「トラック運転手」その過酷すぎる労働の実態

トラックドライバーの労働環境が改善されない限り、「モノを運べない時代」が来るのは避けられない(写真:輸送経済新聞社提供)
経済や生活を支える物流が危機を迎えている。長時間労働・低賃金をはじめ、長年、トラックドライバーの労働環境が改善されなかった結果、深刻な人手不足に陥り、「モノを運べない時代」が現実味を帯びてきた。
一方で、物流は人の目に触れる機会が少なく、社会全体でドライバーに正当な評価を与えなければ問題の解決は難しい。『ドライバー不足に挑む!』(輸送経済新聞社)の著者で、日通総合研究所の大島弘明氏と、『トラックドライバーにも言わせて』(新潮社)の著者でフリーライターの橋本愛喜氏が、ドライバーを悩ませる「荷待ち」問題などについて語り合った。

トラックドライバーになりたいわけではなかった

大島弘明氏(以下、大島):ちょうど同じ時期に、トラックドライバーをテーマにした本を出しましたね。橋本さんはどんな経験をされてきたのですか。

橋本愛喜氏(以下、橋本):プロフィールを話すと、本を1冊書けるくらい長いです。父が工場を経営していて、男性ばかり35人の職場で働いていました。でも、職人業で堅物の人も多かった。

その中で、自分のポジションを得るには、「苦労する場所に自ら飛び込んだ方が受け入れてもらいやすい」という勝手な判断で、大型免許を取得し、10年間ほど、自家用トラックのドライバーを続けました。ただ、当時はばかにされたくないとの思いが強く、もともと興味があってトラックドライバーを始めたわけではないです。

大島:大学時代は建築学科に在籍し、最初は物流でなく、都市計画、設計に興味を持っていました。そんな中、当時、日通総合研究所で勤務していた先輩が社会人大学院生として研究室に出入りしていた関係で、物流に関心を持ちました。就職して30年以上になりますが、国や全日本トラック協会など業界団体の調査、物流現場のコンサルティングなどに従事しています。

橋本:トラックドライバーに関心を持つ転機となったのは、現在のライターになってからです。自分の経験から書けるものは何かを考え、トラックに関する記事を書いた結果、ドライバーからの予想以上の反響に驚きました。「よく言ってくれた」というコメントも多く寄せられました。

ドライバーは言いたいことを言える立場にありません。物流業界だけで解決できない問題を、外の目線を入れながら解決することを柱の1つに、執筆活動を続けています。

大島:橋本さんの著書を読ませてもらいましたが、共通点が多く驚きました。ドライバーの実態を、ご自身の経験、インタビューやSNSでの情報収集を基に、非常にリアルに捉えられていました。

橋本:大島さんの著書で、ハッとさせられた部分はいくつもありましたが、私自身が気付かなかった点では「子どもへの教育」。これは非常に的を射ている指摘です。ドライバーの地位向上には、知ってもらうことが非常に重要となります。人材が集まらないのは、ドライバー職が抱える内的要因だけでなく、社会貢献など大事なことが知られていない外的要因もあるかと思います。

「トラックドライバーは責任感が強い人が多い」と話す橋本氏(写真:輸送経済新聞社提供)

大島:橋本さんは、ご自身もドライバーをされていましたが、ドライバーはどんな性格の方が多いですか。

橋本:まじめで熱い性格。1人が好きなのに、でも寂しがりの人が多いです。

大島:私も仕事でインタビューをさせてもらいますが、調査は10分で終わるのに、その後30分以上、座り込んで話をするといった経験があります。見た目は怖そうでも、とてもまじめな方が多いですね。

橋本:マイペースだけど、強い意志を持っていることも特長です。ドライバーは底辺職と言われやすい職種ですが、実は頭がよく、アーティスティックな人も多い。私のツイッターに「橋本さん、今日の夕日はきれいでした」なんて写真を送ってくれたり、ポエムを送ってくれたりする人もいます。

1990年の規制緩和で業界が変わった

大島:それは反応に困りますね。ドライバーは1人で仕事をするケースが多く、自分でトラブルなどに対応する力も求められます。どの仕事でも共通しますが、とくにドライバーは責任感が強いですね。

橋本:そう。責任感の強い人が多く、毎日一所懸命に仕事をしています。それなのに、ドライバーの地位や労働環境が改善されているとは言えません。

大島:トラック運送業界が大きく変わったきっかけは、1990年の規制緩和です。それ以前は、国が事業免許を与え、運送企業数を調整していましたが、経済の自由競争という欧米の考え方が日本でも優先されました。結果、「最低5台以上の車両を保有すること」などの条件を満たせば、比較的自由に参入できるようになり、企業数は90年の約4万社から、現在は6万社以上に増えています。

橋本:私も著書で書きましたが、規制緩和はトラック運送業界に大きな影響を与えましたね。

大島:アメリカも1980年代に規制緩和を行っており、これを日本も参考に見ていました。オーナードライバー制など、日本とトラック運送業の仕組みは異なりますが、規制緩和後、アメリカも参入が増えて競争が起きました。でも、アメリカは職業選択の意識が高く、儲からなければ仕事を変える。儲かっていてもビジネスライクに売却することは珍しくありません。数年経つと、参入は落ち着きました。

規制緩和がトラックドライバーを苦しめる結果を招いたと話す大島氏(写真:輸送経済新聞社提供)

一方、日本は家業を継ぐという考えを大切にし、多くが苦しい経営でも事業を続けました。その間も参入企業は増え、現在の企業数は90年比で1.5倍以上に膨れ上がった半面、貨物量はそこまで増えていません。

限られた貨物を取り合ったことで、「荷主は神様」のような状況が起きました。各社とも仕事はほしいので、どんな条件でも引き受けざるをえません。そのしわ寄せが取引条件の厳しさに向かい、ドライバーの労働環境に多くの影響を与えてしまったと言えます。

橋本:これまでの経験を踏まえると、とにかくドライバーの労働環境は過酷で、理由を突き詰めると、最終的には「お客様第一主義」が関係していると感じます。とくに1次輸送のドライバーにとって、お客様となるのはメーカーなどの荷主です。例えば、効率化のために始めたジャスト・イン・タイム輸送は、ドライバーの労働条件で首を絞めていると思います。

労働時間が長い一方、賃金が安い

大島:ドライバーを確保するには、労働環境を改善する以外に手はないでしょう。トラックの場合、労働時間が全産業平均より1~2割長く、賃金が2割安いというのが実態です。このままの状況を続けたら、仮に車が好きな人であっても入ってきません。若者がドライバーになろうとしたところ、家族、知り合いから反対されたケースもあると聞きます。

橋本:労働環境では、ドライバーのために「よかれと思って」つくられたものが、逆に苦しめていることもあるように感じます。一例を挙げると、(厚生労働省の改善基準告示で)ドライバーは4時間以内の運転で、30分以上の休憩を取ることが義務付けられています。

ただ、多くのドライバーは夜中に車を走らせ、朝荷物を届けるので、高速道路のサービスエリア、パーキングエリアの駐車時間帯が集中し、止めたくても止められません。

それでも法令を守ろうと、本来駐車できない場所に止める人もいますが、今度は周囲からマナーが悪いと見られ、ドライバーの地位が下がる。その結果、人手不足につながってしまう。すごく明確な負のスパイラルが見えているのに、なぜ、これが解決されないのかは疑問です。

大島:高速道路会社は大型車の駐車スペースを増設していますが、まだまだ足りません。ドライバーはまじめな性格の人が多いので、遅れてはいけないという意識が先行し、無理をして走ってしまうことはよく見られます。

橋本:もう少しドライバーの目線で、いろいろなことを考えていくと、スムーズに問題が解決できると感じます。ドライバーは熱い性格の人が多いので、「皆さんが経済、人々の生活を一所懸命支えている」と伝えると、すごく頑張ってくれます。

今回の新型コロナウイルスでも、普段通りの生活ができたのはドライバーのおかげと、世間から言われたことにとても喜んでいて。頑張りを周囲で励ますことは重要で、だからこそ、現実に抱える課題とのギャップにもどかしさもあります。

「運べない事態」が懸念される

大島:規制緩和以降、トラック運送業界は供給側の運送企業数が多く、高い品質を維持しながらまじめに仕事をしていたとしても、立場が弱い状態が続いていました。ところが、最近は需給バランスが逆転しています。いまも6万社を超え、企業数に大きな変化はありません。

しかし、そこで働くドライバーが退職すると新たな人材を補充できず、人員は着実に減少しています。労働環境を改善できなければ、人材を確保できず、近い将来に「運べない事態」が起こることが懸念されます。

橋本:確かにドライバーは人手不足ですが、甘い世界ではないということも忘れないでほしいですね。

新型コロナの影響で仕事を失い、ごく一部で「ドライバーにでもなってみるか」という軽い気持ちで応募する人がいるそうですが、ほとんどが3日間もたないそうです。新入社員が入社した以上、現役ドライバーは業務の合間で教育をしなければならないので、「すぐに辞めるくらいなら来ないでほしい」という声をよく聞きます。

大島:長く勤まらないということは、責任感を含め、それだけ厳しい仕事ということですね。

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