Netflix1億人が見た「ザ・クラウン」人気の理由

Netflix会員数2億人突破に貢献したと言われる英国王室物語の『ザ・クラウン』。最新シーズンはチャールズ皇太子とダイアナ元妃のなれ初め話が含まれる(写真:Netflix)
Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

Netflix会員2億人突破に貢献した世界ヒットドラマ

Netflixが1月19日(アメリカ時間)に発表した2020年第4四半期(10~12月)の決算発表で、有料会員数が2億人に達したことがわかりました。

コロナ特需によって通年で過去最高の会員数を増やし、ついにマイルストーンに到達したわけですが、この2億人突破に大きく貢献した番組の1つが、英国王室物語の『ザ・クラウン』です。

2016年にシーズン1が配信されて以降、配信後28日間で作品を再生したNetflix会員の数が何といっても圧倒的。1億人以上です。2020年11月から配信開始された最新シーズン(シーズン4)は自己最多の視聴記録を更新しています。エミー賞など数々の受賞歴もあるこのドラマ。納得の見るべき理由があります。

Netflixドラマシリーズ『ザ・クラウン』の人気の理由に、歴史上の実在する人物を描くただの歴史ドラマではないことがまず挙げられます。在位中のエリザベス2世が主役なのです。

イギリス王室ファミリーに対する関心度は日本でも高く、世界中のメディアがスキャンダルに至るまで事細かに取り上げています。過去に王室ファミリーを題材とした映画作品も多く、エリザベス2世が主役の『クィーン』(2006年)や父のジョージ6世が主役の映画『英国王のスピーチ』(2011年)といったアカデミー賞を受賞したヒット作もあります。ですから、登場人物のキャラクターも人物相関図もほぼほぼ説明いらず。

ヒットメーカーのピーター・モーガンによる脚本はファミリードラマとして楽しめる(写真:Netflix)

繰り返し語られる、別世界の王室ファミリーの話ではありますが、1人の女性の物語として、そして家族間の複雑な心情を描く物語として楽しめる秀逸な脚本であることも人気の理由にあります。言うなれば、日本の長寿ホームドラマ『渡る世間は鬼ばかり(渡鬼)』を見るのと同じ感覚で物語の世界に入れます。

緊迫した事件は特段起こりませんが、妹のトラブルの次は息子のトラブルと、一難去ってまた一難とエンドレスに続く話がどうも気になってしまい、引き込まれていくのです。『渡鬼』のそれは橋田壽賀子マジックによるものですが、こちら『ザ・クラウン』の脚本を手がけたのはピーター・モーガンです。

日本でも大ヒットした、ロックバンド・クイーンのボーカルであるフレディ・マーキュリーに焦点を当てた映画『ボヘミアン・ラプソディ』の原案を手がけたイギリスの脚本家で、前出の映画『クィーン』の脚本家でもあります。リサーチ力と脚本構成力に定評があり、どのシーズンも失速するエピソードがなく、安定度が抜群です。

そんななか、最新シーズンが最も視聴された理由はなんといっても登場人物の華やかさに尽きます。舞台は1970年代の終わり。エリザベス2世(オリヴィア・コールマン)をはじめ王室一族が躍起になっているトピックは30歳で未婚のチャールズ皇太子(ジョシュ・オコナー)にふさわしい花嫁探し。そこで登場するのが、かの有名なレディ・ダイアナ・スペンサー(エマ・コリン)です。

さらに、国政においては初の女性首相が誕生。マーガレット・サッチャー(ジリアン・アンダーソン)とイギリス女王との火花散る対立が見事に描かれています。この悲劇のプリンセスと鉄の女王の素顔に迫るストーリーがシーズン4の見どころなのです。

あの上目遣いも髪型もそっくりすぎるダイアナ妃

ダイアナ元妃を演じたエマ・コリンはオーディションの中から選ばれた25歳の新人女優です。あどけなさが残る仕草から、危うさを映し出した表情まで「ダイアナ元妃本人にそっくりすぎる」と、この役をきっかけに世界中から注目が集まっています。

ダイアナ元妃本人にそっくりと評判の新人女優エマ・コリンの演技力が光る(写真:Netflix)

結婚式が行われた当時、小学生だった筆者もテレビ画面越しで見るダイアナ元妃のシンデレラストーリーにかぶりつきで、あの特徴的な上目遣いとアイドル風ショートカット、パフスリーブのウェディングドレス姿が忘れられません。そのとき見た記憶がよみがえるようにあの頃のダイアナ元妃が『ザ・クラウン』で完全再現されています。

エマ・コリンはNetflixの公式インタビューでNetflixで配信中のドキュメンタリー『ダイアナ』などを参考にしていたことを明かしています。

「『ダイアナ』を100回以上見たとまでは言えませんが、『ザ・クラウン』のリサーチチームはすばらしく、レディ・ダイアナに関する資料が詰まった分厚いバインダーも渡してくれました。情報がまとまったこの巨大な資料が役作りにとても役立ったのです」

その資料にはおそらく劇中で描かれるダイアナ元妃の暗黒面も含まれていたでしょう。チャールズ皇太子の後の妻となるカミラ夫人との確執やダイアナ元妃自身の不倫、摂食障害などウソか誠か、知られざる苦悩の姿も演じきっているからです。

ちなみに、そんな魅了する演技で大女優の道を歩み始め、スターの仲間入りとなったエマ・コリン本人は今、脇毛の開放を主張して雑誌の表紙で堂々披露するなど、話題提供にも欠かない様子です。

“鉄の女”が垣間見せる母性あふれるシーンも見どころ

一方、シーズン4のもう1人の主役であるサッチャー元首相はアメリカ・ドラマ『X-ファイル』のFBI捜査官ダナ・スカリー役で知られるベテラン女優のジリアン・アンダーソンが演じています。

イギリス初の女性首相マーガレット・サッチャーを演じるのは『X-ファイル』のスカリー捜査官役でお馴染みのジリアン・アンダーソン(写真:Netflix)

Netflixシリーズでは10代の性をテーマにしたヒット作『セックス・エデュケーション』で主人公の母親でセックス・セラピスト役も演じています。そして、実生活では本作『ザ・クラウン』の脚本家である前出のピーター・モーガンの妻です。

本編のサッチャー物語のパートでは内閣改造やフォークランド紛争、アパルトヘイトを掲げる南アフリカ共和国への経済制裁などをめぐって、同年代であるエリザベス2世と超緊迫したやりとりなどから人物像が浮かび上がる、そんな演技を見せてくれています。そっくり度についてもほかの登場人物と引けを取りません。

多面的に登場人物に迫るがこのドラマの醍醐味であり、サッチャー元首相も例外なく、1人の母親としての顔を映し出すエピソードも扱っています。

“鉄の女”のイメージが強いサッチャーですが、自宅に閣僚を招いた会議のシーンは母性あふれるもの。会議の後にお腹を空かせた閣僚たちのために、エプロン姿でちゃちゃっとパイを焼き、まるで小さな男の子たち相手にそれを配り、お国の重要事項を話しているサッチャーのスーパーレディっぷりがのぞけます。

『ザ・クラウン』は実物そっくりのキャラクターたちから、視聴者それぞれが必ずお気に入りのシーンを見つけることができるドラマだと思います。シーズン4に限らず、例えば、シーズン1では女王になりたてのエリザベス2世(クレア・フォイ)とチャーチル首相(ジョン・リスゴー)のエピソードも必見です。

ロングシリーズ化は最初から決まっていた

総合的に評価の高いドラマであることは、Netflixの共同CEOで最高コンテンツ責任者のテッド・サランドスも認めています。企画段階から太鼓判を押していたのです。2020年10月のフランス・カンヌのテレビ見本市MIPCOMのオンラインキーノートに登壇したテッド・サランドスが『ザ・クラウン』についてこう言及していました。

「ピーター・モーガンとはじめに『ザ・クラウン』について話し合ったとき、すでに彼は6シーズンのすべてのストーリーボード(草稿)を語ることができました。だからこそ、彼が提案したとおりに展開していくことにスリルを感じるのです。ほとんどの場合、クリエーターがそこまで明確な創造的なビジョンを持っていないのが現実です」

これは作品のロングシリーズ化について「惰性でシーズンを重ねる必要はない」というNetflixの考えを表す発言にもなっています。『ザ・クラウン』はロングシリーズ化に価値があり、計画的に数回のシーズンにまたがって完結する作品であるということなのです。なお、シーズン5が最終章となる話が一時期浮上していましたが、シーズン6まで公開されることに落ち着いています。

イギリスのクリエーターと名女優、俳優たちが『ザ・クラウン』をNetflixを代表するヒット作に導き、Netflixはこの『ザ・クラウン』を含めたイギリス発オリジナル作品にこれまで10億ドル(約1000億円)の製作費を投資しています。

延べ2万人を超えるキャスト、スタッフ、エキストラがNetflixイギリス発作品に参加していることもわかりました。2021年以降、さらに金額を上げた製作費を投じて、イギリス発作品製作が計画されています。

そのためか、イギリスでは2月からNetflixの基本月額料金が1ポンド値上げされるというオチ付きですが、今のところ『ザ・クラウン』があれば会員獲得と維持に苦労はないのかもしれません。

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