「まず失敗せよ」リーダーに必要な2つのこと

アフターコロナで生き抜くために、企業のリーダーはいかにあるべきか?(写真:Vadzim Kushniarou/iStock)
わずか半年ほどで世界を震撼させ、経済活動や社会活動を一気に停滞させ、世界中の人々の生活をどん底に陥れようとしている「コロナ・ショック」。いったい「コロナ・ショック」を、日本人は、日本企業は、どう生き抜けばいいのか。
経営学の世界的名著『知識創造企業』の25年ぶりの続編『ワイズカンパニー 知識創造から知識実践への新しいモデル』を上梓した一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏と、『コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方』を緊急出版した経営コンサルタントの遠藤功氏が、「アフターコロナ」で企業に求められる形について語り合う。
*1回目はこちら

なぜ「コロナ復興」が叫ばれないのか

遠藤功(以下、遠藤):私と先生との出会いは2011年、東日本大震災の約半年後に出した対談本(『日本企業にいま大切なこと』PHP新書)がきっかけでした。早いもので、それから9年半が経ちました。今回のコロナが国難だとしたら、あの地震も別の意味で国難でした。

野中郁次郎(以下、野中):まさにそうでしたね。

遠藤:当時と今との違いは、その後に「復興」という言葉が出たか出ないかという点にあると思っています。

当時は「復興」という言葉がすぐに使われました。見たことのないような大津波と、それによる甚大な物的被害という目に見えるダメージがあったからでしょう。地震が起きた翌4月にはたくさんの人たちが「復興」という言葉を発していました。一方、緊急事態宣言が発出され、半年も経つというのに、今回は「復興」という言葉をほとんど耳にしません

野中:コロナの被害をトータルで考えると、東日本大震災より大きいかもしれませんね。

遠藤:そのとおりだと思います。その被害の実体が見えず、しかも、津波のように瞬間的なインパクトがあるものではなく、ダラダラと持続するので、実感が湧きにくいのでしょう。

医療も大事ですが、経済も大事です。それこそ人の生死にも大きく関わってきますから。内閣も交替しましたが、それこそ「コロナ復興庁」でもつくって、リーダーが率先して総合的、多面的に取り組まないと、後に禍根を残すことになるのではないかと心配しています。

野中:政治はともかく、このコロナ禍にうまく対応した機動力あふれる企業として、「アイリスオーヤマ」に注目しています。

もともとはプラスチック成形品の会社ですが、商品群をどんどん拡大し、園芸用品からペット用品、最近ではLED電球や家電分野にも進出し、成功しています。コロナ禍ではマスクが品不足になるや、瞬時に大増産に転換し、注目を浴びました。

今年2月、宮城県角田市にある拠点に赴き、毎週月曜日に開かれている新商品開発会議を見学させてもらいました。

この会議では、大山健太郎会長以下、社長、役員が一堂に会し、その前で担当者が新商品の企画提案を行います。議論は即断即決で、OKが出ると、社長がその場で決裁印を押す。稟議などの社内政治が不要ですから、開発がスピーディーに進みます。

「早く失敗せよ」社員の失敗を急かしたナデラ

遠藤:とてもいい話ですね。社長が社長室にこもっていてはいけない。それが今求められている真のリーダーシップです。

遠藤功(えんどう いさお)/シナ・コーポレーション代表取締役。早稲田大学商学部卒業、アメリカ・ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。2005~2016年早稲田大学ビジネススクール教授。2020年6月末にローランド・ベルガー日本法人会長を退任。7月より「無所属」の独立コンサルタントとして活動。良品計画やSOMPOホールディングスの社外取締役を務める。主な著作に『現場力を鍛える』『見える化』などがある(撮影:梅谷秀司)

社長がパソコンにかじりつき、ビデオ会議だけをやっている会社は駄目です。トップがそういう姿勢だと、現場が盛り上がらず、ワクワクしない。アイリスオーヤマの現場はワクワクしていると思いますよ。

野中:私がアメリカ企業で最近注目しているのは「マイクロソフト」です。創業者のビル・ゲイツは自社のOSに固執し、そのOSに付属したソフトを売るという「囲い込み戦略」で大成功を収めましたが、モバイル化、クラウド化の波に乗れず、その後は伸び悩んでいました。

そのビジネスモデルを一新させ、業績回復を成し遂げたのが3代目の現CEO、サティア・ナデラです。ライバル会社のOSでも自社製品を使えるようにするという「オープン化」を進めるとともに、企業文化もそれにふさわしい中身に一新させました。

遠藤:「パッケージソフト」という製品を売る企業から、クラウドを使って「ソリューション」というサービスを提供する企業に変身させましたね

野中:ナデラはインド人で、母親はサンスクリット語の研究者です。彼も哲学が好きで、そういう意味では先ほどのピーター・ティールに似ています。

遠藤:私もナデラには注目しています。彼がマイクロソフトのトップに就き、最初にやったのは、「早く失敗せよ(Fail Fast)」というメッセージを社内に発信することでした。失敗から早く学習し、次にトライせよ、というわけです。この失敗に対する寛容性が、悪い意味の前例主義、完璧主義がはびこっていたマイクロソフトの文化を一新させたようです。

野中:ナデラは「人間同士の共感」を非常に大切にします。それは「顧客に対する共感」であるとともに、「社員同士の共感」でもある。

ナデラがCEOになってから、アメリカ本社の経営執行チームのミーティングが様変わりしたそうです。以前は業績を表わす数字を皆でにらめっこし、達成、未達成を明らかにするとともに、未達成の原因を長時間かけて探る場だったそうです。

野中:ナデラは「数値は各自が確認すればいい」とこれをやめさせ、その代わりに、出席者1人ひとりが、これまで歩んできたキャリアや人生観を物語り、共感し合う場にしたそうです。

この「物語る」という行為は、リーダーにとってとても重要です。経営者の個人史を含めた「物語」(ナラティブ)が、企業の戦略を構成すると私は考えています。戦略は「物語」なのですよ。

戦略は「ソープオペラ」。立ち直りが「物語」になる

野中:国際政治学者のローレンス・フリードマンは、戦略は「ソープオペラ」だと言います。「ソープオペラ」とは、平日の昼間にテレビ放映しているメロドラマのことで、石鹸メーカーのP&Gなどがスポンサーだったことからその名がつきました。それは番組が進むにつれて登場人物が入れ替わります。さらに筋書きも変化し、エンディングも決まっていません。

野中郁次郎(のなか いくじろう)/一橋大学名誉教授。1935年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造勤務の後、カリフォルニア大学(バークレー校)経営大学院にてPh.D.取得。南山大学、防衛大学校、一橋大学、北陸先端科学技術大学院大学各教授を歴任。日本学士院会員。知識創造理論を世界に広めたナレッジマネジメントの権威。主な著作に『知識創造企業』『失敗の本質』などがある(撮影:梅谷秀司)

遠藤:企業の戦略も確かにそうですね。

野中:そうです。最初に理論ありきとか、市場の構造から自然に導き出されたりするものではないということです。現実のただ中で、刻々と移り変わる状況を勘案しながら、リーダーが絶えず考え抜き、その時点でベストあるいはベターと思う施策をやり続ける。おかしな兆候が表れたら、迷わず修正していく。それが戦略です。

遠藤:戦略が「物語」だとして、「失敗経験」を積極的に積ませるナデラがすごいのは、そこからの立ち直りが「物語」になるからだと思います。失敗し、そこから立ち上がって成功をつかむというのが「物語」としては最も美しい。多くの共感も生むことができる。「まず失敗せよ」というのはすばらしいメッセージです。

それに対し、最近の日本の経営者は違います。いきなり「成功」を求めてしまう。リーダーとして「失敗せよ」とはなかなか言いにくいのでしょう。どうすればいいでしょうか。

野中:つい最近、政治家と経営者のリーダーシップに、どんな共通項や差異があるかを探ろうと、政治学者の北岡伸一さんと、シリーズで対談をしています。

毎回2人ずつ取り上げることになり、初回は私が渋沢栄一と益田孝、北岡さんが大久保利通と伊藤博文です。戦前のことは詳しくはなかったので、にわか勉強をして、ずいぶん昔には読んだのですが、渋沢栄一の『論語と算盤』を改めて手に取ったのです。

野中:『論語と算盤』というのは、「理想と現実」「利他と利益」の同時追求ということです。「現実の利益追求」を考えるならば失敗は許されないけれど、理想と経営理念は失敗抜きには実現しませんどちらかではなく、両方を進めなければならない。そのことをリーダーがよく認識し、社内でも言い続けるしかないのではないでしょうか。

トヨタに「選択と集中」という言葉はない

遠藤:それに関しては私自身も反省があります。アメリカ流の経営学を学んだ結果、そうした「あれもこれも」ではなくて、「あれかこれか」、つまり「選択と集中」をやるのがいい経営なのだと思い込まされてきた。その思い込みがバブル崩壊後の30年、日本の企業社会を覆っていたと思います。

以前、トヨタの役員の方と議論した際に、「トヨタには『選択と集中』という言葉はない」と聞きました。いったん始めた事業は絶対にやめない。頭を振り絞り真剣に考えて立ち上げたのだから、どんな苦労に直面しようとも、成功するまでやり続けるのだと。まずはやってみて、うまくいかなかったらやめればいい、というアメリカ流と対極の考え方です。

「選択と集中」という言葉を安易に使うようになった日本の経営者たちへの警鐘かもしれません。

野中成功するまでやり抜くか、失敗しそうになったらすぐに退くか。それは一概にどちらがいいとは言えませんね。

実は、先ほどからお話している戦略には、全体の筋書きとしての「プロット」と、そのプロットを形にするために、社員(メンバー)がどう行動するべきかを明記した「スクリプト」(行動規範)が必要です。「スクリプト」は演劇でいう「脚本」「台本」のことで、ある特定の文脈や状況において、「こうした場合はこうする」と答えを暗黙的に教えてくれるものです。

遠藤やり抜くか、退くかは各企業の「スクリプト」によって変わるというわけですね。

野中:そのとおりです。実は、そのトヨタが昨年夏、社員手帳というものを初めて作って全社員に配りました。仕事の日程を書き込むためではなくて、トヨタの企業理念とともに、創業者・豊田佐吉の遺志を形にした「豊田綱領」を現代語訳し、解説つきで掲げています

「上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙ぐべし」で始まる5項目の豊田綱領が、まさにトヨタの「スクリプト」なのです。自動車業界は100年に1度という変革の大波にさらされており、自分たちも変化せざるをえない。そのためには足元をしっかり固める必要があるという危機感からでしょう。

遠藤:どんなにかっこいい戦略をつくっても、実現しなければ「絵に描いた餅」になってしまう。しかも、その実現を形にするのは社員1人ひとりだから、各自が日常的に守るべき規範を定めておくということなのでしょうね。

「主観的時間」と「客観的時間」

野中:そのとおりです。遠藤さんがいつも指摘されていることですが、いくらよいことを言っても、行動につながらないならすべて無意味です。

遠藤1日1日という日常、つまり「いま・ここ」がいかに重要かということですね。

野中:そうですね。1日は確かに24時間ですが、それは人間の捉え方によって伸び縮みします。時計が指し示す「客観的時間」というのは幅がなく、点で表されますが、「主観的時間」というものもあります。

われを忘れて仕事に没頭しているときは時計の針が進むのが早いでしょう。それこそが「主観的時間」です。心理学者ミハイ・チクセントミハイのいう「フロー体験」や仏教の「無我の境地」がそれです。

そして、イノベーションをはじめ、「創造的な物事」は、「主観的時間」でわれを忘れて没頭することからしか生まれません

遠藤社員の失敗を許容し、チャレンジさせること。「客観的時間」より「主観的時間」を重視すること。「ワイズカンパニー」のリーダーには、この2つが重要ということですね。

(構成:荻野進介)

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