今の30~40代非正規を待つ「極貧」老後の超不安

すでにある格差が将来にわたって、もっと広がっていきかねない(写真:kieferpix/iStock)
1990年代半ばから2000年代前半の「就職氷河期」。その影響を全面に受けた世代が今、大きな格差に直面している。一度レールから落ちてしまった人に厳しい日本社会の特徴が、就職時期に「機会の平等」を享受できなかった中年世代の上に重くのしかかっている。
しかし、それは決して特定の世代の問題ではない。「今の40歳前後に苦しい生活を送る人が多い因縁」(2020年9月1日配信)に続き、格差問題に取り組み続けている橘木俊詔氏の新刊『中年格差』から、本書の一部を抜粋・再編集してお届けする。

社会保険制度に非加入の人が少なくない

高齢者は現役で働いているときに稼いだ賃金・所得の一部を年金保険料として拠出したものを財源として、引退後の年金給付で生活している。

働いている人の全員が年金、医療、介護、失業などの社会保険制度に加入しているのを「皆保険の国」と称する。日本は国民全員がこれら社会保険制度に加入しているので、「皆保険の国」と信じられてきたし、政府もそれを誇りにしてきたが、実際はそうではない。

現代の中年層は失業している人、特にパートなどの非正規で働いている人が多く、社会保険制度に加入したくとも加入できない人が相当数いる。こういう人は皆保険の枠外にいる。さらに、正規労働者であっても賃金の低下があって、十分に保険料が払えない人もいる。

日本の公的年金制度には大別して次の3つがある。

(1)国民年金制度
(2)厚生年金制度
(3)公務員共済制度

である。(2)と(3)は合併の過程にあるので、ここでは民間企業に勤める人が加入する(2)厚生年金制度で代表させる。

(1)国民年金制度は自営業者、無業者が加入するものであるが、厚生年金制度の一階部分(基礎年金制度と称される)を同時に兼ねている。国民年金は保険料も給付額も定額である。厚生年金には2階部分があって、これは報酬比例部分となっており、保険料は賃金額に応じて決められるし、保険料を多く拠出した人には、それに応じて高い年金給付がなされる。

厚生年金制度には企業で働いているすべての労働者が加入しているのが建前であるが、現実は必ずしもそうでない。法律は法人事業所と従業員五人以上の個人事業主に加入義務を課しているが、実際には加入していない事業主が存在しているのである。加入逃れは厚生労働省によると2016(平成28)年で79万社あるとされている。

ここで述べたことは、厚生年金の事務代行作業を行っている企業、すなわち従業員から保険料を徴収して、さらに保険料の事業主負担分を加えて、それらを国家に収める仕事をしている企業が、義務通りにそれを行わないという非加入ないし未加入企業を意味している。

中には加入はしているが、資金不足で実際に保険料を拠出していないケースもある。なぜこういう未加入企業が存在するかといえば、保険料の事業主負担分の支払いを避けたいという思いがあるからである。労働費用の節約を図りたいのであり、特に不況のときには保険料拠出をしないという動機の強いことは容易に理解できよう。さらに、極小企業を中心にして事務作業のわずらわしさを避けたい企業もある。

約20年前のデータで少し古いが、荻野博司氏による「事業主負担のあり方を考える」『朝日総研レポート』第172・173号(2004年)によると2002(平成14)年には企業の18%が未加入と報告されていたが、さすが現代では当局の監視の目があるので10%台の前半にまで低下しているとされる。しかしすでに述べたように79万社との報告もあるので、まだかなりの数が未加入である。つまり、かなりの数の労働者が厚生年金制度から排除されているのである。

労働時間の短い人は社会保険制度に加入できない

もう1つ公的年金を含んだ社会保険に加入しない理由として、企業は社会保険制度に加入してはいるが、そこの企業で働いている労働者のうち、労働時間の短い人は加入できないという規定のあることを強調しておこう。法律によると、加入はフルタイム労働者が原則である。

しかし従業員数が501人以上の企業であれば週労働時間が20時間以上の労働者(パート労働を含む)は社会保険加入の義務があるが、20時間未満の労働者は加入が排除されているのである。ただし、従業員数500人以下の企業であっても、労使の合意があって従業員の半数以上の同意の下で、20時間未満の労働の人(パート労働を含む)も加入が可能と2020(令和2)年の法改正がなされた。

ついでながら、この法改正は次の事項を含んでいる。年金支給開始年齢は65歳が原則であるが、選択の幅を60~70歳から60~75歳に広げた。さらに在職老齢年金の60歳代前半の減額基準を、月28万円以上から47万円以上に引き上げた。

つまり週労働時間が20時間未満の人は、原則として社会保険制度に加入できないのである。これは実は以前では資格のない人はフルタイム労働者の労働時間の4分の3未満だったところを、最近になって20時間未満に緩和した結果によるもので、パートタイム労働者もできるだけ社会保険制度に加入するのが好ましいという政策配慮がなされた数字である。

なお2019(令和元)年の法改正によって、51人以上の企業のパートタイム労働者も、2024(令和6年)までには加入できるようになった。

そうするとパート労働などの非正規労働者の週あたり労働時間の分布に関心が移る。どの程度の割合で週20時間未満のパート労働者がいるのだろうか。それを示したのが次の図だ。

(外部配信先では図を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

これは1週間あたり就業時間別の労働者数を示したものである。少し古く2009(平成21)年のものであるが、その後非正規労働者の数は減ることはなくむしろ増加傾向なので、この図は現代でも通用すると考えてよい。

この図によると、週労働時間が1~4時間が27万人(0.5%)、5~9時間が110万人(2.1%)、10~14時間が138万人(2.6%)、15~29時間が720万人(13.5%)となっている。15~29時間の人のうち、正確に週20時間未満のパート労働者が何名いて何%になるかを算出できないが、15〜29時間のうちおよそ3分の1の4.5%が15~19時間とみなせば、20時間未満の労働者はおよそ9.7%となる。全労働者のうち9.7%ほどが週労働20時間未満のパート労働者とみなせることになる。

515万人が社会保険に加入できない

パート労働者(週35時間未満の労働時間で合計が1431万人いる)のうち、およそ515万人(パート労働者のうちのおよそ36%)が社会保険に加入できないのである。これは先ほど述べた意図的に社会保険に加入しない企業が約79万社で、そこで働いている人と、ここで述べた515万人を加えると、1000万人台を超す労働者が存在していることを示唆している。もとよりダブルカウントもあるので、正確な数の算出は困難である。

ここで述べた厚生年金などの社会保険に加入していない企業で働いている人、そして企業は加入しているが労働時間が週20時間未満で加入できない人の全員が、社会保険から排除されているのではない。年金であれば次に説明する国民年金制度に加入する道は開かれているので、それに個人の意思で加入していれば問題の深刻さは和らぐのである。

ところがである。国民年金制度の加入・納付状況に関しては特に保険料の納付率に問題のあることは、よく指摘されてきたことである。国民年金制度には3つの制度があって、ここでは第1号被保険者(自営業や無業の人)での話題であり、第2号被保険者(被雇用者)と第3号被保険者(第2号の人で働かない配偶者)には関心は寄せない。

厚生労働省の年金局によると2015(平成27)年において、現年度分の納付月数で評価すると63.4%の納付率だったので、36.6%の未納率である。最終納付率で評価するとほぼ10%ポイントの上昇が見込まれるので未納率はほぼ26%前後であろう。以前はこの未納率がとても高かったが徐々に減少したので、好ましい傾向を示していた。しかしおよそ4分の1の人が未納者というのは、無視できない割合である。

制度における第1号被保険者では本書の関心である中年世代を調べるために、年齢別の納付率に注目してみよう。それが次の図である。

30~40代の未納率は40%前後

これは第1号被保険者(自営業者、学生、無業者が中心)に関するものである。この図によると、若年である25~29歳が53.5%と低く、30歳代から年を重ねるにつれて徐々に納付率が上昇している(すなわち未納率は低下)。その後、納付率は40歳代で少し低下するが、その後は上昇を続けて中年後期の55〜59歳では納付率は74.9%(従って未納率は25.1%)にまで上昇しているので好ましいことである。高齢世代になることを間近に控えて、老後所得の心配をする年齢でもあるので納付に励むのであろう。

むしろ気になるのは、中年世代(特に30歳代と40歳代)の未納率40%前後の高さである。厚生年金制度に加入していない人なら国民年金制度には加入して、しっかり保険料を納付しておいて老後の所得を確保しておきたいのであるが、かなりの人が納付していないのである。所得が低い人とか、それのない人が多いので、生活が苦しくて保険料を納付できないのであろう。高齢者になる間際に保険料を払い始めても、納入期間が短いので、年金給付の額が低く抑えられることを覚悟せねばならない。

第1号被保険者の場合には無業の人の他に自営業者が圧倒的に多いので、老後は年金に頼らずに自分の蓄積した貯金で十分に暮らしていける人もいる。しかし、自営業者(特に農業や小商店など)の所得は変動があるし、平均して所得は高額でないので、貯蓄額は一部を除いてそう多額ではなく、そういう人が高齢者になったときの生活は楽ではない。若年・中年のときにできるだけ貯蓄に励んで老後に備えるか、できるだけ国民年金の保険料を払い続けて、老後の年金給付を確実にしたい。

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