまったのです。

悪気はありませんでした。結婚するかどうか、子どもを持つか持たないか、どちらも女性にとっては自由な選択です。私はそういった価値観で育ちましたから、結婚について聞くことが、悪いことだという感覚もなかったのです。

他にも、アメリカでは普通のことでも、日本では受け入れられないことがたくさんあり、それらを1つひとつ経験することで、やっとわかっていくという子ども時代でした。

海外から見ると日本は特殊なタコつぼ

私はいま、ジェンダーの分野で活動していますが、そこには帰国子女としての葛藤の経験が大きく影響しています。

日本は多くの場合、同じ人種ばかりが集まっていますので、どうしても考え方が偏っていて、みんなと同じでないと認められないというところがあります。そしてそこが、ジェンダーの問題を解決できないことにもつながっているのです。

女性たちが抱えている問題について、説明してもどうしても理解していただくことが難しい方もいらっしゃいます。女性としての権利を主張すると、「女性だけが良ければいいのか?」というご意見をいただくことも多いのが現実です。

アメリカに問題がないとは言いませんが、日本はジェンダーギャップ指数120位と、女性の地位がとても低い国です。にもかかわらず、そこに対する問題意識がほとんどありません。

日本のこういった面は、海外からはかなり特殊に見られています。私が子ども時代に経験した日本の教育も同じで、海外から見れば特殊なのですが、日本に来たからには、その特殊さに合わせなければならなくなるわけです。

しかし、私には日本を変えたいという思いがあります。そのためには、声を上げ続けなければなりません。私自身、ジェンダーの分野でもっと自分の意見を表明し、ピーターさんのように挑み続けることで、解決につなげなければと思っています。

声を上げるという面では、ALSもまだまだ理解されていない部分の多い難病です。

弊社は、女性中心で人工衛星の打ち上げプロジェクトに取り組むコミュニティ「コスモ女子」を主宰しています。「コスモ女子」では、今年4月に、ALS治療の研究開発のために活動されている「せりか基金」さんとコラボして、チャリティイベントを開催しました。

「せりか基金」とは、大人気コミック『宇宙兄弟』に登場する、伊東せりかというキャラクターのストーリーがきっかけで設立された基金です。せりかは、子ども時代に父親をALSで亡くしたことをきっかけに、「父を苦しめたALSをこの世からなくしてしまいたい」という信念のもとで医療の道を歩むという設定なのです。

もともと『宇宙兄弟』を読んだことから宇宙に興味を持つ人は多く、そこから「コスモ女子」に参加してくれた方も多いため、ぜひコラボさせていただきたいと考えました。

しかし、打ち合わせを重ねる中で、それまでのご経験から、ALSという病気について、誤解を招くような表現や間違った情報が伝わってしまうことを危惧されていることが伝わってきました。何より正しく情報が発信されることを大事にされているのです。

わたしたちも、イベントの開催にあたりALSについて勉強を重ねていく中で、難病の基金を立ち上げる難しさについてもいろいろ知ることができました。

まだ明らかになっていないこともたくさんあるという難病で、日々動けなくなっていくことに葛藤されている患者さんやご家族の方が実際いらっしゃるわけです。その葛藤を正しく理解しなければ、活動基金の意義についてもきちんと伝わりません。

『ネオ・ヒューマン』は、その点についても、本当によく理解できる1冊だと思います。

葛藤を乗り越えるVRの未来

弊社では、理系分野のコミュニティを主宰していることもあり、VRやAIには早くから注目してきました。

『ネオ・ヒューマン』には、ピーターさんとVR、AIとの融合が描かれていますが、やはり、飛躍的なイノベーションは、逆境や障害を乗り越えなければならないときにこそ生まれるものだと思います。

いまは、コロナ禍であらゆることにさまざまな制限のかかっている時代です。人と会えない、いろいろなやりづらさのある時にこそ、テクノロジーは発展するだろうと思います。

特に、VRの活用については、なにもALS患者さんだけに限ったものではないと思いました。

例えば、LGBTの方には、外見と中身が異なっていることが原因で、実生活において、つらい葛藤を抱えている方が大勢います。VRの世界が広まれば、そういった方々にとっても、自分の性別と一致した理想の外見で勝負するということが実現できるのではないでしょうか。

高齢者の方も同じです。これからは人生100年、120年まで生きるという時代です。しかし、いくら長く生きることが良いことだと言っても、体が動かなくなってしまったら、120年も生きたくはないなと思っている人は少なくないでしょう。

そこに、ピーターさんが描いたようなVRやAIの世界が実現すれば、どうでしょう。そういった世界を「怖い」と感じる方もいらっしゃるとは思いますが、私は、ポジティブに捉えていますし、長生きしたくなるのではないかと思います。

特に、日本人は、海外の人よりも外見を気にするところがあります。海外では、体形的にかなり太っても、気にせずにビキニの水着を着る人が多いのですが、日本人は、すこしでも体形が変化すると、人の目を気にして隠してしまうところがありますよね。

外見がちょっと優れていないという経験の積み重ねが、自信を失わせてしまう。それが引きこもりや、ひいては自殺につながってしまう場合もあるのではないかと私は思っています。

ですから、VRの世界が実現すれば、そういった問題が取り払われ、たとえ現実の世界でコンプレックスがあっても、自分の理想のアバターを使って活躍することで、自分のやりたいことを実現しようと思えたり、生きがいを感じたりする人が増えるのではないかと思うのです。

若い頃の容姿に戻りたい、と考える人もいるでしょう。葛藤を抱えている人が、テクノロジーの力でそれを乗り越えることができれば、本当に人生が楽しくなるのではないでしょうか。

そして、今の技術力ならば、近い将来、それが実現できるのではないかと私はずっと考えていました。

本書の最終章には、VRの世界の中で、ピーターさんとフランシスさんが会話している場面が描かれています。ここまでのことを実現してしまうほどの、お2人の愛と絆の強さには本当に感動するとともに、私の思い描いた世界がそのまま描かれていたことで、やはりテクノロジーには可能性があるんだと思いを新たにしました。

VRがジェンダー問題を解決する

VRの世界が広がり、外見を明かさずにコミュニケーションをとることが一般的になれば、仕事の面では、性別や年齢に左右されず、能力だけで評価される世界が訪れるのではないかとも考えています。

そして、そういった世界になったとき、私の取り組んでいるジェンダーの問題がどうなっているかは非常に興味がありますね。

例えば、採用では、いくら男女差別はしないと言っていても、実際には女性の採用率のほうが低いのが現実です。かつて、外資系企業の面接官の方から「能力だけで評価するなら、採用は9割が女性になる」とお聞きして、衝撃を受けたことがあります。しかし、現実には女性の採用は3割程度なのです。

そこには、女性は採用しても辞めてしまうからという背景もあります。特に日本では、結婚すると退職してしまう女性がいまだに少なくありませんし、私が本当に悔しく思っているところでもあります。

VRが発展して、外見も性別もわからない世界となり、面接も出社もVRで完結するという形が一般的になれば、男女どちらが多く採用されるのでしょうか。

コンプレックスや葛藤を抱えて、最初から「自分にはできない」と思い込んでいる人、年齢を理由にして、チャレンジしていない人などにとっても、チャンスが生まれて面白い世界になるでしょう。

現実の世界とVRの世界とでは、活躍する人がまったく違うという未来だってありうるかもしれません。本書は、病気や障害のある人、同性愛者に限らず、どんな人でも勇気をもらえる1冊だと私は思います。

(構成:泉美木蘭)

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