コロナ株高の裏にあるお金ジャブジャブの正体

「お金ジャブジャブ」というが、結局はどんなことなのか(写真:Caito/PIXTA)

各国の4~6月期実質GDP成長率は軒並み戦後最悪を記録した。そうした惨状をよそに株価は堅調である。

ナスダック総合指数に続き、S&P500指数も連日のように過去最高値を更新。日経平均株価も一時コロナ禍前の水準(2月21日の終値2万3386円)を回復した。目下の株高については、金融緩和と財政刺激策の組み合わせによって「ジャブジャブ」に溢れ出てきたマネーが金融市場に向かっているとの指摘が多い。

金融市場では株式、債券、コモディティ(特に金)が「全部買い」の様相を呈しており、コロナバブルとも言うべき状況にある。さて、今回は普段何気なく使うこの「ジャブジャブ」という言葉にフォーカスして、実体経済と株価を読み解いていきたい。

「ジャブジャブ」は、かつて量的緩和を意味した

金融・経済の文脈で頻繁に登場する「ジャブジャブ」。もちろんこの言葉に明確な定義などないのだが、一般的には量的緩和による資金供給を表現する言葉として使われてきた。

具体的には、日銀の長期国債の買い入れを通じたマネタリーベース(=日銀が世の中に直接的に供給するお金)の大幅増加である。マネタリーベースの約8割を構成する日銀当座預金は、日銀の資金供給によって「ジャブジャブ」にあふれかえった。マネタリーベースは2013年の量的・質的緩和の導入によって急激に増加した後、2016年末頃まで80兆円ペースで増加を続けた。

もっとも、量的緩和の解釈は「日銀がおカネを大量に供給しても景気は回復せず、物価も上がらない」との評価が多数派である。資金供給を通じて民間銀行に貸出増加を促しても、そもそもの借入需要が乏しい状態では、実体経済におカネは行き渡らなかったからである。

実際、日銀の長期国債購入によってマネタリーベースが鋭角に増加する反面、実体経済に染み出したおカネの合計であるマネーストックは緩慢な増加にとどまっていた。ゆえに量的緩和の効果は限定的であるとの理解が広く共有された。

日銀は「マネタリーベース増加がデフレ脱却に一定の効果を発揮した」との見解を示しているが、実際のデータをみるとマネタリーベースとインフレ率の関係は実績・予想ベース共に不明確で、もちろん経済成長率との関係も希薄である。

現在の「ジャブジャブ」はマネーストックの急増

他方、現在の「ジャブジャブ」は本質が違う。マネタリーベース増加もさることながら、マネーストックが急増しているからである。

マネーストックとは「金融部門から経済全体(金融機関保有分は含ない)に供給されている通貨の総量」すなわち、企業、家計などが保有する現預金の合計などであるから、マネタリーベースとは根本的に異なる。

大規模な量的緩和策でも増加しなかったマネーストック(M3)はコロナ禍発生以降急激な上向きのカーブを描き、7月は前年比プラス6.5%と歴史的な伸びを示した。これは政府による家計支援策と銀行貸出の増加が主因である。

このうち銀行貸し出し(≒企業の預金残高)には、資金繰り目的の「守り」の借り入れが含まれている。

そのため危機が過ぎ去れば元のトレンドに復す性質があることを考慮する必要があるが、それでも銀行貸出(平均残高)は7月に前年比プラス6.4%と大幅に増加しており企業部門全体ではカネ余りの状態にある。また予算規模約13兆円の特別定額給付金はほぼダイレクトにマネーストック増加(預金増加)に繋がり、家計調査ベースの可処分所得は6月に前年比プラス19%と急増した。

一口に「ジャブジャブ」と言っても、かつてのそれが主に日銀と民間銀行の間で生じたマネタリーベース増加を指していたのに対し、今の局面のそれは経済活動を担う主体(企業、家計)に直接行き渡っているという点で根本的に異なる。

こうしたマネーストック急増はアメリカも同様、いやアメリカこそが圧倒的である。

7月のマネーストック(M2)は政府による家計支援策(現金給付、失業保険上乗せ給付)と銀行貸出の増加を主因に、前年比プラス23.0%と歴史的な伸びを示した。マクロの家計収入は4~6月期に前年比10%程度増加し、商工業ローンは7月時点で前年比プラス20%程度の増加トレンドにある。

足もとのアメリカ物価の基調は思いのほか底堅い

さて、マネー急増と聞いて連想するのはインフレであろう。そうした文脈で示唆的だったのは7月の米消費者物価だ。食料・エネルギーを除いた「コア消費者物価」は前月比プラス0.6%、前年比プラス1.6%と市場予想(前月比プラス0.1%、前年比プラス1.1%)を大幅に上回り、上向きのカーブに転じた。

個人消費が鋭く持ち直したことで、厳格なロックダウン(都市封鎖)中に下落していた中古車(前月比プラス2.3%)、衣料品(同プラス1.1%)など広範な品目が伸びた。

FRB(米連邦準備制度理事会)が6月FOMC(米公開市場委員会)で示した物価見通しによれば、インフレ率は2020年にプラス1.9%となった後、2022年まで2%を超えず推移することになっている。しかしながら、足もとの物価の基調は思いのほか底堅く、インフレ率の上振れシナリオを想起させる。

最後にこうした状態でワクチンの大量供給、ウィルスの弱毒化など何らかの要因で人々の予想より早期に経済が急回復する場合、どういったことが起きるのか考えてみたい。

実体経済ではインフレ率加速が考えられる。じゃぶじゃぶに供給されたマネーが実体経済に滞留するなかで、需要が回復し、供給制約が残存すればインフレの条件が揃う。

そうした中でFRBが長期の金融緩和を約束するならば、インフレの可能性はますます高まるだろう。

通貨供給量と物価の関係は必ずしも安定的ではないが、経済活動再開の進捗にしたがって、これまでのインフレ基調が上方乖離するシナリオも考えられる。こうした状況は程度の差こそあれ、日本も同様である。

「コロナバブル」の可能性も

金融市場では、政策当局が引き締めに動けず、「コロナバブル」とも言うべき状況が到来する可能性がある。

すでに資産価格は実体経済対比で大幅に上昇しているが、だからといって失業率が十分に低下する前に金融引き締めに転じたり、緊縮的な財政政策に舵を切ることは現実の世界では考えいくい。

日米の政策当局は資産バブルのリスクを認識しつつも、それに目をつぶり、景気刺激的な政策スタンスを維持するだろう。

現在、一般的に広く共有されているメインシナリオはコロナ禍が長期化するなかで「景気低迷が続き、デフレ圧力が強まる」といった具合である。しかしながら、こうした逆のシナリオも一考の価値がある。

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