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横浜に登場「都市型ロープウェー」は世界で活躍

ロンドンの都市型ロープウェー「エミレーツ・エアーライン」(写真:PhenomArtlover/iStock)

コロナ禍で遠出が難しい昨今、「近場への旅」の需要が高まっている。そんな中、横浜のみなとみらい地区に2021年4月に開業した都市型ロープウェー「YOKOHAMA AIR CABIN(ヨコハマエアキャビン)」が注目を集めている。その路線延長は約600mと徒歩でも10分余りの距離だが、上空から景色を楽しむ観光需要で人気のようだ。

ロープウェーは山岳観光地やスキー場の足として使われることが多いが、近年は都市内の交通機関として導入される例も増えている。都市型ロープウェーは、街を横切る大きな川が流れている地域の道路渋滞を避けるなどといった目的で、両岸あるいは川岸と住宅地を結ぶ形で設けられていることが多い。

はたして世界各地にはどのような都市型ロープウェーがあり、どのように使われているのだろうか。

都市交通としても普及

ロープウェーは、鉄道やモノレールなどを敷設するのと比べ、圧倒的に工事費用が低廉で済むというメリットがある。空中を通るため土地の取得も少なくて済み、起伏の多い地形や大きな川をまたぐルートの建設も容易だ。

都市部の交通手段として導入例が増えているのも、そのような特徴を活かしたケースが多い。高地にあり起伏の多い南米ボリビアの首都ラパスでは2014年に都市型ロープウェーが開業し、現在では10路線・総延長30kmを超えるロープウェー路線網が広がっているほか、コロンビアの都市メデジンにも5路線の都市型ロープウェー網があるなど、新興国で都市交通としてのロープウェーが注目されている。

さまざまな海外の都市型ロープウェーでも、とくに有名なのはアメリカのニューヨーク(NY)にある「Roosevelt Island Tramway(ルーズベルト・アイランド・トラムウェイ)」、そして英国ロンドンの「Emirates Air Line(エミレーツ・エアーライン)」の2つだろう。

NYのルーズベルト・アイランド・トラムウェイは、マンハッタン島とその東側を流れるイースト川の中州、ルーズベルト島とを結んでおり、開業は1976年とすでに40年以上の歴史を持つ。

ニューヨークの「ルーズベルト・アイランド・トラムウェイ」はマンハッタン島とイースト川の中州であるルーズベルト島を結ぶ(写真: marcorstock/PIXTA)

940mの距離を定員109人の2台のゴンドラが往復し、所要時間は約3分。島に住む人々の通勤の足として使われているが、数々の映画にも登場するイースト川にかかる橋「クイーンズボロ橋」が真横に見られるとあって、観光客の利用も少なくない。

一方、ロンドンのエミレーツ・エアーラインは、現在の英国首相ボリス・ジョンソン氏がロンドン市長在任中、「NYのようなロープウェーを我が街に」と考え架設されたという経緯がある。ロンドン東部のテムズ川両岸を結んでおり、ドーム状のイベント施設「O2アリーナ」と、対岸の会議・展覧施設「ロンドンエクセル」があるローヤルアルバートドック周辺の住宅街をつないでいる。

ロンドンは小型ゴンドラが多数循環

こちらは大型のゴンドラが往復するNYと異なり、横浜のロープウェーなどと同様に小型のゴンドラが多数循環する「自動循環式ゴンドラリフト」というシステムを採用している。次から次へと定員10人のゴンドラが回ってくるため、少ない待ち時間で乗れるという利点がある。

ロンドンの「エミレーツ・エアーライン」は小型のゴンドラが多数循環するシステム。エミレーツ航空がスポンサーとなっているためこの名が付いている(筆者撮影)

開業は2012年で、同年に開催されたロンドン五輪の主要2会場を結ぶ目的もあって建設された。中東の航空会社であるエミレーツの名を冠しているのは、建設費4500万ポンド(約65億円)のうち、同社がスポンサーとして3600万ポンドを負担したという経緯による。全長は1kmで、ピーク時には両岸を5分で結ぶ能力があるが、普段は最長10分かけて運行している。川面からの高さが最高90mもあるので、天気がよければロンドン市内の眺望も楽しめる。

このような移動需要と観光需要を兼ねたロープウェーはアジアにもある。歴史の長いものとしては、中国の長江沿いの大都市・重慶にある長江索道が挙げられる。起伏の多い街の中で文字通り長江の両岸を繋いでおり、全長は1166m、2つの80人乗りゴンドラが行き来している。

長江索道の開業は1987年で、川の両岸を行き来する住民の足として建設された。だが、かつては交通機関としての利用が多かったものの、現在は橋やモノレールなど交通手段が充実したため、観光客向けの乗り物となっている。最高地点は水面から215mの高さがある。

中国・重慶の長江索道。長江の両岸を結ぶ交通機関として開業した(写真:plej92/iStock)

NYやロンドンのロープウェーは、観光客には都市景観を眺めるアトラクションとして親しまれている。例えばNYではゴンドラから眺めるマンハッタンの街並みや並行するクイーンズボロ橋は見応えのある風景だ。ロンドンでは、近くにあるロンドン・シティ空港へと着陸する旅客機がゴンドラの至近距離を通過していくシーンが見られる。一方で通勤など地元住民の移動にも使われる「交通機関」だ。

都市交通か観光の手段か

また、これらのロープウェーは日本でいえばSuicaやICOCAなどのような、地下鉄や市内バスなど都市交通で広範に使用できるICカード(NYはメトロカード、ロンドンはオイスター)を使って乗車できるシステムが整っている点も、都市交通の一部となっていることの表れといえる。したがってロープウェーに乗るために乗車券を買う手間がない。ICカードを持っていれば乗れるという利便性は外国からの訪問者にとってはありがたいシステムだ。

ロンドンのエミレーツ・エアーラインは交通系ICカードが利用できる(筆者撮影)

一方、横浜のロープウェーは都市型であり海をまたいではいるものの、距離が約600mと短いこともあり、移動手段というよりはやはり景色を楽しむ観光需要が主体だろう。交通系ICカードは使えず、一方でみなとみらいの名所である大観覧車とのセット券がある点も観光向けであることを示しているといえる。

では、横浜のように都市型だが純粋に観光向けといえそうな例はあるだろうか。欧州ではポルトガル北部の大都市・ポルトのドウロ川を挟んだ対岸の街、ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア(Vila Nova de Gaia、一般的にガイアと呼ばれる)のロープウェー「ガイア・ロープウェー(The Gaia Cable Car = Teleférico de Gaia)が近そうだ。

ガイア・ロープウェーは2011年に運行を開始し、全長562m、所要5分、8人乗りのゴンドラが循環する形で、規模的にも横浜に近い。

ガイア・ロープウェーが都市型ながら交通機関というよりアトラクション的な要素が強い理由は、1つにはポルト市内から直接結ばれていないという難点があるためだ。

ポルトガルの都市、ポルトの「ガイア・ロープウェー」(写真:brazzo/iStock)

だが、ガイアは世界に知られるポートワインの一大産地で、ドウロ川沿いには有名なワイン工場が立ち並ぶ。ゴンドラからはこうした工場群やドウロ川、さらに川にかかるドン・ルイス1世橋の景観などが楽しめる。運賃は片道6ユーロ(800円強)と横浜(大人片道1000円)に近い。

コロナの影響で1年以上運休していたが、5月1日から運行を再開。先に行われた欧州クラブサッカーの最高峰を競う、UEFAチャンピオンリーグの決勝をポルトで引き受け、推定1万2000人もの英国人ファンが押し寄せた。対岸にある観光地であるガイアは大いに賑わったことだろう。

コロナ禍で「ゴンドラ観光」人気に?

コロナ禍においては、「他人との距離」(ソーシャルディスタンス)をどう取るか、が人々にとって重要なポイントだ。そうした中、5月中旬から一部の国の観光客を受け入れ始めたロンドンでは、ロープウェーの人気が高まっている。

「自分たち1組ずつで乗れそう」と考える人が多いからか、とくにそうしたアナウンスもないにもかかわらず、平日でも行列ができるような賑わいぶりだ。実際に、ゴンドラは家族1組ごと、といったように他人との混乗を避ける形で乗車案内がなされている。しばしプライベート感を味わいながらの観光が楽しめるというわけだ。

観光客が列をつくるロンドンのエミレーツ・エアーライン乗り場=2021年6月(筆者撮影)

土地に慣れない観光客にとって都市の交通機関はわかりにくく、とりわけバスは「どこに連れていかれるかわからない乗り物」といえる。だが、ロープウェーはほかの軌道系交通と同様、確実に目的地に行けるというある種の「安定感」がある。さらに、ロープウェーは特徴ある地形や景観がある場所に架設されていることがほとんどで、乗り物に興味がない人でもツーリストアトラクションとして楽しめよう。一方、イタリアでは5月にロープウェーの落下事故が起きた。交通機関として普及するためにも原因究明と安全対策の徹底が求められる。

世界各地で都市型ロープウェーが注目される中、みなとみらいの風景を文字通り「高みの見物」できるヨコハマエアキャビンも順調に運営されることを見守りたい。

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