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ハーバード大教授の「老いを治療できる」勝算

「老いなき世界」を社会はどう迎え、ビジネスはどうシフトし、私たちはどう生きるべきか(写真:筆者提供)
人生100年時代とも言われるように、人類はかつてないほど長生きするようになった。しかし、私たちはよりよく生きるようになったと言えるだろうか? もしいくつになっても若い体や心のままで生きることが可能となったら、社会、ビジネス、あなたの人生はどう変わるのだろうか?
ハーバード大学医学大学院の教授で、老化研究の第一人者であるデビッド・A・シンクレア氏が、人類が「老いない身体」を手に入れる未来がすぐそこに迫っていることを示した、全米ベストセラー『LIFESPAN(ライフスパン):老いなき世界』。
2020年12月にオンラインで著者にインタビューを行い、コロナ・パンデミックが老化研究に与えた影響や、老化を治療することの意義やそれが可能にする人類の可能性などについて、話を聞いた。

老化研究が「高齢者の重症化」を解明する

2020年は新型コロナウイルスの感染が拡大したことによって、世界中の多くの人々の行動が制限されました。

ハーバードの私たちの研究室も影響を受け、しばらくの間は閉鎖されましたが、現在はシフト制で再開し、「なぜ高齢の感染者がより重症化するのか」という点にフォーカスしながら研究を進めています。

高齢化・老化は世界最大の課題ですが、今回のパンデミックで、アメリカでは、高齢者に対してより大きな注意が払われるようになりました。

年配者に対して気を配り、大切にしようという機運が高まり、世界的に高齢者に対する関心度が高まったのではないかと思います。そして、老化研究の重要度がより一層増してきたと感じます。

なぜ老化にともなってこれだけの苦しみが発生するのでしょう。もちろん、新型コロナだけでなく、一般的な疾病においても、「なぜ高齢化によって疾病をともなうようになるのか」という根本的なテーマを持ち、その原因を探ることが私たちの研究目的です。

最新の研究では、老化のプロセスは遅らせることができるということがわかっています。なぜ老化が発生するのか、そしてまた、なぜ老化を遅らせることができるのかということについて、すばらしい研究成果が上がってきているのです。

私たちの研究チームが科学誌『ネイチャー(Nature)』に発表していますが(2020年12月2日、電子版)、実験室のマウスで「老化の時計」を逆回転させられることも証明されています。老化したマウスの視力が回復することを突き止め、しっかりとしたエビデンスがすでにあるのです。

『LIFESPAN(ライフスパン):老いなき世界』を執筆した理由は、この心躍るような科学の前進を、ハーバードの学生たちだけでなく、世界中の人々と共有したいと思ったからです。

ほとんどの人たちは、科学の観点でこれほど老化についての知見が広がり、深まっていることを知らないと思います。しかし、この数年でかなりの科学的解明が進んでいるのです。

さまざまな病気の根本原因である「老化」

本書で最も伝えたかったことは、「老化は病気である」と認めることによって、老化に対して、誰もが自分でしっかりとインパクトを生み出せるのだということです。

老化の要素の80%を担っているのは、自分自身の決定であり、そして、残りの20%が遺伝子の決めるところにあるのです。

しかし一般的に、老化は病気ではないと思われています。老化は自然なことなのだという前提を、みんなが心理的に受け入れてしまっているからでしょう。ですから、その根本原因を取り除こうとは考えもしません。

科学の世界では、がんや心疾患、アルツハイマーなど個別の疾患においては研究が進んでいますし、理解も得られています。しかし、その最も大きな根本原因は、ほかでもない「老化」であるということについては無視されています。それが、老化研究が遅々として進まない理由でもありました。

しかし、ひとつの疾患を治療したとしても、寿命に対するインパクトは小さなものです。がんを治癒したとしても、平均寿命は2年しか伸びないのですから。

世界20カ国以上で本書が刊行されましたが、実は、きわめて反響の大きい国と、そうでない国があることに気が付きました。とくに反響が大きい国というのは、おそらく「技術」というものに対して楽観的で前向きな姿勢を持っているのではないかと思います。

例えば、日本は、これまで数々の技術を使いながら問題を解決してきた偉大な国です。そういった国柄ですから、日本の方は、高齢化や老化に対する科学的解明が進むことに対して、非常に強い興味関心を抱かれているのではないでしょうか。

日本は世界一の長寿国ですから、すでにかなり正しいことをやっているのだろうと思っています。老化研究は、病気の根本原因を探り、老化にともなう病気を予防するための研究であり、私たちが目指しているのは、社会や家族とともに、いつまでも健康で生産的な年月を過ごしていくことができるという世界です。

そうなれば社会のためにもなりますし、個人のためにもなるでしょう。人生の終わりに、長らく病気に苦しみ、まわりの家族もそれを目の当たりにしなければならないという状況は、誰もが経験したくないものだと思います。

だからこそ、老化にともなう病気を予防すること、それこそがみなさんが手に入れたい知識ではないかと考えているのです。

老化を遅らせ、治療する薬が登場する

本書に書いたような、老化を治療する時代になれば、おそらく世界全体がもっと幸せで豊かになると私は思っています。

誰も100年前には戻りたくないものでしょう。その時代は、あまりに頻繁に死が訪れていました。将来について考えるときも同じです。80歳、90歳、100歳になった段階でも健康でいられるならば、より幸せな世界になるでしょう。

もちろん、近い将来、すぐに老化が完治するというふうには申し上げられないですが、それでも、世界中で何百人もの科学者や企業が研究を進めています。少なくとも、老化のスピードをゆるやかにする、ある程度の治療を可能にする医薬品は、そう遠くないうちに登場するでしょう。そして、それらは、実は、現在すでに一般的に使われている医薬品の一部でもあるのです。

私の研究室や、私の研究仲間たちが開発した医薬品については、ぜひ地球上の多くの人々に使ってほしいと思っています。現在は、アメリカとオーストラリアで治験を実施していますが、日本から共同研究に参加していただくことも大歓迎です。

老化に対する体の防御メカニズムについては、ワシントン大学の今井真一郎教授の研究が非常によく知られています。NMNと呼ばれる分子についての研究です。

NMNという物質は、老化にともなって失われた細胞を再活性化する、あるいは置き換える役割があります。老化したマウスにNMNを与えると、とても元気はつらつになり、見た目も若くなり、そして、若いときのように走り回るようにもなったという研究があります。

健康長寿のために今すぐできること

私は、長い間、世界で最も健康食であると言われている、沖縄の食生活を取り入れているのですが、ひとつみなさんにアドバイスできることがあります。

大人であれば、なるべく食事の回数は減らしてください。1日3食をしっかり全部食べきるというのは、大人であれば多すぎると思います。

多くの研究からわかっているのは、人は、若干お腹が空いた飢餓の状態におかれていたほうが、老化に対抗する防御メカニズムが働くということです。つまり、老化にともなうさまざまな疾患に対する防御メカニズムが高まるのです。

いままでの人生は短いものでした。1度目で正しい選択をしなければ、その後にやり直すということは許されなかった。でも、より健康に長く生きられる時代になれば、それが可能です。私は、日本語をうまく話せたらなあという夢を抱いていますから、人生が長くなるのなら、ぜひそれを実現したいですね。

私たちは非常にエキサイティングな時代に生きています。なぜ老化するのかが理解できたからです。そして、人類史上はじめて、どうすれば老化のプロセスを遅らせ、長く健康に年を重ねていけるのかを理解しはじめたのです。

科学の世界は大きく飛躍しています。

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