緊急事態宣言 11都府県に拡大

第3波で慌てた組織はリスク管理ができてない

将来の見通しを立てておけば不測の事態にも対応がしやすくなる(イラスト:Mandryna/iStock)

今年ほど、企業や個人、そして政府が危機に直面している年はないだろう。国内では昨年春以来2度目の緊急事態宣言が発令され、世界中も新型コロナウイルスによるパンデミックに直面している。その反動で、経済は大きく揺れ動き、かつての産業革命やルネサンス級の“地殻変動”が起こりつつある。人類が新型コロナウイルスと戦争していると考えたほうがいいのかもしれない。

こうした大きな変動に直面したとき、われわれはどうすればいいのか……。

大切なことはきちんと「リスク(危機)」に立ち向かい、正確に分析して、適切な対応策を取ることだ。

ところが、日本政府の対応や日々の人々の動きを見ていると、どうも世界とはズレているように思える。さまざまな危機に対する管理意識がなかなか理解されなかったり、ややもするとばかにされたりするような、そんな風潮さえ目立つ。

日本人の意識の底には、平和な日々を壊すような言動や行動を忌み嫌う風潮がある。福島原発事故やコロナ禍への対応を見ていると、日常的な危機管理がどうしてもおろそかになっているような気がしてならない。

これから迎えるだろうリスクを見ながら、企業や個人のリスクマネジメントの重要性について考える。

「リスク管理」と「危機管理」は違う

日本で意外と勘違いされているのが、「リスク管理(Risk Management)」と「危機管理(Crisis Management)の違いだ。さまざまなリスクに対して、あらかじめリスクを認識して対応する体制を整えていくのが「リスク管理」の考え方であり、実際に危機が起こったときにどういう行動をすればよいのか、そして回復までのプロセスを考えるのが「危機管理」と言っていい。

最もわかりやすい言葉で表現すれば、リスク管理とは「予防」であり、危機管理は「対処」と考えればいい。

リスク管理は、組織を全体的に管理し、危機の損失がどの程度であるかを想定して、損失の軽減や回避を図るプロセスのこと。近年このリスク管理が、さまざまな形で求められていると言っていいだろう。想定されるリスクをすべて洗い出して、専門的なリスク管理の部署を作ることが求められている。

余裕のある大手企業に比べて、人的、資金的に余裕のない中小企業にも、リスク管理の重要性が叫ばれている。大きな負担になるかもしれないが、社長が自らリスク管理部門のトップになってリスクに対応するなど方法はいくらでもある。

ちなみに、中小企業庁が発表しているデータではリスク管理に対する体制が大企業に比べると中小企業はかなり脆弱になっている。「企業規模別に見たリスク管理に関する体制」(中小企業庁委託「中小企業のリスクマネジメントへの取組に関する調査」〈2015年12月、みずほ総合研究所〉)を見ても明らかだ。

●リスク管理を担当する専門部署がある……18.5%(大企業)、3.9%(中小企業)
●リスク管理は総務・企画部門が兼務している……66.9%(大企業)、55.7%(中小企業)
●担当部署なし……14.6%(大企業)、40.4%(中小企業)

中小企業の4割がリスク管理の担当部署を置いていないことがわかる。日常的なリスク管理ができていない企業では、実際の危機管理ができる体制ができていないことを意味する。

では「リスク管理」とは何のためにするのか……。大きく分けて4つある。

1.回避……リスクを伴う活動そのものを中止して、予想されるリスクを遮断する方法。
2.損失防止……損失発生を防止する予防措置を講じて、損失をゼロに抑える方法。
3.損失削減……実際にリスクが発生したときに損失拡大を防止、軽減する方法。損失の規模を最小限に抑えるための予防措置。
4.分離・分散…リスクを1カ所に集中させずに、分離分散させる対策。

まずはすべてのリスクを洗い出す!

具体的に、リスク管理とはどんな過程を経て行われるのだろうか。リスク管理の第一歩は、まずは「リスクを発見し特定すること」だと言われる。どんなリスクがあるのかをあらかじめしっかり把握しておかないと、きちんとしたリスク管理はできない。

アメリカでもトランプ大統領の扇動によって、デモ隊がアメリカ議会に突入した際の警備のリスク管理が批判されている。長年の慣習でデモ隊が議会に突入してくるリスクなど、ありえないというイメージがあったのかもしれない。リスクとして認識はしていても、「まさか」という感情が先に来て、きちんと把握され、特定されていなかったと言ってもいい。

そういう意味では、ありとあらゆる「リスク=危機」をきちんと特定したうえで、その一覧を作成しておく必要がある。例えば、1月7日に出された緊急事態宣言も、1回目の緊急事態宣言後に、きちんと2回目以降に備えて準備に取りかかった企業と、「2回目はないのではないか」といった楽観的な見通しから、何も準備をしなかった企業との間には、大きな隔たりが出たはずだ。

2回目の緊急事態宣言に備えて、リモートワークの拡充や資金面の手当てなど、すべきことは数多くあったはずだ。とりわけ、飲食店や宿泊、観光業といったセクターでは、生き残っていくためのアイデアを準備するなど、緊急事態宣言というリスクに立ち向かう必要があった。

実際に、緊急事態宣言が出てから対処するのは危機管理であって、リスク管理にはならない。リスク管理の重要性がわかるはずだ。

リスク管理における8つのプロセス

では、リスク管理の方法とはどんなものがあるのだろうか。一般的には、次の8つのプロセスを通してリスク管理をするのが基本と言われている。

①リスクの発見および特定
②リスクの算定
③リスクの評価
④リスク対策の選択
⑤リスク対策の実施
⑥残留リスクの評価
⑦リスクへの対応方針および対策のモニタリングと是正
⑧リスクマネジメントの有効性評価と是正

(資料出所:中小企業庁 リスク管理・内部統制に関する研究会「リスク新時代の内部統制」)

要するに、リスクをすべて洗い出して、その影響の度合いやリスク対策の強化など、一連のプロセスを経て初めてリスク管理ができるということだ。中小企業や個人のようにそういった余裕があまりない場合は、せめてどんなリスクがあるのかをきちんと把握しておくことだけはやっておいたほうがいいかもしれない。

実際の危機に直面した場合、こうしたリスクがあることをあらかじめわかっているだけでも対応に余裕ができるはずだ。

リスク管理のノウハウは、少なくとも先進国の企業や政府機関などでは当たり前のことなのだが、日本の場合、危機に立ち向かわない風潮が非常に強く、リスクを声高に言う人間をむしろ批判する風潮が強い。リスクを正確に把握し、認識するところから、初めてリスク管理がスタートすると考えるべきだろう。

新型コロナウイルスのパンデミックの最中で、もう一度リスク管理についてきちんと考える必要があるということだ。

そこで、いま目の前にあるリスクだが、リスク管理の基本である「発見と特定」をしておきたい。緊急事態宣言が出たいま、現段階でどんなリスクがあるかを洗い出し、そのうえでさまざまな対応を考える必要がある。新型コロナによるパンデミックは、リスクの質や規模、量に関してこれまでのリスクとは大きく異なるからだ。

パンデミックの時代には、パンデミック特有のリスクがある。例えば、世界中が同時に感染爆発の危機に直面している影響は、グローバル社会という経済成長の原動力を脅かしている。ロックダウン(日本では緊急事態宣言)による景気の落ち込みは、経済に深刻な影響をもたらすはずだが、実際には政府や中央銀行が国民生活を支え、株式市場に空前の暴騰相場をもたらしている。

とはいえ、パンデミックがもたらすリスクは、きちんと認識しておく必要があるだろう。菅首相が、緊急事態宣言の延長、拡大の可能性を聞かれて「仮定のことは考えない」と答えたが、仮定のことを考えるのが「リスク管理」の基本だ。簡単に洗い出してみると、次のようになる。

パンデミックがもたらす11のリスク

●クラスター発生リスク

感染の当事者にならなくても、同業者や隣接する企業などの感染クラスター発生によるリスク。風評被害も含めたリスクに対応する必要がある。

●感染リスク

企業の従業員や顧客に感染者が出た場合のリスク。いま、最も可能性の高い、極めてノーマルなリスクだが、実際にどんな事態になるのかは、その地域の感染状況や医療体制によって異なる。不透明な部分が多い。

●景気の変動リスク

パンデミックの影響で企業倒産、失業者増加などが表面化してくれば、景気後退が急速に加速する可能性がある。ただ現在の企業倒産件数は、減少の一途をたどっており、政府や自治体、銀行などの支援によって生き延びている現象が多く見られる。東京商工リサーチの調べでも、2020年10月の企業倒産件数は、この50年間でバブル絶頂期だった1989年に次いで、過去2番目に低い水準だった。2020年1〜12月の年間で見ても、30年ぶりの低さだったそうだ。とはいえ、2回目の緊急事態宣言などによって、政府や自治体による支援や銀行融資も、息切れ感が出てきている。

●経営資源の枯渇リスク

新型コロナウイルスの変異種などの増加で、国際的な交流が止まりつつあり、加えて国内の人や物の流れが影響を受けている。業界を問わず経営資源そのものが枯渇するリスクが出てくる。大口顧客の倒産、原材料の入手困難など、あらゆる経営資源に関わるリスクを見直してみる必要がある。

●株式や商品市場、不動産市場がバブル化

中央銀行によるゼロ金利政策や量的緩和が強化され、市中に出回るお金の量が増えてバブルが発生。異常な株高などはそうそういつまでも続かない。必ずバブルが崩壊するときがやってくる。そのときのリスク管理が必要。

●緊急事態宣言の発令リスク

1カ月間、緊急事態宣言が出た場合、GDP(国内総生産)は1兆~3兆円のマイナスになると言われている。景気の悪化は消費を抑制し、売り上げや利益減少につながる。

●財政赤字の増加

景気悪化によって税収が減少し、量的緩和による財政出動は将来的な財政破綻リスクを膨らませる。金利上昇懸念も大きなリスクとなる。すでにアメリカの長期金利は年1%を超えて上昇を続けている。

●デフレ懸念

景気の悪化はデフレを招く。デフレをリスクととらえて、対応していく必要がある。

●インフレ懸念

財政赤字の結果として、インフレに陥ることが歴史的にしばしば見られた。インフレに対するリスク管理も重要だ。

●変異種によるパンデミックの長期化

例えば、日本では2022年の春ごろにはコロナ禍から回復の見通しと言われているが、変異種の蔓延、感染拡大によって将来が見通せなくなる可能性が高い。

●東京五輪の中止決定

経済に与える影響というよりも、政府に近い企業であればあるほど、その影響度が増してくる。また、財政的な負担も大きいはずだ。

こうしたパンデミックに直接関わるリスクは、言うまでもなく個別の企業や個人の状況によって異なってくる。業種によっても、本社や工場、住居のある地域によって異なってくるはずだ。

さらに、パンデミックによる影響は直接的なものだけではない。社会全体の構造にも変化をもたらしている。リモートワークの普及などによって、オフィスのあり方や交通機関への影響もあるが、事前には予想できなかった事態も少なくない。例えば、次のような変化がリスクとなる場合もある。

社会・産業構造も大きく変わる

●デジタル化への転換

会議システムや決済システムなど、一連の仕事がリモートワークとなり、デジタル化が急に進行するリスク。

●企業のDX化への圧力増加

デジタル化社会への転換に伴って、企業の「DX (デジタルトランスフォーメーション)」への取り組みが急務となっている。DXとは、企業がデータやデジタル技術を駆使して、組織の活性化やビジネスの成功を目指す手法であり、このDXの波に乗り遅れてしまうのも企業のリスクと言っていい。

●脱炭素社会(グリーン経済)への急速な転換

今回のパンデミックで話題になったのが、ウイルスの発生原因は気候変動によるものであり、この問題を解決しなければ、第2の新型コロナウイルスや新種のウイルス発生によって、人類全体が脅かされるというリスクだ。そのため、各国政府は脱炭素社会への急速な転換を図っており、遅れていた日本も重い腰を上げて、脱炭素社会を目指す方向へと舵を切った。中小企業といえども、今後は脱炭素社会への切り替えが求められることになる。企業にとっては、デジタル化と同様にリスクになると考えていいだろう。

●資源の奪い合いによる紛争多発

世界的なパンデミックが長期化した場合、食料資源や鉱物資源、エネルギー資源といった産業活動や人間の生存に不可欠な資源が、地域を問わず不足したり、枯渇したりするケースが出てくるかもしれない。平時にこうした資源をプールしておくことが重要かもしれない。

●産業構造そのものの変化

パンデミックの長期化は、人々の行動制限が課せられるために、飲食店や観光、交通といったセクターが大きな影響を受けることになる。その反面、リモートワークに必要なツール等の開発企業は大きな飛躍を遂げることになる。今や自動車産業のライバルはTV会議システムの大手企業「Zoom」だとさえいわれている。まさにルネサンス級の構造変化が起こりつつあるわけだ。

一方、予防的措置であるリスク管理に対して、いま現実に目の前にあるリスクに対して、どう対応すればいいのか。われわれはいま現実に「危機管理」が求められている状況にいるわけだ。

具体的に、危機管理の方法には大きく分けて「移転」と「保有」があるとされる。もうひとつ「回避」という方法もあるが、パンデミックには通用しないだろう。

移転とは、保険などをかけておくことで損失発生時に第三者から損失補填を受ける方法。保有はリスクの存在を意識しながら、あらかじめ内部留保や貯蓄によって損失発生時に、損失を自己負担でカバーしていく方法だ。

個人ベースで言えば、「移転」は生命保険や医療保険、火災保険に入る方法である。あるいは副業やバイトなどを通して収入を得る手段もある。

「保有」とは月々の貯蓄などを通して、いざというときに備える手段。収入が大幅に減少したり、ボーナスが大きくカットされたりした場合、生き残るためのすべとなる。飲食店などを経営する個人事業主も、ある程度の蓄えがあれば、危機管理はできると考えていい。

とはいえ、今回のパンデミックではそんな準備をする間もなく、第3波の緊急事態宣言が出されるなど、想定外のものが多かった。

結局、貯蓄などの蓄えがなければ、借金などによる「移転」でしのぐしかない。ただし、慌てて借金をした段階で、リスク管理は失敗だったと言っていいのかもしれない。いざというときに、資金繰りが逼迫するのは当然のことだが、問題はその準備ができていたかどうかだ。緊急事態宣言が解除されたら、その瞬間から次の緊急事態宣言の準備に取り掛かるぐらいの行動力が必要だ。

パンデミックは一過性のリスクにあらず!

いずれにしても、新型コロナウイルスによるパンデミックは、もはや一過性のものではない。そういう意味では、「自然災害」や「地政学リスク」「金融リスク」「サイバーリスク」といったすでにあるリスクと同列に考えて、対応に全力を尽くす必要がある。

とはいえ、今回のようなパンデミックへの対応は、リスクマネジメントのプロでも難しいと言われる。将来的な見通しが不透明すぎるために、リスク管理に不可欠な将来への予測が立てにくいからだ。

言い換えれば、将来の見通しをきちんと立てられれば、パンデミックにも対応できることになる。新型コロナによるパンデミックは、ワクチン接種が始まっても、すぐに収束するわけではない。変異種による感染拡大も急速に進みつつある。

将来的には、新型コロナウイルスだけではなく、さらなる未知のウイルスが人類を襲う可能性もある。そこで重要なことは、正確な情報収集と未来予測だ。例えば、次のような項目が考えられる。

正確な情報収集に努め、未来を予測せよ

<「FACT(事実)」だけを徹底的に情報収集すること>

いまだに、今回の新型コロナウイルス=COVID-19を「単なる風邪」と主張する人が少なくないが、そう主張してきた人の大半は、ポピュリズム政治の犠牲者と言っていいかもしれない。パンデミックリスクに対応する基本は、正確に病気のことを知って、情報を徹底的に集めること。正しい情報に基づいて、対応策を考えることだ。

<専門家のアドバイスを受けること>

リスク管理や医療など、その分野の専門家のアドバイスを受けながら、未来の見通しを立てることが大切。経営的に厳しい状況を正確に判断するには、楽観的な希望的観測ではなく、専門家の意見をきちんと聞いて対応策を考えるべきだ。

<出口戦略を立てたうえで行動に移すこと>

緊急事態宣言などによって、莫大に借り入れをしなければならない。あるいは社内のデジタル化、DX化を推進するために、莫大な資本投下に迫られる、といった経営戦略上の方向転換を余儀なくされるときは、きちんとその成果を見極めて、失敗したときの出口戦略から、成功したときの成果まで、正確にシミュレーションしてみることが重要だ。

<状況に応じて複数の対応策を用意すること> 

パンデミックは、今後一過性のモノにはならない、という見方をする専門家が多い。COVID-19が収束しても、また新しいパンデミックが発生する可能性も否定できない。リスクを整理したうえで、状況に応じた方法を複数用意して備えることが大切だ。

現在、パンデミックの影響で世界経済は疲弊を余儀なくされている。ワクチン接種のスピードが勝つのか、それともウイルス蔓延による経済の落ち込みが早いのか。人類全体の大きな危機と言ってよい。リスク管理、危機管理をきちんとしていかなければ、生き残れない時代になっていることを忘れないことだ。

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