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本当に日本より充実?欧州鉄道のバリアフリー

ドイツの高速列車ICEの乗車風景。段差は車いすユーザーだけではなく、高齢者にとっても大変なものだが、改善することは難しい(筆者撮影)

車いすユーザーのコラムニスト伊是名夏子氏が、JR伊東線の無人駅、来宮駅を利用しようとした際のJR側の対応に問題があったとして、自身のブログを通じて指摘した内容が波紋を呼んだ。

その賛否とは別に、今回の議論で筆者が非常に気になったのは、「海外では事前連絡などしなくても利用できる」「日本はバリアフリー対応が遅れている」という意見を非常に多く見かけたことだ。

とりわけ、海外の中でも福祉に力を入れていることで知られる北欧については、「車いすで行けない場所などない」などと礼賛するコメントや記事が散見された。

「北欧は完璧」は本当か

これには強い違和感を覚えた。確かに、北欧は税金が高く、その税収をもって福祉サービスや医療制度を充実させていることは有名だ。しかし、北欧をはじめヨーロッパ各国はどこでもバリアフリー設備が充実し、公共交通機関の車いす対応が完璧かといえば必ずしもそうではない。

そこで、北欧やヨーロッパ各国の車いす利用者に対する対応やバリアフリーの状況はどうなっているのか、いくつか代表的な事例を紹介していこう。

あらかじめ申し上げておくと、筆者は海外の事例を紹介したうえで「日本はこうあるべきだ」などと断じる気はまったくない。だが、他国の状況を知り、自分たちのところはどうなっているのか、どこをどう改善していけばいいか考えることは決して悪いことではないはずだ。

まず、北欧各国における鉄道利用時の規約について紹介しよう。これらはいわゆる「国鉄」、日本のJRに相当する鉄道の規約で、地下鉄やトラムなど、地域輸送における規約は少々異なる。

【フィンランド】
・サポートが必要な場合カスタマーサービスに36時間前までに電話でスタッフ予約
・利用できる駅は限定
・乗車列車やどんなサポートが必要か事前に伝える
・サービスの利用は無料
・遅くとも20分前までには駅に到着する必要がある
・セキュリティ上の理由でアシスタントが車いすへの乗降をサポートすることはできない
【ノルウェー】
・24時間前までに電話で予約が必要(無料)
・主要駅のみサポートが可能
・どこまでのサポートが必要か事前に伝える
・車いすの形や重量など詳細が必要
・乗降サポートのみ必要な場合は予約不要、ただ事前連絡が望ましい
・要件を満たしていない利用者は乗車できず、代替輸送サービス(ほかの交通機関)の提供もできない
【スウェーデン】
・24時間前までに予約が必要(無料)
・すべての駅でのサポートは不可
・すべての車両に車いすスペースはない(一部利用不可)
・車いすの形や重量によっては乗車不可(採寸は利用者自身の自己申告制)
・要件を満たしていないことが現場で判明した場合、乗車を断る場合がある
・車いす利用の場合、ほかの荷物は20kg×2までに制限
【デンマーク】
・12時間前までに電話による事前予約(無料)
・主要駅のみ対応可能
・列車/ホームでのサポートは運転士が行う
・一緒に持てる荷物は20kg1つまで

鉄道が「主要交通」ではない

北欧4カ国の鉄道利用の規約を見ると、サポートにはすべて事前の予約が必要となっている。

デンマークの長距離列車。低床車も導入されているが全車両ではなく、大きい荷物を持っていると健常者も乗り込むのに苦労する(筆者撮影)

北欧各国は、確かに首都やそれに準ずる大都市においては、公共施設や街中の建物に至るまで、どこもほぼ段差もなくバリアフリー対応になっている。だが、鉄道は地方のローカル駅の場合は対応できない(限られた大きい駅のみ対応可能)と公式ホームページに明記している。

北欧については、そもそも鉄道がこれらの国の主要な交通機関ではなく、日本のように網の目のように路線網が発展しているわけでもないので、サポートが必要な人の大半は自家用車、もしくはタクシーで移動している点が日本とは異なる。

目的地の状況によって、鉄道は最初から選択肢から外れる、というわけだ。

フィンランド在住17年のライター、エッセイストの靴家さちこ氏によれば、フィンランドでは医療関係で移動する場合に限り、前日14時までに予約することでタクシー代への補助が出るそうだが、これが意外にもルーズで、きちんと確認しなければ忘れていたり、平気で時間に遅れて来たりすることもあるそうだ。

もちろん、高い税率と引き換えに充実している社会サービスは多々あるが、この話を聞けば車いす利用やバリアフリーに関して「福祉の充実した国家」という、北欧地域に抱いていた「究極の理想社会」というイメージが幻想だったと感じる人も多いことだろう。

北欧以外の各国も、いわゆるサポートが必要な場合は最短でも3時間前までに事前連絡が必要で、無人駅でのサポートはしていない国がほとんどだ。大きな駅でも必要な人員をすぐに揃えられるほど人手が多くないことに加え、地方の無人駅の場合はサポート係を派遣するだけで何時間も要するような場所が多く、車で移動するほうが合理的という理由による。

ホームの高さや施設の古さもネック

ヨーロッパ各国の鉄道でもう1つ大きな問題があるとすれば、ホームの高さがまちまちで、列車のステップの位置とまったく合わない点だ。日本のように車体の床の高さにきっちり合わせた高いホームはまれで、ブロック1個分程度の高さしかない駅もある。低床車両を導入している国も多いが、たいていは駅ごとに高さがバラバラなので、結局段差が生じてしまう。

ドイツのローカル列車に装備された電動ステップ。大都市近郊ではホームの高さも車体に揃えられ、車いすでの乗車に不自由はない(筆者撮影)

この場合、とくに無人駅でのサポートは期待できないが、引き出し式スロープで対応可能な場合は、運転士が下車してスロープを設置することはできる。だが、駅に車いす対応のスロープやリフトがあるかどうかは別の問題だ。車両自体の床を低くする低床式車両とは逆に、車両の高さまで昇降するリフトを用意している国もあるが、この利用には事前予約が必要とされる。

ロンドン地下鉄の一部の駅は車両床面より高いホームがあり、乗車に注意が必要だ(筆者撮影)

地下鉄のように、利用の際にほぼ必ず段差がある交通機関では、地上からホーム階までエレベーターや昇降装置が設置されているところが多い。だが歴史が古い都市では設置されていない駅が多い。構造上設置できないのだ。

英国の首都ロンドンに地下鉄が開業したのは、日本の鉄道より前の1863年だ。とくに1890年以降に建設された、大深度地下を通過する「チューブ」と呼ばれる路線は、まるでモグラやアリの巣かと思うほど複雑に入り組んでおり、その後建設された新しい路線や上下水道を避けながら新たにエレベーターを設置することはほぼ不可能である。

皮肉なことに、建設年代が古い都心部ほどエレベーターが設置されている駅が少ない。日本で言えば銀座や日本橋に匹敵する繁華街のピカデリーサーカス駅にも、一切のバリアフリー設備がない。

そこでロンドンでは、地上を走る路線バスをすべてスロープ付き低床車両に切り替え、地下鉄乗車が困難な場合、中心部へはバスを使うよう呼びかけている。

ロンドンバスは後ろのドアにスロープがあり、乗車した正面に車いすスペースがある。車種にもよるが、2台くらいは搭載可能だ(筆者撮影)

中心部は渋滞が多く、少々時間がかかるのが難点だが、本数は非常に多く利便性は悪くない。苦肉の策ではあるが、代替交通としてバスという選択肢が提供されており、無策というわけではない。

このように、決してヨーロッパの鉄道はバリアフリー化が完璧とはいいがたい。一方で、実際にヨーロッパに住んで筆者が感じることは、設備が不十分でも困っていれば周囲の人が快く手を差し伸べてくれるということだ。筆者は車いすユーザーではないが、ベビーカーを押して地下鉄に乗っていると、階段付近では誰かしらが声をかけてきた。困っている人がいれば自然と声をかけるような世の中になっていると感じた。

鉄道が困難なら他交通機関と連携を

理想は、車いす利用でも誰のサポートも要らず、誰に連絡することもなく、事前の調べなしでも自由に移動できる世の中である。その点に筆者も異論はない。だが、実際にはすぐに対応するのは難しい。1日の利用者が1000人以下の小さな駅もすべてバリアフリー化を実施するのか、その場合財源をどうするのか、そして対応が難しい駅は廃止するのか、など課題は山積みだ。

バリアフリーに対応していない田舎の駅が廃止されることは欧州で現実に起こっている。もともと利用者数が少なかったこともあるが、特急停車駅以外はすべて廃止して特急以外のローカル列車が走っていない路線もあり、そこではローカル列車の代わりにバスが運行されている。鉄道での対応が困難なところはバッサリとカットして、代替手段を用意することも、今後の選択肢の1つとなるだろう。

ドイツ各都市の路面電車は、多くの車両が低床式となっている。写真はヴュルツブルクの車両。車いす利用者のためのスペースが確保されている(筆者撮影)

今回のケースにおいて、JRはバスかタクシーの利用を求めたという。だが、地域の路線バスが車いす対応の低床車を運行しているかどうかが問題だ。

熱海・来宮周辺を運行する伊豆箱根バスへ電話取材したところ、同社の保有する路線バス全体の約6割が車いす対応の低床車となっているという。

ただ、海外の場合は鉄道やバスなど地域内の公共交通を同一の事業者や共同体が運行しているケースが多く、そのためにトータルな案内や乗り継ぎができるという面がある。日本は各交通機関が独立した企業で、他業種についてはほぼ関知しない。

まずは、地域ごとに地元の交通企業と連携して適宜誘導することができれば、バリアフリーの面でも利用しやすい公共交通機関に近づくと言えるのではないだろうか。

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