リモート参列も現れた「ウィズコロナの葬儀」

デジカメやスマホ、タブレットを駆使して、リモートで参列してもらうサービスもある(写真:燦HD)

「大変心苦しかったが『それではお引き受けできません』と断ることもあった」――。

新型コロナウイルスに感染した、あるいはその疑いのある場合の葬儀について、公益社の取締役セレモニーサービス部長、北条崇氏は語る。公益社は、東証1部上場の燦ホールディングス(HD)の中核会社で、近畿圏と首都圏で直営葬儀会館を展開する大手葬儀会社だ。

感染者もしくは感染の疑いがある場合、遺体は非透過性納体袋に入れて外側を消毒してから棺に納め、隙間に目張りを施して密閉する。公益社では、その状態でないと、遺体を引き取って搬送しない。感染者の遺体は密閉されたままの状態で火葬場へ直接搬送。疑いのある場合、感染の有無が判明するまで安置、その結果に応じて対応することが多い。

やむをえないときに限り、納棺については防護服の着用など、感染対策を万全にして自社で引き受ける。ただし、病院などに納棺の場所を提供してもらうのが条件。判明前の遺体も一部の限定した自社施設で安置することがある。

コロナ禍で病院や警察への説明に奔走

2月にいちはやく公益社は「新型コロナウイルス対策本部」を設置。厚生労働省などからガイドラインが出ていない中、感染予防のためのマニュアルを作成し、全従業員に徹底させた。

当初は個人病院などで混乱が生じ、死因や感染の可能性などについて、十分な情報が得られないこともあった。その場合、遺族や参列者、社員を感染から守るために、葬儀を断るという苦渋の選択をせざるをえなかった。社長名で自社のマニュアルに関する文書を作り、病院や警察などの関係者に何度も説明に回って、理解を得るよう努めることで、現在は改善されてきている。

新型コロナ対応の葬儀については、通常よりも確認事項が多く、自治体ごとに取り扱いが異なり、また変更されることもある。病院や火葬場とのやり取りは、できるかぎり引き受け、遺族の負担を軽減する。こうした対策が評価され、最近では、これまで取り扱いのなかった病院から連絡がくることも増えたという。

公益社では全国霊柩自動車協会の会員として、1985年の日航機123便の墜落事故の際には搬送業務などを支援。1995年の阪神・淡路大震災では、西宮山手会館を拠点に納棺や火葬場との交渉、搬送などに従事。2011年の東日本大震災のときは、救援物資の協力や、エンバーマー(遺体衛生保全士)を派遣して遺体のケアや納棺を手伝った実績がある。

感染者もしくは感染の疑いのある遺体を収める非透過性納体袋(写真:燦HD)

なお、エンバーミングとは遺体に消毒殺菌・防腐・修復・化粧を施す技術。感染症対策になり、遺体の状態変化が軽減されるため、すぐに葬儀が難しい場合でも、遺体を安全に保存できる。ただし、新型コロナ感染者については有効性に関する科学的根拠が現状ではないため、公益社では実施していない。

新型コロナは通夜や告別式にも、大きな影響を及ぼしている。

葬儀やお別れの会の先送りも

感染予防の観点から、参列者の人数を絞り込む、通夜振る舞いなど飲食の提供を省略する、などの規模縮小が進んでいる。公益社が強みを持つ社葬では、延期もしくは中止が相次いだ。感染者が亡くなった場合、火葬からしばらく時間をおいて、葬儀やお別れの会を執り行うケースもある。中には一周忌のタイミングまで延ばす遺族もあったという。

ソーシャルディスタンスを意識した座席や焼香台の配置もなされている(写真:燦HD)

公益社では消毒の徹底、ソーシャルディスタンスを意識した座席や焼香台の配置などを実施。「葬儀へのリモート参列サービス」も本格導入した。Wi-Fiや三脚などの関連機材を無料で提供し、遺族などが用意したスマートフォンやタブレットを使って葬儀の様子を撮影、配信する。「社葬では支店などに葬儀の模様を中継するケースもあり、もともとノウハウがあった」(北条氏)。

事前相談や葬儀の打ち合わせでも、要望に応じて、オンライン会議システムを使ってリモートで実施。これまで葬儀会館ごとに見学会や終活セミナーを開催してきたが、オンラインに切り替えるなど集客面での対応も急いでいる。

だが、「葬儀に関する構造変化は、新型コロナの感染拡大の前から、すでに始まっていた」と、燦ホールディングス社長で公益社社長も務める播島聡氏は打ち明ける。

高齢化の進展で死亡年齢が高まったことにより、現役時代に築いた人間関係が希薄化。地縁、血縁関係も、時代とともに変化している。親しい親族だけで葬儀を営む「家族葬」が増加するなど、新型コロナとは関係なく、規模縮小など葬儀の多様化が進んでいた。経済産業省の統計から算出すると葬儀単価は2006年の152万円から2019年には134万円にまで下がっている。

近年では葬儀業界への異業種参入も増加。インターネットを活用して集客し、葬儀会社へ送客することで仲介手数料を稼ぐマッチングサービス会社も台頭してきた。小規模化による単価下落の一方、競争が激化しているのが業界の実態だ。

播島社長は「新型コロナで葬儀業界の構造変化が進んだ」と感じている(写真:燦HD)

「あくまでも感覚的なものだが、コロナによって構造変化が5年くらい、一気に先へ進んだのではないか」(播島社長)。コロナが収束すれば、一定の揺れ戻しは生じるだろう。だが構造変化の波を押しとどめることはできない。2040年以降は死亡数そのものが減少トレンドに転じることが予測されている。

死亡人口のピークアウトが待っている

燦ホールディングスは2019年度からスタートした新たな中期計画で「ライフエンディングのトータルサポート企業」という新経営理念を打ち出した。葬儀単価の下落、さらには死亡人口のピークアウトによる将来的な市場縮小も見据え、葬儀だけにこだわらず、事業領域を拡大させていくのが狙いだ。終活や葬儀後の相続、諸手続きなどのサポート事業を拡充。その一環で、今年4月に新会社を設立し、ライフエンディングのポータルサイト運営に乗り出した。

同事業では葬儀と墓からスタート。信頼できるパートナー企業のサービス・商品を紹介する。葬儀のマッチングサービスでは、送客のみで自社で施行しない会社も多いが、「葬儀を熟知している葬儀会社が自らマッチングを行うことに意義がある」と播島社長は語る。

足元のコロナ影響を乗り切ると同時に、長期にわたる構造変化にいかに対応するか。葬儀業界の試練はアフターコロナでも続く。

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