G7初陣の菅首相、「五輪開催支持に安堵」でよいか

イギリスで開かれたG7サミットで、イギリスのエリザベス女王(左から5人目)を囲む各国首脳。菅義偉首相(左から3人目)の存在感の薄さも目立った(写真:AFP=時事)

コロナ禍の中、2年ぶりの対面での先進国首脳会議(G7)がイギリスで開催された。菅義偉首相にとっても初めてのG7首脳との対面マルチ協議で、主目的だった東京五輪・パラリンピック開催への支持取り付けに何とか成功し、菅首相周辺には安堵が広がっている。

最大の焦点だった中国の軍事的拡大主義への対応についても、菅首相がバイデン大統領を後押しする形で首脳宣言での初の台湾明記にこぎつけた。政府与党内では、菅首相に付きまとってきた外交手腕への不安が「かなり払拭された」(政府筋)との声もあがる。

ただ、G7の首脳同士のさまざまな公開セッションでは、小柄で感情表現も控え目な菅首相が、各首脳の会話の輪に入れない場面も目立った。「初参加という点を割り引いても、先進国首脳としての存在感はかなり薄かった」(外交専門家)との指摘も少なくない。

写真撮影では「陰」の存在に

菅首相としては、五輪開催へのG7のお墨付きを得たことで帰国後の国内政局での主導権を強め、内閣支持率の挽回を狙う。しかし、17日にも最終決断を迫られる緊急事態宣言の解除手続きなどで迷走すれば、五輪開催の可否に絡めた政権批判が拡大する不安もぬぐえない。当面はG7出席の余韻に浸る余裕はなさそうだ。

今年のG7サミットは、イギリス南西部の保養地・コーンウォールで6月11日から開催された。コロナ対応のため同行する政府高官や記者団の数も制限され、コロナ禍前のようなお祭り騒ぎの雰囲気はなかった。

国際舞台への初登場となる菅首相は英語が不得手で、各首脳との当意即妙の会話は難しかった。パフォーマンスも苦手で、写真撮影でも多くの首脳の陰に隠れる場面が目立った。

一方、10日深夜(現地時間)に現地に到着した後は、議長役であるイギリスのジョンソン首相を手始めに、精力的に各国首脳との個別会談をこなした。バイデン大統領以外は対面での会談は初めてだったが、「すぐ打ち解けて、会話が弾んだ」(外務省筋)ことで、「首脳交流での個人的信頼関係の構築でも成果があった」(同)とされる。

菅首相の最大の目的はもちろん、開催まで40日を切った東京五輪へのG7首脳の全面的支持・協力の取り付けだ。初日の首脳会合で、菅首相は「大きな困難に直面する今だからこそ、世界が団結して難局を乗り越えていけることを日本から世界に発信したい」と五輪開催への決意を力説。各国首脳に「強力な選手団を派遣してほしい」と呼びかけた。

2日目の会合でも「万全の感染対策を講じて安心・安全な大会を実現する」とお決まりの言葉で決意表明した菅首相に対し、バイデン大統領が「オフコース・アイ・サポート・ユー(もちろんあなたを支持する)」と応じ、各国首脳も開催支持で足並みをそろえた。

2024年にパリ五輪を予定するフランスのマクロン大統領との個別会談で同大統領は、東京五輪の開会式出席を「楽しみにしている」と語った。アメリカは2028年のロス五輪を予定しており、米仏両首脳が東京五輪開催を支持したのは事前のシナリオどおりとみられる。

対中対応でも菅首相は「得点」

政府部内では「G7での五輪開催への発言ぶりは菅首相の判断」(外務省幹部)だったが、菅首相が各国首脳の開催支持取り付けに成功したことで、国内の反対論も抑え込めるとの声が相次ぐ。菅首相もG7閉幕後、記者団に「全首脳から力強い支持を頂いた」と満足気に笑顔を見せた。

五輪開催を前提とした観客制限についても「IOCや東京都、組織委員会などの5者協議で、国内感染の状況を踏まえ、他のスポーツイベントの人数の上限に準ずることを基本として6月に判断するのが基本」と述べ、観客を入れての五輪開催への手ごたえもにじませた。

菅首相は中国への対応でも「得点を稼いだ」(政府筋)という。アメリカが先頭となって進める厳しい対中外交を踏まえ、日米両国が求めた「台湾海峡の平和と安定の重要性」が首脳宣言に盛り込まれた。G7が中国と台湾の軍事的関係について宣言で言及するのは初めてだ。

この文言は、4月の日米首脳会談でまとめた共同声明に沿ったものだ。G7首脳会合での文言調整は日米首脳が随時協議したとされ、同行政府筋は「菅首相の貢献が大きかった」と胸を張る。

G7サミット閉幕を受け、ジョンソン首相は記者会見で「G7が民主主義と自由、人権の恩恵を世界に示す必要がある」と強調。これも踏まえ、菅首相は記者団に「普遍的価値を共有するG7として国際秩序をリードしていきたい」と語った。

菅首相は今回のG7サミット出席について、「集中的に準備を進めた」(側近)とされる。事前に会談した安倍晋三前首相からは「G7は用意されたメモを読むのではなく、自らの言葉で語る必要がある」との助言を受けた。

そうしたことも踏まえ、菅首相は記者団に「今回、初めてサミットに出て非常に家族的だった。人との付き合いは最初は下手なほうだが、みんな目的は一緒なので非常に力まず、言いたいことを言えたと思う」と述べ、「菅流外交」に自信をにじませた。

ただ、サミットにつきものの衆人環視の中での首脳交流では戸惑いを隠せない場面も多かった。首脳全員の記念撮影やエリザベス女王との懇談など、首脳だけが参加する行事では、他首脳がそれぞれにこやかに会話をかわす中、菅首相は会話の輪から離れて作り笑いのまま、1人でたたずむ場面が目立った。

サミット帰国後に迫られる「決断」

今回のG7サミットの主役は、菅首相とともに初参加となるバイデン大統領だったことは間違いない。トランプ前大統領とは逆に、G7を軸とする西側先進国の幅広い協力関係構築に舵を切ったバイデン氏を欧州首脳も歓迎したからだ。

バイデン政権になってさらに緊張感が増す米中関係に、欧州各国も対応せざるをえなかった。「日本は地政学的にも米中の仲介役になれる」(外務省幹部)ことが、対中外交での菅首相の存在感アピールにもつながった格好だ。

14日午後に帰国した菅首相は16日の国会会期末に向け、野党が要求する会期延長などへの対応を二階俊博幹事長らと協議した結果、会期を延長しない方針を確認した。20日に期限を迎える10都道府県への緊急事態宣言の扱いは17日にも最終決断する見通しだ。月末までには五輪開催時の観客上限などの決断を迫られる。

五輪開催の可否と絡む緊急事態宣言の解除について、菅首相はG7閉幕後、「客観情勢を踏まえながら、専門家ともしっかり相談して決めたい」と語った。ただ、焦点となる東京での1日当たり新規感染者数は下げ止まっており、「極めて難しい判断」(政府筋)を迫られるのは確実だ。

9日の与野党党首討論に続き、G7サミットも「何とか乗り越えた」(側近)格好の菅首相だが、政権の命運が懸かる「勝負の6月」はなおも続きそうだ。

ジャンルで探す