新型コロナ 最新の感染状況や対応は

菅首相、「日米首脳会談で政権浮揚」の思惑外れ

訪米してバイデン大統領(右)と会談した菅義偉首相(左)(写真:AFP=時事)

コロナ「第4波」の最中に菅義偉首相が満を持して敢行した訪米と日米首脳会談に対する評価が割れている。

菅首相は「バイデン大統領との個人的な信頼関係を構築するとともに、日米同盟の結束を国際社会に力強く示すことができた」と自賛した。しかし、アメリカが進める対中国戦略に踏み込んだことで「巻き込まれリスク」(閣僚経験者)が生じたことに加え、バイデン大統領が東京五輪・パラリンピックへのアメリカの参加を確約しなかったことなどで不信や不安が広がっている。

支持率上向かず、政権運営に黄信号

菅首相は訪米日程の最後にファイザー社のCEOと電話会談し、コロナワクチンの数量追加と前倒し提供の約束を取り付けた。ただ、国内の接種体制は未整備で、日本の対象者のほぼ全員分を9月末までに確保できても、接種完了は2022年春との見方も出ている。

菅首相は当初、大都市圏などにまん延防止等重点措置を適用して感染再拡大に歯止めをかけ、日米首脳会談で外交成果をあげることで政権を浮揚させることを目指していた。しかし、コロナ感染は収束せず、訪米後の世論調査でも支持率は横ばいのままだ。

しかも、菅首相は帰国直後から、感染爆発で医療崩壊に直面する大阪や、感染拡大が止まらない東京などへの対応を迫られ、三度目の緊急事態宣言発令が確実視される。それに伴い、東京五輪開催への環境も一段と厳しくなり、菅首相の政権運営にも黄信号が点滅している。

菅首相は4月15日夜に政府専用機で羽田を出発、16日午後(日本時間)にワシントン入りし、17日未明(同)にホワイトハウスでの日米首脳会談と共同記者会見に臨んだ。帰国は18日午後で、「2泊4日の強行日程」(外務省筋)での初訪米となった。

政府が切望したバイデン大統領との一番手の会談という名誉を獲得。さらに、互いにファーストネームで呼び合う「ヨシ・ジョー」関係を構築したことで、首脳会談後は菅首相も高揚感を隠せなかった。

しかし、会談後の日米共同声明などで、バイデン大統領が推進する対中国包囲網への「日本の参画が明確になった」(外交専門家)ことで、日米関係は新たなステージに踏み込んだ。

その象徴となるのが1969年の佐藤栄作首相とニクソン大統領の首脳会談以来、52年ぶりとなる共同声明での台湾明記だ。「台湾海峡の平和と安定のため」と記し、台湾はすぐさま歓迎、中国は猛反発する談話をそれぞれ発表した。

台湾明記で米中対立の最前線に

日中両国が帰属を争う尖閣諸島に、日米安全保障条約第5条を適用することも再確認。菅首相は「さらなる日米同盟強化」と胸を張るが、アメリカの対中戦略へ日本が組み込まれることは「(バイデン大統領との)初対面会談実現の対価」(自民幹部)とみる向きが多い。「近い将来に想定される台湾有事の際は、集団的自衛権による自衛隊出動も避けられない」(同)との指摘も出る。

地政学的に日本が傍観を決め込むことができた東西冷戦下の佐藤・ニクソン会談と違って、今回の台湾明記は「日本が米中軍事対立の最前線に立たされる」(防衛庁幹部)ことを意味するからだ。

今回の首脳会談は「テタテ」と呼ばれる通訳のみの2人だけの会談が約20分間。その後の少人数での会合と拡大会合で合計2時間半となった。ただ、首脳会談とセットになるはずの大統領主催の晩餐会は、コロナ対応を理由に行われなかった。

菅首相が重視したテタテ会談では、双方が地方議員出身のたたき上げとしてトップに上り詰めるまでの経験を語り合い、すぐさま打ち解けたという。菅首相は「ハンバーグ(ハンバーガーの間違い)にも手を付けずに話し込んだ」と満足気だった。

これに対し、鳩山由紀夫元首相は18日にツイッターへ投稿し、「夕食会を断られ、ハンバーガー付きの20分の首脳会談では哀れ」と指摘。「初対面なのに『ジョー』『ヨシ』と親しげに呼び合う演出は外務省の浅知恵でしょうが、不慣れなオロオロ感と気恥ずかしさがモロでした」と嘲笑した。

今夏の東京五輪開催についても、首脳会談では「コロナに打ち勝った証としての開催」というこれまでの常套句を使わずに、「世界の団結の象徴」という表現で開催への決意を表明した。

これに対し、バイデン大統領は「(東京五輪の)開催への努力を支持する」という発言にとどめ、外交関係者は「『大変だろうけど頑張ってね』という意味で、あえてアメリカの参加は確約しなかった」と分析する。

ロイター記者の質問を無視

菅首相はこれまで、東京五輪開会式に大統領を招待することにも言及していたが、「大統領の了解が得られなかったため言い出せなかった」(外務省筋)とされる。

ホワイトハウス前庭で行われた共同記者会見では、ロイター通信記者が「感染対策ができない中での開催は無責任ではないか」と質問したが、菅首相はこれを無視する形で日本の記者を指名し、「首脳会談では五輪開催について大統領が協力表明した」と胸を張った。

20日の衆院本会議では、立憲民主党が質問無視の理由を質した。菅首相は「バイデン大統領への質問と認識してしまい、結果として回答漏れがあったのは事実」と釈明した。

共同記者会見で記者の質問をスルーするのは、「外交儀礼上もありえない」(外交専門家)のが国際的常識だ。このため、「菅首相が経験不足を露呈した」(閣僚経験者)との指摘も相次いだ。

衆院本会議ではファイザー社CEOとの電話会談も野党から追及された。「電話で済ませられるなら訪米前でもできたはず」(立憲民主党)という指摘だ。関係者によると、「日本側は対面での会談を要求したが、コロナ対応を理由に断られた」とされ、与党内では「せっかくワクチンの追加供給を約束させたのに、評価が半減した」(自民幹部)との恨み節も出る。

一方、菅首相は日米共同声明で台湾問題に言及したことについて、衆院本会議で「当事者間の直接対話による平和的解決を期待するわが国の従来の立場を、日米共通の立場としてより明確にするものだ。軍事的関与などを予断するものではまったくない」と力説した。

しかし、この点についても、立憲民主など主要野党だけでなく、与党内からも不満が漏れる。

中国との太いパイプを誇示する自民党の二階俊博幹事長は、「中国が反発するのは予想されること。日本は米中両国の間で率直に伝えるべきことは伝えて役割を果たしていくことが大事だ」と述べ、アメリカの圧力に屈したようにみえる菅首相の対応への不満をにじませた。対中貿易への悪影響を懸念する経済界も「今後の中国の出方次第ではリスクが拡大する」(経団連幹部)と不安を隠さない。

22日にも緊急事態宣言発令へ

緊張が解けたからか、帰国後の菅首相は疲労感を隠せず、帰国直後から大阪の緊急事態宣言要請などへの対応に追われた。20日夜の関係閣僚との協議後、菅首相は記者団に「(緊急事態宣言による)対策の中身も検討して速やかに判断したい」とこわばった表情で語った。

これと並行して、東京都の小池百合子知事も緊急事態宣言を要請する方針を決めた。政府は22日にも対策本部を開き、三度目の緊急事態宣言の発令を決める方向だ。

大阪府の吉村洋文知事は「3週間から1カ月」の期間設定を求めている。5月中旬には国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長訪日が予定されており、菅首相や小池知事との東京五輪開催をめぐる大詰めの協議にも大きな影響を与えそうだ。

菅首相にとって、今回の訪米による政権浮揚戦略は「コロナ第4波の襲来で、完全な思惑外れ」(自民長老)となった。週明けからとみられる東京、大阪、兵庫への緊急事態宣言がさらに拡大する可能性は少なくない。

大手メディアの世論調査で日米首脳会談の評価は5割を超えたが、コロナ対応で内閣支持率の上昇は見込めそうもない。現状では、菅首相の手足を縛る「コロナの蟻地獄」(同)からの早期脱出は容易ではなさそうだ。

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