菅義偉「コロナ第2波、かなり準備はできている」

地方、縦割り行政、経済、五輪について、菅義偉官房長官の政治観も含めて話を聞いた(撮影:尾形 文繁)
第2次安倍政権が作り出したのが首相官邸主導体制。縦割り行政を乗り越えていく一方で、官邸が強くなりすぎているという批判もある。官邸主導をリードする菅義偉官房長官の政治観も含めて本人に聞いた。『菅義偉「コロナ対応、あらゆる支援を用意した」』(2020年7月10日配信)、『菅義偉「安倍首相との間にすきま風は全くない」』(2020年7月11日配信)に続く独占インタビューの最終回をお届けする。

私がふるさと納税制度を作った理由

塩田潮(以下、塩田):安倍晋三内閣の官房長官という立場を離れて、政治リーダーとして、これからの日本が目指すべき政治や社会の将来像、実現のためのシナリオについて、どう構想していますか。

菅義偉(以下、菅):私自身はゼロから政治家になりました。秋田県で生まれ、高校まで秋田県で育って、田舎をよく知っています。2006年に総務大臣になり、2007年にふるさと納税制度を作りました。東京に税収が集中しすぎているから、法人税収を吸い上げて地方に回すようにした。当時、子供の医療費が無料になる自治体のサービスは、小学校に上がるまでが全国の平均的な実態でしたが、東京では中学校卒業まで無料でした。こんなに格差があっていいのかと思った。それがふるさと納税制度を作った1つの要因でした。ある意味で、私の政治の原点です。日本は地方も都会もきちんと連携して発展していかなければならない。

それと、経済をよくするには、消費の構造を変える必要があります。大きな消費は都会で行われるとよく言いますが、地方でも一定の収入を得られるようになれば、多くの人が地方で働くようになり、地方での消費が増えます。そのための切り札の1つが私のライフワークである農業改革です。安倍政権で60年ぶりに農協改革の法律改正を行いました。それまで全中(全国農業協同組合中央会)が全国約600の農協の監査権と指揮権を持っていましたが、それを外して、各地域の農協がその地域で作りたい作物を作ることができるようにしました。

さらに、森林改革と漁業の改革も行い、70年ぶりに法律を改正して、やる気のある民間企業が参入できる仕組みを作りました。

日本の農産品は世界で非常に評価が高く、ものすごく魅力があると思っています。政府として「地方創生」を掲げています。農林水産業の成長産業化とインバウンドを2本柱として、私が主導してやってきました。今はコロナで観光は非常に厳しい状況ですが、再び海外に目を向けることによって、農林水産業とインバウンドをしっかり立て直し、地方で働いて、例えば年間600万円くらいの収入が得られる姿を目指していきたい。

ふるさと納税は前例のない仕組みだったので、総務省の官僚の抵抗に遭いました。私が総務大臣のときに制度は作ったが、官僚は優秀だから、あまり活用できないように作ってしまう。当初、利用額は毎年100億円前後でした。私が官房長官になって、総務省がPRに気を遣っただけで400億円に伸び、さらに当初の意図どおり限度額を2倍にして、利用者がワンストップで利用できるように制度を見直したところ、1600億円、2800億円、3600億円と伸びて、直近は5000億円を超えています。

塩田:かつては地方分権推進の制度改革の議論が活発でした。地方に競争力をつけるために、大きく仕組みを変えるというデザインやプランをお考えですか。

:都会でも地方でも豊かな生活ができるように、政府が環境整備していきますが、そこで大事なのが役所の縦割りの打破です。当たり前の政策が縦割りの壁に阻まれて実現できていないことが多い。

例えば観光で、2013年のビザを要件緩和してインバウンドを増やそうというときに、国土交通省が要望しても、警察と法務省が大反対でした。私はまとめ役として、当時の古屋圭司国家公安委員長、谷垣禎一法相と話しました。すでに安倍総理が施政方針演説で「世界の人たちを引きつける観光立国を推進する」と宣言していました。その方針に沿って、両大臣に政治判断してもらい、それに国土交通大臣と外務大臣に加わってもらって政策決定し、そこからインバウンドは一挙に拡大しました。

塩田:現状を変えて新しい方向に踏み出そうとしても、縦割り構造と省益優先の官僚機構の壁が立ちはだかるケースは、ほかにも多いのでは。

既存のダムを活用した水害対策を打った

:縦割りを打破するアイデアは官僚からはなかなか出てきません。例えばダムの活用ですが、きっかけとなったのは、昨年10月に東日本を襲った台風19号です。荒川と多摩川が氾濫しそうになった。もしかすると数百万人が避難することになり、そうなれば経済的にすごい影響が出る。何とかしのぎましたが、ここ数年で水害はひどくなっており、翌年までにできる対策を、秘書官を通じて探ったところ、国交省の担当部局が何十年も「できればいいな」と思ってきたアイデアが出てきました。

新たにダムを造ると、40~50年かかりますが、既存のダムでも水害対策に活用していないものがたくさんありました。ダムは全国に1470ありますが、そのうち水害対策に活用しているのは、国交省が所管する570のダムだけで、残りの900のダムは、例えば経済産業省が電力会社のダムを、農水省は農業用のダムを所管しており、こうした「利水ダム」は水害対策に利用していませんでした。もともとダムは戦前から電力ダムがいちばん大きい。最初に電力会社が造り、その後に昔の建設省(現:国交省)が水害対策用のダムを造った経緯もありました。

この話を聞いて、私は去年の11月から「やるぞ」と各省庁を集め、台風シーズンだけ国交省がすべてのダムを一元的に運用する方向で検討させた。日本はダムの問題で国交省、農水省、経産省が1つになっていなかったわけですが、全国の109の1級水系ごとに運用を一元化する計画を立て、今年6月にようやくまとまりました。これによって、電力会社に被害が発生したら国が補償する仕組みも作りました。

この結果、全国のダム容量のうち、水害対策に使えるのが30%だったのが60%まで増えることになりました。新たにどれくらいのダム容量を水害対策に使えるか、計算すると、群馬県の八ッ場ダム50個分になりました。八ッ場ダムを造るのに50年、5000億円以上かかっていますから、50個分だと、単純計算で25兆円以上が浮く計算になる。

従来の治水対策を根本的に転換して、既存のダムの活用で、新しいダムを造るコストと時間をかけずに水害対策に使えるダムの容量を倍増したわけです。これで、それぞれのダムの下流では氾濫を相当減らすことができると思います。

国交省は、実は旧河川局(現:水管理・国土保全局)の時代からずっとアイデアを持っていたけど、他省庁のダムに手を出すのは無理だろうと思っていたようです。それを政権のリーダーシップで実現したわけです。

塩田:ダムだけでなく、同じように外からは見えない問題がいくつも隠れているのでは。

コロナ危機に直面していろいろな問題が見えた

:そうです。これまでも観光や農業などいろいろな分野で、縦割りの中で埋もれていた問題を引っ張り出して、政策を前に進めてきました。まだまだこういう話はあると思いますので、今後もどんどん進めようと思います。

(撮影:尾形 文繁)

今度のコロナの問題でも、感染者や死亡者のデータも、都道府県、東京の区、厚生労働省で、まとめているものにずれがあった。東京都と23区の保健所の連携が機能しておらず、最初、何人に検査して何人が陽性という数字がなくて、陽性者の数しかきていなかった。毎日、何人を検査したか、5月に入るまで、東京都は対応できていなかった。厚労省に「出せ」と指示しても、都庁と区の保健所の権限がある意味で対等で、お互いに十分なやり取りがなかった。都知事は最初、「23区は国でしょう」と公の場で言っていました。その認識だったんです。私が強く言って、厚労省と都庁と区の保健所の会議が開かれるようになりました。

危機に直面して、いろいろな問題が見えるようになりました。だから、今、全部、整理しています。仮にコロナの次の流行の波が来ても大丈夫なように。

塩田:安倍内閣は菅官房長官のリードで首相官邸主導体制を作り上げ、縦割り行政を乗り越えていく姿勢が目立っています。一方で首相官邸が強すぎるという批判もあります。

:だって、物事を変えるわけですから。変えれば、必ずいろいろと言われます。人事でも、例えば海上保安庁長官に、たたき上げの保安官の中から起用した。職員は1万2000~1万3000人ですが、キャリアはほとんどいない。長官に毎回、事務系のキャリアがなっていたら、組織がうまくいかない。日本政策投資銀行(DBJ)も、前身の日本開発銀行時代から財務省OBの事務次官経験者がトップになっていましたが、2代続けて生え抜きの社長にしています。そういう人事が首相官邸の判断でできるようになりました。首相官邸が強すぎると言うなら、そういう人事もおかしいという話になります。

塩田:コロナ危機対策も含めて、今後の見通しをお聞きします。もしコロナの第2波、第3波に見舞われたら、どう対応しますか。

:その点はかなり準備できていると思っています。今回、ある意味でいい経験をした。感染をゼロにすることはできないが、大きな波が来ないようにする。感染リスクをコントロールしながら、段階的に社会経済活動のレベルを引き上げていくのが基本方針です。さらに100の業種団体について、感染拡大防止の注意事項、営業再開などのガイドラインを作りました。こういう点に注意して、しっかり対応していただければ、と思っています。 

そうやって大きな波の発生を防ぎ、その間にワクチンや治療薬ができてくれば、そこで終わりでしょう。そういう中で、緊急事態宣言の際に講じた外出自粛の要請などは国民生活に大きな影響があります。経済活動も回していかなければならない。3つの密の回避など、新しい生活様式の定着などを通じて、感染拡大を抑えながら、自治体や業界と連携して経済活動のレベルを引き上げていく。

コロナ対応による財政への影響は?

塩田:コロナ対応で相当、財政出動を行いました。今後の財政への影響については。

:経済あっての財政ですから、政権発足以来、ずっと経済再生最優先で取り組んできました。今後、感染を収めるとともに、まずは経済を元に戻していくことが大事です。

(撮影:尾形 文繁)

そのうえで、今後はこれまでよりも強い経済を作っていかなければならない。その際に、例えばマスクも自動車の部品の根幹部も、ほとんど中国で作っているという問題があります。特定の国に依存せず、今後は幹の部分の生産拠点を国内に戻すことが大事だと、みんな身に染みてわかったと思います。必要なものについて、国内回帰できるようにするために補助金を出すといったことが重要になってくると思いますね。

加えて、日本にはまだ企業に現預金が240兆円もある。個人金融資産も1900兆円あります。これを投資に振り向けて、成長につなげていかなければならない。そのために個人向けにNISA(ニーサ)を推し進めてきました。

塩田:少額投資非課税制度ですね。株式や投資信託への投資による売却益と配当への税率が一定の範囲で非課税となります。

:貯蓄から投資への転換はずっと言われてきたことですが、実現できていません。NISAを大幅に拡充しましたので、ぜひ日本経済の成長にしっかり役立たせたいと思いますね。

塩田:菅官房長官はインバウンドの拡大を推進してきましたが、訪日観光客の激減で根本の構造が崩れた感じがします。   

:コロナ感染が落ち着いてくれば、また戻ってくると思います。そこまでの間は国内旅行を活性化していきます。日本では旅行客の約8割が国内旅行なんです。ここをGo To キャンペーンなどで支援していく。来年は東京五輪がありますので、それを機にインバウンドも盛り上げたいですね。

今あるホテルなどの事業者の皆さんは観光業の大事なインフラなので、このコロナで倒れないように、幅広い対策を講じています。Go To キャンペーンで、宿泊や飲食を支援するために、1兆7000億円という、かつてない額の予算を投じています。8月には始まる予定です。

また、経済を強くする意味では、デジタル化、オンライン化も大事です。あまり知られていませんが、今回の第2次補正では、その大事なインフラを作るための予算を盛り込んでいます。まだまだ田舎では光ファイバーがないところが多い。今回の第2次補正では、離島を含めて、光ファイバーを全国津々浦々に敷設する予算500億円をつけました。もともと総務省の案は300億円ですが、私が指示して500億円まで増やしました。デジタル化によって、全国で社会が一挙に変わっていくでしょうね。

来年7月の東京五輪開催「できるでしょう」

塩田:コロナ危機で、国民の間には、オリンピックどころではないという空気も広がっています。中止論や再延期論も出ています。

:開催時期が近づくと、空気が変わりますよ。

塩田:予定どおり来年7月に東京五輪は開催できると思いますか。

:できるでしょう。各国の選手が来れないような状況をなくします。

塩田:政府としては、予定どおり五輪開催という前提で取り組んでいるのですね。

菅:もちろん。開催できると思っています。日本がコロナ対策をきちんとやって成功を収めるだけでなく、世界の人たちが出場できる環境を作らなければなりません。コロナ危機の最大の課題は、有効な治療薬と予防のワクチンの開発です。これがあれば、問題ないわけですから。G7やG20(20カ国・地域首脳会合)、WHO(世界保健機関)などが総力を挙げてワクチンと治療薬の開発に取り組んでいます。

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