大戸屋がコロワイドの株主提案を撃退した真因

6月25日、都内のホテルで開かれた大戸屋ホールディングスの株主総会(記者撮影)

6月25日、東京都庁からほど近いハイアットリージェンシー東京には、テレビカメラ数台を含めた多数の報道陣が集まり、異様な緊張感に包まれていた。

行われていたのは、定食チェーンの大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋)の定時株主総会。約19%の株式を保有し、筆頭株主である外食大手のコロワイドから、取締役の刷新を求める株主提案が出されていた。

コロワイドの提案が可決された場合、大戸屋の経営陣にはコロワイドの幹部が送り込まれることになる。コロワイドは、大戸屋の特徴である店内飲食を縮小し、セントラルキッチンも活用した合理化策によって大戸屋の業績を改善することを主張していた。

あらゆる手段を駆使して猛反論

店内調理を維持し、現在の経営体制を守りたい大戸屋は必死の反撃に出た。1カ月前の5月25日には都内で記者会見を開き、窪田健一社長が「コロワイドの株主提案の先に、大戸屋の未来がないことは断言できる」と猛反論。地域や店舗に応じたメニューの多様化や、弁当、冷凍食品の販売強化などによって、現経営陣で業績を回復させる中期経営計画を示した。

その後も、大戸屋で働く従業員やフランチャイズ加盟店の声を取りまとめて公表したり、個人株主にも賛同を求めるために電話したりするなど、あらゆる手段を駆使した。

果たして株主総会での決議の結果、コロワイドの株主提案は否決された。株主提案に対する賛成率はおおむね14%。ここには「総会当日に賛成の意思表示を示さなかった」(大戸屋)ため、コロワイドによる行使分は含まれていないが、仮にそれを入れても賛成率は33%程度だったことになる。コロワイドの経営立て直し策にも合理性はあり、接戦になることも予想されていた。大戸屋の勝利をもたらした要因とは何なのか。

1つが、「ファン株主」の存在だ。大戸屋の株主のうち個人株主の持つ議決権は6割程度に上る。これは、5000株未満しか保有していない「浮動株」の比率から読み取れる。外食企業は身近な存在でビジネスを理解しやすいことや、定期的に株主優待として食事券が送られてくることから、個人株主が多い。特に大戸屋は大手企業に比べると売り上げや利益の規模が小さく、機関投資家が非常に少ない。

「現経営陣もコロワイドの手法も、どっちもダメ」

実際、株主総会の質疑応答の時間には「大戸屋の大ファンです」「応援しています。頑張ってください」といった激励のメッセージを送る株主の姿が目立った。シビアに経営状況を見極めて経済合理性を追求する機関投資家と異なり、「伝統の店内調理を守ってほしい」「とにかく今の大戸屋を応援したい」という気持ちで大戸屋側に賛成した個人株主が多かったことが考えられる。

もう1つ、見逃せない勝因が「消去法」だ。優待目的で保有している40代の男性株主は、「大戸屋の現経営陣も、コロワイドの手法も、どっちもダメだ」とバッサリ。コロワイドが19%の議決権しか持たずに経営を支配しようとする姿勢を問題視し、「コロワイドの提案が通ったら、ほかの多くの少数株主が反対するような施策も、コロワイドの都合で通ってしまう懸念がある」と話した。

コロワイドは大戸屋の株式の過半数を取得することなく、取締役会を刷新することで合理化策を推し進めようとした。このコロワイドの強引なやり方への警戒感から、消去法的に「だったら現経営陣に奮起してもらったほうがマシだ」と結論づけた株主も一定数いた。

株主提案が否決されたコロワイドは今後、敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛ける可能性は十分にある。ただ、実現に向けたハードルは決して低くない。

大戸屋の株価は株主総会翌日の終値で2517円。現在の大戸屋の時価総額は約182億円だ。これに対し、大戸屋の持つ「自己資本」は32.7億円しかない。約150億円の差があり、取得には多額の「のれん代」が発生する。しかも経営権を取得するTOBの場合、株価に3~4割のプレミアムを乗せて買収額を決めるのが一般的で、のれん代はさらに膨らむことになる。

日本の会計基準であればこの「のれん代」を、20年など一定の期間をかけて償却(毎年均等に費用計上)する。しかし大戸屋の業績は低迷しており、直近の2020年3月期(2019年4月~2020年3月)は11.4億円の最終赤字を計上している。大戸屋を買収した後、のれん代を吸収して利益を上げるのは容易ではない。

実際にはコロワイドはIFRS(国際会計基準)を採用しているため、のれん代を費用に計上しなくていい決まりになっている。ただ、コロワイドの財務状況を見てみると、自己資本が388億円に対し、これまで買収した企業ののれんが717億円もある。のれんが毀損すれば財務への影響は大きく、これ以上のれんを増やすのは危険な状況だ。

今期も業績悪化は避けられない

株主総会の「正念場」を乗り切った大戸屋の窪田社長は、議決の結果「よって第3号議案(コロワイドの株主提案)は否決されました」と宣言する際に、声を震わせ、安堵の表情を浮かべた。ただ、本当の「正念場」はここからだ。

株主総会当日に記者会見する窪田健一社長(記者撮影)

近年、右肩下がりが続いた大戸屋の業績は、2021年3月期はさらに大幅に悪化する公算だ。新型コロナウイルスの影響で、4~5月の既存店売上高は前年同月比で4~5割減少という壊滅的な打撃を受けた。夏場以降回復するにしても、今期も大幅な赤字になることは避けられない。『会社四季報 夏号』では、22億円の最終赤字と、赤字幅拡大を予想している。

すると、約32億円の自己資本は10億円程度まで毀損する計算になり、株主への配当やファン株主が楽しみにする株主優待も、内容を維持するのが難しくなってくる。仮にそうなった場合、大戸屋の株価は下落し、「のれん代」が縮小して買収しやすくなるだろう。

これ以上の業績悪化を食い止め、反転攻勢を成功させなければ、遅かれ早かれ大戸屋の経営は立ちゆかなくなる。店内調理や経営の独自性を守るためにも、現経営陣を支持したファン株主たちに報いるためにも、業績回復が何より求められる。

外圧をいったんはしのいだ大戸屋だが、むしろこれからが茨の道だ。今回は賛成に回った個人株主も、次はシビアになっていくだろう。

ジャンルで探す