中学受験は父の「経済力」と母の「狂気」が全てだ

1月の「お試し受験」を終え2月の本番に向かう生徒たちにこのひと言((c)高瀬志帆/小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中、以下同)
週刊『スピリッツ』で連載されている中学受験を題材にした漫画『二月の勝者-絶対合格の教室-』は、第1〜8集のコミック版が累計65万部を記録し、テレビドラマ化も決定するなど、大きな話題を呼んでいる。
第1話は、カリスマ塾講師である黒木蔵人が自分の教え子たちに「君達が合格できたのは、父親の『経済力』 そして、母親の『狂気』」と言い放つセリフから始まる。
それで私もてっきり誤解した。中学受験を冷徹で狂った世界だと揶揄する、あるいはアクロバチックな受験テクニックを披露する作品なのではないかと。しかしまったく違った。「いい中学受験とは何か?」。それ自体を問う作品だった。
6月30日にコミック第8集および関連書籍『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』が発刊された。『二月の勝者』が気になっているけれど、今から第7集までをキャッチアップする時間はないという読者のために、第7集までのあらすじと見どころをまとめたダイジェスト版を、前後編の2本に分けてお届けしよう。

中学受験塾の裏側が透けて見える

物語の舞台は中堅中学受験塾「桜花ゼミナール」。2月の中学受験を終え、バケモノ級トップ塾「フェニックス」のカリスマ講師の黒木蔵人が、その後塵を拝する「桜花ゼミナール」に転籍する。黒木は、新小学6年生を前にして「君達全員を第1志望に合格させるためにやって来た」と豪語する。そこにもう1人の主人公・佐倉麻衣が入社する。

中学受験塾の内部事情や各家庭で起こるトラブルの数々の描写は、私から見ても極めてリアルだ。てっきり、作者の高瀬志帆さんは元塾講師なのだろうと思ったくらいだ(実際は違う)。中学受験を経験中の保護者が読めば、塾の裏側が透けて見え、さらに登場人物のいずれかの家庭に“わが家”を重ねて読めるだろう。

<第1集>コミック帯文言「受験塾は、子どもの将来を売る場所です。」

「『受験塾』は、『子どもの将来』を売る場所です」「『スポンサー』すなわち『親』です」「生かさず殺さず、お金をコンスタントに入れる『お客さん』」などと、にべもない言葉を連発する黒木に対し、正義感の強い佐倉は猛烈に反発する。

しかし一方で佐倉は、黒木の冷徹な言葉の裏側に、子どもたちに対する温かい眼差しが隠されていることにも次第に気づいていく。そういう佐倉自身には、中学受験の経験がない。しかしどうやら、かつて空手の指導で、「あなたのため」を思うあまりに子どもを潰してしまったという苦い経験があるようだ。

桜花ゼミナール吉祥寺校に着任直後、「全員を第一志望に合格させる」と豪語する黒木

第1集の注目生徒「三浦佑星」

新小6になって初めて模試を受けてみたサッカー少年の三浦佑星の偏差値は40。それを見て「佑星には中学受験なんてムリだって!」と言う父親に対し、黒木は「平凡な子ですね」と言い放つ。さらに佑星がサッカーボールを扱う姿を見て、父親に「平凡ですね」と耳打ちする。

凡人こそ中学受験すべき!?

激情しそうになる父親に対し、プロサッカー選手になる確率と中学受験の難関校に合格する確率を比較してみせ、「凡人にこそ中学受験」と説く。

それでもサッカーを中断させたくないと反発する父親に対し、さらに「中高一貫校に入ったら、15歳の伸び盛りに部活を中断することなく打ち込めます。大学附属ならさらに18歳での中断もナシ。なのになぜ小6という時期にこだわるのか、不思議です」とたたみかける。当然父親は怒り心頭に発し桜花ゼミナールを出て行く。

しかし佑星は自ら入塾を志願する。模試を受けたとき黒木が言ってくれた一言がすごくうれしかったからだ。「解こうと粘ったのがよくわかる答案です。スポーツか何か――長い期間、取り組んできたものがあるのでしょう。粘って頑張った経験のある子は、受験でも強いですよ」。

黒木はしっかり、子どもを“見ている”のだ。

黒木には子どもの頑張りを見抜く力がある

第1集の注目生徒「加藤匠」

いつも教室のいちばん後ろの席(つまりいちばん成績が悪い)で、ぼーっと窓の外を眺めている加藤匠。母親も「勉強も競争も得意じゃないし、好きなことしか興味ないし。本当に中学受験に向いてない……」とこぼす。匠の力になろうとする佐倉に黒木は「『楽しくお勉強』させてください」とアドバイスする。

その真意がわからない佐倉は匠に一生懸命肩入れする。しかし逆に匠は塾に来なくなってしまった。黒木は佐倉に「一生懸命になるな」と伝えたはずだと叱責する。佐倉の「あなたのため」が空回りしていたのだ。

しかし佐倉は気づく。匠が鉄道オタクであることに。そこで黒木は鉄道研究部がある男子校のパンフレットを集め、加藤親子に見せる。匠の目が輝きを取り戻す。そのうえで黒木は匠の母親に「匠くんは受験に向いていないとは思いません」「お母様こそお疲れなのではないのかなと思いました」「諦めるなんてもったいない……匠くんに目標ができたならなおさら。われわれと一緒に支えていきましょう」と話し、退塾を阻止した。

黒木はしっかり、親のつらさも受け止める。

黒木の二面性に戸惑いつつも、佐倉は、桜花ゼミナールに通う生徒の家庭で次々生じるドラマにいよいよ巻き込まれていく。

<第2集>コミック帯文言「受験は課金ゲームです。」

髪をしっかりセットして、カッチリとスーツを着込んで塾の教壇に立つ黒木と、ボサボサの髪のままパーカー姿で夜の街をふらつく黒木。第2集の中盤には、黒木にどうやら2つの顔があることがわかってくる。

第2集の注目生徒「前田花恋」

新小6の3月は転塾が増える時期だと黒木は言う。案の定、桜花ゼミナールでトップクラスの成績を収め、上昇志向の強い前田花恋は、黒木の古巣フェニックスへの転塾を検討していた。

勉強ができる特技はなぜ褒めてもらえないのか

黒木は花恋のいら立ちも見通していた。「なんで『勉強ができる』って特技は、『リレー選手になれた』とか『合唱コンクールでピアノ弾いた』とかと同じ感じで褒めてもらえないんだろうね?」「花恋はトップが似合ってる。『その他大勢』になんてなってほしくない」「花恋は女王になれるところでしか輝けない」と語りかけ、花恋を引きとめる。

うっかり夜の街に迷い込んでしまった花恋を救う黒木

パーカー姿で公園にたたずむ黒木の前に、古巣フェニックスの同僚・灰谷純が現れる。「してやられちゃいました。まんまと生徒(花恋のこと)を取り返されちゃって」と黒木に話しかける。灰谷との会話の中で、2人の中学受験観の違いが明らかになっていく。

「フェニックスは、あいかわらず上位校にのみこだわった指導をしてるようだけど、それって12歳のその先の人生のことまで考えているのかな」と黒木。

「愚問ですよ」と灰谷。「小学生がその6年間のうちの半分、3年間も費やして勉強に励む。その大きな『無理』に見合った結果を出すのが僕たちの使命です」と灰谷は言い切る。

フェニックス時代同僚だった黒木と灰谷は中学受験観が違う

第2集の注目生徒「武田勇人」

6年生の1年間で家庭が中学受験塾に支払う費用は総額150万円にも上る。武田家では春期講習の費用10万円をめぐって両親がもめていた。父親は帰宅してもリビングでスマホゲームばかりしており、勇人の中学受験には無関心だ。

「クソつええ武器もたせたいんだよ。課金ゲー上等!!」

塾費用を出すのを渋り、「オレたちいいカモだよ」と冷笑する父親に、母親がキレる。「あんたこそ画面のキャラに課金してんじゃねーよ」「勇人にどんな敵でもラスボスでも倒せるクソつええ武器もたせたいんだよ。そのためなら、課金ゲー上等!!」。

スマホゲームばかりしている父親に母親がキレた!

<第3集>コミック帯文言「手に入れたいのは学歴『だけ』ですか?」

5月、桜花ゼミナール本部に、パーカー姿の黒木が現れる。そのままの姿で社長の白柳徳道と意味深な会話を交わす。白柳は黒木の素顔を知っているようだ。

桜花ゼミナールの社長と黒木の間には何か秘密がある!?

一方、実家に帰省した佐倉は思わぬところでフェニックスの灰谷に出くわし、彼の意外な一面を知る。高偏差値校合格こそが塾講師の至上目的とする彼にも、何かしらのコンプレックスがあるのかもしれない。

第4集以降のあらすじと見どころは後編で紹介する。

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