東芝公表の「調査報告書」は結局、何が争点なのか

昨年の定時株主総会の運営をめぐって東芝が揺れています(写真:ブルームバーグ)

東芝は6月10日、会社法316条2項に基づく調査報告書を公表しました。昨年7月31日に開催された定時株主総会が公正に運営されたか否かを主な調査対象とするものですが、その内容に衝撃が走りました。

約120ページに上る調査報告書の中で、特にインパクトがあったのは「圧力問題」です。すなわち、東芝がいわゆるアクティビスト(物言う株主)対応として、経済産業省に支援を要請。経産省は外為法(外国為替及び外国貿易法)に基づく権限発動の可能性などを背景として、東芝と一体となって対応し、株主に不当な影響を与えた、と指摘したことです。

外為法は、安全保障上重要な日本企業に対する外資による出資を、事前届け出の対象として規制しています。原子力事業を扱う東芝は安全保障に関するコア業種に指定されています。

経済産業相には、安全保障上の問題があれば事後的な株式の処分(売却)などの措置命令を出す権限があります。

届出や報告命令に従わない場合には刑事罰の制裁もあります。改正外為法が昨年5月から施行され、事前届け出の対象が上場企業の株式10%以上となる取得から、1%以上となる取得に引き下げられ、規制が強化されたタイミングでした。

定時株主総会が公正に運営されたものとはいえない

報告書では、東芝と経産省からの働きかけを受けた株主として、エフィッシモ・キャピタル・マネジメント(エフィッシモ)、3Dインベストメント・パートナーズ(3D)、ハーバード大学基金運用ファンド(HMC)が主に登場しますが、働きかけの方法や程度は株主ごとに異なるものであったとされています。

そして「東芝は、株主であるエフィッシモ、3D、及びHMCに対し、不当な影響を与えることにより本定時株主総会にかかる株主の株主提案権や議決権の行使を事実上妨げようと画策したものと認められ、株主提案権や議決権の重要性、さらにはコーポレートガバナンス・コードが、『上場会社は、株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事実上妨げることのないよう配慮すべきである』(補充原則1-1③)と規定していることなどを考慮すれば、本件調査者は、本定時株主総会が公正に運営されたものとはいえないと思料する」と結論付けています。

調査の発端は、株主であるエフィッシモが、昨年の定時株主総会の運営について、独立した第三者委員会による調査を求めたのに対し、東芝が応じなかったことです。そこで、エフィッシモら株主が東芝に対して臨時株主総会の招集を請求し、今年3月18日に臨時株主総会が開かれていました。

議決権の3%以上の株式を一定期間以上保有している株主は、会社法の規定により、臨時の株主総会の招集を求めることができます。そして、この臨時の株主総会においては、その決議によって、株式会社の業務や財産状況の調査者を選任することができます。

今回、調査者として選ばれたのは、前田陽司氏、木﨑孝氏、中村隆夫氏の3人の弁護士です。そのほかに12人の弁護士が補助者に起用されました。

調査者と補助者の弁護士は、東芝ともエフィッシモら調査を求めた株主とも利害関係がありません。調査費用についても、社会通念上合理的な範囲で東芝が支給し、東芝が支給を拒否する場合はエフィッシモがその不足分を補償する、という取り決めになっていました。

近年、不祥事が発覚した際に第三者委員会が設置されるケースが増えていますが、多くの場合は会社経営陣からの依頼に基づくものですので独立性の点でやや疑問があります。

これに対して、今回の東芝の調査は、株主総会で株主の意思に基づき決定した調査であり、調査者の独立性も確保されているので、東芝としても「株主側が選んだ弁護士が勝手に言っているだけだ」と突っぱねるわけにはいかないのです。

会社法上の問題点とは?

では、調査の対象となった株主総会が公正に運営されなかったとしたら、どうなるのでしょうか。

まずは、会社法の規定を見てみます。株主総会の決議の効力について、会社法は、株主総会の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なときは、株主は株主総会決議取り消しの訴えを起こすことができると定めています(会社法831条1項1号)。株主総会が公正に運営されていないとすれば、これに該当しそうです。

ただし、株主総会決議取り消しの訴えは、問題となった株主総会決議の日から3カ月以内に裁判を起こさなければなりません。今回は、問題となった2020年7月31日の株主総会の日からすでに3カ月が経過していますから、株主総会決議取り消しの訴えを起こすことはできません。

次に、役員と株式会社との関係を定めた規定があります。株式会社と取締役・執行役とは委任関係にあり(会社法330条、402条3項)、取締役・執行役は業務執行に当たり、善管注意義務(民法644条)を負っています。善管注意義務とは、委任を受けた人の能力などを踏まえて通常期待される程度の注意義務のことをいいます。

取締役や執行役といった役員などが善管注意義務に違反した場合には、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(会社法423条1項)。株式会社が退任した役員などに対して責任追及をすることがありますが、その場合の根拠がこの条文です。

また株式会社が現在の役員などに対して責任追及をすることは期待しがたいことから、株主が株式会社に対し、役員などの責任を追及する訴えを起こすことを請求できる規定が定められています。

この請求があった日から60日以内に会社が責任追及の訴えを起こさないときには株主自ら責任追及の訴えを起こすこと(株主代表訴訟)も認められています(会社法847条)。

加えて、役員などが職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、第三者に生じた損害を賠償する責任を負うという条文もあります(会社法429条)。

今回の調査報告書で問題となった株主の権利行使は、特定の株主の議決権行使が不公正に妨げられたというものですから、権利行使を妨げられた株主が「第三者」として役員などに対して損害賠償請求をすることは十分考えられるところです。

この場合には、議決権行使が妨げられた株主に生じた損害をいくらと計算して、それをどのように証明するか、という問題が残ります。

以上の会社法上の問題とは別に、東芝は上場会社ですから、コーポレートガバナンス・コードとの関係も検討が必要です。

順守しない場合にはその理由の説明が必要

コーポレートガバナンス・コードとは東京証券取引所が定める上場会社の行動原則です。法的な拘束力や罰則規定はありませんが、「コンプライ・オア・エクスプレイン」の考え方に基づき、企業に対して自主的な順守(コンプライ)を求めており、順守しない場合にはその理由の説明(エクスプレイン)を求めています。説明の内容や程度についても明確な基準はなく、最終的には株主などの判断に委ねられているものです。

コーポレートガバナンス・コード補充原則1-1③では、「上場会社は、株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事実上妨げることのないよう配慮すべきである」と定められています。

東芝としては、調査報告書が認定した事実をもってしても、コーポレートガバナンス・コードを順守(コンプライ)したという立場を取るのか、あるいは順守していないのであれば、その理由を株主などが納得できる形で説明(エクスプレイン)することが求められます。

調査報告書公表から現在までの動きを追ってみましょう。

東芝は6月10日に調査報告書を公表する際、対応については慎重に検討のうえ、後日開示するとしていました。そして6月13日、東芝は正式に「調査報告書を受けた当社の対応等について」を公表しました。

東芝は、「株主総会が公正に運営されたものとは言えないというご指摘については真摯に受け止めております」としたうえで、外部の第三者の参画も得て、すみやかに客観的、透明性のある徹底した真因・真相の究明を行い、責任の所在を明確化することを宣言しました。

具体的な対応としては、2021年6月25日開催予定の株主総会における役員候補者を変更しました。

東芝は5月14日時点で、すでに取締役13名の選任案を決定し、公表していましたが、調査報告書を受け、社外取締役候補者のうち太田順司氏、山内卓氏を再任せず、6月25日をもって任期満了で退任することとしました。

現在、太田順司氏は監査委員会委員長兼指名委員会委員、山内卓氏は監査委員会委員兼指名委員会委員であり、東芝の社内調査では不正を発見できなかった(あるいは公表できなかった)ことの責任を取った格好です。これにより取締役候補者は13名から11名に減りました。

また執行役選任予定者であった豊原正恭副社長、加茂正治上席常務も再任せず、6月25日をもって任期満了で退任することとしました。新たに、福山寛上席常務、谷尚史常務を執行役選任(再任)予定者としました。

上場会社が事前に公表していた役員候補者を直前になって変更するのは異例です。東芝は、従前の「不正はなかった」という立場を一転させ、調査報告書で名前が挙がっていた役職者の退任を早々に決定しました。アクティビストを含む株主に対して一定の回答を示したといえます。

もっとも、これで十分かというとそうではなさそうです。

取締役の再任に株主の理解が得られるか

アメリカの議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイスは、太田氏、山内氏だけでなく、取締役会議長の永山治氏、取締役の小林伸行氏、ワイズマン廣田綾子氏についても再任に反対することを推奨する声明を出しました。いずれも現在の監査委員会委員あるいは取締役候補者を選定する指名委員会委員です。

東芝は海外投資家比率が高く、特にISSは海外の機関投資家に対して強い影響力を持つと言われています。東芝が、現在の監査委員会委員あるいは指名委員会委員のうち一部についてはなお再任する方針としたことについて、株主の理解が得られるかどうかが注目されます。

6月14日、永山氏はオンラインで記者会見をしました。東芝において改善すべき点があることを認めつつ、2021年4月14日に辞任した前社長兼CEOの車谷暢昭氏の責任は決して無視できないものがあると述べました。

「法的責任はさておき」という留保はつけていましたが、今後の調査次第では、東芝として車谷氏の責任を追及する、あるいは現経営陣が株主から責任追及された場合には車谷氏を巻き込むという可能性もあるでしょう。

永山氏自身の進退については、「私としては今果たさなければいけないことに集中したい。実際の進退については6月25日の株主総会で問われる」と述べました。

このように、調査報告書の公表から日が経たないうちに目まぐるしく動きがあり、インパクトの大きさを物語っています。6月25日の総会直前に公表されたことも相まって、株主がどう判断するのか注目されます。

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