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「無意識の偏見」があのテレビCMの炎上を招いた

企業や自治体が宣伝する、CMやウェブ、ポスターは、ジェンダー問題の扱いを誤ると、あっという間に炎上する時代になった(写真:タカス / PIXTA)

「無意識の偏見」(アンコンシャス・バイアス)は危うい--。

企業のテレビCMやPR動画が、“炎上”する事例が増えている。ネットの普及もあって、視聴者の不快感に賛同・共感する、規模もスピードも増幅。またかと思いながら見ていると、ジェンダー(社会的な男女の性差)の観点から、いくつかのパターンがあることに気づいた。

あるターゲット層を明確にして、訴求することを目指したCMは、制作者の意図を浮き彫りにしている。そこでは男らしさや女らしさ、家庭のあり方が表されており、失敗例も少なくない。

過去の炎上CMは大きく4類型にパターン化される。図では、縦軸に“商品の訴求対象”を取り、上に「女性」、下に「男性」を置いた。横軸には“炎上ポイント”を取り、右に「性役割」、左に「外見・容姿」を置いている。問題視されてきたCMは、ほぼこのどれかに当てはまっている。

手作り料理が”母親の愛情”の証しなのか

第1象限は、訴求対象が「女性」で、炎上ポイントが「性役割」。例えば食品メーカーで、女性を応援したつもりなのに、実は性役割分業の押し付けと批判されたものである。男性の不在を前提に、家事育児に追われる女性を描き、炎上してしまうパターンだ。

ここで挙げるのは2012年に発表された味の素の企業CM。

テーマはあるお母さんの一日。朝、子どもたちの朝食と弁当を作るところから、保育所に送り、自分は通勤・就業した後、お迎えに行き夕食を作るところまで、映像が流れている。ご飯を作るお母さんの苦労に「ありがとう」とエールを送るCMである。

これにはもちろん肯定的な意見もあった。だが、なぜご飯を作るのがお母さんの“ワンオペ”なのか。なぜ手作り料理が母親の愛情の証しになるのか。

日本全国で母親(だけ)がご飯を作るようになったのは、高度経済成長期、サラリーマンと専業主婦の組み合わせが増えたから。たかだか半世紀にすぎない。また「食育」という言葉で伝統的な(?)和食を守り、外食したり総菜を買ったりすることに、罪悪感を覚えるのもおかしい。離乳食の手作りにこだわるのも日本だけだ。

第2象限は、訴求対象が「女性」で、炎上ポイントが「外見・容姿」。一方の価値を下げて、それを引き上げましょうと発信している。化粧品メーカーやファッション関連企業は、若さや美しさをよしとした物語を描かざるをえない。それを強調しすぎて、女性から批判を受け、炎上するパターンだ。

取り上げるのは2016年に発表された資生堂のブランド「インテグレート」のCMである。

25歳の誕生日を迎えて憂鬱そうな女性が、同性の友人2人からお祝いされるシーン。友人が「カワイイという武器はもはやこの手にはない!」と言い放った後で、だからカワイイをアップデートしよう、という前向きなメッセージのつもりだった。

しかし、今どき25歳を“賞味期限”とするような発信は、共感されない。年齢を区切ってかわいさを押し付ける点が批判され、資生堂は、「大人の女性になりたいと願う人たちを応援したい意図が十分に伝わらなかった」とのコメントを出す結果となった。

唇を強調、「殿方におもてなし」…

第3象限は、訴求対象が「男性」で、炎上ポイントが「外見・容姿」。男性の願望を前面に出したような、性的メッセージの強い内容が問題となった。公共性の高い団体がゾーニングを間違えて、広い層を意識せず発信し、炎上するパターンといえよう。

2017年の宮城県による「涼・宮城の夏」のCMが一例だ。タレント・壇蜜さんの唇の強調、「殿方に涼しいおもてなしをする」というせりふなど、どう考えても男性の目線から見た作りである。

おひざ元の仙台市長(女性)が不快感を示し、女性県議全員が撤回を申し入れた。村井嘉浩宮城県知事は話題作りに成功したとしたが、県が多くの女性から反発されるような観光キャンペーンは、賛否両論で済む問題ではない。

そして第4象限は、訴求対象が「男性」で、炎上ポイントが「性役割」。男性が家事育児をしない立場に居座っている描写で、自分の身勝手さには気づかず、炎上してしまうパターンだ。

例えば2017年の牛乳石鹼のウェブCM。息子の誕生日、父親はプレゼントを買ってくるよう妻から頼まれたが、会社でミスした後輩を慰めるため、仕事が終わった後に直帰せず居酒屋に行ってしまう。飲んで帰り風呂から出た後、妻に謝り、改めて家族で誕生日を祝い直すものだ。そして「さ、洗い流そ。」のテロップ。飲みニケーションで子どもの誕生日を犠牲にする感覚は理解不能である。

これらのCMでは男性がほとんど家事に関与しない。夜の家庭には父親が不在なことが前提となっていて、これで結婚生活を送れることが不思議だ。欧米ならこの段階で離婚になるだろう。

批判されると、制作側は「差別の意図はない」と釈明するが、意図があったらヘイトスピーチだ。未婚の女性が結婚相手の条件として求めるものは、1位の「人柄」を別とすれば、2位は「家事・育児の努力」で、3位が「仕事への理解」。これらをまったくわかっていないから、女性の怒りを買ってしまう。

歴史をさかのぼると、ハウス食品「シャンメン」のCMで、「私、作る人。僕、食べる人」が抗議を受け、放送中止となったのが1975年。40年近く経った2012年でも、味の素が、仕事も料理も全部女性がやるさまを描いた。40年間で女性の二重負担が生じただけで、男性にとって平日の夕食作りは最もハードルが高い。

これは長時間労働の裏返しで働き方改革とまったく逆行する。一方で父親の夕食作りを描いたCMは好意的に受け止められている。

CMは昔、テレビでないと見られなかったし、ピンポイントでCMだけ見ることもできなかった。それがSNSに上がる時代になり、YouTubeなどでいつでも誰でも、繰り返し見られるようになったため、爆発的に拡散し、燃え上がる構造ができている。

制作する広告代理店ですら気づかない

とくに公共団体の場合、民間企業とは気の使い方が一段違う。だがそのことに制作側の広告代理店が気づかないケースも多い。

2018年に東京都が実施した東京五輪・パラリンピック大会のアイデア募集キャンペーンもそうだ。文言にあった「僕らのおもてなし」「僕らのアイデア」で、「僕」とは男性が自分を表す代名詞だ。が、アイデアを募る対象は、男性だけではない。森喜朗発言で突如クローズアップされたが、ほかにもさまざまな問題が起きている。

ジェンダーについての無配慮は差別に直結する。知らなかったでは決して済まされず、企業も団体も、人権感覚をアップデートし続けることが不可欠なのだ。

『週刊東洋経済』6月12日号の特集は「これが世界のビジネス常識 会社とジェンダー」です。東洋経済では、あなたの身の回りのジェンダー問題についての情報提供を募集しております。「会社でこんな女性差別的待遇を受けた」「男性育休を推奨しているが、休業中にも業務メールが絶えない」など、お心当たりのある方は、以下の投稿フォームまでご意見をお寄せください。https://form.toyokeizai.net/enquete/tko2104b/

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