「クラブハウス」今さら聞けない熱狂のカラクリ

有名起業家や芸能人が使いはじめて話題となったアメリカ発の音声SNS「Clubhouse」(クラブハウス)。これまでにない「感染力」を持つ、そのメカニズムを考察します(写真:Bloomberg)
有名起業家や芸能人が使いはじめて話題となったアメリカ発の音声SNS「Clubhouse」(クラブハウス)。参加に必要な招待枠が1人2名分しか与えられないこともあって、SNSに「招待をください!」という投稿があふれるほどの熱狂となり、日本で利用可能となった1月下旬からわずか1週間で認知が20%に達しました(参考:LINEリサーチ)。
これまでにない「感染力」を持つClubhouseについて、メカニズムの分析や今後の見通しについて、元アマゾン ウェブ サービス ジャパンで日本最大規模クラウドコミュニティを立ち上げ、業界では「コミュニティ・マーケティングの伝道師」といわれている小島英揮氏に聞きました。

良質でアクティブな初期ユーザーの獲得

――Clubhouseで今起きている、印象的な出来事について教えてください。

2月1日、テスラ創業者のイーロン・マスク氏がTwitterで「今夜10時にClubhouseに登壇する」とつぶやくと、Clubhouse上のイベント会場であるroomの定員5000人はあっという間に埋まりました。

イベントが開始されると、参加者がroomの内容を中継するroomが次々立ち上がり、数万人が彼の話を聞いたとされています(規約上、roomの内容を中継することは禁止されています)。

日本では、落合陽一氏など著名人、有名経営者、芸能人の主催イベントが次々立ち上がり、そこに別の有名人が参加者として立ち寄り、その場でコラボが成立することもよくあります。

一般人が主催するイベントにも有名人が来て登壇するなど、これまでありえなかったことが普通に起き、それがSNSで拡散されてさらなる熱狂を招いています。

――なぜClubhouseだけがそのような熱狂を生み出せたのでしょうか。1人2枠の招待制を形だけ真似しても同じことが起こせる訳ではないでしょう。全体のメカニズムについて教えてください。

音声メディアは元々注目されていた市場で、拡大する素地があったのも事実です。Clubhouseもアメリカで1年ほど前から試作版が出て巨額の資金調達にも成功しており、スタートアップ関係者には知られていました。

そうして関心が高まっていた中で、日本での利用が可能になりました。ここで「1人2名」の招待枠が効いてきます。2名しか選べなければ、重要な人で、実際サービスを使いそうな人を厳選して誘うでしょう。

初期メンバーの質が高ければ、そこに入りたいと思いますし、アクティブな人の割合が高ければ、新しいメンバーもそれにつられて積極的に活動します。サービスが良いものだと思えば、自分の仲間も誘いたいと思うでしょう。そうして人が人を呼ぶ好循環が回ります。

――Clubhouse急拡大の背景には、「圧倒的な気軽さ」と「安心感」もあるようです。

ほかの参加者が主催者の許可なく発言することができないので、ヤジを飛ばされたり、絡まれたりするおそれもありません。逆に、話が合いそうな人は会話に引き上げることができるなど、圧倒的な「ホーム感」が大きな魅力です。

配信されるのは音声だけ。カメラ映りや資料を気にする必要がなく、チャット機能すらないので、「話すこと」にのみ集中できます。

文字通り「クラブハウス」での雑談のような気軽な会話がそのままコンテンツとなるよう設計されているので、数時間後や翌日といったスピード感でイベントが立てられます。

room内の会話を記録・配信することは、利用規約で禁止されています。録音や配信のツールを使うと警告が表示されるなど、システム上でもルールの実効性は担保されています。

小島 英揮 (おじま ひでき) 2009年に日本での採用第1号としてアマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社(AWS)入社。日本最大規模クラウドコミュニティ「JAWS-UG」の立ち上げに携わり、ASWの日本市場での売り上げをアメリカに次ぐ世界2位の規模に押し上げた。AWS退社後は、複数企業のマーケティングを支援するパラレルマーケターとして活動中(写真:本人提供)

違反すればアカウントが削除されます。Clubhouseの登録には電話番号が必要なので、メールアドレスのように簡単に再登録はできません。アカウント削除は本人だけではなく、招待した人にも及ぶ場合もあるので、さらなる抑止力がはたらきます。

2名までという招待制なので、行儀の悪い人がいる可能性はそもそも低いでしょう。

有名人でも気軽にイベントに参加し、一般人とも近い距離感で話せるのはこの気軽さと安心感があるためです。

「飢餓感」を自然発生させる仕掛け

有名人でも安心して気軽にイベントを立てられるなら、一般人ならなおさらです。こうして質量ともにイベントが充実していきます。

業界関係者のオフレコトークや有名人同士の即興コラボも次々と生まれて拡散され、「自分も入りたい」と思う人が続出します。

しかし、参加に必要な招待枠は1人2名分しかなく、入りたいのに入れない大量の人々がSNSに「Clubhouseの招待をください!」と続々投稿し始め、メルカリに招待枠が出品される「事件」がまた人の目を引きます。

そんな刺激的で予期せぬことも起こるClubhouseのトークは、録音禁止のライブ配信なので、聞き逃すことができません。公開から開始まで数時間ということもざらで、目が離せなくなります。フォローしている人が登壇するイベントは公開されれば通知が来て、ついアプリを立ち上げたくなるでしょう。

また、参加や主催などの活動をすると、貴重な招待枠が追加で割り当てられるので、ますます活用したくなります。こうしてアクティブな人ほど多くの新規ユーザーを勧誘するようになります。

アメリカでのユーザー検証を経て、機能は極限までシンプルに削ぎ落とされているので、誰でもすぐに使えるようになります。

――Clubhouseは、かつて招待制で急速に広がった国産SNSのように、一過性で終わるのでしょうか。あるいは、ビジネスの「インフラ」として残るものになるのでしょうか。

熱烈なファンと化したユーザーが新しいコンテンツや使い方などを自分たちで次々と開発してコミュニティの魅力を高め、ユーザーが新しいユーザーを次々と獲得している現状は、コミュニティマーケティングの成長モデルである「Sell through the community」の典型と言えます。

だとすれば、今後コンテンツやユーザーがどういう方向に向かうかが、Clubhouseが一過性ブームで終わるかプラットフォームとして残るかを分けるでしょう。

残るシナリオ、終わるシナリオについて、私なりに予想してみます。

初期は有名人による価値の高いコンテンツが拡大を引っ張りますが、そのあとは一般の人々が主催する草の根的な集まりが継続的に生まれるかがポイントとなります。

多様なコンテンツが大量に生まれればアクティブユーザーが増えます。ユーザーが多ければ、手間をかけた質の高いコンテンツを提供しても元が取れます。質の高いコンテンツが話題になれば、新しいユーザーにリーチできます。YouTubeをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。

このサイクルが回って新規ユーザー層の拡大が長く続き、既存ユーザーも使い続ければ、プラットフォームとしての地位を確立できるでしょう。

終わるシナリオ「粗悪なコンテンツやユーザーの増加」

――この数日でも状況は刻々と変わっています。

招待も概ね行き渡って飢餓感も薄れてきました。ユーザーが増えれば参加者もコンテンツも多様化します。駄話を垂れ流すだけのレベルのroomも増え、相互フォローによるフォロワー水増しを目的とした誰も話さないroomのような、本来の趣旨とは異なる使い方も目についてきました。

粗悪なroomが溢れれば真っ当なユーザが離れ、やがて廃れます。「悪貨が良貨を駆逐する」ということです。

――マーケッターの視点でビジネス活用の可能性をどう見ていますか。

Clubhouseの特徴は「今ここでしか聞けない」というプレミア感です。ファンミーティングや、開発秘話を聞くような、コアなユーザー向けのイベントに向いています。

イーロン・マスク氏の登壇がツイートで拡散してClubhouseのroomに人が殺到したように、Twitterとの相性は良さそうです。

録音・編集ができ、コンテンツを蓄積できるstand.fmやVoicyのような音声メディアと異なり、Clubhouseはコンテンツの録音をストックして再利用することができません。そのかわり気軽にイベントを量産できるといった、メリット・デメリットがあります。

Clubhouseありきで考えるのではなく、目的や前提をきちんと見極めて、自社に合ったツールを選び、用途を開発することが大事です。

ユーザー参加型メディアの渦中に飛び込む

――ビジネスパーソンはClubhouseにどう向き合うべきでしょうか。

これは「メディアの民主化」という歴史の大きな流れの潮目だと思います。傍観するより、渦の中に入ることをお勧めします。

今なら、ユーザー参加型の新メディアの熱狂がどのように移り変わっていくのかを、渦中で体感できます。新しいコンテンツや使い方が次々と開発されていく様子を目の前で見ることもできます。

新しいSNSが出た場合、早い段階で参加すれば、有名人と繋がれたりフォロワーを簡単に獲得できたりといった、先行者メリットを享受できることはよく知られています。

たとえば先日、アマゾンのCEO交代のニュースを聞き、その日のランチタイムにアマゾン(AWS)の元同僚で現在ソラコムの社長をしている玉川憲氏との対談イベントをClubhouseで行ったら、それをテレビ東京の方が聞いていて、その夜の「ワールドビジネスサテライト」に玉川氏が出演、といったことがありました。こうしたアウトプットの連鎖は、今後起こっていくと思います。

小島英揮氏がClubhouseで行った対談イベントの告知

Clubhouseがプラットフォームとして残るほうに賭けても損はありません。仮にサービスが廃れたとしても、その貴重な経験は学びとして残ります。

ClubhouseはAndroidにはまだ対応していないので、iPodや中古のiPhoneを買って始める人もいます。特に、マーケティングに携わる人ならそのくらいしてもいいと思います。

まずはとにかく気軽に試して、楽しんでみてください。

まあ、こんなことを1ユーザーである私が自然と口にしてしまうこと自体、コミュニティ・マーケティング成功の証しかもしれません。

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