韓国の「歴史認識」はなぜ日本とこうも違うのか

韓国と日本でこんなに歴史認識が異なるのはなぜなのか(写真:ロイター/Kim Hong-Ji)
戦後最悪とされる日韓関係。その原因は従軍慰安婦や徴用工などに関する歴史認識問題だ。なぜ歴史認識が日韓で乖離し、対立を生んだのか。その軌跡を、歴史家が丹念に追う。『歴史認識はどう語られてきたか』を書いた神戸大学大学院の木村幹教授に聞いた。

「河野談話」もすでに歴史

──解決不可能と思えるほど、日韓関係は悪いままです。

解決をいう前に、われわれが双方の現代史をきちんと把握し、理解しているのかどうか。歴史認識とは、過去の歴史的事実そのものをめぐる問題というよりも、過去の歴史的事実をそれぞれの時代に生きる人々がどのように考え、どの部分にどのような重要性を見いだすかという問題です。この点が、きちんと理解されていません。

──確かに「そうだろう」「そうだったはずだ」といった思い込みで語られがちですね。

太平洋戦争中の問題である慰安婦問題を、「当時の人は慰安婦なんて知らなかった」として語る人がいます。戦後75年といいますが、その時間幅は奈良時代(710〜94年)とほぼ変わらず、明治維新(1867年)から太平洋戦争終結(1945年)までに匹敵する「一時代」なのです。でも、現代史なので自分たちから遠くないとの感覚があり、「知ってるよ」と安易に判断して語りがちです。

──慰安婦への日本軍の関与を認めた1993年の「河野談話」の是非が問題になることがありますが、その実、河野談話で何が語られたのかは知られていません。

27年前のことですが、きちんと理解されているかどうか。河野談話もすでに歴史であり、だからこそきちんと確認して議論する必要があるのですが、多くの人はそうは考えません。1982年の教科書問題や1980〜90年代から広がった慰安婦・徴用工問題は、それぞれの時代でどのように、どういった状況で語られ、あるいは認識されていたのか。そういった歴史の変化を追い、それを残せるか。歴史家は、歴史に振り切られないようにすべきです。

──韓国ではとくに、1987年の民主化をはじめ1980年代に激動の時代を迎えました。

木村 幹(きむらかん/1966年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業、同大大学院博士課程中退。神戸大学大学院助教授などを経て2005年から現職。『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』『韓国における「権威主義的」体制の成立』『日韓歴史認識問題とは何か』など著書多数。(撮影:今井康一)

日本は海外から「安定した国でいいですね」と言われます。生活が安定し平和であるのはいいことですが、そのぶん対外的な変化に鈍感です。日本の外には激しい変化の生じている国があり、韓国はその1つです。外国とのギャップに、もっと留意すべきでしょう。

例えば安倍晋三前首相は、2015年の慰安婦合意など韓国に対して積極的でした。祖父・岸信介元首相から彼の時代の韓国の話を聞き、それが安倍氏の対韓認識を形成したゆえかもしれません。

しかし、岸氏が在任した1950年代末からはもちろん、安倍氏の在任期間中にも朴槿恵(パククネ)、文在寅(ムンジェイン)政権下で韓国は大きく変化しました。その変化を安倍氏はきちんと読み取れていたでしょうか。もちろん、これは韓国の政権も同じで、この10年間の日本の対韓国世論の急速な悪化は、彼らにとってもついていくのが大変な現象でしたからね。

80年代の変化に日本は気がつかなかった

──歴史認識が大きな外交懸案となったのは1980〜90年代以降です。これには、韓国の歴史研究者の世代交代も影響したのですか。

植民地時代の歴史研究は、朝鮮半島では日本人研究者が主導しました。韓国人の研究者が本格的に養成されるようになったのは、植民地支配の末期からです。だから、日本支配が終わった当時の歴史研究者の大半はまだ20代で、彼らがそのまま教授として主要大学のポストに就いた。それから約30年間、彼らは退職するまで学界の要職を占め続けました。

1980年代に入り、韓国の経済成長と国際環境の変化などを背景に、従来の研究とは一線を画す歴史研究を主張する研究者が出現しました。日本語で教育を受けた世代が徐々に退場し、「民族史観」が打ち立てられるなど歴史研究の大きなパラダイムシフトが生じました。この変化が、その後の歴史認識問題の下地となるのですが、この大きな変化に当時の日本人は気づきませんでした。

──2018〜19年には旭日旗への韓国世論の反発や韓国艦艇による自衛隊機レーダー照射、日本の輸出規制管理強化などの問題が発生して日韓対立がさらに深まりました。

慰安婦・徴用工問題とは明らかに違う、韓国発の新たなイシューが頻発しています。とくに旭日旗問題は、従来の慰安婦や徴用工といった問題とは、具体的な当事者がいない点で、性質が異なります。

問題が大きくなったのは、2018年に韓国で予定されていた国際観艦式を前に、参加を予定していた海上自衛隊に対し韓国海軍が旭日旗の使用自粛を実質的に要請したことに海自が反発、参加を取りやめたからでした。背景には、旭日旗は日本軍国主義の象徴であり「戦犯旗」だとの認識がすでに確立していたことがありました。

日本のプレゼンスは韓国で低くなった

この認識が韓国で急速に影響力を持ったのは、人々が歴史の具体的な事実に関心を失い、植民地支配=悪であり違法、とする単純な理解に頼るようになったからです。この植民地支配=悪であり違法、とする考え方は、大韓民国建国上の「建前」でもあり、韓国では誰も抵抗できない。だから例えばインターネットで、他人を批判する際にはものすごく便利だったりします。そして、これに対して大統領など政府要人らもわざわざ火消しに動こうとしない。

かつて、日本との関係が強い時代には国内の対日反発は要人らが必ず抑えようとしました。しかしこの20年間、韓国での日本の政治的・経済的プレゼンスが低下し、相対的に重要性が低くなりました。ゆえに、無理に火消しに走ろうというインセンティブが要人らに生じない。となれば、旭日旗問題のような「建前」に関わる問題が今後も簡単に起こるようになります。

──文政権は日本に関心がないとの指摘もよく聞きます。

重要性が低いので関心も低くなる。日韓関係での「イデオロギーガバナンス」、国家としての建前に関わるナショナリズムを統制するシステムが利かなくなっています。建前を抑え、関係改善のために「火中の栗を拾う」エリート層がいなくなれば、現場での日本への対応に配慮がなくなります。レーダー照射のような緊張感のない事態が発生しやすくなるでしょう。

ジャンルで探す