東芝、車谷氏退任後も悩まされる「株主との関係」

経営方針説明会に臨む東芝の綱川智社長(右)(写真:東芝)

車谷暢昭社長が電撃的な退任をしてから1カ月が経過した5月14日、東芝が経営方針説明会を開いた。

3年ぶりの異例の再登板となった新社長の綱川智氏が出席し、「私の最大の使命はすべてのステークホルダーとの信頼関係改善に全力で取り組むこと」と述べ、東芝経営陣と対立を深めているアクティビスト(モノ言う株主)との対話に意欲を示した。

イギリスの投資ファンド、CVCキャピタル・パートナーズが4月に行った東芝買収とそれに伴う非上場化という提案は暗礁に乗り上げたものの、東芝の経営をめぐる波乱はまだ収まりそうもない。突如浮上した「投資ファンドによる非上場化」という選択肢は、綱川氏率いる東芝経営陣に新たな悩みを突きつけている。

1500億円の追加還元を発表

この日発表した新たな施策のポイントは、戦略委員会の設置と1500億円の追加還元だ。

戦略委員会は、取締役会とは別に社外取締役のみで構成し、東芝の事業戦略と財務戦略について検証し、株主への説明も行う。追加還元は、東芝の考える適正な自己資本の額(約9800億円)より過剰になった分を株主還元する内容だ。

東芝の2021年3月末時点の自己資本は1兆1645億円。差額の1800億円から期末配当額(300億円)を除いた分を自社株買いなどに充てる。具体的な額や方法は6月に発表する予定だ。

モノ言う株主が求めるように、株主還元やガバナンスを強化したにもかかわらず、株主の不満は収まらない。説明会では大株主であるファラロン・キャピタル・マネジメントと3Dインベストメント・パートナーズが質問に立ち、いずれも厳しい要求を突き付けた。さながら6月25日に予定される株主総会の前哨戦の様相を呈した。

ファラロンと3Dが問題視したのは、CVCなど投資ファンドによる買収提案に対する東芝の態度だ。東芝は4月20日、「(CVCの提案は)客観的に見て具体的かつ実現性のある真摯なものではない」と表明、検討に値しないとして提案を退けた。こうした東芝側の態度を受けてCVCは「暫時検討を中断する」としており、提案は棚上げになっている。

買収となれば市場価格よりも高値で株を買い取ることになり、既存株主にとって悪い話ではない。CVC提案の買い取り価格は1株5000円だったが、それより高値で買収を提案する別のファンドが現れる可能性もある。そうした提案にどのように対応するのか問うたのだ。

説明会で3Dは、「東芝が非公開化提案を受け取ることに非友好的だという認識が広がっている。そうした状況下では(今後登場するであろう買収提案者が)実現可能性のある提案はできないのではないか」と指摘した。原子力や防衛など、安全保障にかかわる事業を抱える東芝を買収する場合、東芝の協力がなければ買収の検討は難しい。買収を希望するファンドに対してデューデリジェンス(買収先企業の資産やリスクの調査)に協力するかどうかもただした。

これに対し、綱川社長は「いろいろなところから検討していく」と述べるにとどめた。どのような提案が「客観的に見て具体的かつ実現性のある真摯な」(4月20日付の東芝ニュースリリース)ものなのかについても、「事業戦略や資金的なバックグラウンド、安全保障上の話はあるが、われわれも積極的にこうだというのは正直なかなか難しい」(綱川社長)と明確な回答は避けた。

社外取締役候補に疑問の声も

東芝のガバナンスに対する投資家の視線も厳しい。ファラロンは、東芝が株主総会に提案した新たな社外取締役候補に監査委員会委員長を務めた太田順司氏(元新日本製鐵常務)を入れていることを問題視した。

東芝の前社長、車谷暢昭氏は調達改革など固定費圧縮を進めた(撮影:梅谷秀司)

2020年7月の前回定時株主総会における太田氏の賛成率は59.58%だった。これは57.96%だった車谷氏に次いで低い。太田氏は株主総会前の東洋経済の取材に対し、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントの創業者である今井陽一郎氏を社外取締役として選任すべきとの株主提案に対し、「利益相反の可能性が出てくる」と発言したことから株主の不興を買っていた。

今回の説明会でファラロンは「株主からの信頼が著しく低い候補者を含めたことは、株主からの信頼を回復するという立場に沿っているとは考えられず、疑問だ」と問いただした。綱川氏は「候補者の推薦は指名委員会で決定した。太田氏には(取締役と兼任だった)監査委員会から引いてもらうことで指名委員会は配慮したと聞いている」と答えた。

買収提案について検討を求めるアクティビストからの批判をかわすには、業績を上げて株価を上げていくことが欠かせない。株価が上昇すれば、買収提案のハードルが上がるからだ。だが東芝自身、成長戦略を明確に描き切れていない。

綱川氏は車谷氏のもとで策定した再生計画「東芝Nextプラン」の大枠は変えないとした一方、にわかに脚光を浴びている脱炭素化に向けた戦略や、コロナ後の事業のあり方について計画をアップデートし、10月に2022~2024年度の中期経営計画として発表すると説明した。

東芝の脱炭素化関連のビジネスは順風とは言えない。5月11日にはアメリカのGEと洋上風力発電に関する戦略的提携契約を結んだ。洋上風力分野で世界3強の一角・GEと組むことで事業拡大を狙うが、「洋上風力設備の製造は儲からない。東芝は自社の工場の稼働を下げないためにやむなく手を組んだのではないか」(業界関係者)といった指摘もある。

ライバルの日立製作所はスイスの重電大手、ABBから送配電事業を1兆円で買収。エネルギービジネスの軸足を発電からシフトしつつある。4月にはシリコンバレーのIT企業、グローバルロジックを同じく1兆円規模で買収すると発表しており、攻勢が目立つ。

東芝は今回、1500億円を追加で株主還元すると提案したのも、裏を返せば買収などの成長投資には使わないことを意味している。「大型M&Aではなく、オーガニック成長とプログラマティックな(小規模な)M&Aを機軸とする」(綱川社長)という態度をとるのも、アメリカのウエスチングハウスなど過去の買収での巨額損失が今でもトラウマとして尾を引いている。

「ポスト綱川」は誰が担うのか

最大の課題は、ワンポイントリリーフとみられる綱川社長の後任として誰が経営の舵取りを担うのかだ。綱川氏は「経営の安定化を早期に実現させ、次の世代に引き継いでいく」とし、後継者選任の具体的な時期などは示さなかった。

車谷氏のもとで左遷された幹部を執行役員上席常務に呼び戻すほか、CVC幹部でもある社外取締役の藤森義明氏が退任するなどの動きはあるが、車谷氏がスカウトした幹部をやめさせるなど「車谷派の粛清」のような大規模な人事は発生していない。人事で社内抗争をするような余裕はなく、まずは全社一丸となった経営体制をどう作るかが焦点となるだろう。

同時に発表した2021年3月期決算は減収減益となったが、2022年3月期の売上高は前期比6.4%増の3兆2500億円、営業利益は同62.8%増の1700億円の増収増益を見込む。調達などを見直して固定費圧縮を進めた車谷改革の成果が出て、2022年3月期はほとんどの事業で目標としている部門利益率5%以上を達成する見通しだ。

車谷氏は株主との関係をこじらせ、波乱を残したままその座を明け渡したが、業績回復への一定の道筋を示したのも事実だ。新生・東芝は車谷氏が残したレガシーをどのように生かしていくかが問われている。

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