一見好調なアメリカ株が抱える「3つの懸念」

「完全拒否」ではないものの、マスクをつける機会は極めて少ないトランプ大統領。株価は新型コロナウイルスの感染拡大でも底堅いが、本当に今後も大丈夫か(写真:ロイター/アフロ)

世界の株式市場は、アメリカを中心に高値圏を保っている。6月初旬の雇用統計発表後にアメリカ株(S&P500)は3200前後まで上昇、その後は株高・株安の双方の要因で綱引きとなり、3000を超えた高値圏で上下しながら推移した。7月に入ってからも、経済指標改善や中国株の大幅高を受けて、再び6月初旬の高値に接近しつつある。

株高を支える2つの要因とは?

1つ目の株高要因は、アメリカの経済指標が総じて事前予想を上振れていることである。例えばISM(米供給管理協会)による企業景況感サーベイは製造業・非製造業ともに、6月調査時点で中立水準とされる50を超える水準まで改善している。

定量データでも、雇用統計では2カ月連続での大幅な雇用増加が示された。これらだけをみれば、アメリカ経済が、5月初旬に最悪期を脱した後、V字軌道で回復しているように見えなくもない。ただ後述するが、筆者は、こうした経済指標の改善が続かないリスクがあると考えている。

2つ目の株高要因は、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融緩和の効果である。FRBが社債を大規模に買い支えるスキームを早々に発動、一時大きく拡大した社債スプレッドは縮小し、市場での流動性は潤沢に戻った。

そのため事業会社の資金繰り状況もかなり改善した。6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、金融政策は据え置きだった。だが、インフレ率の上振れを許容しつつ強力な金融緩和を徹底するという点では、メンバーの意見が集約されていることが議事要旨で明らかになっている。

今後は、緊急措置としての流動性供給拡大から、財政政策と一体となった国債購入拡大に緩和政策をシフトさせるだろう。経済ショック鎮静化とデフレ阻止に挑むことに対しては、多くのFOMCメンバーが賛意を示しており、FRBによる金融緩和政策への期待は今後も株高を支える要因になるだろう。

一方、アメリカ株のネガティブな材料としてまず挙げられるのは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が6月中旬から再び増えている点だ。ニューヨーク州などで爆発的な感染拡大が起きた4月上旬の水準を超え、6月後半からからアメリカ全体の新規感染者は増え続けている。

人口対比の感染者で見ると、アリゾナ、フロリダ、サウスカロライナ、ネバダ、テキサスなど南西部州での感染者増加が顕著だ。中でもアリゾナ州は、3、4月のニューヨーク州などに近い爆発的な感染者拡大が見られている。

感染者拡大は、検査体制が整ったため起きている側面もあると見られるが、上記の州では入院者数が増え、また陽性率も総じて高い。公衆衛生政策が不徹底な中で経済活動再開が感染拡大をもたらし、これらの州では経済活動への制限を再び強める対応を余儀なくされている。

経済活動再開の状況をいち早く把握できる米Google社による移動指数では、政府が定めた経済再開の基準をクリアしていない州において、地方政府の制限措置あるいは活動自粛から、6月半ばから移動指数が再び低下している。アメリカ全体で見ても、移動指数は6月半ばからほぼ横ばいとなり、経済活動復調が早くも足踏みしつつある。

不透明さ増す追加財政政策の行方

2つ目のネガティブな要因は、今後のアメリカ経済状況を左右すると見られる追加の財政政策の行方である。同国では、他の先進国を上回る規模とスピードで、家計所得を補償する大規模な政策対応が実現している。だが、秋口までに失業保険給付の上乗せ、そして企業への融資を通じた雇用補償政策の効果が剥落するとみられる。

これらに代わる追加的な財政政策に関して、共和党と民主党が合意できるかは依然不明で、6月下旬以降目立った進捗はない。

共和党の議員は失業保険給付上乗せには反対が多く、またドナルド・トランプ米大統領は第2弾の現金給付政策を考えている模様だ。だが、経済活動が戻りつつある中で大規模な現金給付政策に共和党の議員が賛同するか不透明である。これらの2つの要因は、これまで経済指標の改善によって盛り上がっていた金融市場におけるV字回復期待を今後低下させると予想される。

また、人種差別問題を起因とした暴動が広がったこと、そして公衆衛生政策の失敗も重なり、トランプ大統領の支持率は一段と下がっている。

トランプ大統領の政治的求心力が弱まり、追加財政の発動可能性が低くなる恐れがある。まだ11月の大統領選挙まで時間があるし、民主党のバイデン候補にも弱点は多いため、大統領選挙の行方は依然流動的と筆者はみているが、法人税率引き上げを掲げるバイデン氏が大統領となり民主党が議会を制する展開となれば、アメリカ株市場の痛手になるだろう。

銀行監督政策が株式市場にとって悪材料に

最後の3つ目は、あまり話題にはなっていないが、筆者は、銀行監督政策が株式市場にとって悪材料になるリスクがあると見ている。先述した通り、FRBによる強力な金融緩和徹底は大きな株高要因だろう。

だが、6月25日に発表された大手銀行に対するストレステストでは、経済停滞が長期化した際に、銀行資本が大きく低下するリスクがFRBによって明示された。FRBを含めた銀行監督政策が、リスク顕在化時に資本不足への警戒を強めれば、これをきっかけに、金融機関の融資姿勢が厳格化するリスクがある。

6月半ばから、アメリカ株式市場のこれら強弱材料への思惑が交錯してレンジ相場となっているが、最近の値動きをみると、金融市場はリスク要因に鈍感になり、市場心理が楽観方向に傾いているように見える。

今後の株式市場の先行きを考える上で、新型コロナウイルスの感染者拡大と追加財政政策の不発によって、7月以降の経済復調にブレーキがかかるシナリオを警戒すべきと考えている。

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