6都府県に緊急事態宣言 5月31日まで

菅首相、初の日米首脳会談に懸ける政権の命運

菅義偉首相は訪米によって政権を浮揚させることができるのか。写真は原発処理水の海洋放出を決定後、取材に答える菅首相(写真:時事)

菅義偉首相が4月15日から訪米する。

日米首脳会談によって政権を浮揚させることが狙いとされる。しかし、大都市部を中心としたコロナ「第4波」による感染急拡大の最中だけに、「外交どころではない苦難の旅」(自民長老)ともなりかねない。

菅首相がコロナ対応の切り札とするワクチンは、12日に高齢者への接種がスタートした。しかし、各自治体で早くも混乱が相次いでいる。コロナ第4波阻止のための「まん延防止等重点措置」も、確たる成果がみられないまま、五月雨的に適用地域の追加が続いている。

大型連休までに決まる「政権の命運」

新規感染者数の過去最多更新が続く大阪府は、吉村洋文知事が来週にも3度目の緊急事態宣言発令を要請する構えだ。東京の新規感染者数も増えつつあり、目前に迫る東京五輪・パラリンピック開催決定への不安要因も拡大するばかりだ。

さらに、4月25日に投開票される菅政権初の国政選挙も、現状では「自民全敗の可能性」(選挙アナリスト)が指摘されている。このため、菅首相にとって訪米から大型連休前までが「政権の命運が懸かる崖っぷちの2週間」(側近)となる。

政府は13日に菅首相の訪米日程を正式発表した。15日午後にワシントンに向けて出発。現地時間の16日にバイデン大統領との首脳会談に臨み、18日に帰国する。バイデン大統領にとって対面形式での初の首脳会談で、菅首相にとっても「主要国首脳としての存在を世界にアピールする絶好のチャンス」(外務省筋)となる。

首脳会談での最重要課題は「幅広い分野での日米同盟強化」(同)だ。北朝鮮の日本人拉致問題でも、核兵器開発への対応を含めた日米連携の確認を目指す。それを踏まえ、両首脳による共同宣言などで、菅外交の成果を内外にアピールしたい考えだ。

加藤勝信官房長官は13日の記者会見で、「(首相訪米で)日本の外交、安全保障の基軸である日米同盟を一層強化するとともに、強固な日米関係を広く世界に発信していきたい」と述べた。菅首相は首脳会談で「ジョー・ヨシ」と呼び合い、個人的信頼関係の構築も目指す。

中国の強引な海洋進出に歯止めをかけるための「自由で開かれたインド太平洋」構想実現も重要課題だが、米中関係緊迫化の中での日本の立ち位置は極めて微妙だ。さらに、コロナ収束へのカギとなるワクチン確保でも、大統領の協力を取り付けられるかどうかは不透明で、菅首相の外交手腕が厳しく問われることになる。

止まらぬ各地での感染拡大

政権運営での苦闘が続く菅首相にとっては、「待望の日米首脳会談」(側近)だが、日本でのコロナ禍拡大が影を投げかけている。東京都などに蔓延防止を決定した9日夜、菅首相は「集中的な対策を講じることで緊急事態宣言に至らないよう、感染防止に努めていく」と強調した。

しかし、感染拡大傾向は止まらず、大阪府は13日に新規感染者数が初の1000人台となり、吉村知事は「感染拡大が抑えられていない場合は、国に緊急事態宣言を要請し、より強い措置をお願いすることになる」と危機感を募らせる。

まん延防止の対象外の地域でも、愛知県や埼玉県などが適用要請を検討している。西村康稔経済再生担当相も13日の国会答弁などで「感染者増加のスピードが速いので、悪化地域の知事と連携して、まん延防止の適用も検討する」と語った。

そうした中、政府が注視しているのが首都・東京の感染拡大だ。大阪の危機的状況ばかりが目立つが、東京でも新規感染者数の7日間平均が500人を超えた。変異株の東京での広がりも顕著で、東京都の小池百合子知事は13日、「このままの状況が続けば、(新規感染者数が)次の桁(けた)になるのも近い」と、週内にも1000人台となる可能性を認めた。

東京でも12日から高齢者向けのワクチン接種が始まったことに関連して、小池知事は「(ほとんどの人にとって)まん延防止等重点措置期間中はワクチンがない。新たな変異株と素手で戦っているようなものだ」と述べ、都民の自衛に頼らざるをえないのが現状だと指摘した。

確かに、「国民は自粛疲れと政府への不信感で、まん延防止といっても反応が鈍い」(感染症専門家)のが実態だ。政府のコロナ分科会の有力メンバーも、「このまま新たな対応をしなければ、関西圏に続いて連休前に首都圏に緊急事態宣言発令となりかねない」と指摘する。

その場合、期限はこれまで同様約1カ月が想定され、2020年と同様に6月近くまで緊急事態宣言が続く事態ともなりかねない。

五輪開催へ、広がる不安や疑問

そこで問題となるのが14日で残り100日を切った東京五輪開催の可否だ。3月下旬にスタートした聖火リレーは全国各地で続けられているが、愛媛県の中村時弘知事は、21日から行われる同県内での聖火リレー中止を検討していることを明らかにした。

各県の知事は対応に苦慮しているが、国際オリンピック委員会(IOC)と東京都などは、予定通りの東京五輪開催を前提に、連休前にも「観客数の制限」を決定する見通しだ。

ただ、アメリカの有力メディアは「五輪開催は日本と世界にとって一大感染イベントとなる」と警告し、感染拡大の中での五輪開催に不安や疑問の声が広がっている。

菅首相は日米首脳会談でも五輪開催への全面協力を要請するとみられるが、「それも日本の感染状況次第」(外務省筋)との不透明感は拭えない。

仮に日米首脳会談で成果を上げたとしても、帰国から1週間後には菅首相の政権運営にも大きな影響を及ぼす「4.25トリプル選挙」が控えている。自民不戦敗となる衆院北海道2区補欠選挙も含め、参院長野選挙区補選と同広島選挙区再選挙で全敗すれば、自民党内に「菅首相では選挙を戦えないことを理由とする『菅降ろし』の動き」(自民長老)が顕在化しかねない。

菅首相が13日に決断した福島第一原発の処理水放出も、政権を揺さぶる可能性がある。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は「(日本の決定は)国際的慣行に従っている」と声明を出し、アメリカも「世界的に認められた原子力の安全基準に合致した方法を採用した」(国務省報道官)と評価した。

一方、中国は「極めて無責任」と批判し、韓国も「絶対受け入れられない措置だ」と猛反発し、文在寅大統領が14日に国際海洋法裁判所への提訴検討を指示した。台湾も「日本側に何度も懸念を表明してきた。今後も動向を注視していく」と牽制するなど、アジア近隣各国の反応は厳しい。

内閣支持率は「分水嶺」に

国内でも、これまで海洋放出に強く反対してきた福島県漁連が「決定に驚愕している」と直ちに反対声明を出し、立憲民主党の福山哲郎幹事長も「国民に十分な説明が行われていない。放出ありきで進んだとしか言いようがない」と批判した。

政府与党内には「時間切れが迫る中での菅首相の英断」と評価する声が多いが、メディアの多くは「福島県民の理解を得ないままの見切り発車」などと批判的だ。

最近の世論調査では内閣支持率は横ばいで推移している。「支持と不支持が拮抗し、次にどちらに動くかの分水嶺に差しかかっている」(世論調査アナリスト)のが実態だ。内閣支持率はこれまで、コロナの感染状況と連動してきており、「もし、第4波の感染爆発となれば、再び支持率下落に陥る」(同)との見方が多い。

政府が今週後半に愛知県などへのまん延防止適用を決める場合には、菅首相が不在のもとでの決定を余儀なくされる。「国民は私に決断を求めている」と強調してきた菅首相の指導力が問われる事態ともなりかねない。

今回の3泊4日の菅首相の訪米は「政権浮揚どころか、薄氷を踏むような厳しい環境での首脳外交」(閣僚経験者)となることは間違いなさそうだ。

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