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駅の危険な「撮り鉄」、鉄道会社は規制できるか

普段は平和に見える駅も、車両の撮影のために人が殺到すると危険な場所へと変わりうる(編集部撮影)

京浜急行電鉄の新造車両「1000形1891編成」が話題だ。ロングシート・クロスシートに切り替えられる回転式座席や車内トイレといった同社初の試みに加え、前面展望席など私たち鉄道趣味者にとってもうれしい設備が用意されている。

だが、その新造車両に関連して、こんな話を聞いた。3月下旬のある夜、試運転の様子を撮影しようと、金沢文庫駅のホームにいわゆる「撮り鉄」数十人が集結。中には黄色の点字ブロックの外側へ三脚や脚立を置き、線路側へ大きくはみ出してカメラを構える者もいた。そのため入ってくる列車は手前で一旦停止したり、危険回避のために徐行したりせざるえなかったという。

一般の利用者からも「人があふれていて危ない」との声があり、複数の駅係員が駆けつけて何度も注意したが無視された。それだけにとどまらず、「邪魔だ!」という罵声や乗務員の職務を侮辱するような暴言まで浴びせられたそうだ。

駅構内は撮影しやすい場所

最近、駅構内での「撮り鉄」の危険な行為やトラブルに対する批判的な意見があちこちから聞こえてくる。そんな話を聞いて2つ思い出したことがある。

まず1つ目。1990年代のある夏の夕方、私はA鉄道の駅にいた。駅務室からは再放送の時代劇のものと思われるテレビの音声が聞こえてきている。のんびりしていると、突然駅務室から係員がやってきた。怖い顔をしている。

「駅の中で写真撮ってもいいけど、タブレット交換のときとか社員の顔写らんようにな」

その時点でまだ撮影をしていない。何でこんなことを言うんだろうな、と思いはしたが、「わかりました」と答えた。

もう1つは2000年代のある春の日の朝、私はB鉄道の駅にいた。タブレット交換や腕木信号機の撮影などをしていたが、タブレット交換のときに係員が撮影をしやすいようにタブレットキャリアの向きを調整してくれたりした。駅構内でも「こちらにおいで」といろいろ写真を撮らせてくれた。

B鉄道での対応はありがたかった一方、A鉄道で係員から注意されたときには、私は「なぜこんなことを言われなければならないんだろう」と心の中で反発した。しかし、B鉄道の対応はむしろ例外であるし、A鉄道の係員も注意はしても駅構内で写真撮影することまで禁止はしなかった。

一部例外はあるにせよ、過去、現在において駅構内での撮影は許されてきた。時に係員が撮影に対して配慮してくれることもある。昔国鉄がキャンペーンを展開した「いい旅チャレンジ20,000km」では、対象線の起点と終点の駅名標とともに参加者が写真を撮るということを条件としたから、むしろ鉄道側も駅構内での撮影を前提としていたともいえる。

乗客や係員の姿と列車がある駅は鉄道写真の撮影ポイントであるし、いわゆる車両の形式写真撮影にもホームでの撮影はうってつけである。しかも、駅構内に入場するのには入場券かきっぷを持っていればよく、複雑な受付も不要である。鉄道写真を撮る者からすれば駅は最高の撮影ポイントの1つである。

管理権は鉄道会社にある

しかし、あくまでも駅構内の管理権は鉄道会社にある。駅構内をどのように利用し、利用させるかの第一次的な判断権は鉄道会社にある。通常、駅構内に正当に立ち入ることのできるきっぷを持っている者の入場を拒絶することはないが、それは“駅を利用してくださるお客様”だからであって、列車を撮影してもらいたいからではない。

鉄道写真を駅構内で撮影できるのは、あくまでも構内の管理権を持つ鉄道会社の厚意ということを今一度考えるべきである。有効なきっぷを持っていたとしてもそれは輸送や入場の対価を支払っているだけであって、傍若無人に駅構内で振る舞える権利を鉄道会社から購入しているわけではない。

無人駅であっても同じである。無人駅では改札口できっぷを確認することはなく、立ち入りについてはフリーパスのことが多い。しかしだからといって無制限に許しているわけではないし、好き勝手することまで許しているわけではない。たとえば無人駅のホームで無許可でバーベキューなどしていいはずがない。

なにかあったときの鉄道会社の負担から考えてみる。

駅構内で事故が発生して死傷者が発生したり、利用者の物が破損したりするようなことがあれば、鉄道会社が責任を追及されることもありうる。もちろん、駅は列車が高速で行き交う場所でもあり危険な場所であることは利用者も認識しているべき場所だから、鉄道ファンを含め駅のホームから人が転落したり触車したりして人的物的被害が生じた場合でも、鉄道会社が管理を怠っていなければ鉄道会社が責任を負わされることにはならない。

しかし、仮に鉄道会社に対して裁判が起こされれば、結論で鉄道会社が免責されたとしても、解決までに無用な時間と費用がかかる。日々裁判業務を行っている私からすれば、可能なら裁判など起こさない、あるいは起こされないに越したことはないとつねに思っている。裁判を起こさなくても済むよう、起こされなくても済むように事前に準備・対応をすることこそが重要である。

危険の芽を摘むのは当然

また、裁判などの法的紛争に発展しなくても、事故や支障が起きれば列車を止めなければならない。復旧作業もしなければならない。鉄道会社にとっては負担である。鉄道会社からすれば事故が起きないように少しでも危険の芽は除去したいと考えるのは当たり前である。

鉄道写真の撮影を駅構内などで許すことについて、鉄道会社の負担が大きく、危険が除去されず、利用者の批判的な声が大きくなるなら、駅の管理権を持つ鉄道会社の判断として、駅構内では許可を得た人以外は撮影禁止とされても文句は言えない。

観光列車も増えてきた今では記念撮影もあるだろうから、“許可者以外駅構内全面撮影禁止”とするのは難しいところも多いであろう。しかし、たとえば、撮影禁止場所を増やすとか、人が集まる可能性のある列車の運転日、運転時刻にあわせて、場所や時間を限定して撮影禁止とするという方法もある。

刑法第130条には不退去罪の規定(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)があり、人が管理する建造物から要求を受けても退去しない場合には犯罪を構成することになるから、撮影禁止に従わず退去を求めることについて法的な裏付けもある。

また、駅係員や乗務員への暴言は侮辱罪(刑法第231条・拘留または科料)、業務の支障となれば威力業務妨害罪(刑法234条・3年以下の懲役または50万円以下の罰金)に問われる可能性がある。

なお、車内の秩序を乱すようなことがあった場合には、鉄道営業法により係員がその旅客を車外または鉄道の敷地外に退去させることができる(鉄道営業法第42条第1項第4号)。

趣味の行為を法律で縛るのは不粋かもしれない。それはわかっている。私も今までどおり駅構内で鉄道写真を撮りたいと思っている。しかし今や、デジカメやスマホが普及して撮影のハードルが下がったからか、「撮り鉄」だけでなく鉄道趣味者でない人の撮影でも危険な行為を見ることがあり、このままでは駅構内を含めて撮影禁止場所が増えても仕方ないのでは、と危惧する。

最低限の礼儀は払うべき

冒頭の京浜急行電鉄のケースは、そもそも個々人の趣味にすぎないことで、どうして現場の係員に威張れるのか鉄道愛好家の一人として理解に苦しむ。鉄道会社にも最低限の礼儀を払わないと、ますます自分たちの首を絞めることになっていくだろう。

「撮影マナー」という言葉をよく聞くが、マナーは法律と異なりペナルティの裏付けのない紳士協定である。紳士協定は関係者が意味を理解して自発的に守ることが前提である。それができないなら、もはやマナーなどというぬるい言葉で訴えるのでは足りなくなる。

法律が振りかざされ、「駅構内撮影禁止」などという掲示がされる日を迎えないために、私を含め鉄道趣味者の一人ひとりが今一度自分の行為を顧みてほしいと思う。

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