FRBは今後「バブル退治」をする気があるのか

下院で証言するジェローム・パウエル議長。FRBは議会に財政支出を求める一方、バブルについてはどう考え、どう行動するのだろうか。株価のことを考えるうえでも重要だ(代表撮影/ロイター/アフロ)

9月以降アメリカ株が乱高下、一時は調整色を強めた。また日本株も上昇の速度が鈍っている。アメリカ株の調整はそれまで著しい上昇基調にあったハイテク株に集中していたため、日本株の打撃はアメリカ株対比(特にナスダック)で限定的だった。だが今後、政策効果の息切れなどからアメリカ株が下落基調を強める可能性もあり注意が必要だ。そこで本稿では、政策当局者としての米連邦準備制度理事会(FRB)がこの事態をどう打開していくのかを読み解くと共に、FRBが資産価格とどう付き合っていくのか考えてみたい。

FRB高官は政府に対して凄まじい「口撃」を開始

金融緩和策を使い尽くしつつあるFRBは新たな刺激策を「開発」したようだ。それは政府に対する凄まじい「口撃」である。包括的景気対策の導入が遅々として進まないことに対して、FRB高官はさまざまな言い回しで政府景気刺激策の導入を促している。以下、景気の現状認識とそれに対するFRBの行動や政府に求められる対応について、4名の発言(9月23日分が主体)を要約してご紹介しよう(9月23日の発言から)。

<ジェローム・パウエルFRB議長>

「コロナ禍からの景気回復が進展しているとはいえ、コロナ前の2月時点と比較すると、なお何百万人もの失業者がおり、道のりは長い」とする。そのうえで「景気回復への取り組みを続ける必要がある。議会とFRBの双方が支援すれば、回復のスピードは速まる」「追加経済対策を巡る政治的行き詰まりのなか、追加財政支援が必要になる可能性が高い」としている。

また9月22日の下院金融委員会では「先行きはコロナウイルスの抑制、政府のあらゆるレベルでの政策措置にかかってくる」と発言。同24日の上院金融委員会では「(家計が)最終的に資金を使い果たし、支出削減を余儀なくされ、家を失う恐れがある」「これは追加措置を行わない場合のリスクだ。このようなケースはまだ見られないが、そう遠くない将来に現れるかもしれない」とした。

<リチャード・クラリダFRB副議長>

「2%のインフレ率が実際に少なくとも数カ月続き、さらに完全雇用を達成するまで金融当局が利上げを検討することはない」「数カ月前の当局者の予測よりもこれまでの景気回復は力強いが、今後は困難な道のりになる。財政政策による支援が役立つ」としている。

<チャールズ・L・エバンス・シカゴ連銀総裁>

「労働市場が完全雇用に達し、インフレ率が持続的に2%を維持するまでFRBは金利をゼロに据え置く」「インフレ率が2%を明確に上回り、2.5%やそれを上回る水準を追い求めて緩和を強化することを恐れていない。さらに緩和が必要ならばそうするだろう」「財政政策のスタンスは重要。小規模企業には融資ではなく支援供与が必要」としている。

<エリック・ローゼングレン・ボストン連銀総裁>

「新型コロナの流行が予想以上に長期化しており、企業や家計を引き続き支援するため、追加の財政政策が必要」「コロナの流行が3カ月なら問題なかったが、かなり長期化しており、より的を絞った支出が明らかに必要だ」「経済がコロナ禍前の水準に戻るにはワクチンが幅広く行き渡ることが必要。それまで金融、財政政策は極めて緩和的に維持される必要がある」とする。

FRBが政府に包括的景気対策の早期導入を促す

あえて多めに4人の高官の話を引用したが、いかがだろうか。かつてドナルド・トランプ大統領はFRBに対して「仕事が遅い!」と不平を露わにしていた。

今度は、FRB高官がそれにオウム返しするかのごとく、政府に包括的景気対策の早期導入を促している。金融政策の限界が近づいていること逆手にとり、開き直りとも言える姿勢を示した形だ。

現在、包括的景気対策を巡って共和党と民主党の隔たりは依然大きく、暗礁に乗り上げた印象すらある。だが、こうしたFRB高官の発言は少なからず政府の背中を押すだろう。包括的景気対策を巡る協議は徐々に妥協点がみえてくるのではないか。ちなみに、日本では日銀の政策委員が政府の財政政策に注文をつけることは極めて稀であり、現在もそうした動きはみられない。

さて、一方でFRBが直面するもう一つの悩ましい問題は「バブル」である。実体経済の回復に対して株価の上昇が著しいため「FRBの金融緩和がバブルを醸成している」との指摘は多く、それが格差拡大を助長しているとの批判もある。そうした中で、FRBは「雇用最大化」と「物価安定」の2大責務のうち雇用を重視する姿勢を明確にしている。

景気回復の過程でインフレ率が2%を上回って上昇したとしても雇用最大化が実現するまで金融緩和を維持する、いわゆるアベレージ・インフレ・ターゲット政策の導入である。もちろん、長期にわたる金融緩和が約束されるならば、それは資産価格にポジティブである。投資家も、量的緩和第3弾(QE3)の縮小懸念によって引き起こされた2013年5月の「テーパータントラム」(量的緩和縮小に伴う市場の動揺)、連続利上げ中の2018年10~12月期に起きた株価下落など、FEDの金融政策によって引き起こされた株価下落の恐怖から解放される。

では、もし資産価格が高騰した場合、FRBはどういった舵取りを選択するだろうか。結論を先取りすると、FRBはバブル退治を後回しにして、雇用最大化に専念すると思われる。それは彼らの源流にFEDビューという考え方があるからだ。

資産価格に対する中央銀行の政策スタンスについては、大きく分けて2つの考え方がある。一つはBISビュー、もう一つはFEDビューと呼ばれるものである。なお、BISは国際決済銀行、FEDはアメリカの中央銀行FRBの呼称。である。

まずBISビューは、資産バブルを未然に防止することを重視する立場をとり、バブルの兆候がみられた場合、速やかに予防的な金融引き締めを実施すべきとの考え方である。バブル期の過剰投資がその後の深刻かつ長期の不況を招くため、そうした代償を払うくらいなら、不人気政策である金融引き締めを早期に講じるべき、というわけだ。1980年代後半の日本のバブル、2000年代半ばの欧米住宅バブルが引き起こしたリーマンショック、これらの敗戦処理中にはBISビューがもてはやされ、バブルの温床を醸成した中央銀行を批判する声が増えたのも事実である。

雇用最大化にメドがつく前にバブル発生の可能性も

一方のFEDビューは、大まかにいえば「物価安定」の達成を目的とする金融政策の結果、資産価格が大幅な上昇を示したとしても、それを金融引き締めによって阻止する必要はないとの考え方である。

というのも資産バブルは、(1)それが発生しているときに客観的な判定ができない(2)バブル退治のために金融引き締めを実施したとしてもそれによって資産価格の急騰が収まるかわからない(3)引き締めの結果として生じる実体経済への悪影響が無視できない、というように多くの問題がある。またバブルを未然に防ぐことを重視する結果として失業が発生するくらいなら(4)バブルが崩壊してからその時々の状況にあった対策を講じた方が全体として望ましい政策運営ができる、というものである。

今回、FRBがアベレージ・インフレ・ターゲットを採用したのはインフレ率の上振れを許容するとともに、バブル発生のリスクには目をつぶって雇用最大化を優先するという決意の表れだろう。これこそがまさにFEDビューである。すでにロビンフッダーと呼ばれる個人投資家が過剰なリスクテイクに走るといったバブル的兆候が散見されているのは事実だが、こうしたFRBの姿勢に鑑みるとバブル退治に動いてくる可能性は低そうだ。この安心感が投資家の過大なリスクテイクを助長する。雇用最大化にメドがつく前に、資産バブルが発生する可能性があるだろう。

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