金価格は「第3のエンジン」点火で再度急騰する

FRBが動いた。27日にパウエル議長は新たな金融政策を発表。金価格はいますぐにではないかもしれないが、もう一度上昇する局面もありそうだ(写真:AP/アフロ)

金相場の上昇が一服している。だが、筆者は上昇が止まったとは考えていない。むしろ中期では歯止めが利かなくなってきたのではないか。

金価格は7月の半ばまでは1トロイオンス(約31.1グラム)=1800ドル台前半の比較的狭いレンジでの膠着状態が続いていたが、急速に騰勢を強め、1900ドル台をあっさりと「素通り」。8月に入ると一気に2000ドル台後半まで値を伸ばす展開となった。

その後、8月第2週には一転して売り圧力が強まり、1800ドル台後半まで価格調整が進んだが、現在も1900ドル台半ばを中心としたレンジを維持しており、上昇の勢いはまだまだ衰えていないように思える。

FRBの金融緩和は、今後も「上昇の原動力」に

金は短期的に見れば割高感も依然として強く、ポジション整理の売りに改めて大きく押し戻される場面があっても不思議ではない状況にある。

だが、大幅な価格調整が見られても、押し目ではそれ以上の勢いで買いが集まり、さらに値を切り上げるというパターンを繰り返しているのが、今の金相場だ。一体この上昇はどこまで続くのか、ここでは足元で相場上昇を後押ししている要因を、改めて検証してみたい。

私は金相場に関して、今年に入ってから一貫して強気の立場をとっている。1月10日付のコラム「中東情勢緊迫で2020年は金が一段と上昇する」 では当時1トロイオンス=1500ドル台だった価格が年内に1800ドルまで上昇すると予想。相場が1600ドル台半ばにまで急伸した2月25日付のコラム 「金価格はこれから一段と上昇する」と読む理由」 では、2000ドルまで目標価格を引き上げた。

その後、新型コロナウイルスの感染拡大やロックダウン(都市封鎖)による経済の停滞という想定外の要因もあり、2020年をまだ4カ月残した時点で早々と2000ドルの大台突破を達成した格好となったが、強気見通しを維持する2つの理由は全く変わっていない。

FRB(米連邦準備制度理事会)をはじめ、世界の中銀が積極的に金融緩和策を進める中で、金市場へ投機資金が流入していること。もうひとつは、世界経済や国際経済の先行き不透明感の高まりに伴う、安全資産としての需要の高まりである。

特にFRBの積極的な金融緩和策による市場への投機資金流入が、ここまでの強気相場の根幹をなす大きな下支え要因であったことは、疑いの余地がない。

振り返ると、今年1月時点では、昨年12月のFOMC(米公開市場委員会)において3会合連続で行われてきた利下げが打ち止めとなり、2020年は金利据え置きとの見方が強まっていた。

だが、その時点でもFRBの金融緩和は相場の押し上げ要因としては十分だった。その後新型コロナウイルスの感染拡大によって世界的規模でロックダウンが行われ、経済活動が停止してしまうなか、FRBがゼロ~0.25%のレンジまで一気にFF金利を引き下げ、量的緩和策も再開し必要ならば無制限に米国債の購入を行うとしたのは記憶に新しい。FRBの金融緩和は、やはり金市場にとっていちばんの強気材料だ。ここまでの相場上昇のほとんどが、金融緩和によってもたらされたといっても過言ではないだろう。

FRBの「新政策」も金相場の上昇を「後押し」

さてこうしたなか、FRBのジェローム・パウエル議長は27日、カンザスシティー連銀主催の国際経済シンポジウムで講演を行い、インフレに関する政策方針を変更する意向を示した。

例年ワイオミング州ジャクソンホールで開かれているこのイベントは、しばしばFRB議長が政策変更を表明する場になることで知られている。今回は新型コロナウイルス感染拡大の影響でWEBセミナーとなったが、そのジンクスは続いているようだ。

議長は労働市場の逼迫が、物価上昇圧力につながらなくなっていることなどを指摘し、ここ数年の物価低迷に対する警戒感を示した。そのうえで、今後は2%の目標を超えてインフレが進行したとしても、ある程度はそれを容認する姿勢を打ち出した。

前年比で2%というインフレ目標は依然として有効ではあるが、あくまでも平均としてのものであり、一定期間目標を下回るインフレが続いたあとは、2%を超えるまでに物価が上昇しないと平均では2%の目標を達成しないという。

ここまでかなりの長期間、2%を大きく下回るインフレが続いてきたことを考えれば、こうした方針に基づくなら、かなりの期間2%を超えるインフレを作り出さなければいけなくなる。その分、現在の積極的な金融緩和策も長期化することになるだろう。

FRBは少なくとも2022年末までゼロ金利政策を維持するとしているが、最近では「あと4~5年ゼロ金利が続く」との見方も浮上している。社債の購入といった、中銀としては「禁じ手」とも言える緩和策の拡大に踏み切ったことを考えれば、現時点では否定的なマイナス金利の導入も、状況次第では可能性が全くゼロというわけではない。このようにFRBが積極的な緩和方針を維持している限り、金相場の上昇基調が止まってしまうことはなさそうだ。

一方、安全資産としての需要の高まりは、FRBの金融緩和によって構築された上昇相場のペースを速める「ブースターのような効果」があったと考えられる。新型コロナウイルスは、中国からアジア各国、欧州、米国と感染が拡大する節目、節目で人々の不安を煽り、さらには感染国が厳格なロックダウンを行い世界経済がマヒ状態に陥った時点で、懸念拡大のピークを迎える格好となった。

その後いったんは感染の拡大も一服、人々の不安も後退したものの、ここへきて再び感染拡大の兆しが見えるなか、ことあるごとに安全資産としての需要を呼び込む格好となった。

さらに、現在はアメリカが中国領事館の閉鎖を命令して以降、米中関係は悪化の一途を辿っており、これが新たな不安と安全資産としての需要を呼び込む可能性が極めて高そうだ。

ドナルド・トランプ大統領はそれまでどちらかというと中国への攻撃は口先だけにとどめ、実際にはそれほど厳しい政策を打ち出すことはなかった。だが、領事館の閉鎖命令以降、方針を変更したのは間違いなさそうだ。

マイク・ポンペオ国務長官やピーター・ナヴァロ通商担当大統領補佐官といった「対中強硬派」の意見を重用するになったのは、秋の大統領選を有利に戦うために重要との判断に基づいてのことと思われる。今後も中国に対しては厳しい姿勢を取り続ける可能性が高く、事あるごとに市場の不安を高めるような政策を打ち出してくるのではないか。

インフレヘッジ需要という、さらなる押し上げ要因も

また年初の時点では、アメリカがイランの司令官を殺害したことによって、中東情勢が緊迫するとの見方が市場の大きな懸念材料となっていたことも忘れてはいけない。

その後の新型コロナウイルスの感染拡大で、テロ活動すらも下火になってしまった感はある。だが、両国の関係が改善したわけでは決してない。また石油収入の激減によって、サウジアラビアをはじめとした産油国の政情も依然として不安定なままだ。今後も世界経済、国際情勢共に先行き不透明感が極めて強い状況は継続、何かの事件をきっかけに安全資産としての需要が金相場を大きく押し上げるというパターンは、何度となく見られそうだ。

そしてもう1つ、この先大きく相場を押し上げる「第3のエンジン」となりえる材料があることも忘れるべきではない。それは、FRBの積極的な金融緩和や政府の財政支出、新型コロナウイルスの感染拡大によるコスト上昇に伴う、インフレ圧力の高まりだ。

もちろん足元では景気の大幅な落ち込みに伴う需要低迷によって、インフレの兆候はほとんど見られていない。しかし、アメリカ政府がかつてない規模の景気支援策を打ち出し、さら現在さらなる支援策をまとめ上げようとしている状況下で、財政支出の拡大によって政府の赤字も膨らむばかりだ。

この財政赤字は同国の国債の大量発行によって賄われており、本来であれば金利の上昇を促すところなのだが、一方ではそのほとんどがFRBの量的緩和策によって買い支えられており、金利は歴史的な低水準に抑えられたままになっている。

一方、企業は新型コロナウイルスの感染拡大防止のためのコスト増に直面しており、今後はこうしたコスト上昇を販売価格に転嫁せざるを得なくなるはずだ。そうした動きは小売店から工場まで、ありとあらゆるところで見られるようになり、インフレ圧力となって表れてくるのではないか。

1トロイオンス=2300~2400ドルの局面も

いずれ、どこかの時点で人々は新型コロナ感染の抑え込みに成功するのだろうし、ワクチンや治療薬の開発などによって人々が安心して外出できるようになれば、需要も一気に回復してくると思われる。

そうしたなかで、インフレ圧力が高まる可能性は、極まりそうだ。主要国の経済はここ何十年もの間、インフレとは無縁の世界にあり、インフレヘッジとしての金に対する需要に注目が集まることはなかった。だが、この先そうした状況が一変、インフレヘッジとしての需要が金相場の新たな押し上げ要因となることも考えられよう。

このまま金価格がさらに上昇基調を強めることがあるとすれば、このインフレヘッジ需要という第3のエンジンに点火した時となるのではないか。その際には、現在の価格からさらに400~500ドル、つまり1トロイオンス=2300~2400ドルまで上昇が見られても、何ら不思議ではない。

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