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中国の「アップルカー」目指すシャオミの野望

中国のスマホメーカーのシャオミは自動車領域に乗り出す。写真は同社の創業者、雷軍氏(写真:筆者提供)

10年前の2011年、iPhoneに似た格安スマホを黎明期の中国市場に投入し、「中国のアップル」と熱狂的な支持を受けたシャオミ(小米科技)。似ているのは製品にとどまらず、創業者の雷軍(レイ・ジュン)CEOは、派手なパフォーマンスとカリスマ性で「中国のスティーブ・ジョブズ」と注目された。

2021年に入りアップルがEVに進出するという噂が流れ始めると、シャオミの参入計画も浮上。雷CEOは3月30日、新スマホ発表会で自動車製造参入を正式に発表した。後発ながら値ごろな価格と優れたマーケティングでスマホ市場では世界4位に成長したシャオミ。その成功体験はEVでも達成できるのだろうか。

10年で1兆円超投資計画

プレスリリースや雷CEOの発表によると、シャオミは100億元(約1660億円)を投じてスマートEVメーカーを手掛ける全額出資子会社を設立する。今後10年で100億ドル(約1兆800億円)を投資し、最初の量産車を2024年に発売する計画だ。

テスラが2019年12月に上海工場を稼働し、「モデル3」を従来より低価格で供給し始めたのを機に、中国は第2次EVブームに沸いている。モデル3は、コロナ禍を脱した中国で売れに売れ、同社の時価総額は2020年の1年間で7倍に膨らんだ。テスラにつられるように、2018年にニューヨークで上場した蔚来汽車(NIO)も販売が伸び始め、資金繰りに苦戦していた理想汽車、小鵬汽車も一気にアメリカで上場した。

テスラバブルとそれに続く、前出のNIOや理想汽車、小鵬汽車といった「中国新興EV御三家」の経営好転を受け、iPhoneの製造で知られる鴻海精密工業(ホンハイ)、自動運転技術に投資を続けて来た検索ポータルのバイドゥがEV製造への進出を発表。ライドシェア最大手でソフトバンクグループと組んで日本にも進出している滴滴出行(DiDi)も配車専用EV参入を正式に表明した。

アリババやファーウェイも自動車メーカーと提携し、「IT企業が自動車を語らないのは時代遅れ」(ファーウェイの胡厚崑副会長)とまで言われる状況になっている。

EV市場に参入しているのはIT企業だけでない。今年は不動産コングロマリット恒大集団傘下の恒大新能源汽車集団が最初の車種の発売を目指しているが、すでに「後発で入り込む余地があるかどうか」と疑問を持たれている。鴻海、バイドゥはいずれも自動車メーカーと協業しており、シャオミより早くEVを発売する公算が大きい。

これらの企業に比べて体力面で見劣りし、かつ後発にもかかわらず、シャオミの話題性は極めて高く、EV事業の成功可能性を巡る議論がヒートアップしている。

シャオミは多くのファンを抱える

注目される理由は、シャオミがスマホや家電商品を通じ、「米粉(ミーファン)」と呼ばれる多くのファンを抱えていることにある。Xiaomiスマホに搭載されている独自OS「MIUI」の月間アクティブユーザー(MAU)は4億人に迫る。

雷CEOはシャオミカーについてSNSで投票を実施し、45%がセダン、40%がSUVを希望し、希望価格帯は10万~30万元(約170万~500万円)との結果を披露した。鴻海やバイドゥはメガIT企業ではあるが、消費者のファン基盤はない。先駆者のテスラと競争できる中国メーカーは当面現れないだろうが、対アップルで見ると、共通点が多いシャオミはライバルとして認められやすい。

また、シャオミのファンはガジェット好きの若い男性に集中している。スマホ事業では、ビジネスパーソンや女性にどう食い込むかが課題だったが、市場の空白が多いEVについては「若者セグメント」でシェアを取り、裾野を広げることが期待されている。

雷CEOは投資家としてもその眼力が高く評価されており、中国メディアによると、IT業界では「経験豊富で慎重な雷CEOが熟慮を重ねて決断した以上、勝算があるのだろう」との見方が多いという。

雷CEOは進出表明時に「(シャオミを創業した)10年前と同じような勇気、覚悟、そして体力があるのか、自問自答を繰り返した。これまでの75日に、200人以上の自動車業界関係者と意見交換し、取締役会で2度議論し、自動車製造参入を決めた」と語った。

今年初めにシャオミの自動車進出の噂が流れ始めて以降、雷CEOが長年にわたって自動車分野で布石を打ってきたことも、徐々に明らかになった。中国の第1次EVブームは大気汚染が社会問題化した2013年、政府が新エネルギー車購入に補助金を導入したことで火がついた。

雷CEOの行動がテスラのブランド力向上に

雷CEOはその年、テスラの創業者イーロン・マスクCEOと会い、モデルSを4台購入してうち2台を起業家仲間に贈った。起業家の「兄貴」「メンター」的存在として人望を集めていた雷CEOのこの行動で、テスラが中国IT界隈でブランド力を高め、さらにはIT経営者のEV業界転身につながったと言われている。

先に紹介した中国新興EV御三家の創業者はいずれもIT業界出身で、そのうちNIOと小鵬汽車については、雷CEO自身が設立したファンドやシャオミを通じて創業当初から資金面でサポートしてきた。NIOが2016年11月に最初のEV「EP9」を発表したときは、雷CEOは1億円超という価格にもかかわらず即購入した。2020年に小鵬汽車が上場したときにも、セレモニーに駆け付けた。

雷CEOのファンドは、他にも多くのEV関連企業に出資している。今年2月にはシャオミが無線通信ネットワーク、デジタルデータ送信、交通制御システム、距離測量、ナビゲーションシステムなど、自動車関連の特許を834件保有していることも明らかになり、雷CEOが中国の先駆者の挑戦を支えながら、EV業界の洞察を続けてきたことが裏付けられた。

ではシャオミの弱点やリスクは何か。後発であることは先に述べた通りだが、同社にとってより大きな不確定要素は、ファーウェイ(華為技術)の動向だ。

シャオミは2011年に最初のスマホをリリースし、破竹の勢いで成長。一時は中国首位、世界トップ3に躍り出て、2015年には7000万台を販売した。だが、その後は右肩下がりとなり、2018年の販売台数は5200万台まで減少した。

スマホが普及するにつれ、中国メーカーのファーウェイがハイエンド端末、OPPO、vivoが若者向け入門機でシェアを高め、「コスパが売り」のシャオミが相対的に埋没したからだ。インドなど新興国では相変わらず強さを見せるものの、目標のハイエンド化は道半ばにある。

シャオミの2020年12月期の売上高は2459億元(約4兆1016億円)と前年比19.4%増加、調整後純利益は前年比12.8%増の130億元(約2168億円)だった。売り上げの60%を占めるスマホ事業の売上高は同24.6%増の1522億元(2兆5569億円)だった。直近の数字は絶好調だが、その要因は同社自身の功績というよりは、ファーウェイがアメリカの規制で身動きが取れなくなったという「敵失」が大きい。

ファーウェイが短期間で息を吹き返せば、リソースがスマホ、EVに分散されるシャオミにとっては大きな圧力となる。

ファーウェイも自動車部門を創設

また、ファーウェイも自動車部門を新設し、新たな事業の柱に育てようとしている。スマートカー部門で技術を統括する李暁駿CAO(Chief Architect Officer)は4月22日、日本人有識者向けの説明会で「ファーウェイのスマホは2万元(約33万円)でも売れている。自動車を造ったなら高くても売れるだろう。自動車メーカーに安心してもらうために、造らないが」と誇った。

シャオミは「人気の中国ブランド」としてアップルやテスラとはすみ分けできるが、ファーウェイが製造に参入した場合はスマホ同様に巨大なリスクとなる。

「高コスパメーカー」というシャオミのわかりやすさは、市場が未成熟な時期は追い風になるが、消費力が向上し、EV市場が成熟期を迎えるステージに入ってもブランドイメージを変えられないなら、スマホ事業と同じ罠に落ちるかもしれない。加えてシャオミの業績もEV参入も、ファーウェイの動きに大きく左右される。

40歳でシャオミを創業した雷CEOは51歳になった。自動車事業は「人生のすべての成果と名誉を懸けた、最後の重要プロジェクト」だという。成功するかは未知数だが、車両のコンセプトすら明かされない段階で、既に台風の目になっているのは間違いない。

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